『もう嫌だ、こんな家出て行ってやる!』
そう言って実家を出ていったのは去年の事だった……。
俺の両親は農家、しかし元は魔物相手に死力を尽くして戦っていた冒険者だ。
それが何故農家に、と一度親父に聞いた事がある……曰く、クエストに失敗して落ち込んでいた時、野菜にこう語りかけられたからだそうだーーーー。
『男は度胸だ、胸を張れよ』
当時9才の俺は、そんな男気溢れた野菜がいるわけねえだろと真っ向否定して、親父を怒らせ、母親を泣かせた……いまだに俺が間違っていたとは思ってない、思うはずがない。
そんな変な両親だが、まだその時は嫌いではなかった……まだ。
……家出にいたる日の前日、俺は【始まりの町アクセル】にやって来ていた。
両親により冒険者登録に年齢制限がない穴を突かれて、赤ん坊の頃から冒険者に登録されていた俺は、実家の野菜やそれに集ろうとする虫系モンスターの退治等で経験値を得て、基本職たる【冒険者】ではあるがレベルが50~60くらいあった。
だからそろそろ転職したらどうだと両親に薦められた……それがアクセルにきた理由の一つ。
もう一つは野菜を露店で売ること、経験値が大なり小なり貰える野菜を求めて、初心者や中堅クラスの冒険者が皆こぞって買いにくるのだ……特にキャベツは効果が高いため人気だが、一玉10万エリスとお高い。
そんなわけで、朝方は冒険者ギルドがクエストを受けようとする冒険者達で込み合っているだろうと避け、先に野菜の売り出しを始める事にする……鮮度も重要だしな。
露店の許可を役場からもらい、いよいよ持ってきた風呂敷と箱詰めの野菜を広げる……野菜は動き回ろうとするので、基本全部箱に入っていないと逃げ出してしまう、注意して周りに置いていく。
『いらっしゃいいらっしゃい!美味しく新鮮な野菜だよー!』
声かけすると瞬く間に店の前には野菜を求めた人だかりが出来る。
実は俺はこの時間が好きだ……俺が売りに出した物を、客が笑顔で買って幸せそうに帰っていく姿は、見ていると俺も幸せな気分になってくる。
この頃から、いつか商人をやってみたいと言う欲求がどこかにあった。
時間が昼に差し掛かり、野菜が大分売れたために多少機嫌が良かった俺だが……そのせいで浮かれてミスを犯してしまう。
箱の入れ替えの最中におもいっきり暴れたキャベツ達が、一斉に脱走したのだ。
『しまった!!』
慌てて数個捕まえたが、大半が俺の手を逃れて逃げ去っていく。
やってしまった……恐らく今ので100万エリス以上の損害だ、そう思って絶望した……その時だ!
『任せて!!スティール!!』
身軽な服装の銀髪で頬に傷のある少女が、キャベツ達の前に躍り出て、【盗賊】の使う窃盗スキル【スティール】を発動した。
飛んでいたキャベツ達が不意討ちを食らって見事に彼女に捕まってしまった。
俺はチャンスとばかりに空き箱を持って駆けつけ、彼女からキャベツを渡してもらい、事なきを得た。
『あ、ありがとう!危うく大損害だったよ!』
涙目で俺は彼女に感謝した、こう言うときに何の力もなく慌てる事しか出来なかった自分が恥ずかしかったが……それ以上に助けて貰えた事が嬉しかったから。
助けてくれた少女は癖なのか、傷がある頬を照れくさそうに掻きながら笑った。
『礼なんてしなくて良いよ、困ってる人を助けるのは普通の事だしさ!』
少女は謙遜気味に言っているが、実は彼女以外の周囲の冒険者は、逃げ出したキャベツをこっそり無断で捕獲して持ち去ろうとしているのが、態度から見え見えだった。
チラチラ横目で確認してたからな、知ってるんだぞコラ。
それに比べて颯爽とキャベツを回収して俺に渡してくれた少女……これはちゃんとお礼をしないとな、信用問題になる。
『この一番大きくて経験値沢山詰まったキャベツ、君にあげるよ』
『えっ、いや、だから良いってば!』
『いいや、このまま何もせず帰したら、うちの信用問題になる……俺の為と思って受け取ってほしい!』
彼女は断るが、俺から理由を説明すると考えこんだ後、納得した様に受け取ってくれた。
『分かった、とっても美味しそうなキャベツ……大事に食べるよ!』
そう言って彼女は心からの笑顔を見せてくれた。
……照れくさい事を言うが、俺はこの瞬間彼女に惚れてしまった。
野菜や虫と格闘する日々で、異性との出会いに縁がなかった俺。
一目惚れなんてあるのかと思っていたが、本当に惚れてしまった……だから失礼覚悟で思わず名前を聞いたんだ。
『あたし?……あたしはクリス、盗賊の職に就いてる冒険者さ!』
【クリス】……惚れると補正がかかると言うべきか、凄く魅力的な名前に思えた。
彼女の名前を教えて貰った以上、俺も名乗らなくてはと思ったその時……。
『あっ、ごめん!友達と約束があるんだった!……キミ、また今度ね!』
そう言ってクリスは大急ぎで去っていってしまった。
……大変名残惜しかったが、ここで呼び止めたら邪魔になってしまうし、追いかけたら店を放置する事になる……そうなればそれこそ信用問題だし、盗まれても文句が言えない。
俺はため息をついて空を見上げる、時間はとっくに昼を跨いだろう……俺は露店を畳み、役場でその旨を告げると、冒険者ギルドへ向かった。
朝方に比べれば、食事をしている者はいるが受付は空いていた。
早速俺は受付嬢の【ルナ】さんに、転職する事を伝える。
『なるほど、このステータスならば転職も充分に可能です。どうしますか?貴方が選べる中では上級職のクルセイダーがお薦めですが……』
彼女は客観的にお薦めをレクチャーしてくれたが……実は今までの経験と先程の案件で、何に転職するのかもう決めていた、それは……。
『【盗賊】でお願いします』
転職が済んだ後、家に帰り全てではなく、大体の事のあらましを両親に伝えた。
すると珍しく両親が本気で激怒した。
『うちは代々クルセイダーを生業としてる!お前もその恵まれた体格だし、間違いなくクルセイダーこそ天職だ!なのに何故だ!?何故盗賊なんだ!』
『私達は貴方をせこせこ盗みを働く、コソ泥に育てた覚えはありませんよ!』
『そうだ!コソ泥息子!』
盗賊をコソ泥呼ばわりされた……俺の決めた初めての夢ととても相性が良く、かつ惚れた女の職種を馬鹿にされた。
頭に来た俺は、自分の夢を……そしてクリスの事を熱く語った。
理解して欲しかった、どっちも本気だったから……だがそうはいかなかった。
『貴方はこれからウチを継ぐんですよ!何を言っているの!』
『商人なんてやらなくても、うちの野菜をいつも通り売ればよかろう!それに【行商人】なんて……この世の中では危険すぎる!』
『そうよ!それに一目惚れした女の子が盗賊だったから盗賊になったなんて、そんな甘いきっかけだなんてのも認めないわ!』
『たまたま気まぐれに善行をしたか、お前からキャベツを合法的に貰うために取り入っただけに決まってる!可愛いからと騙されるな、お父さんは嫌と言うほど嵌められたんだからな!!』
『……あなた、そこの辺り私知らないんですけど?』
俺を心配する気持ちがある……そこは分かる。
だが夢を認めてくれず、クリスを悪く言った。
これで完全にキレた俺は、テーブルを叩いて両親に宣言した。
『もう嫌だ、こんな家出ていってやる!』
何だかんだ今までは両親が嫌いじゃなかったし、あまり反抗らしい反抗をした事がなかったはずの俺は、この日二人が嫌いになり家出した。
両親の言葉と説得をひたすら無視し、さっさと荷物をまとめて家から出ていった……初めての旅立ちだった。
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そして一年後の現在……俺は盗賊として冒険しながら商品になりそうな物を集め、一方で各地を巡りながら、行商人として様々な人達や物達との出会いと別れを繰り返し、夢を現実の形にするため精進している。
自己紹介がまだだったが……俺の名前は【ソル】、18才独身で職種は盗賊レベル40。
夢は商人兼盗賊として活躍し、いつか大商人へのグレードアップと盗賊のイメージアップの両方を叶える事。
まぁ、本当はもう一つあるんだが……さっきの話で察して欲しい、いや察してくれ……言ったら照れくさいからな。
ともかく……今日は行商人として物を売るため、そして盗賊として商品の仕入れのためにアクセルにやって来た。
何か入り用なら言ってくれ、用意しよう。
なおこの場にない商品が入り用となると、仕入れにいかないとだからな……ギルドを通してくれ、そうじゃないとルナさんが仕事が減るってうるさいんだ。
初めまして、V-ACTと申します。
小説を書くと言うのが初めてであり、至らぬ点も多いと存じますが、気軽に見ていただければ幸い。
基本主人公視点な為、描写する機会が全然ないので、外観のイメージについてお話を。
端的に言えばギルティギアのソルをイメージしていただければ大体あってる感じです。
身長は186cm、体重78kgと体格はソルより若干大きいです。
とまあ今後はこんな主人公が、頑張ってるんだなと思って読んでいただければ……。
では失礼いたします。