この逞しい世界で盗商を!   作:V-ACT

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1品目 魔術師の宝冠

はじまりの町アクセル。

駆け出しから中堅くらいの冒険者達が利用するこの町は、現在人類の目下最大の敵である【魔王】が鎮座している城から最も離れた場所にある。

故にとても平和であり、魔物も強い物は比較的少ない。

だが逆に町の近くの弱い魔物は、それはそれですぐ狩られてしまうため、討伐依頼されている事がほぼない……はじまりの町と言うわりに、駆け出しの冒険者は結構頑張らないといけない。

 

「ヤバかったな、【冬牛夏草】……」

 

「寄生系はやめとこうぜ、気持ち悪すぎるわアレ……」

 

そんなアクセルの町中で冒険者ギルドを目指して歩いていた俺は、通りがかりの冒険者達がそう話しているのを聞いた、どうやらクエストに失敗してしまった様子だ。

冬牛夏草と言えば、農家の家畜などに寄生するモンスターで、見た目が凶悪で強さはそこそこあるが、水に弱いために魔法を扱う【ウィザード】が一人でもいれば大体何とかなる程度の相手だ。

……なお逃げるときは後ろ足で人間の様なガチ逃げを行う、牛や山羊がそれを行う様はある意味圧巻である。

 

さて……そんな生きてる物生きてない物問わず逞しいこの世界で、俺は盗賊商人……略して盗商をやっている。

ああ、勘違いしてもらっては困るが、別に人様から盗んだりはしない。

洞窟や遺跡等のダンジョンの宝箱や、魔物などから拝借したり剥ぎ取った物を販売して利益を得ているだけだ。

人様から盗んだりしてそれが判明したら……盗賊のイメージダウンに加えて商人としての格が落ちてしまう。

夢から一気に遠ざかる、それはナンセンスだ。

今回冒険者ギルドに向かっているのは、商品の仕入れのため……誰かしらのパーティーに参加させて貰ったりして、この町付近のダンジョン探索に出掛ければ、掘り出し物が見つかるかもしれない。

 

はてさて冒険者ギルドについた俺は、まずルナさんに挨拶に行く。

ルナさんは金髪で豊満な胸の美女であり、冒険者ギルドの受付嬢だ。

アクセルに来た時は必ずと言って良いほど、彼女に挨拶するのが日課になっている。

それもこれも、家出から一月の間に結構相談に乗ってもらったり、向こうの仕事の愚痴を聞いたりしたからだが……。

 

「あっ、おはようございますソル君。先月ぶりですね」

 

「どうも、ルナさん。お変わりなさそうでなによりですよ」

 

彼女に軽く挨拶を済ませると、俺はパーティー募集の求人掲示板を見に行く。

ダンジョン探索などの為に、他の冒険者を募っているパーティーがないかの確認だ。

 

「あっ、少し待ってくれます?」

 

「? 何かありましたか?」

 

ルナさんから呼び止められた、こう言うときは大体決まってる……が、早とちりしたら格好が悪いので一応聞いておく。

すると、ルナさんは一枚の羊皮紙を取り出した。

 

「いつもの、ギルドを通しての貴方への個人的な依頼です……どうも今回は毛色が違う気がするのですけどね」

 

「見せてください」

 

ルナさんから差し出された紙にはこう記されていた。

 

『依頼書。ソル殿、貴方のご活躍のほどをお聞きしまして依頼させていただきました。実は厄介な魔物に私のお宝を盗まれてしまい……是非それを取り返していただきたい。報酬は1000万エリス、良い返事を期待しています。依頼者ギース・ライア・ミードルン』

 

ギース・ライア・ミードルン……偽名じゃないならば恐らく貴族だろうが、そんな身分の人間から依頼を受けた事などない。

何処から聞き付けたのか……だが依頼されたからには話くらい聞かないと失礼に当たりそうだ、それに1000万エリスを報酬にするほど取り返したいお宝となると興味深い。

依頼書を懐に仕舞うと、ルナさんに向き直った。

 

「確かに依頼書、受け取りました。取り敢えず話を聞いてみようかと、内容が分からない以上どうするか決められないですから」

 

「分かりました……これは個人的ですけど、危ないと感じたら引く事も必要なんですよ?」

 

「ええ、もちろん……心配してくれて感謝してますよ」

 

心配そうに俺を見るルナさんに頭を下げて、その場を離れる。

依頼書には地図が載っていたので、それを頼りに依頼者の元へ向かうべく、俺は冒険者ギルドを出た。

後ろでルナさんの大きなため息が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

アクセルを離れ、地図通りに来ると大きな建物があった。

如何にも貴族のお屋敷なここは、アクセルの離れにある森の入り口に建っている。

この場所にこんな建物あったろうか……一瞬そう考えたが、俺はこの辺りにあまり来たことがない為、もしかしたら知らないだけだったかもしれない。

何があってもおかしくないこの世界、下手な勘繰りはよそう……そう考え直して、屋敷の扉を叩く。

 

「すみません、依頼書をいただいたソルですけども!」

 

ちゃんと伝わるか分からないため、ある程度大きめな声で来たことを伝える。

しばらくすると扉が鈍い音を立てて開いていく、その先にいたのは40代くらいの金髪をオールバックにした厳つい男だった。

纏う衣服は最近はじまりの町から現れるらしい妙な人間たちから伝来したとされる、ビジネススーツと言う物であり、なんだか風格が感じられる。

 

「良く来たな、歓迎するぞ!」

 

彼は大きく笑いながら、俺の肩を叩く。

どうやら彼が依頼者のギース・ライア・ミードルンのようだ。

てっきり使用人でも来るかと思ったが、出払っているのだろうか?

 

「初めましてギースさん、ソルです。依頼内容をお伺いに参りました」

 

俺が挨拶をすませると、彼は頷き先導して中に入っていく。

ギースさんの先導について行くと、豪華なシャンデリアのあるエントランスを抜けて、大きな扉の前まで来る。

 

「実はな、君以外にも今回の依頼を頼んでいたのだよ。君同様にそれなりに知られている冒険者だからな、信用に値すると思ってな」

 

「はぁ、そうでしたか……分かりました」

 

どうやら俺以外にも冒険者がいるようだ、もしかして1000万エリスは複数人で分けた上での金額だったと言うことだろうか?

となると多少がっかりだが、収入が0になったわけではない……今回の依頼がどんな冒険者と一緒なのか、見極めさせてもらおうかねぇ、使える奴なら良いんだが……。

ギースさんにより扉が開かれた、その先にいたのはなんと……。

 

「あ、ギースさん戻っ……キミは……」

 

「……まさか、こんな場所で君に再会するとはな。クリス」

 

そう、俺が昨年惚れてから恋い焦がれていた少女クリスだった。

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

現在俺とクリスは依頼書にも書いてあった、宝を盗んだ魔物の討伐と宝の奪還のために、その魔物の生息地とされる森の中の洞窟を目指していた。

つまりギースさんのクエストを引き受けたのだ。

 

「いやぁ、本当に久しぶりだったね。1年ぶりくらいじゃないかな」

 

「ああ、覚えていてくれて嬉しいよ……たった一回会っただけだし、俺はとっくに忘れられているものかと」

 

俺がギースさんからの依頼を素直に受けた理由は、ぶっちゃけるとクリスと二人きりでクエストに行けるからだ……これはもう完全に決定打だった。

俺は家を出てからの一年間、アクセルや他の町での仕事をこなしながらクリスの事を探し続けていた。

しかし全くといって良いほど掠りもせず、すれ違い続けていたのだろう。

若干あの出会いは夢か幻だったのではないかと思い始めた、その矢先でのこの再会……チャンス以外の何物でもない!

 

「あの時キミから貰ったキャベツ、友達と一緒に食べたんだ。凄く美味しくてさ、あたしも友達も本当に幸せだったよ……また会えたら良いなぁって、思った」

 

「ーーーーッ!そ、そうか……!」

 

クリスも俺と会えたら良いと……そう思ってくれていた!

何だ、この胸の高鳴りは!治まれちくしょう!

……どうする、どう返事を返すべきか……えーいっ!分からねぇ!言っちまえ!

 

「俺、も……会いたいって、思ってたよ……クリスに」

 

「えっ、本当?あはは、それは光栄だなぁ!……あれっ、でもどうして?」

 

うぐっ!た、確かに!

この反応だとクリスが俺に会いたい理由は、美味しいキャベツをまた友人と幸せに分かち合いたかったからに決まってる!

なのに俺は……俺はぁ……どうする?どうする!?

……これだな。

 

「俺の名前……結局名乗れないままだったからな」

 

「ああ~……確かに、キミがあたしに名乗ってないままの状態で別れちゃったね!フフフ……じゃあ改めて教えてくれるかな?」

 

「……ソルだ」

 

「ソル……ソルかぁ、太陽みたいに暖かそうな名前だね。よろしく、ソル!」

 

彼女から手が差し伸べられる、友好の握手と言う事だろう。

気恥ずかしいが、これから一緒に魔物に挑むのだからこの手はしっかり握ろう……決して下心じゃない、とは言えないが。

 

「ああ、よろしく」

 

初恋の相手の、初握手の感触は互いにグローブ越しだった……ある意味助かったが、残念だ。

一通り会話を終えると、その後はクエストに集中した……これから魔物と殺り合う以上、油断は出来ないからな。

暫く進むと目的地と思われる洞窟が見えた。

いよいよだ。

 

「武器の用意、大丈夫かい?」

 

「ああ、もちろんさ」

 

俺は愛用している斧と盾を背中の武器納めから取り出す。

それを見てクリスは俺を意外そうな目で見る。

当然だ、基本盗賊はその職種柄身軽な武装が理想的だからな。

だが俺は両親共にクルセイダーの血縁だ、力と頑丈さが生まれつき非常に高いため、盗賊でありながら盾役もこなすような有り様だった。

あまり身軽ではないため、本来の盗賊の本領発揮の可能性が薄まってしまうだろうが……幸運が平均より高いため、そこは活かすことが出来るらしい事が幸いだ。

 

「……分かった、ならソルが先行で構わないかな?盾持ってるからいざという時身を守れるだろうし、あたしもキミを後ろからサポートするし」

 

「ああ、と言うかそもそも女性を先行させるような事はしたくないな。俺の心情的に」

 

彼女の提案に当然とばかりに俺は答えて、先に洞窟に進みだす。

惚れた女を前に出すなんぞ男じゃねぇ……いいぜ、何が来ようとぶっ飛ばしてやるよ、クリスには指一本触れさせやしねぇからな。

 

「……男の子だなぁ……」

 

なんかクリスが背後からしみじみといった感じで言ってるが、聴こえてないフリしつつ先に進んでいく。

……なんだろう、何となく獣臭い?

っとその瞬間洞窟の奥から遠吠えの様な叫び声が聞こえた。

 

「! 感知、背後から!続々やってくる!」

 

クリスが盗賊のスキルによる【敵感知】で、背後から接近してくる敵を感知したらしい。

となるとこんな狭い洞窟で囲まれたらクリスを守れる自信がない、だから囲まれる前に洞窟の外へ逃げるのがセオリーだが……多分俺は間に合わないだろう。

なら……。

 

「さっきのは仲間を呼ぶ合図だ、クリスは囲まれる前に出ろ!」

 

「えっ、ソルは!?」

 

「俺は何とかする!早く行け!!」

 

「! ご、ごめん!!」

 

俺に謝って走り出すクリス、大丈夫だぜ謝る必要なんてない。

俺は正面を見据えるとズンズン進んでいく、さっきの遠吠えは恐らく狼だろう……となると統率をとるリーダーがいるって事だ。

アクセル近辺の森に住む狼なんて、単体なら初心者でも狩れるくらいで大した力はないが……希に統率が良く取れていると、集団戦法により中堅層でも苦戦する事があるそうだ。

今回の相手は強かに罠を張り、洞窟に獲物がある程度入った瞬間に仲間を呼んで逃げ場の無い状態にし、狩ると言うかなり頭の良いやつだ。

人間様から宝を盗める程の力があり、取り返しに来る獲物待ち伏せる知能もある……そんな強いリーダーを倒せばもちろん統率を失って、狼の群れは烏合の集になるだろう。

そうすれば混乱した狼を蹴散らして、宝を手にし外へ脱出、クリスと合流して悠々と帰れば良い。

ギースさんも喜んで迎えてくれるだろうさ。

 

「さーて、お宝を盗む狼ってのはどんなもんか……な?」

 

奥まった所まで来て、俺は思わず動きを止める。

洞窟の奥にいたのが……意外にも狼ではなかったからだ、それもさっき見た顔だってんだから驚きだ。

 

「……ギース、さん?」

 

「ふふふ、遅かったじゃないか」

 

ニヤリと笑い、その鋭い目で俺を射てくる。

訳が分からない、俺とクリスにここにいる魔物の討伐と宝の奪還を命じたのはギースさんのはず、それが何故ここにいる?

 

「何故、と言う顔をしているなソル。簡単な話だ、お前も、あの少女も、私に嵌められたのだ!」

 

「嵌められた?……ッ!」

 

ギースさんと対峙している間に、背後には押し寄せた狼が敷きつまっていた、まるで逃道を塞ぐように。

そして……。

 

「ご、ごめん……放っておけなくて……」

 

「……へヴィだぜ……!」

 

クリスは俺の指示に従えずに戻ってきてしまったようだ。

……どうやら冗談のようではない、ガチでギースさんが俺達を罠に嵌めたのだ、この大量の狼達を使って。

 

「何のために、どうやって!?」

 

「ギースさん、まさか……!」 

 

俺には分からない、罠に嵌めた理由も……狼を操れる理由も。

だがクリスは何かに気づいたらしい、その様子を見てギースさんは笑顔を浮かべる。

 

「ふふふ……そのまさかだぁ!!」

 

彼の身体から引き裂くような音が鳴り、そこから何かが飛び出してクリスに襲いかかる!

 

「きゃあ!!?」

 

「クリス!!」

 

危険と見るや、俺はクリスを咄嗟に引きよせて抱き止める……本来なら嬉しいイベントだが、それを意識するには今はあまりに不謹慎だ。

……ギースさんの身体から飛び出したのは人間大の巨大な狼だ、鋭い牙をむき出しにしながらこちらを嘲笑っている。

 

「逃れたか……流石は熟練の冒険者、褒めてやろう」

 

「……」

 

「……」

 

元ギースさんの狼からは、強い威圧感と力を感じる……それは間違いない。

人間大……それもギースさんほどの大きさともなると、物凄い力がありそうだし、俺も正面からじゃ勝ち目がないかもしれない……それは間違いない。

 

「恐怖で声もでないか、当然だ。これからお前たちは私に殺されて、そこの私の仲間たちの糧になるのだからな!熟練の冒険者ほど、経験値を貯めて味が良くなる……つまり我々の食事の為にお前たちを誘導したのだ!」

 

「……」

 

「……」

 

狼が何か言っている、だが正直もう気にならなかった。

何故か?もっと気になるものが目に映っているからな。

キラリと輝く【宝冠(ティアラ)】が、狼の頭に乗っかっているのがな……。

明らかに狼に不釣り合いなそれは、クリスが着けたら綺麗なんだろうななんて考えられるくらいに、美しい宝冠だ。

いくらなんでも突然ただの狼が、こんなパワーを持つはずがないからな……どう考えてもあの宝冠が怪しすぎる。

 

「さて、そろそろお喋りはここまでだな。私が今すぐお前たちを殺してーーーー」

 

次に狼が口を開いた瞬間、俺は背中の武器納めから所持していたワイヤーを取り出すと……。

 

「【バインド】」

 

「グヌゥッ!?」

 

盗賊の拘束スキルのバインドで、鋼鉄のワイヤーが狼をがんじがらめに拘束する。

締め付けられ動きを制限されてしまい、怒る狼。

 

「よくもこんなものを!だ、だがこの力がある限りーーーー」

 

もがいて何とか脱出を試みようとする、しかしその前にクリスは……。

 

「【スティール】」

 

「あっ」

 

窃盗スキルであるスティールをあっさり成功させて、その手に先程の宝冠を持っていた。

 

「な、何て事を!返せ!かえ……か……クゥン」

 

するとみるみる小さくなった狼、既に洞窟の出入口に敷きつまってる奴等と同等のサイズになり、言葉も喋れなくなっている……宝冠が原因だった事が完全確定した瞬間だ。

途端に狼の群れ達も混乱しているのか、首を傾げている。

そりゃ今まで凄そうだったリーダーがいきなり力を失ったわけだし、当然といえば当然だな。

俺は対象を失い、力が無くなったワイヤーをさくっと回収すると、指と首を鳴らす。

 

「さて、バカやらかした狼ちゃんたちはどうしてやったら良いと思うクリス?」

 

「や、優しくしてあげたら?」

 

「……」

 

「ク、クゥン?ワオンワオン?」

 

『アオン、ワオクゥン……』

 

……まぁ、こんな事態になったのはこの宝冠のせいだ……が、正体を現すときに俺ではなくクリスを真っ先に襲いやがった事実は変わらない。

だから……。

 

「調子に乗りやがってぇ!!」

 

クリスに免じて武器では勘弁してやったが、盾と拳で狼の群れを蹴散らした。

なお雑魚とは言え無双している俺を、クリスは『盗賊らしからぬパワフルさは見てて楽しかった』とコメント……褒められてるんだがないんだか……やれやれだ。

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

狼を蹴散らした後、俺とクリスは森の出入口まで戻ってきた……だがそこにあったはずの屋敷はなくなっていて、ボロボロな岩の塊が転がっているだけだった。

多分あの屋敷はギース・ライア・ミードルンの姿同様、宝冠の力で作られた実体ある幻だったのだろう……でなければ朝方から夕方にかけてで突然なくなるはずがない。

……しっかし、何とも不思議な体験だった。

 

「……クリス?」

 

先程から黙りと宝冠を見つめているクリス、何だろう……まさか着けてみたいとかか?

だが止めた方が良い、いや、着けたら絶対可愛いだろうが……。

万が一あの狼同様に、妙なパワーでおかしくなってしまうかもと考えると、クリスにそんな事はしてほしくない。

そんな事を考えていた俺に呆れたかのように、クリスはため息をつく。

思わずドキリとする、二重の意味で。

 

「これ、ソルが貰って」

 

「……え?俺が……良いのか?」

 

「うん、キミは信用出来るし。それにそれはあたしが求めてたものじゃないみたいでさ~……残念」

 

……まぁ、危険なものだしな、俺が保管した方が無難か。

にしても心底残念そうな顔のクリス、どうやらクリスがこの依頼を受けたのは、彼女の探し物に関連していると思ったかららしい。

彼女の事情は気になる、だが下手な詮索はやめとこう……それで嫌われたら一生挫けそうだからな。

 

「……無駄足だったか?」

 

「そうだね……」

 

クリスはさらに大きくため息を吐く。

だんだん彼女が気落ちしてるのが分かる……だめだぜ、クリス、お前は元気に笑ってなきゃ。

 

「だけどよ、俺はクリスにまた出会えたから……無駄じゃないって思えた」

 

「えっ……あっ……」

 

突然の俺の言葉に動揺してるのか、挙動不審なクリス……こんなクリスはきっと滅多に見られないだろうな。

コホンと咳払いをして、調子を整えた後にクリスも笑った。

 

「確かに、ソルとまた会えたと思えば無駄じゃないね!」

 

「おう、そうだろ?」

 

『……ありがとうね』

 

「ん?」

 

「何でもないよ」

 

クリスが元気を取り戻してくれたが、最後にボソリと呟いたのは良く聞こえなかった……まぁ、良いか!

 

「っとそれじゃあたしは用事があるからもう行くよ、元気でねソル!」

 

「おう、クリスこそな!また会おうぜ!」

 

「うん、その時は何か奢ってよ!」

 

「任せとけ!」

 

用事があるらしいクリスが去ってしまう、なので仕方なく次の再会を約束する、仕方なくだぜ?

だが彼女も強かで、俺に奢らせる約束をしてきた……惚れた弱味だ、最高のもんをご馳走してやんよ。

クリスの背中が見えなくなってきた途端、俺は脱力した……とりあえず今回の事で疲れた。

さっさと報告して、宿屋で休むとするかな。

すっかりお疲れムードで冒険者ギルドに帰ってくると、ルナさんが慌てて俺を出迎えた……まぁ、何となく察しはつく。

 

「ソル君おかえりない、無事で安心しました!」

 

「ただいまルナさん、この通りですよ……1000万エリス、どうなりました?」

 

「……跡形もなく消えてしまいました」

 

「ですよね……」

 

やはりと言うか、1000万エリスも実体ある幻だったようだ……代わりの報酬はこの謎の宝冠だけだ。

ルナさんは突然報酬金が消えた事で、俺が何か面倒に巻き込まれたと理解したんだろう……余計に心配かけてしまったな。

 

「何かすみませんね、うん」

 

「本当ですよ、貴方の身に何かあったら……」

 

「ルナさん……」

 

「一体誰が私の酒酔いの介抱と愚痴聞きをしてくれるんですか」

 

「そこですかぁ~」

 

ルナさんは優しいが、ちょっと残念な姉って所だ……美人なんだが、お相手が出来ないのはこう言う所が問題なんじゃないだろうかと常々思う。

 

「……今何か失礼な事考えました?」

 

「いえ、全然」

 

勘が鋭いのも、ちょっと怖いところだ。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

宿屋に部屋を取り、ベッドでゴロンと横になる。

あれからルナさんに酒飲みと一方的な愚痴大会に付き合わされ、さらに疲れが溜まっている……今入ると風呂で寝そうなので、風呂は起きてからにしよう。

ゆっくりと落ちていく意識の中で、ベッド横のテーブルに無造作に置いた宝冠が目に入った。

 

宝冠の裏のど真ん中には、1と言う数字が刻まれていた。

 




ファンタジーな世界なのにテンプレ通りじゃなく、妙に逞しすぎるこのすばの世界観が好きです。

今回はクリスが相棒になりましたが、決して彼女が常に相棒になるわけではなく、一話毎に別の原作キャラが相棒になって話が進行します。
ただ時間軸としては、まだ和真さんとアクア様がやって来ていないので……このすばメインメンバーの登場はもうしばらくお待ちください。

では失礼いたします。
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