この逞しい世界で盗商を!   作:V-ACT

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2品目 女教皇の外套

魔王に脅かされているこの世界において、何かにすがり崇めると言うのはある種必然かもしれない。

現在最も戦火に晒されている【王都】を始め、国における宗教は御神体の数だけ存在する。

皆それぞれ自らの信じる神を信奉し、その信者として恩恵に与っている。

かく言う俺は特定の宗派に属してはいない。

両親はクルセイダーだったから何かしら属していたかもしれないが、その手の話はあまり興味がないから聞いたことがなかった。

まぁ……そんな俺でも国教についてだけなら分かる。

王都が定めた国を上げての宗教、それは【エリス教】だ。

エリス教は幸運の女神たる【エリス】を御神体とする宗教で、信者を含めて比較的おおらかな善人が多く、彼らの善行に心うたれた王が、国教として制定したとされる……おかげで通貨の名前もエリス、すっかり親しみやすい存在となった。

 

「ーーーーだからよ、その剣売ってくれ!」

 

「あい分かった、2万5千エリスだ」

 

「ありがとなぁ!」

 

「まいど~!」

 

俺みたいな金を良く取り扱う職だと尚更だな。

こうやって無事に商品が売れていって、皆が笑顔で帰っていけるのも、女神エリスのご加護なのだとしたら、信者でなくとも心から感謝をしなくては。

 

ーーーー宝冠の一件から1ヵ月経っていた。

 

あれから各地を転々としたが、愛しのクリスとの再会は叶わず……くそっ、こう言う事にもご加護をくださいエリス様!

……現実は非情なため、夢のためにもひたすら特産品や武具等を仕入れて、他所で売って大きく利益を出す日々だった。

そして今日はアクセルにて、この周辺では中々手に入らない商品を売りに出している。

好評な様で、色んな商品が飛ぶ様に売れている……なお一番の売れ筋は食べると生きる気力が湧く作用がある【この先生きのこ】……やたら『そんなんじゃ、この先生き残れないぜ』と語りかけてくる様な音を出すから俺は嫌いだ。

 

『そんなんじゃ、この先生き残れないぜ』

 

頼むから黙ってくれ……。

まぁ、こう言う奇特に見える商品にもニーズがあり、何が売れるのか分からないのが世の中だ。

先程売れた剣も死んだ騎士が甦ったモンスター【アンデッドナイト】の所持していた剣であり、呪われてる可能性もあると警告したにも関わらず『その騎士の分まで俺が使って戦ってやるんだよ!』……と言う熱いハートのお客様が買ってくださったわけだしな。

最初は商人としてただ売ることが楽しかったが、最近は色んなお客様との出会いも楽しみの一つなのだ。

……とそこへ、青い鎧に身を包み、腰に立派な剣を下げた青年がやって来た。

 

「……君が、ソルだな」

 

「いかにも、盗賊兼商人のソルだが……何か入り用か?」

 

「個人的に話がしたい、それも緊急の……頼めないだろうか?」

 

この青年とは初対面のはずだが……多少は名が売れてるのかね?

だと嬉しいのだが……しかし緊急の用事か、ギルドを通す時間も惜しいってことなのか、何となく顔色が悪いし相当焦ってるんだろう。

 

「分かった、店畳むから待っててくれな」

 

「ありがとう、恩にきるよ!」

 

今までこう言う事がなかったわけじゃない、中には簡単な依頼の癖にやたら焦って依頼にきた奴もいたりするし。

だが、彼のそれはそう言う類とは違うと感じた。

 

店を畳み終わり、路地裏に入ると青年は一息をついてから俺に向き直った。

 

「僕は御剣響夜(みつるぎきょうや)……ソードマスターを生業とする冒険者なんだ、よろしくソル」

 

「ミツルギ・キョウヤ、か……分かったぜミツルギ、それで一体何をそんなに焦ってるんだ?」

 

名前からして、最近アクセルに来る妙な連中と同一の存在らしい事が分かる……奴等は凄い装備や魔法を扱うらしく、そんな存在の一人らしいミツルギが焦る程の事態とはいったい……。

 

「僕のパーティーの仲間である、戦士のクレメアと盗賊のフィオ……二人がダンジョンに出掛けてから行方知れずなんだ!」

 

「行方知れず……」

 

「……最近ダンジョン内で神隠しが起こると言う噂を聞き付けてね、何者の悪さかは知らないが解決してみせようと僕が提案して、二人は僕についてきてくれたんだ……そしてダンジョン探索中に突然……!」

 

「……なるほどな」

 

ダンジョンで神隠しなんて噂はまだ耳にしてなかったが、このアクセル付近でそんな珍事が起こっているとなると放っておけないな。

万が一クリスが巻き込まれて戻ってこれなくなったりしたら、生きる気力を失いそうだ。

 

「それから一人で探したんだが、どうしても見つからずに途方に暮れ……何とかダンジョンからは脱出出来たから、その手のプロに助けを求めてきたと言うわけさ」

 

「まぁ、ダンジョンと言えば盗賊だしな。しかし、ミイラ取りがミイラとは災難だったな」

 

「……僕のせいなんだ……僕が神隠しを解決しようなんて言い出さなければ、二人がこんな事には……!」

 

……どうもミツルギはかなり自分を責めているようだ、気持ちは良く分かるよ。

だがな……。

 

「ミツルギ、二人は自分の意思でお前についていくと言ったんだろ?危険そうだから断ろうと思えば断れたはずなのにな。それで自分にだけ責任負わすのは自惚れすぎってもんだ……だからあんまり、自分を責めんなよ」

 

「……ありがとう、確かに君の言う通りだ……ソル、僕ら三人の為にも力を貸してほしい!」

 

「ああ、分かった。時は一刻を争うかもしれないからな、急ぐぞ!」

 

「もちろん!報酬は後々!」

 

「それなりに色をつけろよ、ギルド通して無いとバレた時ルナさんに怒られるんだからな!」

 

すまねえな、ルナさん。

だがこれは人助けと俺の恋路のためだ……説教は短めで勘弁な。

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

神隠しの噂の根元であり、ミツルギのパーティーメンバーであるクレメアとフィオの二人が神隠しにあったのは、巨大な肉食蛙【ジャイアントトード】の生息地である丘陵を越えた先の山の中腹。

そこには魔物の巣窟となった古代遺跡が存在しており、ここの調査のために入った冒険者が行方知れずになってしまうんだとか……。

 

「気をつけて進もう、僕が先導して敵を蹴散らすから……ソルは周囲の警戒を頼むよ!」

 

「いや、こう言う暗いダンジョンなら盗賊の俺が【暗視】で進んだ方が……」

 

「さぁ、来い!神隠しの主犯め!!」

 

「……やれやれだぜ」

 

ここに来るまでで良く分かった事がある、ミツルギはかなり自惚れが強くて話を聞かないタイプだったと言う事だ。

ミツルギが自慢気に話してくれた限りだと、彼の強さは美しい女神から授かったと言う【魔剣グラム】に大分依存しているらしいのだ。

それなのにも関わらず、まるで自分の力の様に振る舞っているのは……何とも言えねぇ。

上級職のソードマスターになれたのもグラム、現在のレベルに押し上げてくれたのもグラム、結果的にクレメアとフィオが慕ってついてきているのも、グラムのおかげなのかもしれない……。

そうだとしたら、ミツルギ自身の強さはどこにある?

……確かにヒーローじみた活躍は出来るかもしれないが、客観的に見ると、グラムと言う一本の剣に頼った虚しい存在にも思えてしまう。

 

「……ん、何だい?僕に何かあるのかい?」

 

「いいや、何でもないさ」

 

俺の視線に気づいたミツルギから一端視線を外し、周囲の警戒をする。

神隠しがどういう原理で行われているのか、そこら辺を理解できないと対処のしようがない。

……しかし、盗賊のフィオがいながらどうして神隠しに対応出来なかったのか。

ここに来る前の俺なら、この遺跡に盗賊の探知が機能しない細工でもあるのかと思ったんだが……実はミツルギの事を見すぎてて対応に遅れたからとかなんじゃないだろうか。

……んー、どうにもそう思えてきた……だとしたら何のためのパーティーなのか分からなくなってくる、互いを補いあってくれよ。

っとそんな事を考えていたら……何かを踏み抜く音が響いた。

 

「ん?これは……」

 

「! ミツルギ、前だ!」

 

「えっ、てグフ!?」

 

どうやらミツルギがトラップを踏み抜いたようだ。

飛んできた鉄球を受けて、顔を押さえている……ここでぶつかった鉄球が逆に壊れた辺り、グラムによって得た力の凄さが分かる。

 

「無事か、ミツルギ?」

 

「は、鼻血が……」

 

「ブフッ!……まぁ、パーティーメンバーの前じゃなくて良かったな、フフフ……。さっ、俺に先行させろよ、こう言う時は盗賊が前のが良いんだよ」

 

「……どうやらそのようだね、任せるよ。だが、君の背中は僕に任せてくれ!」

 

「あー、はいはい」

 

転んでもただでは起きん男だ。

鼻血を早々に拭い、背後の警戒を行うミツルギに後ろは任せる事となった。

グラムのお陰とは言え力量は俺より高いだろうからな、戦闘においては信頼できるだろう……俺は盗賊らしく暗視で前方を確認しつつ慎重に進んでいく。

するとやはりと言うか、かなりの数のトラップを発見……ミツルギに先行させなくて良かったと改めて思った。

 

「なるほど……僕は盗賊の事を詳しく知らなかったけど、こんなに心強い職だったんだね」

 

「……お前はもう少しパーティーメンバーの職に対する理解を持った方が良いぜ?」

 

「ああ、今後はそうすることにしよう……君を頼って良かったよ、あの盗賊の少女に改めて感謝を……」

 

ーーーーん?

 

「おいミツルギ、その盗賊の少女はクリスと名乗らなかったか?」

 

「え?ああ、確かにそう名乗ったよ」

 

何てこった……この男に俺を紹介したのはクリスだったってことか!?

 

「どこで会った、言え!」

 

「あ、アクセルの正門広場でだが……丁度何処かへ向かう様子だったよ」

 

「……そうか……」 

 

もうアクセルにはいないってことだな……またすれ違った、最早神に弄ばれてる気分だ。

だが思わぬ所でクリスに関して新たな情報を得た俺は、気合いを入れ直して再び進み出す、一刻も早く解決するために。

 

「なあ、ソル」

 

「どうした、ミツルギ?」

 

「もしかして君はクリスと言う子が好きなのかい?」

 

「……っておおう!!?」

 

突然何を言い出すんだコイツは!

全くもってその通りで、完全に一目惚れからのベタ惚れだが時と場所を考えろよ!恥ずかしさで思わず大声出しちまったよ!

俺の挙動不審な様子で察してしまったらしいミツルギは、輝いた瞳で満面の笑みを浮かべた。

 

「やはりそうなんだね!いや、良く分かるよ……僅かな会話だったが非常に魅力的な女性だったと僕も感じたからね!そうとなれば是非僕に君の恋路を応援させてくれ!なんなら別の機会に手助けもしよう!」

 

「ぎゃああああっ!これ以上喋んじゃねぇぇぇぇ!!」

 

こいつ自分の恋愛に疎い癖に、他人の恋愛話にやたら反応するタイプだったか!うざい!うざすぎるぞミツルギィ!!

そんなやり取りを大声でやっていたら、奥からゾロゾロ魔物がやって来た、当たり前か。

 

「! 下がってくれソル!奴等は僕が!」

 

「あっ、おいそこは!!」

 

さらに魔物に反応したミツルギが前に進み出る、よりにもよってトラップがある場所に。

踏み抜いた音と共に背後から轟音が聞こえてくる。

 

「しまった!!?」

 

「しまったじゃねぇぞコラァ!さっさと走れミツルギィ!!」

 

背後からの轟音の正体は大量の水だった。

正門の魔物、後門の流水とハチャメチャに……まぁ、結局魔物達も流水を怖れて逃げだしてるんだがな……トラップ配置が杜撰だなおい。

 

「うわあああああ!!ソル、なんとかしてくれぇ!!」

 

「何とかなるかぁ!!こんなもん!!」

 

今は振り返らず走れ、そうとしか言えん。

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

「う、うーん……ここは……?」

 

「目が覚めたか、ミツルギ」

 

「ソル……と言う事はまだダンジョンの中、なのかい?」

 

「ああ、そうだよ。つーか何処だと思ったんだよ」

 

「えっ、いやぁ……あはは……」

 

怒濤の如く押し寄せる流水から、横道にあった階段で何とか逃れる事に成功した俺。

しかし、ミツルギは重い鎧のせいで若干逃げ遅れてしまった。

ギリギリの所でがむしゃらにグラムで応戦しようとしたようだが、一足遅く流水に押し流され、大分進んだ先で気絶していたのを発見した。

 

「感謝しろよ。お前から水を必死に吐き出させて介抱して、安全だと判断した階段上まで重いお前を運んできたんだからな」

 

「そ、それは面目ない……ん?あれ……」

 

「どうした?」

 

「ない……グラムがない!!」

 

「あー……」

 

恐らくさっきの流水で流されてしまったのだろう、俺がミツルギを救出した時には既に無かったからな。

その事実に気づいたミツルギは、相当焦っていた。

 

「探さないと!グラムは女神様から貰った大事な物なんだ!」

 

「まぁ、まて」

 

落ち着きをなくして勝手に行動をとろうとするミツルギを引き留める。

これでまた危険なトラップに引っ掛かったりしたら、恐らく本当に命がないだろう……今のミツルギは、グラムの恩恵がないのだから。

 

「気持ちは分からんでもないが、先に神隠しだ。暗視で見る限り、この先に人がいた痕跡がちらほらあるんだ……もし探してる二人がいるとしたらこっちの方が可能性が高い」

 

「……くっ……」

 

「……それとも、お前にとって仲間の命はそんなに優先事項低いのか?」

 

「----ッ!そんな事はない!」

 

多少躊躇したようだが、ここでグラムを選ぶほど落ちぶれてはいなかったか……安心したよ。

 

「じゃあ行こうぜ、グラムは二人を見つけてからだ」

 

「ああ……ありがとうソル、僕は冷静じゃなかったよ」

 

「わかりゃ良いんだよ、ほれ代理の剣貸しといてやる。ソードマスターに剣が無かったら格好つかないだろ?」

 

「確かに……でもこれって……」

 

そう、アンデッドナイトの剣だよ。

他に持ち合わせが無いから渡したが、武器としての力は問題なくあるし、しっかり使ってやってくれよな。

……とか、しちめんどくさい事は告げずに黙って押し付けて俺は先に進む。

 

「……」

 

「……どうかな、ソル」

 

「ふむ、中身が空の革袋……火の消えた松明……どうやらここらへんで間違いねえようだ」

 

先ほど見つけた痕跡から推測するに、神隠しに遭うのはこの辺りだと思われる。

以前神隠しに遭った冒険者たちも、ここを通った先で何かに姿を消されたのだ……。

 

『……ミツルギ、ここからは小声で話す。よく聞け』

 

『? なんだい?』

 

『【潜伏】で身を隠して様子を見る』

 

『……なるほど、分かったよ』

 

ここで俺たちの気配が消えたら、どういう出方を見せるのか……確認する意味はあるかもしれない。

俺とミツルギは壁に張り付き、盗賊スキルの潜伏で姿と気配を消す。

潜伏は一緒にいる奴も効果の範囲になるからな、これでもう神隠しからは姿も気配も見えないし感じ取れない。

しばらく二人で黙って潜伏していると、空間が揺らめいたかと思うとそこから出てきたのは……。

 

「むむむー、奴らは何処に行ったゴブ……」

 

何とゴブリンだった、それもかなり小さく弱そうな個体だ。

強いて変わった点を言えば、豪華な【外套(マント)】をその身に纏っているくらいか。

……一か月前、大した力のない狼が美しい謎の宝冠を頭に乗っけたために、凄まじいパワーを身に着けていた。

もしかして、今回の件……あの一件と何かしら関係があるのでは?

 

「致し方ないゴブ、さっさとお部屋に戻るゴブ。面白いおもちゃも手に入れたし、皆とごっこ遊びでもするゴブ」

 

おもちゃ?皆?どういうことだ……?

それからゴブリンは外套の裏側をまさぐる、するとなんとそこからミツルギが失ったはずの魔剣グラムを取り出した。

まさかの事態だ、こんな所をミツルギが見たりしたら!……ああ、隣にいたんだったな。

 

「貴様!それは僕の物だ!!返せェ!!」

 

「----ッ! ゴブブ!」

 

「す、素早い!」

 

くそっ、やっぱりこうなったか……。

ミツルギはらしくない本気の怒りでアンデッドナイトの剣を振りかざし、ゴブリンに襲い掛かった。

すると驚いてすばしっこく逃げ惑うゴブリン、流石に小さいだけある。

だが決して恐怖におびえる様子はない、寧ろいやらしい笑顔を浮かべている。

 

「ふふっ、少し驚いたゴブ。だが何となくこの剣を出せば反応があるんじゃないかとは思ってたゴブ」

 

このゴブリン、意外と頭が働く……厄介なやつめ。

 

「前回はお前を捕まえようとした……が、この剣に邪魔されちゃったゴブ。しかーし、今はゴブの手元ゴブ……今度こそお前を捕まえてやるゴブよ!」

 

「確かに僕はグラムを奪われた……だが、たかがゴブリンにやられるほど落ちぶれてもいないつもりだ!お前を倒して捕まった人たちも、グラムも……すべて取り戻す!」

 

「フフフ……ゴブリンをナメてかかると、痛い目をみるゴブ!!」

 

なるほど、何でミツルギだけ無事だったのかが分からなかったが……グラムが守ってくれたのか、改めて魔剣の凄さを知る。

……さて、神隠しの元凶は分かったな、わざわざ自白してくれたのだから。

問題の捕まえる方法は……十中八九纏っているあの怪しい外套でなんだろうな。

あれの裏側からグラムを取り出したことから察するに、上手い事気配を消して不意討ちであの中に冒険者をしまうんだろう。

だが今回はミツルギとの正面対決、となれば一体どんな戦法を……?

 

「来るゴブ、我がしもべたち!!」

 

「!?……クレメア!フィオ!無事だったのか!」

 

ゴブリンが外套を振るうと、なんと沢山の冒険者たちが現れたではないか……その中にはミツルギの仲間の姿も。

しかし、何だろうか……様子がおかしい、目に光が宿っていないというか……。

 

「二人とも、僕だ!ミツルギだ!」

 

「「……」」

 

ミツルギが近づいても、全くと言っていいほど反応がない……うつろな瞳は虚空を映すだけだ。

そんな様を見て、ゴブリンは高らかに笑った。

 

「馬鹿め!かかったゴブ!皆、そいつを押さえつけるゴブ!!」

 

『はい』

 

「なっ、や、やめるんだ!クレメア!フィオ!他の皆さんも!!」

 

ゴブリンの命令によって押さえつけられてしまうミツルギ。

どうやらあの外套は、しまったものを支配できる力まであるようだ……ミツルギが抵抗しようにも相手は仲間や同業者、良心で全力での抵抗が出来ずに押さえつけられるのも頷ける。

哀れミツルギ、ゴブリンの前で地に伏せらされることになった……少しざまぁと思ったのは内緒だぜ?

 

「この剣だけはしまってもいう通りにならないのが残念ゴブが、まぁ良いゴブ。お前をしまってから使わせればいい話ゴブ!!」

 

「や、やめろ!!……そ、ソル!いるんだろう!?助けてくれ!!」

 

……なるほど、ずっと警戒して動く気にならなかったが、魔剣の力はゴブリンの物にはなっていないようだ。

そうと分かれば……話は簡単だな!

 

「……反応がないゴブよ?きっと逃げちゃったゴブ」

 

「か、彼は仲間を見捨てるような奴じゃない!!きっと、きっと何とかしてくれるさ!!」

 

「哀れな奴ゴブ、この状況で何が出来ると言うゴブ!お前はゴブのしもべになるゴブ!」

 

「ソルッ!ソルゥゥゥゥゥ!!」

 

純粋な信頼を寄せてくれるのはありがたいが……少々気恥ずかしいな。

まぁ、お助けしますかね!!

 

「スティーーールッ!!」

 

「ゴブ!?」

 

『……』

 

「な、何の光!?」

 

盗賊のスキルの一端、窃盗(スティール)の光だ……覚えとけよミツルギ、俺はこれを使った少女に魅せられたんだからな。

光が消えると、俺の手元にはゴブリンが纏っていた外套が存在していた。

 

「そ、そんな!ゴブの外套を!?」

 

「残念だったな、この瞬間を待ってたんだよ」

 

「ああ……ソル!……信じていたよ!」

 

「おう、さっきからソルソル言ってくれてたからな。嫌でも分かるぜ」

 

狼狽えるゴブリンをよそに、俺は外套を纏う。

すると今までミツルギを押さえていた冒険者たちは、一斉に力なく倒れていく。

外套の支配権が俺に移り、皆の支配が解けたんだろうなぁ。

 

「クレメア、フィオ……良かった、本当に良かった……」

 

「こ、こんなはずは……」

 

「さて、ゴブちゃん……覚悟は出来てんだろうな?あ?」

 

「ヒッ!ご、ゴブには魔剣があるゴブ!お、お前なんかに負けないゴブ!」

 

さっき自分で魔剣が言う事を聞かないと言ってたばかりなのに、俺が聞いてないとでも思ってんのか?

……まぁ、散々人様に迷惑をかけたんだ、覚悟が出来ていようがいまいが……やることは変わらないがな。

 

「雑魚がッ!寝てろォ!!」

 

「ゴッブウウウウウウウウウ!!?」

 

とりあえずその場にいた人数分くらいはぶん殴っといた……確か20人以上はいたっけなぁ、だが正確に数えてねぇから一発や二発増えても子細ねぇよな?

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

あの後、ゴブリンからグラムを取り返して、詳細を事情聴取した。

何でも外套は遺跡の中で拾ったものらしい、最初は綺麗だったからなんて軽い理由で纏っていたが、用途が分かってからは悪戯心が芽生えて色々悪さをしたようだ。

支配した冒険者たちには給仕や遊び相手など暇つぶしに付き合わせていただけなようで、それを聞いたミツルギは心から安堵していた。

それでゴブリンの処遇だが……外套にしまっておいた。

生かして帰すには罰が小さすぎるし、殺すには重すぎる。

だから、俺が支配して迷惑かけた連中のために労働するように命じたんだ……俺がやらなくて良いと言うか、外套の支配権が別に移るまではずっとこのまんまだ。

 

「本当に、君には世話になったよ」

 

「気にすんな。報酬はいただいたし、おまけに今回はなにかしら魔物を討伐することがなかったから、ルナさんにバレる心配はないしな」

 

今回の神隠しの一件を解決したのは、ミツルギだったという事にしといてやった。

確かに夢の為には名声が必要だが、まだまだ盗賊として実力不足でありながら、身の丈以上の名声は寧ろ毒だ。

それならミツルギの為に華を持たせてやった上で、その分報酬をたんまりもらった方が相互の利益になる。

 

「……なあ、ソル。出来れば僕と一緒に来てくれないか?僕は今回の事で、まだまだ未熟だと思い知った……君が僕を助けてくれたら、とても心強いんだが」

 

そう言って俺を勧誘し、手を差し出すミツルギ。

確かに一般冒険者からすれば、ミツルギの提案は魅力的かもしれんが……。

 

「悪いが、俺は盗賊兼行商人だ。一定の場所にとどまることは出来ないからな、お前とは一緒に行けねぇよ」

 

「……そうか、それは残念だ」

 

握られることがなかったその手を、ミツルギは自らの腰に当てた。

大丈夫、お前は今回の事で学んだことを少しでも活かせれば一人でもやっていけるさ……活かせなければそれまでだが。

 

「じゃあ、俺は行くぜ。また新たな客と商品の出会いが待ってる」

 

「ああ、気を付けて……あっ、君の恋路!応援してるよ!」

 

「ーーーー今度公の場でそれ言ったら潜伏からの外套だからな」

 

「き、気をつけるよ……」

 

ミツルギと別れ、アクセルから離れて行く俺。

一方で仲間たちに呼ばれ、アクセルに戻っていくミツルギ……まぁ、この世界を生きている限り、また会う機会もあるだろうな。

……外套は宝冠同様に俺がしっかり保管する。

宝冠に比べると扱い易いため、度々世話になるかもしれないな……。

そう思い、改めて外套の確認をする。

美しく神秘的な刺繍の見事な逸品、だが……。

 

宝冠の裏側にあった1と同じく、襟元に2の刺繍があった。




男オンリーな回でした♂

ミツルギさんは普通のラノベなら、きっと主人公みたいな存在だったでしょう……このすばではその限りではありませんが。

いよいよアニメが最終回ですが、このまま終わってしまうのはあまりにも寂しい!
円盤売れてるし、2期に期待して良いんですかね……期待したいなぁ。
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