これは別に飛ばしてもいいのかもしれない。あー、でも必要かも―――って感じ。
『色々おめでとー、緑谷君』
「………ありがとうございます」
相沢先生による個性把握テスト、それにより肉体より精神的に疲れてしまった。
まさか嘘だとは思ってもみなかった…。あんまり人を信じすぎるのもよくないのかもしれない、特に相沢先生は駄目かも。
そんな事を思いながらも耳朗さん達と帰宅したが、家に着くと同時に眠気に襲われてしまった。普通は急激に眠くなるなんて有り得ない、つまり安心院さん。そんな予測を立てると共に廊下でバタンキュー。
気付けば目の前には安心院さん。
僕が座っているのは学校机、安心院さんは僕の前………よく見たら中学の時の教室かも。別に懐かしいと思う程の思い出もないからどうでもいいけど。
それよりも―――
「久しぶりに出会った気がするのは気のせいですか?」
『そうだね。少なくとも読者にとっては久しぶりなのかもしれないね』
「そうですか……ツッコミませんよ?」
『ふふっ、別にいいよ』
安心院さんは笑って僕の頭を撫でてきた。褒められて悪い気はしないのだが、少し恥ずかしいんですけど。
『んー? 照れてるのかい、緑谷君』
「はい」
『おおぅ……正直だね。そんな正直な子にはご褒美だ』
そうして安心院さんは僕の唇を奪ってしまった。これで三回目になるのだが、未だに慣れない僕はきっとウブなのだろう。そもそもキスの途中でも冷静に思考している僕は僕で異常なのだろうか。
安心院さんに毒されてきてるよね、コレ……。
『んむぅ………』
「………………ん………」
安心院さんにキスされてるって事はスキル追加?
僕もういらないんですけど…………多くてもあれだし。
『……………ぷはぁ…』
安心院さんはとても満足そうな顔をしていた。そんなにスキルをあげたいんですか、嬉しいけど、嬉しいけどなんか………。
『スキルは渡してないよ』
「えっ………じゃあキスは?」
『さっき言っただろ? ご褒美だって』
安心院さんは純粋にご褒美としてキスしてくれたのか……だったら尚更ダメな気がします。年頃の男子にキスなんて刺激が強すぎるんですよ。
『ま、いいじゃないか……そんな些細な事は』
「些細な事………?」
『―――じゃあ、本題に入ろうか』
些細なのかどうかに疑問を覚えたが、安心院さんの言っている事にいちいち考える事も面倒なので、本題とやらに耳を傾ける。
『自分自身の強さ、理解できてるかい?』
「………………あのクラスだと、二番、一番くらいだと」
『正解、だけど駄目』
「?」
『あのクラスだったら君は一番、けれども圧倒的に経験値が足りないかな』
「そりゃあ、今まで安心院さんしか相手してないですし」
『そう、だから今から経験値稼ぎだ。経験すればするほど、使えば使うほどスキルは洗練されていく。もしかしたら有り得ない進化を遂げるかもしれないぜ』
そう告げている安心院さんの顔はいつにも増して嬉しさが滲み出ていた。
なにが嬉しいのかは知らないが。
『君には今後来る脅威の為に強くなってもらうよ』
「脅威?」
『ま、詳しい事は自分で考えてね』
「……………わかりました。でも、経験ってどうするんですか? 安心院さんと千本勝負ですか? 一秒で千回負けそうですね」
『あっはっは、一秒もいらないよ………ってまだ何も言ってないだろ?』
一秒もいらないのか……ヤベェ。改めて安心院さんのチートっぷりが僕を絶望させる。
僕はそんな人に毎日毎日負ける勝負を挑んでいたのか………僕も僕で結構、頑張ってたんだ。
『大丈夫さ。死んでもすぐに生き返るから』
「えっ、死ぬの?」
そう言う安心院さんの腕には巨大なハンマーが―――
「ちょっと待っ―――」
『アドバイス、とにかく勝て』
安心院さんはハンマーを降り下ろしッ―――
―――それが地獄の始まりだ。