僕のスキルと安心院さん   作:レインコート

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ヤバいかもしれない。


安心院さんの特訓 破

 

『安心院さんの特訓、はーじめるよー』

 

 気付けば謎の空間、ただ広い。それ以外の感想が出ないほどに広い。そこには僕と安心院さんの二人きり。

 ある意味いつもの光景ではないのか―――景色が違うだけマシか……。

 

『緑谷君、もし特訓を合格すれば願いを一つだけ叶えてあげるよ。あのドラゴ○ボールなんて目じゃないレベルでね』

 

「頑張らせていただきます」

 

 願いを一つ―――これは合格するしかない。

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

『一分間、僕の攻撃から逃げてもらうよ』

 

「」

 

『それじゃ―――スタート』

 

 そこで僕の意識は途切れてしまった。いや……見えない時点で耐えるも何もないですよ。

 そんな不満も言えないまま命が消え去った。

 

 その後、すぐに生き返った。

 

『さあ、二回目―――スタート』

 

 周りに電磁波を飛ばして―――

 

『レーダーみたいに使う……それでも反応出来なきゃ意味がないよ、緑谷君』

 

 後ろを振り向く…事も出来ずに、意識は既に三回目へと突入していた。

 まだ二回しか死んでいないが、勝てるビジョン―――というより耐えきれる気がしないんだけど……。かといって逃げる訳にもいかない、こんな理不尽な事があっていいのか。

 

『緑谷君、ガンガン行くぜ?』

 

「………やけくそだ、とことんやってやりますよ」

 

『それでこそ、緑谷君だ』

 

 

 

 

―――この後、滅茶苦茶ぶっ殺(ry

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「…………何回目、ですか」

 

『これで3989回目かな』

 

「………………」

 

 緑谷は安心院さんの答えによって、さらに絶望的な気分になる。ここまで憂鬱な気持ちになるのは久し振りかもしれない。

 個性が無い、そう医者に宣告された時みたいな感覚に陥りそうだ。

 

 それもその筈、これだけ何回も死んでおいて逆におかしくならない方が変なのだ。常人では狂ってしまう程の地獄だが、緑谷にとっては憂鬱で済んでしまう。長いこと安心院さんと絡んでる内に、思考や精神力が常人離れしてしまったようだ。

 

 そんな中身のみ人外に片足を突っ込んでいる緑谷に、とても満足な表情の安心院さん。

 中身はともかく、見た目は美少女―――嬉しそうにするのを見れるのはラッキーだと思う事にする。

 

 

 まあ、だからと言って―――

 

『そんなに絶望的な顔するなよ、一万回程死んでみたら楽しくなれるかもしれないぜ?』

 

「それは…狂ってるだけです」

 

『今からそうなるかもしれないね。まあ、心配する事ないけどね。なんたって僕が居るんだ、狂っても直してあげるよ』

 

 

 

―――この特訓(地獄)から逃げれる訳ではない。

 

 

 

 

「これっていつ終わるんですか?」

 

『君がやれるまで』

 

 

 終わるまでに数年掛かる気がする。その考えが現実でないことを祈るばかりだ。

 

 

・・・

 

 

 

『えい』

 

「―――」

 

 これで何回目だろうか。思考は数えるのを放棄している。憶測ではあるが、きっと5000回は突破しているはずだ。

 体を吹き飛ばされ、首を切り落とされ、心臓だけ輪ゴムで撃ち抜かれ―――ありとあらゆる方法で命を刈り取られてしまった。

 

 安心院さんの攻撃を予測しようとも、パターンを分析しようとも、そんな事さえも無駄となってしまった―――圧倒的で暴力的な強さ。

 

 人外の名を冠するにはあまりにも―――大き過ぎる。

 

 

 

『ほら』

 

「ガッ―――!?」

 

 気付けば僕は吹き飛ばされていた。

 死んでいないのは喜ばしい事なのか、はたまた安心院さんによる慈悲の皮を被った嫌がらせなのか。

 

「…っ…………」

 

 体が重い―――衝撃で脳が揺れているせいか、体が言うことを聞いてくれない。視界は不明瞭。辛うじて見えるのは誰か―――安心院さんの歩く姿。

 足音と共に一歩ずつ近づいてくる……それだけがハッキリと理解できた。

 

『僕はね、こんな事したくてしてる訳じゃないんだよ。わかるかい? 子供を谷底に落とすのと一緒なんだよ、君のような愛しい愛しい子供を谷底に落とすのではなくフルボッコにしているのはね、心が痛んで仕方がないよ』

 

「ご冗談を………」

 

 安心院さんは本心なのか冗談なのかは知らないが、心の籠ってなさそうな長々しい文を冗談と切り捨てる。悪魔の所業とも取れる行為だが、この人にするのは全く心が痛まない。

 日々の行いがキスばっかりだからだ。少しは反省してもらいたいモノだ。

 

 ともかく状態は最悪。

 今だって悪態を吐いてはいるが、立っているのが奇跡ともいえる状態だ。

 

 正直な話、今にでも倒れてしまいたいのだが、安心院さんがそれを許してくれる可能性は著しく低い。

だったら一回死んだ方が楽、そんな訳でもない。やっぱり人間なのだ。痛みからは逃れられない。

 どうやっても痛い時は痛いし、出来ることなら自害なんて経験したくないさ。

 

 緑谷はそう考え―――安心院さんは問い掛ける。

 

『さて、緑谷君。ここからどうする?』

 

 

―――そんなの決まってる。

 

 

「まだ………やります、よ」

 

『さっすが主人公、諦めない心はあるんだね』

 

 足はまだ動く。動こうとする度に肉体が悲鳴を挙げる。

 止めろ、動くな―――脳が危険信号を出した。

スキルで体を動かす。頭を騙して、脳を黙らせる。アドレナリンにより、痛みは消えた。

 腕は多少、動く事に支障があったが―――動けば充分。

 

『まあ、今までと同じなら瞬殺だったけど』

 

 逃げる。避ける。それじゃ駄目なのかもしれない。

 恐怖心はある。足は震える。

 それでも前に、進まなくてはならない。

 

 体は既に満身創痍、こんなのする方がイカれてる。

 けれども心が、人間としての本能が告げる。

 

戦え―――本能の赴くがまま。

 

闘え―――自らの肉体が散ろうとも。

 

 

『へえ………』

 

 覚悟を決める。そして、これで最後だ。

 

「―――安心院さん、僕の願い……聞いてくれますか」

 

『……聞かせてくれるかい?』

 

「これが終わったら、なじみって呼んでも良いですか?」

 

『―――ああ………良いぜ♪』

 

「………じゃあ、行きます」

 

 全身の力を抜く。

 神経を尖らせ、集中、目を閉じる。避けて一発当てる、それでいい。それだけでいい。

 

 神経を張り詰める。

 

 今から使うのは諸刃の剣、安心院さんから聞かされ、使って後悔したモノだ。

 だから僕なりに進化させたモノです。使いこなせるかはわからない。

 それでも、やれるだけやってみます。

 

 

「……………………」

 

『………………』

 

 

 

 そして僕は―――俺はスイッチを入れ換える。

 

 

 

 

 

 

 

    「見せてやるよ―――伝神モード」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




酷いけど、許してとは言わない。緩めに。


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