緑谷君は、感情が表に出ないタイプ。興奮するときはちゃんとする。
「出久! ティッシュ持った!?」
「うん」
「ハンカチも!? ハンカチは!? ケチーフ!」
「持ってる」
いくらなんでもお節介過ぎるんじゃないか? と言う事を思っても言わない。
言ってしまった所でお節介は治らないだろうし、だったらいっその事言わない方が良いかな?
「持ったから………大丈夫だよ」
だが、ここまで母がお節介になるのにも理由が存在する。自分の息子が雄英なんて凄い所に合格したんだ、ここまでされても可笑しくはないだろう。
流石にここまでされると、こちらが恥ずかしくなってくる。
一応、これでも高校生なのに………。
だが、やはり喜ばれる、というのが嬉しくない訳がない。夢だと疑っても可笑しくはない話だ。
何故なら”無個性“の少年が合格してしまったんだから。
実際にはスキルを持ってるんだけどさ……。
「出久!」
「………どうしたの?」
まだ何かあるのか?
そう思ってしまった僕は悪くないはずだ。持てる物は全て持った……はず。不安になって鞄の中を探ってしまった。
でも、忘れ物は無かった…………けど、
「すっごく………カッコいいよ」
「……うん………行って来ます!」
よし、覚悟決めますか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やるせない気持ちになりながらも、雄英に到着する。
しかし、到着したまでは良かったのに道に迷ってしまった………雄英広すぎなんだよなぁ………。
雄英の広さに戸惑ってしまったが、遅れる訳にもいかないので教室を探す。
「……………広い………」
しかし、一向に見つかる気配がない。
一般入試の定員36名で1クラス18人、さらに2クラスという少なさ。なのに見つからないなんて可笑しくはないだろうか………やっぱり広すぎるんだよ。
「ねえ!」
そうやって雄英の広さに愚痴を垂れていると、後ろから誰かに呼び掛けられた。
呼び掛けられるような知り合いなんていない筈だけど…。
少し疑問に思いながらも、誰かと思い振り返る。
「……………あ、試験の時の」
直接的な関わりはあまりないが、一応見知った顔ではあった。
試験の時や、試験後にも少しばかりお世話になったから………、これはちょうど良いかもね。
とても感謝しているので、お礼を言いたかった所だ。
「やっぱり……試験の時、助けてくれた人だよね?」
「………あ、うん。一応」
不明瞭な返事。
安心院さんの女性と話さないから、少しテンパってしまった。女子に対する耐性が出来上がってないんだよ。試験の時は脳内アドレナリンがドバドバだったんだ………だから抱き寄せたり、お姫様抱っこが普通に出来たんだよ。
いつもなら絶対無理だろうね。
「そっか………えっとさ…………助けてくれて、その、ありがとね」
「いや、そんな……自分がやりたい事やっただけで」
「でもさ……助けてくれたのには変わりないし」
「………お礼を言うのはこっちだよ」
「?」
どうやら救助活動Pの事は聞いていないらしい。なので簡潔に話す。
「そうだったんだ…………てか、P分けに来たの知ってたんだ?」
「あー、まあ……うん」
素直に答えたら顔を伏せてしまった。
これは照れているのか……きっと照れているんだ。決して僕の顔を見て笑った訳ではない……はずだ。
って、そうだ……この人に聞きたい事あったんだ。
「…そういえば……名前、まだ聞いてない」
「……………って、え、あ、名前?」
「……うん」
ずっと女子とか呼び続けるのも面倒なので、今の内に名前を聞いておく。
あ、でも合格通知来たときに名前言ってたかも………………忘れた。
「ウチの名前は、耳朗、耳朗響香」
「緑谷出久。よろしく」
耳朗響香…………大丈夫。もう覚えた。呼び方は普通にしようかな。
「それじゃあ改めて、よろしく。耳朗さん」
「耳朗? 別に響香でも……良いけど」
「いや、耳朗さんって呼ぶ」
「………わかった。よろしくね、緑谷」
「んー」
お互いの名前を知り合った所だが、ここである事に気づいた。
「…………って、遅刻するかも……」
話している内に時間はギリギリになっていた。不味いなぁ………遅刻したら色々と……………。
初日から遅刻する生徒とか、問題児の烙印押されて退学まっしぐらじゃないか。
「えっ………本当だ……」
「…教室って……何処?」
道がわからない……いや、マジで。
「もう少し先」
「ふぁっ」
足下から聞き覚えのない声が聴こえて、少し驚いてしまった。いや不意打ちだったからビビっただけで、覚悟してたら絶対ビビってなかったね。うん。
「はいよろしく。担任の相澤消太だ。遅刻は厳禁、さっさと行け」
えぇ……これが教師?
明らかに社会不適合感が滲み出ているではありませんか……。
「なんか言ったか?」
そんな目で睨み付けないでください。怖いです。
「いーえ、何もないです。耳朗さん、行こう」
「えっ、あ…わかった」