扇矢萩子の捜査録~艦これRPGリプレイ~ 作:長谷川光
満洲とソ連の国境線となっている黒龍江(ロシア語名称ではアムール川)では領土紛争が絶えない。
その領土紛争の渦中となっている一つ、済北島周辺において満洲国川は川の中央が境界線だと主張し、ソ連は全流域がソ連領土だと主張。グレーゾーンと化して現在にまで至っていた。
十月六日、アムール川軍団はこの済北島を突如として軍事占拠・陣地の構築を始めたのだった。
翌日、日本は駐ソ大使を通してクレムリンに正式抗議をするもソ連はこれを拒絶。対ソ戦の前哨戦と位置づけた関東軍はハルビンに駐留させていた部隊を急派した。
十月九日、この日の未明に大規模戦闘が勃発。関東軍は機械化部隊により甚大なる被害を被る。
紛争開始以来、北洋水師は後方支援として関東軍の兵站の安全確保に当たっていた。とは言え、艦娘が矢面に立つ事はなく、あくまでも警備の一角を担うばかりだったはずであった。
一本の急報がもたらされるまでは
それは、深海棲艦砲艦部隊が結氷時期間近による水深低下を物ともせずに済北島を砲撃、包囲を開始したという報せ。
北洋水師所属の艦娘四人と、その教官役の響は前線に駆り出されることになる。
十月十日夕方、済北島西方の満洲国軍陣営
海威:『…関東軍増派部隊は壊滅。あまりに大きな被害の為に撤退することが決まりました。』
響@:「…………」
海威:『現在私たち北洋水師の艦娘、そして対岸監視用の偵察部隊が満州の全防衛力となります』
順天:『…旗艦。済北島周辺の深海棲艦の戦力詳細が届きました。』
海威:『読み上げてください、順天』
順天:『はい、まず島西側の五隻はタイプβ、喫水の浅い所まで侵入してくる軽装のウザい奴です。』
順天:『北側はタイプαが二隻、標準的な装甲と火器を持った半端な奴です。そして東側にタイプγ二隻、重火力武装をした一番腹立たしい畜生ども。以上となります』
響@:『……九隻か。多いな』
海威:『南側には流石のタイプβでも侵入できなかったのですね…奴らは南側(滿洲側)へは攻撃をしていないのですね?』
順天:『…はい、してません』
海威:『なら…待機で十分でしょう。下手に手を出して痛い目には逢いたくないですから。我が北洋水師は、弱体化した方にお帰り頂く方針でいきます。異論は?』
響@:『私からは特にない』
海王:『アタシもないな』
順天:『…異論有りません』
海威:『ありがとう…養民は?』
養民:『…え!?えっとい、異論、有りません』
海威:『なら、警戒を怠らないまま対岸監視を続けます。各自、持ち場に戻ってください』
海王:『了解です』
養民:『……』
響@:『了解……』
順天:『ほら、養民…しっかりなさい』
養民:『う、うん… 失礼、しました』
GM:待機命令に次ぐ待機命令、その間にも済北島への深海棲艦からの砲火は絶えることはなかった。
応戦する砲数が時間と伴に弱まっていくのが見て取れる。最早済北島は生地獄と化していた。
関東軍は沿岸地域からの全部隊の撤退を決定、残されたのは五人の艦娘とそれを支える北洋水師の軍人ばかり。
響@:「…………」
海威:『響ちゃん、ちょっといいですか?』
響@:『ん……何だい』
海威:『…ソ連軍、もってあと五日程度みたいです。元から短期決戦を意図していたみたいで、兵站を重視していなかったのが効いているようです』
響@:『そうか。……確かに。あの様子じゃ、確かに防戦は想定の範囲外だろうな』
海威:『深海棲艦側の被害ですが、退路確保の為に北側に集中攻撃を行った成果でα型二隻が撃破されました。更に西側のタイプβ一隻が轟沈された模様です。西側、つまり私たちへの圧を諦めたのか北側に二隻のタイプβが移動。あくまでも包囲を解く気は無いようです』
響@:『……私たちが深海棲艦に殴りかかる目が見えてきたな』
海威:『…まだ、ですけれどね』
響@:『待つしかないか』
海威:『うん、私は大切な部下を失う訳にはいかないから。…っと、そうそう。養民のことなんだけれど』
響@:『あぁ。彼女は大丈夫かい?』
海威:『順天が見てくれているんだけれど、ちょっと気になって。響ちゃん、もし時間があれば様子を見てきてあげてください。私は今からハルビンの司令本部に経過報告に行かないといけないから』
響@:『……分かった』
海威:『お願いしたよ、響ちゃん』
響@:頷きだけ返して、なるべく早いとこ時間を作って養民のところへ行こう
順天:『ほら…泣かないで、ね?』(汗々
養民:『うぐ……ぅぅ…あぅ…』(ぐすん
響@:『養民……』
順天:『ね、ね?だから…あなたが気にかける必要はないの』
養民:『でも…でも……』
順天:『お義母さんだって…私たちを怒らない、怒らないから…』
養民:『えぐっ……えぐっ』
響@:おろおろ……
順天:『…あ、そうだ…養民、ちょっと』(立ち上がろうとして、響を発見してしまう
響@:「あ……」ここに着任以来、初めて見るくらいのバツの悪い表情してるかも
順天:『あ……こほん、教官。何か…その、ご用でしょうか』(目泳ぎ
響@:『いや、その……養民につらい思いをさせているだろうなと、思って、様子を……』(目泳ぎ)
養民:『あぅ…あぁ、ご、ご心配、おかけ、して…その』
響@:『いや、それは……その。こちらこそ、つらい作戦ですまない……こほん。えっと』
順天:『…ごほん、はい、なんでしょう』養民を庇うように響に向かう
響@:『……このままだと、5日と保たずソ連側の隊は壊滅する』
養民:『!?』
響@:『私たちは、最後までそれを黙って見ていることは決してしないが……今すぐ助けに入ることもできない』
順天:『…ですね、分かっています』
響@:『……私たちは、今しばし、彼らを見殺しにし続ける』
養民:『あの…あのっ!』
響@:『なんだい』響もちょっと弱々しい声
養民:『…その、助けられないんですか…私たちは、このまま…』
順天:『教官、私から養民言って聞かせますから…下がって頂いて結構です。養民!』
響@:『いや、順天……いい。言わせてくれ……』
順天:『…差し出がましいことをしました。』
養民:『そ、その…教官。わたし、半分はロシア人なんです!』
響@:「……なんだって?」
養民:『だから、その…あの、ですから!』(パニック)
養民:『…私の、お母さんは…お姉ちゃんのお母さんと違う人で、えっと』
響@:『……わ、分かった。養民。それ以上は言わなくてもいい』
養民:『あの…だから、私…私…』
順天:『…御見苦しいところを…ごめんなさい』(養民を撫でながら
響@:『……養民。きみがどんなに優しかろうと、きみの中に流れる血が泣こうとも……私は伝えなければならないし、きみは聞かなければならない。私たちは戦争をしている。撃った以上、彼らは私たちの敵であって、どちらかが負けるまでは……私たちも、“敵”なんだ。今、彼らに手を差し伸べることはできない』
養民:『…ひぐっ…あぐ』
順天:『実は教官… 所詮は敵の謀略か、苦し紛れの一手だと思うのですが…養民の叔父を名乗る人物から密書が来ました』
響@:『それは、私が見ても大丈夫か?』
順天:『はい、こちらです』
**:『私はアムール川軍団の副司令官、ミハイル・ラージン。君のお母さんの兄にあたるものだ』(英語)
ラージン:『これは、軍団の降伏を打診する物である。上官に届けられたし』
ラージン:『追記、母に忠恕を尽くすこと』
順天:『…お義母さん、死んでるのに…酷い叔父ですよ』
響@:『……ラージンという将軍は、実在するのか?』
順天:『お義母さんからは、ソ連極東方面軍で軍人をやっている親戚が居るとは聞いていましたが…何も』
響@:『そうか……もう白旗を躊躇している猶予はないだろうに。Чёрт……』
順天:『…軍司令プガチョーフ、奴は自分の更迭の巻き添えに守備軍団を滅ぼすつもりみたいですね。どいつもこいつも…自分勝手。ここは…私たちの』(口を押える)
響@:『…………っ』
響@:『今、海威が司令本部へ状況報告に行っている。この密書は、私から一筆添えて、本部に速達しよう』
養民:『…ぐすっ、ありがとうございます…教官』
響@:『……力がなくてすまない。私には、文字通りこれを上官に届けるだけで精一杯だ』
順天:『いえ…それだけで、十分です。それだけで…』
GM:響の手によって、本部に届けられた密書。 これを巡って司令部内は大波乱が起こった。しかし、一人の少将の鶴の一声によって鎮圧される。
**:「彼には長生きしてほしいものだな」
海威:「……長生き、ですか」
GM:初戦の敗戦の責任を激しく追及され、権力的な真空状態をついたその男の手により、事態は動く。
海威:『ただいま戻りました…大変な事態になってしまいましたよ。』
響@:『……一蹴して終わり、ではなかったのか?』
海威:『えぇ、捕らえた鴨の羽根は詰め物につかい、肉は喰らい、骨は肥料にする程度に利用するつもりです。』
響@:『どうあれ使い道が多そうな品だからな……。現場とすれば、ひとまず目の前の惨状に介入できるならそれでいい』
海威:『危険を冒す必要はないとのお墨付きは貰っていますので、深入りはしません。現在、深海棲艦の残存は東側のタイプγ二隻と西側及び北側のタイプβの四隻です。西側及び北側の包囲を破ること、それが私たちの任務として課されています』
響@:『無理のない範囲でアムール川軍団の撤収を支援、と』
海威:『はい。私たちの動きと同時に特務機関も動くようですが…とにかく、損害の出ないように支援を行います』
海威:『かって、清朝の北洋水師は日本軍のヒットアンドアウェイに破れましたが…これの練習を兼ねようと思います』
響@:『Понятно。……こちらは準備できてる』
海威:『ありがとう、響教官。あくまでも、落ち着いて、冷静に対処しましょう。さぁ行きますよ… 北洋水師、出撃です』
響@:「アイアイ、サー」
GM:済北島西方、ピケットを張っているタイプβ その遥か向こうに二隻の同型の深海棲艦が響の電探に反応する
海威:『キューマル式一号水偵、東方のγ二隻に接触。誘導を開始…今です。突撃します』
順天:『…撃ち方、始めます。養民、私から離れたら承知しませんからね!』
響@:『響、砲雷撃戦を開始する、タイプβに突貫……。2隻までは私が引き付ける……水上での敵艦の誘導は任せろ』
養民:『私、も、私も!』
海王:『引き付けてもらわないでも…アタシらもやりますからね、教官?』
順天:『北方の二隻もこっちに気が付きました…備えます』
響@:『ふ、そうか……。そうだな。訓練の成果を見せてもらうとしよう。海威がタイプγを引き付けている内が勝負だ。行くぞ!』
養民:『はい!』
GM:順調に、一隻一隻を戦闘不能に追い込んでいく北洋水師。当初の予定通り、西方・北方のタイプβを損害なしで撃破する
順天:『このまま帰還でいいのですか、旗艦?』
海威:『……うっ、時間を掛けすぎたか?』
GM:東側で水偵の挑発を受けこれを追いかけていたタイプγ二隻、はたと我に返ったのか済北島に向きをかえ…
響@:「Чёрт! 大人しく退かせてはもらえないか……!」
海威:『順天、養民、海王…引きなさい!ここは、私と響の二人で対処する!』
GM:一隻が北洋水師に突撃、もう一隻は済北島に艦砲射撃を開始する…
順天:『は…はい!』
海王:『くっ…了解です』
養民:『あ…あぁ、あぁあああ!?』
海威:『ちょ…養民、引きなさい、引きなさい!』
養民:『や、やだ…やだぁ、死んじゃう…殺さないでええ!』
GM:水柱が黒龍江にいくつも立ち上る
響@:『……行くしかない! 海威、私が養民と共に向こうをやる!』
海威:『くっ…頼みました。直ぐに加勢しますから!』
海王:『ならアタシ達も…!』
順天:『足手まといは、養民一人だけで十分よ!!私たちは撤退、撤退です、戦場から離れます!』(海王の腕掴んで退却
養民:『やだ、やだよ… しなないで、しなせないで!』(乱射
響@:『養民、落ち着くんだ。私が彼らとの斜線に入ってタイプγを牽制する。きみは横合いから敵艦を撃ってくれ』
養民:『え…あっ教官…ご、ごめんなさい。ありがとうございます』
響@:『私が防戦を演じれば、敵の砲はきみに向くだろうが……今度は、大丈夫だろう?』
養民:『や…やります、やってみせます!』
響@:『よし。決して足を止めるなよ……砲撃戦開始!』
養民:『はい…はい!』
海威:『…悲しい歯車さん、貴女のロールはここでおしまいです!容赦など、ありません』
養民:『撃てええええ!』
響@:「Урааа!!」
GM:海威がタイプγ相手に圧倒的レベル差を見せつける一方、響に援護されながら養民が奮闘する
結果、海威小破 養民中破 /敵砲艦全滅 という戦果を成し遂げる。
養民:『はぁ…はぁ、やった、やれたんだ…私、勝った。勝った!』
海威:『あぁ…もう、腕が鈍ってます…先生が居たら叱られますよ…』
響@:「何とか、なったか……」
海威:『はぁ…えぇ、まさか…全艦を倒すことになるとは…』
響@:『ははは、損害は最小限と言われていたのに……怒られるかな』
海威:『えぇ…まぁ、なんとかします』
養民:『……恐かった』 (ぺたん
響@:『急ぎ撤退しよう。済北島は……関東軍に任せていいのか?』
海威:『…はい、彼らが都合よく処理する手はずになっています。養民、行きますよ』
養民:『は、はい…』
*********
10月14日 関東軍とソ連軍の間で今回の領土紛争での停戦協定が結ばれた
アムール川軍団の司令官、プガチョーフは即刻更迭。戦犯としてシベリア送りとなるらしい。
同軍団は済北島周辺での、満州側の国境線の要求を呑むことになった。
副司令官のラージンは司令官に昇格するも、軍団再編成のため一時ハバロフスクに撤退することになった。
北洋水師に細やかな平穏の日々が戻ってきたころ、養民の元に一通の手紙来た。
養民:『あの、教官。叔父から手紙が来たんですが…その』
響@:『個人的な手紙なら、私に見せる必要はないけれど……』と言いつつも見せてくれるなら覗き込む
ラージン:『姪が厄介になっているようだ。今回の件を含めて感謝する、君は…姪の言葉でもあるけれど本当に』
ラージン:『信頼【Верный】できる人物だ。次は戦場だろう、その時は敬意をもって君を倒す。アムール川軍団司令ミカエル・ラージン少将』
響@「Верный……」
養民:『あの、倒すとかって書いてありますが…けっして教官の事を…』(わたわた
響@:『あぁ、大丈夫だよ。言わんとすることは何となく分かる……』
養民:『そ、そうなんですか?』
響@:『何となく、だけどね。会ったこともない人に、“信頼”だなんて、不思議な気分だ……』
養民:「???」
響@:「いや、もしかしたら、いつか会ったことがあるのかもしれないな」
養民:『会った、met? 教官?』
響@:『なんでもないよ。……ところで、養民』
養民:『は、はい教官』
響@:『その、密書の件の前の、きみが泣いてたときのことだけど…』
響@:『……ひどいことを言って、ごめんね』
養民:『い、いえ…私も、分かってたのに…わがまま言ってごめんなさい、教官』
響@:『本当はね、養民の方が正しいんだよ』
養民:『えっ…』
響@:『目の前に傷付いて倒れそうな人がいて、養民は、それを助けたいと思っていたんじゃないか』
響@:『何も間違ってなんかないだろう? ……すまない。今のは忘れてくれ』
養民:『う、うん…』
響@:『駄目だ。喋っていて自分でもよく分からなくなってきた……』
響@:「信頼……Верныйか……」
養民:『私は、お姉ちゃんは…お父さんがこの国に託した…私たちの大地を守ってるつもりです。』
響@:『……うん』
養民:『だけど判らなかった…、ソ連軍が攻めてきて、お父さんの大地が…取られるのに、私は……我儘を言いました』
響@:「…………」
養民:『その…あの、言葉にできないのですが、私は……私は、教官を信じようと思いました…』
養民:『お姉ちゃんや、旗艦さんより……あの時、あの観艦式の失敗を…許してくれたから。』
響@:『それは、その。光栄だけど……えっと』
響@:『私も、誰かに何かを指導するなんてことは初めてで……』
響@:『正直、もっと叱ったほうが良かったんじゃないかと悩むこともあったし、その逆もあったり……』
養民:『もっと、叱る…』(びくっ)
響@:『あぁ、その、待って……海威はベテランだし、海王も、順天も養民も、私が言うと偉そうに聞こえるかもしれないけれど……皆、すごくよくやってるよ』
響@:『ただ、取り返しのつかない失敗というものは、あるからね。私は、私にも皆にも、それをさせまいと必死なんだ』
養民:『……』
響@:『ひとに何かを指図するのは、正直、性に合わないけれど……。それでも、皆が信頼してくれるなら、私は応えるよ』
響@:『いつもありがとう、養民。私の言うことを聞いてくれて』
養民:『ううん、教官… 話してくれて、嬉しいです。私は…教官を信頼します。教官を…』(もじもじ)
響@:『そ、そんなに言われると照れるよ……』
養民:『…ち、違うんです。その、教官を…』
順天:『養民!そろそろ警備のローテが始まる頃よ、準備なさい!』 (遠くから
養民:『はぅっ!?』
響@:『……仕事に戻るとするか』
養民:『はっ、はい!戻ります!!』
北洋水師とアムール川軍団、深海棲艦の三つ巴の戦いは終わった。
結果として、痛み分けに終わっただけの出来事に見えるかもしれない。
北洋水師が得た痛み、それは何時か彼女たちの強さと成るだろう。そしてその強さが、いつ来るのかわからない平和への道を切り開く力となることを
ただ祈るばかりである
GM:Fin