ハッ!これはスリーパーの催眠j(ry
―――キキョウシティ。
観光名所でもあるマダツボミの塔を有する、どこか懐かしい古風な景観を現代に残した町。
街中にある寺子屋を彷彿とさせる外装の”ポケモン塾”では、トレーナーを目指すチビッ子や新米トレーナーにバトルの基礎を教えている。
またポケモンジムの一つが構える地でもある為、力試しにトレーナーが良く来訪する事でも知られる。
今日そんな街に二人、新たにトレーナーが足を踏み入れた。
「ここがキキョウシティ…!やっぱりワカバタウンよりずっと広いなー!それに前のヨシノシティよりも広い!なあ、ヒノアラシ」
一人は見慣れない光景にキョロキョロと辺りを見渡し目を輝かせる、ヒノアラシを連れた少年”ヒビキ”。
ワカバタウン出身、ポケモントレーナーになったのも自分のパートナーポケモンを手に入れたのも数日前と言うピカピカの新米トレーナーである。
「ちょっとヒビキ君はしゃぎ過ぎ…って、初めてなら仕方ないか。私はおじいちゃんとおばあちゃんに会いに行くのに何度か通ってるから、この町の事教えてあげる!」
もう一人はヒビキの幼馴染である少女”コトネ”。パートナーポケモンは昔から仲の良かったマリル。トレーナー歴こそヒビキより長いが、まだまだ経験が浅く彼女もまた新米トレーナーと言っても差し支えはないだろう。
「教えてくれるのは嬉しいけど。コトネ、君さっき『今度は抜かされないぞー』って先に行かなかったっけ?」
「いいじゃない、隣にいるから抜かされてないもん。それとも私といるのは嫌?」
「いや、そりゃ今更嫌って訳じゃないけどさ」
「じゃあはい、この話おしまい!それよりポケモンセンター行こ!部屋予約しとかないと後で困るよ!」
「流石にそれ位は分かってるって………教えて貰ったしね」
そんな二人を見守る街の住人たちの視線は非常に生暖かかったりする。内心『何アレ、カップル目前のテンプレ男女ペア?』ってな具合である。本人達がそれに気付いてないのはお約束なのでご愛敬。
さて、時間は少し飛ぶ。
まずポケモンセンターの宿泊予約を取り、次にポケモン塾で踊り狂うジョバンニ先生に話を聞き、さらにその後でジムに行くと『せめてマダツボミの塔の修行を耐えて来い』と追い出された。
『今日は疲れてるし修行もジムも明日万全な状態で臨もう』と二人の意見が一致したために本日は観光第一となり。
色々回った二人は現在、コトネ絶賛の団子屋で休憩していた。
コトネはマリルとじゃれ合い、ヒビキは頭にヒノアラシを乗せたまま熱心にパラパラと薄い冊子状の紙を捲る。
十分以上もそうしていると、流石に気になったのかコトネはヒビキに問いかけた。
「ねえ、さっきからそれ、何読んでるの?」
冊子状に纏められた紙には箇条書きでびっしりと文字が並んでいる。どれも手書きで、ところどころ修正した跡が見られるのが微笑ましい。
”あれだけ旅する事に夢中になってたヒビキが持ち歩き熱心に読みふけるという事は、それだけ大切なモノで何か凄い事が書いてあるのだろうか”という、彼の事を良く知る幼馴染としては当然の疑問だった。
「ああこれ?ワカバタウンから出る前の日にトレーナーの人に貰ったんだよ」
旅する時の注意事項だって、と続けヒビキは笑いながらコトネにそれを手渡した。
コトネがざっと読むに、そこに書かれていたのは大まかに分類するなら『本当に基礎的な事』『本当に役に立つ細かい事』『本当に要るのコレ?と疑問を持たざるを得ない物』『明らかに要らないだろコレ、と確信を持ててしまうナニカ』の四つだった。
「へえー、って事は噂のあの人?”サトシ”さんだっけ。いち早く火事に気付いてカメックスの入ったボールをヒビキ君の家の窓からウツギ博士の研究所まで投げたっていう。鎮火した後すぐにピカチュウがカメックスをボールに戻してそのまま持って帰ってった、ってお父さんに電話で聞いたよ。すごいよね!
……アハハ何これ、『トレーナーなら自分のポケモン以上に強くなる様鍛えるべき』だって!サトシさんってポケモンより強いのかな?」
「まあ結果的にポケモンは盗られちゃったんだけどな。流石にポケモンより強いってのはないと思うけど、それくらいの気持ちでいろってことだろ。面白いのは他にも色々書いてるよ」
旅に役立つ事より面白い事を優先してしまうのは子供の性か、本来なら『ありえない』事が他に書いてないか探す。『カビゴンの食費から考える節約法』『森でスピアーの大軍に囲まれた時の
「……ねえ、その人どんな人なの?ちょっと頭がおかしかったりしない?」
面白い、面白いのだがこれを全部大真面目で書いてるとしたらそれはそれで問題だ。本気で出来ると思ってるのだろうか、もしかして出来ちゃったりするのだろうか。というかよしんばそれが出来たとして、他人も出来ると本気で思っているのだろうか。少し、いや大分不安になる。
…もし本気で”全部出来るし死ぬ気でやれば誰でも出来るよ”と答える人物がいる、等と知ってしまったら彼女は遠い目になるだろう。
「まさか、口数は少なかったけどいい人だったって!優しいし。大体そんな怖い人ならまず母さんが家に入れないよ!」
「それはそうだよね。うん、変な事聞いてゴメンね」
―――ただ、きっと重い何かを背負ってる人ではあるとは思うけど―――とヒビキは口には出さず内心付け加える。
思い出すのは自分が質問攻めする中、ふと彼の旅立ちを聞いたとき。
軽い気持ちだった。自分が憧れる旅とその始まり――まるで絵本の様な物語の始まりを、ただ聞いただけの心算だった。
変化は劇的。今まで口数は少ないながらも温かい雰囲気を纏っていたその場が、まるで凍り付いたように固まった。
会話してる中でもあまり表情の変化は分からない人だったが、あの時表情が変わった事だけは手に取るように分かったのははっきりと覚えている。
それは完全に感情と言う物が抜け落ちた、そう……まるで能面のような――――。
「んー、それにしてもピカチュウにカメックス。それに”なみのり”で乗ってきたっていうのはラプラス。まるで噂に聞く”最年少チャンピオン”のレッドさんみたいだね!」
「…え?」
「帽子まで被ってたんでしょ?なんだっけ、ほら。レッドさんの写真自体かなり少ないのに、目深に被った帽子のせいでその顔の全貌を写した物は0に等しい、だっけ。前に雑誌で見たの。絶対領域っていうんだって!」
ーーいやそれ違くね?
深く潜りかけた思考がコトネの言葉で浮上する。自分が憧れる人物の名が出てくれば当然と言えば当然か。
しかし、苦笑しながらそれを否定する。
「いや、まあ似てるかもしれないけど違うと思うぞ。トレーナーカードも見せてもらったし」
「そんな事分かってますー、”みたい”とは言ったけど”本人”なんて言ってないでしょ!偶々手持ちのポケモンが似ちゃったのか、それともチャンピオンの追っかけかな?」
「さあ、ボクにはそこまでは分からないけど。あ、でもレッドさんの事を聞いた時『……無口』って言ってたし知り合いかもしれない」
「ホントに!?じゃあサトシさんは無口の振りをしてレッドさんの真似をしてるのかもね!追っかけ説濃厚だよ!」
彼らは知らない。自分達が話してる人物たちが同一人物などと。
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□ヒトカゲ月メタルクロー日
リア充爆発しろ!…何か書かないといけない使命感に駆られて書いてしまった。後でマーカーで上塗りして消そう。
朝の目覚めが最悪だった。
別に”メガトンパンチ”が俺の顔面を襲ったり、”メガトンキック”が俺の股間を破壊したわけじゃない。当然”10まんボルト”や”かみなり”の高圧電流で足の痺れが取れなくなったわけでもない。
ピカチュウのヤツ昨日のオーキド博士のラジオ番組のトーク録音してやがったんだ…!してやられた。いつの間にか録音予約してたな?道理で夜中に突然流れ始めたと思った…寝ぼけてヘンにボタン押したのかと思ってた。朝5時に起きたのとか久しぶりでヒジョーに眠い。
勿論この後録音は丁寧に消させていただきました。ピカチュウには怒られたけど、これに慣れて実際に追手が来た時に反応できなくなったら困るだろ―――毎朝5時起きとか冗談じゃない。
その後普通に起きてまだ見て無かった場所を見て回り、偶然出会った昨日のおじいさんに挨拶し、行きたいところをもう一度回ってからポケモンセンターへと戻る。本当に何もない一日だった。
早起きして行動時間が増えたからか、今日中に昨日おじいさんが教えてくれたヨシノシティの隠れスポットはほぼ全部回り終わったし――うん、大・満・足!
これだ、これなんだよ俺が欲しかった休暇は……!
シロガネやまの頂上付近で雪に埋もれた少ないきのみや木の枝を掘り起こして飢えを満たすサバイバルだったり、体重が200Kgを超えるらしいバンギラス(図鑑をバージョンアップして初めて名前や詳細を知った)と組手したり、ゴローンの”じしん”や”だいばくはつ”で起こった雪崩に呑まれたりするのは決して休暇と認めない。シバとか普通にやってそうだけど俺は断固認めない!
それはさて置き、大体見たいものは見終わったし明日にでも出発しようと思う。あんまり一つの街でのんびりしてて追手に嗅ぎ付けられたりしたら目も当てられないもんな。
―――だから今日の分録音しようとするのはヤメロ。
□ヒトカゲ月はじけるほのお日
久々にポケモンバトルをした。
俺たちが闘う以上避ける事の出来ない悲劇が起きた。
相手は短パン小僧のゴロウ君。どうやら何度かポケモンバトルをして負け続きだったらしい。ちょっと気が立っていたのか、偶々通りかかった俺と目が合うなり突撃してきた。
『目があったらポケモンバトル!君弱そうだし、今度こそ勝てるッ!』
―――見た目弱そうでゴメンよ、俺チャンピオンなんだ…。なんて言わないし言えない。
俺は別に少しバトルするくらいなら構わなかった。勿論全力を出して心を折る、なんて無茶苦茶な事をする心算はない。チャンピオンとして、というわけではないけど多少アドバイスするくらいならできる。
問題なのはピカチュウが激怒した事だ。”弱そう”なんて言われて自分がバカにされたと思ったんだろう。全身帯電状態とか久々に見た。
首に下げた”でんきだま”の輝きがいつもの倍くらい――出力は60%(多分)、結構本気でキレてたよ。
まあピカチュウはどっちかって言うとカッコいいよりはカワイイ系なポケモンだと思うし、弱そうに見えるというのは心外だけど迫力には欠けるのかもしれない。
俺は「やめておけ」って言ったのに止まらないし、ゴロウ君は何か怒ってて余計やる気になるし…。
残念ながらバトルの申し出は断れなかったんだよ…。始まってみるとあれはバトルと言うよりは私刑だったような気がしないでもない。始まりも終わりも一瞬だった。
ゴロウ君の出したポケモンはコラッタ。
審判なんていないから開始の合図は無し。突然”でんこうせっか”で速攻してきたところを帯電状態のアイアンテールでカウンター。タイミングはパーフェクト。
人間の状態で喩えるならこうだ。全速力で自転車をこいで突っ込んできたところに顔面めがけて鉄バットをフルスイング、そのまま傷口にスタンガンを押し当てて最大電撃!位のダメージ。
うわ、書いててアレだけど想像しただけでメッチャ痛い…。
高速で突っ込んできたコラッタは、哀れその倍以上の勢いでゴロウ君の横を吹っ飛んでいった。
ゴロウ君唖然としてたよ。俺も唖然としたよ。いくら怒っててもアレはちょっと容赦無さ過ぎるだろう。
…いや、電気技を放たなかったあたりやっぱり加減はしてるのか。
それでも久々のバトルでテンション上がったのか更に追撃加えようとしてたし、流石に全力で止めた。
大抵は抱きかかえたら止まるんだがあの状態のピカチュウは如何せん全身が電気帯びてるせいで、触ると結構痛いアバババババ。
何というか大きい静電気が全身をバチバチっと襲う感じだ…一度だけそれでも止まらない事もあって大分酷い事になったんだけど。今回は止まってくれてよかったと思う、いやホントに。心の底から。
リーグ付近の大地を抉り取り、カントー地方中の電気を一晩止めたあの大停電事件を俺は忘れない。
今更ながらチャンピオンって何だっけ。――決まってる。頂点に座し、憧れでありながら多くのトレーナーの壁として君臨する存在。トレーナーたちの道標であり導き手。
さて、じゃあ俺がやった事は?並べてみよう
・職務怠慢(公式リーグバトル数一桁)。
・敵前逃亡(仕事放棄)。
・身分詐称(トレーナーカード偽造)。
・夢破壊(子供のポケモンをズタボロに)。
―――チャンピオンやトレーナーどころか人として失格じゃないですかヤダー!あ、でも敵前逃亡だけは許されると思うマジで。
余りに申し訳なかったんで、思わず”げんきのかたまり”を上げてしまった。貴重な逸品ががが。
何故か感極まって泣きながら謝られたけどそれヤッちゃったの俺だからね。俺のピカチュウだからね。
とりあえずコラッタを回復させポケギアの番号を交換し、別れ際に一応ポケモンセンターに連れて行くのを勧めた後何とかアドバイスしようとした。一応チャンピオンだし、さっき書いた導き手とか何とか。…格好つけたかっただけともいう。勿論謝罪の意の方が強いけど。
しかして、俺にはコラッタを捕まえて育てた経験などありはしない。進化系のラッタも同じだ。
ネズミでもこっちのは電気鼠だし…。いくら『やればできる』なんていっても電気袋を持ってもないコラッタに”10まんボルト”覚えろとか酷すぎる。
ならばどうするか?簡単な話だ――自分ではなく他人の事例を当てはめればいいのさ!
思い出すのはかつて突然姿を消したグリーンのラッタ。あいつが何で強かったか思い出せ、何に手古摺ったかを思い出せ―――!
そうひたすら念じ続けた結果、俺の灰色の脳細胞が弾き出したたった一つ答えとは…!!
”――――前歯が足りない!”
――――何言ってんだ俺。どうした俺の脳細胞。
前歯のイメージ強すぎるぜラッタ。そこは速さじゃないのか、そもそも前歯が足りないってなんぞ。数か、数なのか?
頭の中で前歯が増えたコラッタを想像してみる。……いや、なんて言うか…ないな。
しかし何故かそれに納得して駆けて去っていったゴロウ君。彼の中で一体何が起こったというんだ…。これで次会った時にコラッタの前歯が増えて5本生えてたら平謝りじゃすまないぞ!というかそれは最早コラッタでは無いし認めない。
……さあて、そろそろ行こうかキキョウシティ。ヒビキ君いたらイイナー。
読了ありがとうございます!
若干身の回りが忙しくなり、中々執筆できる時間が取れません。
出来る限り早く更新いたしますのでご容赦ください…!