緋弾のアリア ~契約の不死者~   作:赤須

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リハビリを目的に描いてみました。


プロローグ

 

 ―――俺は出会ってしまった。……魔女に。

 

 魔女。灰被り姫(シンデレラ)や白雪姫といったお伽噺に登場する重要な役割を持った謎の人物として知られ、ゲームや歴史、神話にも、魔女というのはどこからともなく現れて、悪魔のように勇者や英雄などを誘い、或いは騙す。不明瞭に包まれた存在だ。

 まあ、ゲームとかファンタジー小説なら悪役として、或いはヒロインとして良い導入なんだろう。

 

「お前はこの世の天国に興味がないか?」

 

 目の前に立っているのは、1人の少女だ。

 鋭い刃のような美しい碧い(アイスブルー)の瞳。煌めく白銀の髪。雪白い肌にスラッとした四肢。10人が10人、誰もが振り向くほどの可憐なそれは、神に愛されたかのよう。

 とても……こんな女の子が魔女だなんて思えなかった。

 それだけに美しく、神々しい。

 

 彼女の名は、ジャンヌ・ダルク。

 

 歴史上、神からの啓示を受け取り、それを糧として戦争を勝利に、王を導いた女傑の名だ。おそらく彼女の事を知らない人間はほとんどいないだろう。そして彼女の結末も……

 そのジャンヌの30代目にあたる子孫が、今俺の前に立っている。

 

 ―――ふざけんな。

 

 そう思うのが物事の条理だろう。何故なら、ジャンヌ・ダルクとは19歳で火焙りにされて〝死んだ〟英雄なのだから。夫婦を立てたような噂もなく、子孫なんていない。そういう〝結末〟で生涯を終えた、と歴史では語られている。

 それなのに、

 

 ―――彼女(ジャンヌ)は目の前に居る。

 

 増してや、今その少女は俺を何らかの組織か宗教に勧誘しにきているのだ。

 明らかにふざけているとしか言いようがない。そう思われるのが道理だが……

 

「喜ぶと良い、お前の願いはようやく叶う」

 

 彼女はそう言いながら白く、細い手を俺に差し伸べてくる。

 それに対し、俺は……

 

「……お前の願いは叶えた。次は私の番だ」

 

 その誘いの手を受け取ってしまったのだ。何故かは分からない。

 相手が魔女だと知っていても、騙されているのかもしれないと分かっていても―――それでも俺は、それに迷う事なく力強く握った。

 

「契約は完了した。これより、お前と私は共犯者だ。私はお前を―――にする。そしてお前は―――に尽くせ。さもなくば研鑽派(ダイオ)がお前を殺しに来る」

 

 魔女に出会った主人公は、きっと平穏だった日常から非日常に巻き込まれ、大冒険へと駆り出されるに違いない。時には聖杯戦争、時にはワルプルギス、時にはブリタニア……なんて、とんでもない事件に挑んだりしてな。

 

 だから、少なくとも俺、舩坂鈴雄(ふなさか すずお)は―――

 魔女に出会ったことが夢であってほしかった。

 俺は面倒事が嫌いなんだから、平和が好きだから……静かに過ごしたい。

 

「……契約は守れよ? 舩坂鈴雄……」

 

 そのためにもまずは、この魔女との契約を果たしてやる。

 

「……ようこそ(フォロー・ミー)、イ・ウーへ……」

 

 それが俺、舩坂スズオと。

 後に『銀氷の聖女』という名に称され、勇敢なる少女として日々戦い続けていく、2人の静かな出会い。

 

 

 

 独奏曲(アリア)でも、BGM(キンジ)でもない、

 

 

 

 俺という騒音(ノイズ)聖譚曲(ジャンヌ)が奏でる、

 

 

 

 汚く、クソッたれな物語の開幕。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「げふぅ……ッ!?」

 

 気持ちよく眠ていたはずの俺、舩坂鈴雄。

 その俺は今、早朝にて突然……叩き起こされていた。

 腹部に痛覚が残っている。

 おそらく何かで殴られたのだろう。

 ……い、痛ぇ。

 

「おはよう、舩坂」

 

「……お、おはよう。じゃ、ジャンヌ」

 

「フフッ、随分と苦しそうだな」

 

「誰のせいだ。誰の……」

 

 あまりにも痛さに二度寝(気絶)でもしてしまいそうだったのだが、隣に立つ銀髪の少女が立っていてはそれも出来無さそうだったので、仕方なく起きる。

 寝たら、また殴られるに違いないからだ。その聖剣の鞘で。

 

「……っ、ま、毎回、鞘で叩き起こさなくても良くないか?」

 

「ああ、そうだな。目覚ましも声を掛けても起きないお前が、ちゃんと(・・・・)起きてくれたら考えてやってもいいぞ」

 

「ぐっ」

 

 図星を付かれて呻く俺に、目の前に立つ銀髪の少女は、くすっ、と再び笑みを零す。

 ……なんだよ、朝に弱いのがそんな悪いか。悪いのか?

 あ、悪いですね、ごめんなさい。

 だから、その鞘からはみ出た聖剣を仕舞いましょうか。

 

 ともかく……俺とこの銀髪の少女―――ジャンヌ・ダルク30世と共に、ここイ・ウーと呼ばれる秘密結社の食堂へと向かう事にした。

 イ・ウーとは、世界中の結社・組織・機関が結集した集団で、集まった者たちは皆、それぞれに目的があり、思想があり、個人の成す事に干渉、手出し、一切無用の無法者たちだ。そこで私闘を始めようが、略奪をしようが、侮蔑しようが自由らしく、一生何もせず、のんびりと過ごすのもありだと言う。

 なんせ、イ・ウーの存在自体が治外法権に出来ており、そこで何しようが勝手である自由な天国なのだから。

 これら全部、ジャンヌの受け売りなのだが……

 まあ、確かに……ここなら『平和で静かに過ごせる』だろう。

 『元武偵』である俺からすればキチガイ極まりない場所にしか見えないがな。

 

「朝食を済ませた後、鍛錬をしよう。早く起きなかった罰だ。付き合ってもらうぞ」

 

「面倒だな……」

 

 もともとイ・ウーは超人育成機関で、そこで磨かれた一個人の強さは超人の域に達する無法者たち。

 各国から、色んな組織から……が故に、個々の思想は先ほど説明にあった通り、干渉・手助けは一切不要なため、平和主義から金銭目的、誇示、戦闘欲といった様々な目的があるのだろう無法者たちは、その組織で、好き勝手にやる。

 そう、大国に戦争を吹っ掛けるのもまた自由なのだ。

 そしてイ・ウーの長たる権限を持った者は、この無法者の超人たちを束ねられるだけの強大たる力を持っている。その力には、命令には、絶対遵守。

 強すぎて逆らえない、殺されたくなければ、天国に居たければ従え。

 無法者ならではの弱肉強食な社会だ。

 だからもし長たる教授が戦争をやれ、と命じてきたのなら、それに従わなければならない。

 もし、自由の女神を盗んで来いと命じられたのなら、命じられた通りに盗まなければならない。

 断ろうと思えば断れるが、それは教授以上に強ければ、の話だ……

 これだけの超人兼、無法者を統治するだけのトップだ、相応な強さと器がなければ務まらないだろう力を、我らが教授は持っている。

 

「……まあ、素質が無かったら俺は、お前ら研鑽派(ダイオ)に殺されるしな」

 

「そういう契約だからな。だがそれに関しては問題ないだろう」

 

「ん?」

 

「舩坂、お前は十分に強い(・・)。そして何よりしぶとい生命力を持つその体質(・・)がある。『次世代の教授』としての気質の条件が揃っているのだ」

 

 体質か……それは俺の爺さんから受け継いできた、この恩恵の事なのだろう。

 それは、

 

 ―――〝傷が治りやすい体質〟

 

 第二次世界大戦・パラオ=マリアナ戦役における最後の戦争、アンガウルの戦いの生き残り、『生きている英霊』『不死身の分隊長』『鬼の分隊長』等と二つ名を持つ〝舩坂弘〟の孫である俺は、彼の……爺さんの恩恵を貰っていた。

 この体質で、爺さんを伝説と化し、そんな武勇伝に憧れたわけでもなく、俺は単に自分が生きやすい、活かしやすい居場所を求めて武偵高に入り、静かに、楽に送ろうと思っていたのだが、まさかこの体質が、こんな争い事の中心たるイ・ウーに誘われるとは、思わなんだか……

 

「……次世代の、ねえ」

 

 絶対無敵にして不死、無法者を束ねる教授に、俺は次の教授候補者に担ぎ上げられた。

 正直実感が持てない。

 そりゃ、そうだ。

 こんな一般人である俺が……頭の悪くて、仏頂面で、めんどくさがり屋な俺がイ・ウーのリーダーだなんてさ。

 そもそも絶対無敵で不死の教授がいるのに新たな教授を仕立て上げようとしているのは、その教授に寿命が迫っているらしく、彼に死なれると一部にとってはそれは非常に困難なまずい事態に陥る面倒が起きるそうだ。ほんとにメンドくさそうだ。

 で、新たなリーダーとして白羽の矢が立ったのは俺ともう1人の子だって聞いたが……ていうか、教授は不死だっていうのに、寿命はあるのかよ。

 いや、それを言ったら舩坂(ウチ)もそうだった……

 

「神からの試練だと思えばいいだろう。人は、一度の生に1や2と限らず困難は何度も訪れるというモノだからな。精進しろという事だ」

 

「随分とまあ、面倒な試練を神様は寄こしてくるんだな、おい」

 

 嘆く俺に、ジャンヌは他人事みたいに頑張れ、と呟くなり籠手を着けたまま俺の肩にぽんっ、と叩き、そしてそのまま食堂へと歩き続けた。

 頑張れって……お前が言うと不安しかないのだが、その辺は一応ジャンヌがいるから問題ないか。まだ分からない事ばかりだが、それも幸いと言うべきかジャンヌが教えてくれる。こんな無法地帯で1人でさまようのは流石にごめんだからな。 

 

「ま、そんな事よりも……今日の献立は何だろうな……」

 

「……お前、神からの試練をそんな事で片付ける気か」

 

「煩い。お前がどこぞの騎士王みたいにハラペコ属性が付かなかったのがいけないんだ」

 

 というか、ジャンヌのそれって本当に似ていないか? 髪型とか鎧姿とか、あと声とか。

 まあ、気にしたら負けなんだろうが。

 当人も「何を言っているんだ」と気付いていらっしゃらない様子だし、これ以上は暗黙の了解。沈黙は金だ。

 

「ジャンヌはこの後鍛錬をするんだろ? 俺はどうすればいい」

 

「ふむ……そうだな、私は超能力(ステルス)の研磨を図りたいと思っている。舩坂、お前には〝的〟になってもらうぞ」

 

「的?」

 

 疑問を抱きながら呟く言葉に、ジャンヌはニヤりと笑いながら頷いた。

 

「我が一族に伝わる秘術を応用で試したい事があるのでな。舩坂、お前はそれに付き合ってもらう」

 

「……ああ、そういう事か」

 

 要は実験台か。

 ……確かに〝傷が治りやすい体質〟を持つ俺だからこそ適任なのだろう。生きた死体(ゾンビ)染みたそれと、イエス・キリスト為らぬそれ。どんなに重傷を負おうが、死に掛けようが、すぐに治るし甦る。

 実験台に相応しいな、俺。嬉しくもないけどさ。

 

「どうした、臆したのか?」

 

「臆すも何も、やらないといけないんだろ?」

 

「当然だ」

 

「……だよな」

 

 ジャンヌの言葉に理不尽と思いながらも、俺とジャンヌは食堂へと赴いた。

 その先に写るのは賑やかなメンバー達の朝食姿である。多少人外やら魔女やら超人やら混じっているが、今日もイ・ウーは平和だ。実にそう見えた俺なのだが、これから起きるであろう戦いの事を思えば、この日常はずっと続いてほしい。

 

 そう、ずっと……

 

 俺、舩坂スズオは願った。

 

 

 

 

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