……それにしても、監獄イベントのレベルが高い。
これは青セイバーと施し、NOUMINには頑張ってもらわなくては……!
今日も今日とて秘密結社イ・ウーは平和でありながら喧騒に包まれていた。
無法者たちが集う場として組織化された団体。そして集った若者たちは、全員が教師であり、生徒である事を意識しながら互いに教え合う事により、個々の技能が幅広くなって超人への高みに向かってく。
……それが、イ・ウーという名の組織の理念。
また、イ・ウーは伊・Uとも読み、世界大戦中に製造された世界最大級に及ぶ原子力潜水艦『ボストーク号』のコードネームである。これがイ・ウーという正体なのだが、その中はとてつもなく広く、
これが潜水艦の中だとは思えないぐらいだ。
俺も今でこそはイ・ウーで極楽に満喫しているのだが、ここに来た時は仰天に煽ぐぐらい驚いたものだよ。
その時のジャンヌのどやぁ、と満面な笑みを浮かべていたのが記憶に新しい。
などと頭に抱いていた思考をやめ、騒々しい周辺に目線を配る。
そして俺は1つ溜息を付いた。
(煩い……)
物品購入申請が行われている教室みたいなところで、俺やジャンヌだけでなく、他の構成員の何人かはこれに参加し、『部費』……つまるところの予算を中国の秘密結社から遥々やってきたココと呼ばれる少女と取引を行い、物によっては違法で手に入れてくるらしいが、ここはイ・ウー。そんなのお構いなしに〝お買い物〟が出来るのだ。
それ故に、コイツ等はあまりにも個性が強すぎるせいなのか、とんでもないモノを要求しようとする自分勝手なヤツが多い。
多いとそれぞれの相違が起こるわけなのだが、
「うっ、ま……!?」
「いらねーだろ、馬なんか!! それより駆逐戦車を追加だ!」
「血よ、血よ、血よーッ。血が、飲みたいのよッ!!」
「18金はイヤじゃ!?」
「今の相場では純金は高いだろう!」
「……キノコ」
これは酷すぎる。普段ならここからすぐさまに立ち去りたいところなのだが、そうすると『銀氷の魔女』ことジャンヌが逃がしてくれないため、俺は果てしなく困っていた。
(なんだこの女死会みたいなのは……)
男勝りな女子(ワトソンを除く)たちの騒々しさにもう1つの溜息を吐く。
呻くジャンヌの首を絞めつつ自分の欲しい物を追求する『厄水の魔女』カツェ・グラッセ。ゴシック&ロリータ調の服を身に纏う『紫電の魔女』にして吸血鬼・ヒルダが暴れ、頭痛に悩まされているのか頭を抱えだす『砂礫の魔女』パトラ。そのパトラに抗議を立てる俺やブラド、教授を除き唯一の男であるエル・ワトソン。そして何か隅っこで呟いている『魔宮の蠍』夾竹桃。
そんな個性的な彼女たちによるお祭りみたいな騒ぎはもはや戦争だった。
皆のお買い物のはずがいつの間にか戦争になっているという。ソースは俺。
ああ、リサも呆れ顔に……
彼女はリサ・アヴェ・デュ・アンク。イ・ウーにおけるメイド兼、会計士を務めている構成員の1人だ。が、今の現状を見てさぞかし苦悩している様子。
だがそこはイ・ウーの会計士。無法者たちによる騒ぎを見ておきながら平然と電卓を取って計算をし始め、答えを導くなり『
「舩坂様はどうなさいますか?」
「ん? 俺も良いのか」
「はい、それはもちろん初回の方でも交渉は出来ますよ」
ココを泣かせたリサは、気が済んだのか俺に話を持ち掛けてくる。その問いから察するに、どうやら俺も何か物品を問い合わせる事が出来るようだ。となれば何にするか悩み処だな。イ・ウーの新人だからそういうのは縁遠いモノだと思っていたんだが、ふむ……
「予算の限りによって、ですが……その範囲内であれば食材から美術品、兵器などなど、どんな物でもごらんあれ。そうですよね、ココさん?」
「……ソウアルネ」
「おおー、それは確かに凄そうだが……」
正直、何が欲しいかと聞かれると咄嗟には思い浮かばない。こういうのはじっくり考えてから頼みたいものだ。しかし、そういう時間も今回は無さそうだし、皆はもう決まってて待たせるのも悪い。
ていうかココがあまりにも哀れに見えてきたので、
「そうだな、じゃあ中華剣に
「はい、可能ですよ」
そう言うと、リサは笑みを浮かべながら頷く。戦車から純金、馬などの物品が手に入れられるぐらいだから当然と言えば当然なんだが、その問答無用に仕入れてこられる幅の広さには驚かずにいられない。
元々、ココが属する中国の結社・
などと思っているとリサがニコりと笑顔のままココの方へと全体を向ける。
「そうなりますとココさん、舩坂様への『初回購入』というサービスで……」
「あいや!? リサ何してくれるあるか! もう75%引き。ココ、いい加減グレるあるヨ!!」
あまりにも理不尽な交渉にココが必死になって訴えるものの、リサは「ふふっ」と笑みを浮かべながら電卓から手を離さない。
やめてリサ! ココのライフはゼロよ! もう交渉は付いたのよ!
だが、リサは止まらない。どうやら俺の想いは届かなかったようだ。
すまないココ、止められない俺で本当にすまない……
そしてトドメと言わんばかりの、
「さらにココさん、『おまけ』についてですが……」
「………………あいやぁー」
「ココが死んだ!」
「「「この人でなしィ!!」」」
ココの倒れ様に比して哀れな結末に、ジャンヌが叫ぶとイ・ウーの
お前ら……
(この人でなしィ!)
◇◆◇
「舩坂は、本当にアレで良かったのか?」
アレ、とは苗刀の事を言っているのだろう。だがアレはアレでも結構優秀なのだ。
日本刀よりも刀身が長く、そして細い。硬質には劣るかもしれんが、その分の軽さが出て扱いやすさに関しては日本刀のソレを抜く事もある。
話しかけてきたジャンヌに俺はソッと頷いた。
「別にいいんだよ。俺は必要な物があればそれで満足だし、不要な物は使わないんだからあっても仕方ないだろ。というか俺はココの方が心配だ……」
チラっとココの方へ視線を向けると、どうやらまだ魂が抜けているようだった。
「ココか。……うむ、儚い犠牲だったな。これも軍馬のため、やむなしだ」
「……お前、何気に
「無論だ」
「……さいですか」
キリッ、と平然な態度で答えるジャンヌに俺は少しばかり沈黙を帯びさせる。
もうやだ、この聖女。
そんな事を思っていると、ジャンヌは「少し夾竹桃のところへ行ってくる」と言って俺から離れていった。聞けば夾竹桃が何やら少女漫画を描いているとの事で、ジャンヌはそれに興味津々だそうだ。
銀氷の魔女も中身は少女。そういうのに興味を持っていたって不思議じゃないか。
「……」
物品購入申請の交渉が終わった今、ここにいるメンバーは皆自分の好きな事に当て嵌めている。ヒルダとパトラはチェスをしていて、ワトソンは読書、カツェはたぶん戦闘機のプラモでも組み立てているのだろう。そしてまだ昇天しているココを、ティーカップに紅茶を注ぐリサが見守っていた。
んで俺はというと、
「ふあ……ぁ」
特にやる事が無いので、欠伸を掻くなり机に俯かせていた。そこに読書していたワトソンがしおりを本に挟んでこちらにやってくる。それに気付いた俺は俯かせていた顔を上げると、ワトソンは、やぁ、と英国紳士らしく挨拶をしてきた。
短い茶髪の少年で、どこか中性的な面影のあるワトソン。そんな彼に対し、俺はいつも通りに、おう、と返す。
「暇そうだね」
「ああ、まあ暇って事は平和な証拠だ。俺にとっては有り難い事なのだよ、ワトソン君」
「相変わらずだなぁ、フナサカは。あの
呆れたのか、すくっと肩を落とすワトソン。
俺はその言葉にムスッ、と口を尖らせながら、
「俺と姉さんを比べんなよ。アイツらは人間やめてるから」
俺の姉、舩坂涼香は人間やめました人間だ。性格は凶暴。爺さんの孫娘なだけあって〝傷が治りやすい体質〟を受け継いでいる姉さんは這いよる混沌、不屈の精神を持ち、敵対すれば間違いなく〝持久戦〟に持ち込まれ、物理法則を無視した肉弾戦で敵を捻り潰し、吊し上げるという。
曰く、SDAランキングでも一桁をキープしているとか何とか。
流石は姉だ、と言いたい。俺には出来ないことを平然とやってのける。別に痺れも憧れもしないがな!
「それは君もだろうに……。この前ボクの方で偶然見つけたんだけど、SDAランキングの順位……繰り上がってたよ?」
「なん、だと……!?」
その中性的な顔立ちのせいか男なのに可愛く見えるワトソンだが、それに構わず俺は思わず驚愕な表情を取ってしまった。そもそもSDAランキングとは、アジアにおける〝人間、やめちゃった(テヘッ〟という人間……所謂、超人をランク付けにした事を称した呼び名である。
ランク付けが高い。要は高い分だけその誰よりも人間を捨てている、という事だ。
姉さんは一桁あたりだから、アジアの人口数億における人類の中で〝もっとも十番目以内にランクインしている〟のを指している。
……考えただけでも空恐ろしいな。
「いや、待てよ。そもそも俺は任務の途中で失踪したって事になってるからランクが上がるってのはデマじゃないのか? ていうか人間止めるも、俺は何もしてないぞ」
「……どうやらフナサカは
それでランクアップ序でにランクイン、と。
「おのれアメリカ!!」
「いや、アメリカに言っても意味が無いと思うんだけど……」
苦笑いをするワトソンは宥めるようにどぉどぉ、と掌を向けて制止してくる。
馬か、俺は……
「あー……聞きたくなかった事を聞いちまったな。しかもターミネーターって……そんな未来から来た殺人ロボットみたいに言いやがって。アメリカさんは俺の事を何だと思ってやがんだ? ……理由も安直過ぎだし」
「フナサカの場合は存在自体がチートの塊で出来ているからね。大国が震え上がるほどの戦闘能力を君は持っているという事だ。まあ、大半はフナサカの姉や祖父の影響もあるのかもしれないよ」
淡々と語っていくワトソンの言葉に、耳を傾けていた俺は不服ながらも納得する。祖父はもうすでにこの世から亡くなっているが、あの人はあれでも生粋の人外だからある種のサイトだと実は祖国の危機に備えて眠っているんじゃないのか? とか、まだ生きているんじゃないか? ともっぱら有名で、俺でもそう思えてくるぐらい爺さんはしぶといのだ。
姉さんは最早言うまでもないが、特に爺さんのソレが一番アメリカさんにとってはトラウマだったのだろう。
そう思っていた直後―――ビー!! ビー!!
と、この艦内の全体を通して響き渡る警報音が鳴り始めた。
『本艦ハ間モナク バラストブロー 進路ヲ1―8―0ノ 薄氷面ニ取リ浮上スル 傾斜ト揺レニ注意サレタシ―――』
「よっしゃ! 久々の外の空気だぜ!」
警報音に反応して我先にと外へ向かって去ろうとカツェが走り出す。ボストーク号もといイ・ウーは秘密結社であるが故に、他国からの存在に隠匿しなければならなかった。何故なら兵器にもなりうる超人・人外たちが揃っており、剰え数発だけで大国を落とせる武器を保有しているのだ。そして〝存在自体〟が治外法権で出来ているので、脅威以上に他ならない。
それほどまでにイ・ウーは、国から過剰に危険視されているのだ。よってイ・ウーはずっと海の中で潜ませ、滅多に外へと姿を現さない。見つかって隙あらば襲われかねないのだから、今こうして外に出られるのは、希少な時間と言っても過言ではないだろう。
「全く、
カツェの去り際にワトソンがそう呟く。
そういえばカツェが所属する魔女連隊とワトソンの所属するリバティーメイソンは犬猿の仲だってジャンヌが言ってたな。
軍の魔女であり、テロリストの真似事をしている魔女連隊と、秘密結社のエージェントであり、正義の味方の真似事をしているリバティーメイソンとでは、水と油といった関係性にもなるだろう。……となれば必然と仲が悪くなるのはさもありなん、てか。
尤も、魔女連隊が一番敵視しているのはあのエ゛ェェイ゛ィメン゛ッなバチカンの方だけどな。
「いやまあ……人それぞれ個性があるわけだし、別にいいんじゃねえのか?」
「ボクから言わせてみれば、彼女は個性が強すぎるように見える。もう少し節度を持って大人しくしていれば良いとボクは思うな!」
……お前も割と面倒なほどにキャンキャン煩いんだが……節度どこいった。残念、ヤツは死んだ! とか、まさかそんな落ちじゃねえだろうな。
それに個性が強いとか、お前も十分に強いと思うぞ? 『
だがまあ、それは言わないでおくとしようかね。どうやら彼はアマチュアボクシングの免許を取得しているらしいしな。俺もまだ死にたくはない。
それよりも、
「ワトソン、俺も外に行くんだがお前はどうするんだ?」
「ボクか? ……そうだね、暫く外の空気を吸ってないから……行こうかな?」
「そうか、なら行こうぜ」
そう言って俺とワトソンはこの教室から出ようと歩きだし、ジャンヌや夾竹桃、ヒルダといった他のヤツらも続いて外へと向かおうとする。ただ外は南氷洋のど真ん中。何か上着ぐらい着とかないと寒いだろうからな、と一度自室に戻って
「さて、ワトソンにも待たせちゃうと悪いし、さっさと行くか」
そう言いながら部屋から出た俺は、待っていたワトソンの元へと歩いて向かった。
◇◆◇
―――南氷洋・テラ=ノヴァ湾沖の氷河を渡り、海面上に浮き上がったボストーク号から、数人もの人影が艦橋に姿を現す。
外は穏やかな空で広がっており、太陽も時間帯に構わず登り続けたままスズオたちを照らし合わせていた。
「スゥ―――……うぅーん! やっぱし外の空気はうめェな!」
「さ、寒いのじゃ……」
一番乗りにやってきていたカツェ・グラッセは、深呼吸して清々しい表情で笑みを浮かべている。それについては俺も同感と言っておこう。何せ外に出たのは実を言えば数週間ぶりと言ったところか、艦内の空気調整はちゃんと整ってはいたが、少しばかり空気が薄く感じるんだよな。
何というか山の天辺にいる、そんな感じだ。
「ここは白夜なんだね」
「夜が無いなんて……悪夢だわ」
「けけ、ヒルダは吸血鬼だもんなァ」
「あ、あぅぁ……」
確かに吸血鬼であるヒルダにとっては地獄みたいな所だろう。1日中弱点である太陽が昇られていて、その上この気温じゃあ流石の吸血鬼の姫様も堪ったもんじゃないはずだ。俺もずっとここにいろだなんて嫌だしな。
「日差しがまた絶景ね。漫画のネタが浮かんできそうだわ」
「夾竹桃、私に手伝えることはないか?」
「……大丈夫よ、貴女はいるだけで仕事になるから」
「ふ……舩坂っ! 助けてくれ、桃子が私に絵を描かせてくれないのだ!」
知った事か、戯け。というか、桃子……夾竹桃も大概だな。ジャンヌにも少しぐらい描かせてやってくれてもいいのに。
(まぁ、自分の漫画が他人の手によって汚されるのが嫌だったりするのかもしれんが)
そんな事を思っていた俺に、ジロり、と静かな目線が向けられている事に気付く。これは―――夾竹桃のモノだった。
マバタキしながら俺に何かを伝えようとしているのが見えるんだが……
何だろう。
『―――いい? あの娘に絵を描かせるような事があれば、貴方を毒殺するわよ?』
「…………」
さて、見なかった事にするか。夾竹桃とジャンヌの間に何があったのか気になるが、ここは知らない方が身のためだな、うん。
(……)
「はぁーっ、はぁーっ……うぅ……」
さっきから入口の物陰で囃し立てている見知った声が聞こえるんだが、気のせいか。
いや、ここは気のせいであってほしいところだが。
(……何だろうな)
そう思いながら俺はチラッ、と艦内に繋がる入口へと視線を覗かせると、
そこには、
「う、あぅ……ぅ、さ、ささ、寒い、のじゃ……」
(ああ、やっぱり)
エジプト絶世の美女と謳われていたクレオパトラの子孫にして『砂礫の魔女』と呼ばれたパトラの姐さんがぶるる……と体を震わせていた。
「わ、妾は戻る! 寒すぎるのじゃ!」
(そりゃ、その格好で来るからだろ)
そう、彼女の姿は水着。露出した肌白い素肌はとても綺麗で、グラビアかと思わせるほどのスタイルを持つパトラなのだが、ここは氷河に覆われた海のド真ん中。ビバ、南極大陸だ。
そんな中で水着姿を振る舞うのは、些か自殺行為にしか見えない。
「ンなカッコだからだろ……ここ南極だぞ?」
カツェが呆れた表情を浮かべながらパトラに向かって呟く。
俺もごもっとも、とうんうん頷きながらカラカラ笑うカツェに同感の意思を表明したのであった。
その様子に誰もが笑ったり、苦笑いしたり、呆れたり、興味が無さそうだったりとそれぞれの感情で楽しんでいる。
平和で、なによりだ。そう……俺は満足気にこれを受け止めていた。
―――だがしかし、この時の俺たちは知る由もなかった。
70年という歴史を連なる学究と研鑽の場、イ・ウーがたった〝1人の武偵〟によって崩壊されかけようとは……
未だかつて想像しなかった出来事なのだろう。
しかして、その未来はまもなく……訪れようとしているのだ。
緋アリで多くの~の子孫や妖怪、神などが出てきているようですが、SSで~の子孫を題材にした作品って少ないんですよね。という理由から何の子孫をモチーフに描いてみるかと悩み、原作に出ておらず、そして皆さんが知っていそうな偉人の子孫を考えてみた結果、不死身の分隊長こと―――舩坂弘が出てきました。
それと今回はギャグ回として描いてみましたが、些か作者はギャグというのが苦手でして……楽しんでいただければ幸いです。
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