緋弾のアリア ~契約の不死者~   作:赤須

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……まさかFGOで源頼光が実装されるとは思わなかったぜよ(白目)
しかもおにゃの娘だったぜよ、胸とか……アリアがみたらキンジが死ぬんじゃないかな(震え声)

アリア「真の英雄は眼で殺す!!」

キンジ「お、内臓避け(オーガンスルー)ッ!」


Ⅲ弾 『秘められた熱情』

 

 

 

 ―――とても、甘い声が聞こえる。ような気がした。

 

 

 

 夕暮れの時刻。ジャンヌとの模擬戦の後に感じ取ったあの違和感がどうしても気になったため、医療に詳しいワトソンの元へ向かっていると、ちょうどその通り道からとろけるような、甘く柔らかい声が俺の耳に伝わってきた。

 

「だ、誰りゃ……わ、わら、わりゃわを……」

 

「……?」

 

 何やら古めかしい口調の言葉を発する女の声がする。

 俺の聞き覚えが確かなら、

 

(パトラの姐さんの、声……か?)

 

 呂律が回っていない様子だったのだが、一体何があったというのだ。

 思わぬ他気になって音無しの歩法、一般人でも出来る『すり足』をしながら接近を試みた俺は、パトラの部屋と思われるドア際に耳を当てる。

 

「―――あら、もう音を上げるの? でもダメよ、パトラ。もうすぐでジャンヌが来るのだから……」

 

「はぅ」

 

 クスクス、と愉悦に微笑みを発する―――夾竹桃だ。その膝元には原稿用紙とGペン、丸ペンなどを傍に、ソファから何かを眺めているようだが……

 

「……!?」

 

 微かなドアの隙間から見れるその様子から、俺は驚愕に目を見開く。

 

(ぱ、パトラの姐さんが……夾竹桃に屈している、だと!?)

 

 世界最強クラスの魔女(マツギ)の姿に、思わず息を飲んだ。

 パトラの部屋は黒魔術か占い師といったオカルト的なイメージ造りになっており、1つの蝋燭に灯った燈火だけが部屋の明かりを照らし、古代エジプトを彷彿させるかのような細穴ばかりのテーブルで、パトラはぐったりと人間テーブルクロスが如く、(ほて)った状態で倒れていた。

 ハァハァ、と吐き出す息は、トロンとした魅惑な体躯のせいで妙にエロい。

 しかも露出が多く、以前物品購入申請の時と同じ水着姿で、俺を惑わせてくる。

 

(……っ)

 

 あまりにも美しい。そう思わせるほど女性特有の魅了に溢れた雰囲気が、俺の直感に危険信号が鳴り響く。これはマズいと。

 世界三大美女の1人に数えられるクレオパトラ7世の末裔ともなれば、弟だろうがローマの皇帝だろうが、不死身の軍人の孫だろうが、その美貌に惹きつかない訳には―――

 

(って、違うだろうがッ。俺にはジャン……じゃない、ていうかさっきから変な匂いが……)

 

 微かにだが、ドアの隙間から漂う〝何か〟の香りが俺の嗅覚を冴え渡らせる。

 この匂いには覚えがあった。

 昔、俺がまだ武偵だった頃に一度、これと似た臭いを嗅いだ事がある。

 確か名前は……

 

(……〝媚薬〟か。夾竹桃、お前何てモノを)

 

 そういや、物品購入申請で夾竹桃が頼んだとされる例のキノコが早々に届けられたとジャンヌが警戒心丸だしの状態で言ってきたな。

 たぶん例のキノコは何かの媚薬を作ろうとしていたそうだが、試作が出来たのか。見たところ夾竹桃はジャンヌを待っているところのようだし、これを発見してしまった俺がもしジャンヌにバラしたら……不愉快と見てまず毒殺は免れないな、うん。

 少なくとも3、4回は死ぬ覚悟をしなければならなさそうだ。

 

「……フッ、よく今まで生きてこられたよ」

 

 毒を以てしても生き返り、なおかつその毒に対して耐性を付けてしまうこのなんちゃって体質な俺だが、夾竹桃の毒は……もう、いいよ。たくさんだ。いくら俺が〝撃ってみて、毒を飲ませて殴打して、溺れさせても舩坂は死なず〟だからとて、毒を開発して失敗作が出来る度に俺の口へ押し付けるのは些かどうかと思う。

 しかも彼女は自身で生み出した毒により、自らを仮死状態にさせる事で、近づき、一気に俺の口元に放り込むのだから堪ったもんじゃない。いくら俺でも〝死んだ気配〟までは感じ取る事は出来ないので、彼女の不意打ちはたびたび喰らうのだが……

 

(いっそのこと、教授(プロフェシオン)の『条理予知(コグニス)』を盗み取って対抗するか。いや、俺は推理が不得意だしな……)

 

 考える事すら面倒だと思う俺だ。この時点で習得は不可能である。

 そもそも推理というのは物事の理を暴き、答えを導く謎解きのようなモノ。それを教授は一分一秒の隙も見せぬ推理で、常に世界の流れを読み取って(考えて)繰り返しているのだ、彼は。恐ろしい事に、その推理は最早〝未来予知〟に匹敵するほどの考察力を持つ。

 ―――推理の極致。それが『条理予知』と呼ばれる教授の技術であり、教授としてイ・ウーに君臨し続けられる要因の1つだ。

 

「……とにかく、ここから離れなくては。思ったよりも……〝嗅ぎ過ぎ〟たようだしな」

 

 ちょうどこの後にワトソンの部屋へ向かうつもりだったんだ。序でに治療してもらおう。幸い顔は可愛いが、あいつは男だし、媚薬を嗅いだとしても、理性が保っている内に何とかすれば事を起こさずに済みそうだ。

 全く、とんだ面倒事を夾竹桃はやってくれるな。

 しかもこの後ジャンヌが来るみたいなんだが、まぁ、あんだけ警戒していたから知らせる必要はないだろう。

 

 

 

 と、思っていた俺なのだが、ジャンヌがパトラとくんずほぐれつな××の××××な状態になってパトラの部屋から運ばれてきたのを知ったのは、後の話である。

 一体、2人の間にナニがあったのか、とは聞いてはいけない。何故ならここは無法者の巣窟、イ・ウー。何が起きても可笑しくはない問題児の集まりなのだから。

 何? 知りたい? ああ、彼女に毒殺される勇気があるのなら別に止めはしないが、知らぬが仏というヤツだ。静かな平穏を過ごしたいというのなら、とにかく黙れ、知らないフリをしろ、気にすんな。気にしたら負けなんだ。

 

 そう、気にしたら……負けなんだ。それを体験した俺が保証しよう。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「邪魔、するぞ……ワトソン」

 

「フナサカ?」

 

 急を要する事態だったため、ワトソンの部屋に辿り着けた俺はすぐさまに扉を開ける。

 ヤバい。……これは思ったよりも身体が、熱い。ジャンヌの時は冷たかったが、今度は熱いと来たか。

 これは早急に治してもらわない、と……

 

「もう、ドアを開ける時ぐらいノックはしなよ……む?」

 

 どうやら暇をしていたらしいワトソンが、俺が来たことにより読書していた本を閉じると、俺の異変にすぐさま気付き、鼻をスンっと鳴らすと途端に顔色が変わる。

 

「……うぅ、この匂いはひどいな、服にまで染みつくなんて。フナサカ、キミは夾竹桃の白トリュフにある強壮作用……〝媚薬〟をもらったのかい?」

 

「……!」

 

 俺でさえ気付くのが遅かった異様な正体を、瞬時に見切るワトソン。流石は医師の家系にして英国最高の名探偵の助手の子孫だ。先日の物品購入申請で夾竹桃が購入したと思われる白トリュフ、そしてその効果と匂いまで把握しており、まだ何も話していないというのに犯人を捉える推理力。思わず脱帽してしまうよ。

 などと考えていた俺は、媚薬による体の熱に耐えながら頷く。

 

「あ、あぁ、お前の部屋に立ち寄ろうとした時、夾竹桃がパトラで実験してたところに出くわして巻き込まれた。ワトソン、治療……頼めるか?」

 

「治療、か。とりあえず薬とかは必要ないかな。フナサカ、キミがボクに何の用があって来たのかは分からないけど、とりあえずこれを食べておくんだ」

 

 と、突然椅子に座っていたワトソンは立ち上がり、割とシンプルなデスクから何かを取り出して俺にヒョイっ、と渡してくる。

 細長い長方形の箱、これは……?

 

「レーションだよ、あと紅茶も用意しておくね。それとも宇治抹茶の方が良かったのかな? キミはそっちの方が好みだろうけど、今はこれで我慢してくれ」

 

「??」

 

 ど、どういう事だっ? 突然過ぎてついていけんのだが……いや、宇治抹茶は確かに好きだけどな?

 などとテキパキと洋菓子やら紅茶やら用意して準備を進めていくワトソンに、驚愕していた俺は思わず不審な目で彼を見つめてしまう。

 その動きはとても手際が良く、ティーカップを流れるように2つ用意し、そして前以て蒸らしてあったらしい温かい紅茶をその容器の中に注ぎ込んだ。かなり手慣れた作業である。

 

「ふ、フナサカ……」

 

 だが漸くするとワトソンは俺の視線が気になったらしく、微かに頬を赤らめながら……

 

「あ、あまりボクを見つめないでくれないかな。媚薬の効果で気付かないかもしれないけど、今のキミの目……もの凄くエッチだ」

 

「ぶばっ!?」

 

 忽然と頬を染めながら黒曜石(オブシディアン)の色をした瞳をゆっくりと逸らしだすワトソン。それに対し俺は思わず口から吹き出してしまった。

 

「バっ、そんなわけ無いだろ。た、戯け……」

 

「う。……き、キミは失礼だ」

 

 ピンク色だった頬をさらに赤くするものの、その心境に複雑な思いがあるのかワトソンは少し困った表情を浮かべながら、眉を潜めた。

 

「い、一応…………ぼ、ボクも……女の子……だからね……?」

 

「……一応?」

 

「な、何でもないよ、フナサカっ。……うぅ、薬のせいかなぁ」

 

 ごにょごにょと、俺に聞こえないぐらいの小声で何かを呟いているようだが、生憎と顔を俺から逸らしてしまっているため読唇術も使えない。いったい、何を言っているんだろうか。羞恥心に溢れて耳まで赤くなっているぞ。……それに、そんな女みたいな仕草されても……困る。男だよな? コイツは。

 

(……まぁ、薬のせいかもな。こういうのは体質でも適応できないから厄介だ)

 

 そして何故だろうか、ワトソンが男だと分かっているはずなのに、パトラよりも惹きつかれるこの感覚は。いやまぁ、顔が可愛いとはいえワトソンは男。だから男になんて……まさか、そんなまさか、なぁ?

 

「だいたい、何でそんな菓子とかお茶を用意すんだよ。治療と何か関係があるのか?」

 

「無かったら最初からやらないよ。それに武術や戦略面においては博識だけど、キミは〝医術〟には疎いな。よし、じゃあレッスンをしようか、フナサカ」

 

 ニコり、と美少女と見間違えないかというぐらい可愛げな笑顔をするワトソン教授。可愛い。いや待て、待て待て俺。理性を保つんだ。というかおのれ夾竹桃、敢えて口にはしないが、心の中で言わせてもらいたい。お前は〝ナニ〟を作った?

 

「男性の性欲を抑える一番の有効的な手段……それは〝食べる〟事だ」

 

「ん、食べる?」

 

「男性が女性(レディ)にデートの誘いをする時、大抵は食事が多いだろう? これは医学的に言えば自分自身の性欲を〝満腹〟で補おうとする本能から来るモノらしいんだ」

 

「ああ、それでこのレーションを……」

 

「夾竹桃の事だからね。彼女の作る媚薬、もとい毒薬は非常に強力なモノばかりだ。だからボクはイ・ウーに入る時、事前調査で彼女がイ・ウーに居る事を判明した時には、ボクも十全に対応できるよう予め対毒治療法の開発や訓練はしている。応急措置程度だけど、それが今役に立って嬉しいよ」

 

 再びニコり、と笑顔になるワトソン天使。可愛い。じゃねえだろっ、これ確実に媚薬が浸食されてきてないか? というかヤバい、体が、最早高熱を帯びている。少しずつだが意識もワトソンに……

 いやいや、そんなバカな! 不死身の軍人の孫も媚薬には勝てなかったよ、とかそういう落ちがあってたまるかッ。相手は、男。男なんだぞっ。

 そう思いながら「くっ、殺せ」的な、苦悶な表情をしつつ、踏ん張って理性を保とうとした―――その時、

 

 

 

 ―――ドクンッ―――

 

 

 

 何かが、俺の感情に昂りを起こさせようとしている。

 

(……っ。また、だ)

 

 時間が経ち、媚薬の効力が体中に回ってきているせいか、さっきよりも熱い。

 しかも何故かワトソンを見ていると、本能が疼きだす。昂揚し、〝何か〟を求めるかのように。熱く、熱く……

 

 

 

 ―――ドクンッ―――

 

 

 

 何かが、俺の感情に昂りを起こさせようとしている。

 

(これは、あの時と同じか……)

 

 自分がおかしくなりそうな、昂る感情が襲いに来る。

 ジャンヌの時に感じたのと同じだ。

 

 

 

 ―――ドクンッ―――

 

 

 

 何かが、俺の感情に昂りを起こさせようとしている。

 

 熱い。

 

 体中の熱が次第に全身へと周り、体質に適応できないこの難問が、俺の身体を蝕み、抗おうとしても、熱の浸食速度は止まらない。

 

 激しくて、強い。俺の知らない■■■が……!

 

「―――、―――サカっ、フナサカ!」

 

 

 

 何かによる、昂りが俺の感情から消えた。

 

 

 

「……ッ、な、何だ、ワトソン」

 

 一瞬、気取られたかワトソンの呼び声に俺は意表を突かれる。

 どうやら、またボッーとしてたみたいだな。これもジャンヌの時と同じか、ますます俺……どうかしているみたいだ。

 それに教授候補の俺がこんな事では、たかが知れる。ジャンヌにドヤされそうだな。

 だがもう、面倒くさい。それすら投げ出したい。

 しかしそれでも、俺はジャンヌの契約を……俺は平和を……

 

「全く、フナサカ……何度呼んでも返事がないから心配したぞ。キミ、疲れているのかい?」

 

「あー……いや、すまない、考え事をしてたみたいだ。すまない……」

 

「何で何度も謝るのさ」

 

「……すまない」

 

 何度も謝る俺に、心配そうな表情で眉を潜めていたワトソンはゆっくりと安堵する。

 

(とはいえ、このままではマズいな……)

 

 この痛み、どうやらジャンヌから受けたダメージによるモノとは全く別物だと見た。

 夾竹桃による媚薬とも何ら関係が無さそうだが。……だが、もし今の状態が続けばきっと俺は、いつか壊れてしまいかねない。

 そうなったら俺は、イ・ウーにいられなくなる。そして要らなくなった事により、お払い箱として研鑽派(ダイオ)に消されるだろう。

 勿論、消される訳にはいかないから抵抗ぐらいはするが。

 

(まぁ、ジャンヌやワトソン達を敵に回したくはないけどな)

 

 しかもここには世界最強クラスの魔力を保有する『砂礫の魔女』パトラに、無限の再生能力を持ち合わせた雷の超能力(ステルス)を使役する吸血鬼のヒルダとは相性が悪い、そして新たに……というかイ・ウーに帰ってきたカナと呼ばれる謎の女性はパトラやヒルダの父にして、組織のナンバースリーであるブラドに匹敵する実力を持っていると噂されているから無視する訳にはいかない。

 それに、彼らだけでなくイ・ウーに傘下している藍幇、魔女連隊、リバティーメイソン、他にも多くの組織や機関が世界各地に存在するから困る。これらを相手に逃亡生活は流石に面倒そうだからな。

 などと難問という名の壁に越えられず、考え事をしていた俺に対し、ワトソンはそんな俺の様子を伺うような眼差しで小さく呟く。

 

「……やはり、キミの姉スズカとは正反対のようだね」

 

 

 

 ―――それはとても、甘い声が聞こえる。

 

 

 

 男にしては高い声だが、ワトソンのソレは落ち着いた雰囲気の音がある。節度に込められた声だった。

 思考を中断させた俺は、彼の言葉に耳を傾ける。

 

「ボクはスズカと共に任務で行動した事があるんだけど、彼女は好戦的だった。ある種の戦闘狂(ガンモンガー)とも言えるのかな? あの芬蘭の白いヤツ(デスムーミン)と相対して笑っていたぐらいだからね」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

 SDAランキングの上位に立っている理由も、それが一端だしな。

 戦場で笑えるだけの実力を持っている姉さんはとてもとは言い難いが、畏れを通り越して怖れさえ感じさせる。最早それ以下でもそれ以上でもない。そう、ただの畏怖である。

 まぁ、それを()ったムーミン谷からやってきた白い悪魔さんも大概だが……

 

「きっと力を持て余してんだよ、姉さんと張り合える実力者は指で数えられるぐらいしかいないからな。あのムーミンは姉さんを瞬殺できる狙撃手だから、ある意味では嬉しかったんだろう」

 

「でも頭を撃たれてて平然と生きていたんだからね、彼女には驚きだよ」

 

「……頭撃ったぐらいで死なないからな、ウチの姉は。ワトソン、もし姉さんを殺すつもりならドイツのルーデル閣下でも連れてこない限り無理だぞ」

 

 実際にピクニック気分で戦車を破壊できるからね、あの人。朝牛乳飲んで体操して戦車やら戦闘機やら蹂躙してくるからね。ソ連最大の敵と戒められた彼ならきっとウチの姉を簡単に殺してくれるだろう。

 

「いやいや、殺すつもりなんてないからね!? というかキミ、実の姉に対してそんな事言っちゃっても良いのかい!?」

 

「知った事か、戯け。それに死んで甦ってこそが日常な舩坂家(ウチ)では、殺したところで蘇生するから問題ないだろ」

 

 ぶっちゃけ、それしか取り得がないからな。他にも一応、敵の武器を使えるように訓練されたりはしたが、それはある種のお家芸と言っても何ら問題ないぐらいだし。

 

「それを普通に答えるキミも大概だよ、ね……?」

 

「こればっかりは慣れだからな。……まぁ、一応自重しているつもりなんだが」

 

「いやいや……」

 

 慣れで済むものなのか、とワトソンは愕然と目を見開く中、俺は気まずそうにワトソンの入れてくれた紅茶を啜る。……うん、上手いな。

 

「……さて、落ち着いたところで聞くけど。キミは確かボクに何か用があって来たんだよね」

 

「あ、ああ、ここ最近の事に関してだが……かくかくしかじか」

 

「待って……いや待つんだ、フナサカ。いくらキミが面倒くさがり屋とはいえ、かくかくしかじかで省略しようと思わないでくれるかな!」

 

「ん、大抵はこれで分かるもんだろ」

 

 分からないよ! とキャンキャン吠え始めたワトソン。かわ……とはいえ、そこらの狗じゃあるまいし、落ち着け。

 そして落ち着いたのを機に、俺の今までの起きた現象をワトソンに話してみる。

 ジャンヌと話していた時に感じた高揚感、そして体内に疼く熱。これらのと同時にどこか自分じゃない何かが頭の中で抱く事など、ワトソンに自分の起きた全部を伝えた。

 すると、ワトソンは顎に指を添えて考える仕草を作り出す。とても、とても難しい表情となって。

 

「……ふむ、ボクの知る病状でキミと一致しているのは、まずと言ってないよ。見たところ、媚薬を抜きにしたキミは至って健康体だね。太鼓判を押してやってもいいぐらいだ」

 

「いや、いらんから。……とはいえ健康なのが分かって上々ってところか。悪いな、ワトソン。変な事に気を遣わせてよ」

 

「フッ、そんな事は無いさ、フナサカ。ボクはただ医者として、当然の事をしたまでだ。気を遣うのも医者の本分だよ」

 

 ニコりと、微笑むワトソン。……もうさ、こいつ女なんじゃね、って思うのだが……こんな可愛い顔をする男の子とか普通居ないだろ。だがまぁ、それを言ったら怒るだろうし、というかコイツは男だって言っているしな。世の中には俗に言う男の娘なんてヲタの好きそうなジャンルがあるし、ワトソンもその男の娘というヤツの1人なのかもしれない。

 

「……さて、用が済んだ事だ。これでお暇するとしよう、あまり長居しても仕方ないしな」

 

 高熱が出たのは、おそらくジャンヌと模擬戦で体を動かしたからなんだろうし、今起きていた熱も夾竹桃の作った薬だっていうのが原因なんだろう。妙な感じがしたから気になってはいたが、それは単なる自己意識が高すぎた、って事なんだろうさ。

 そして呟いた俺は席から立つと、ワトソンは左腕に巻いた腕時計を確認する。

 

「もう、そんな時間なのか……こんなに早く過ぎるとは思わなかったな。まぁ、その方がいいのかもしれないけどね。フナサカ、キミも部屋に戻ったら、ちゃんと休息を取るようにするんだぞ」

 

「……ああ、そうするよ」

 

 念を押すかのようなワトソンの言葉に俺は頷き、そのまま部屋から出ようと足を延ばそうとした……―――ずさっ!

 

「……っ」

 

 疲労で気付くのが遅かったのだが、足元の爪先が机の柱に引っ掛かって体がよろけてしまう。しかもちょうどその先にはワトソンがいて―――

 

「え、きゃ―――!?」

 

 倒れる俺の腕が、椅子に座っていたワトソンを巻き込み、椅子ごと共に圧し倒れる。幸いな事に、後ろに倒れたワトソンは受け身を取っていたらしく、頭を打たなかったようだ。

 だがこの時、俺の触覚に違和感が生じていた―――もにゅ。

 

「……っぅ?」

 

 と、倒れた衝撃で痛みを感じつつも、何やら柔らかい〝モノ〟が優先的に俺の掌で触れていると、脳裏に感触が促されている。もにゅ、もにゅ、と……

 

「ひ、ぅ……んっ」

 

 掌に納まるぐらいの質量を持った、マシュマロのような感触(イメージ)が自然と頭に芽生えてくる。そしてこれは、何故か本能に刺激されて、気付けば手を足掻かせるように動かしてしまう。

 

(何だこれは、柔らかい……?)

 

 それも割と自動的に、手が動いて……ワトソンの声が聞こえて……聞こえて?

 

 

 

「ふ、フナサカ、いい加減ボクの〝胸〟を揉むのは……その、やめてくれない、か……?」

 

「…………――――――!?」

 

 

 

 神は言った。ここで死ぬべきだと。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「一年で覚醒、か。『緋色の研究』から得て生まれし贋作と言えども、君に埋め込まれた〝ソレ〟は僕の推理を以てもなお、条理を外すか。推理でここまで苦難にさせたのは久方ぶりだよ」

 

 1人を除いて誰も居ない部屋にある、教卓の机に居座った長身体躯の青年が憮然とした態度で呟いた。全てを見透かすような目で、彼の脳裏に描かれた『条理予知(コグニス)』から得た推理は、〝ソレ〟により阻まれ、先が見えないと出ている。

 未来予知に匹敵する推理は生涯一度も〝外した〟事はない、だが、推理〝出来ない〟のは生まれてこの方、教授にとって初めてであった。

 

「過去の文献で得た資料には〝最低でも三年〟だと綴られていたモノだが……いくら何でも早すぎる。まさか一年で覚醒し始めるとはね、君の中にある情熱的などちらかが〝ソレ〟を刺激させてしまったのかな? とはいえ、かつての友人であるジキル君以来だよ、君は」

 

 本人は忘れているのか、はたまた記憶に無いだけなのか、教授(プロフェシオン)にとってはどちらにおいても一向に構わないと判断している。いや、彼の記憶に〝ソレ〟が埋め込まれている事すら知らないのだろう。

 一年前、ジャンヌがイ・ウーに招待した彼を、訪れた直後に教授は仕掛けたのだ。〝ソレ〟で『緋色の研究』を、『条理予知』で得た推理通りなら、一年後にやってくるのであろう、2人の少年少女に向けて継承するために、下準備する必要があったのだから。

 彼にはヒルダ君の暗示術(メスメリズム)による記憶の忘却をさせている。

 故に知らない。

 紛い物にして贋作の〝ソレ〟が、身体の中に入っているなどと。

 だがそれを許してほしいとは言わない、裁かれろなどと大それた事に支払う価値など教授自身は持ち合わせていない。

 しかしそれらの全ては、世界のため……人類の平和のためでもあるのだ。

 

「―――気を付けたまえ。君がジキル君以来となれば、最後の結末は過酷で辛辣だ。〝ソレ〟を埋め込んだ事に関しては誠に申し訳ないと思うが、使いこなせれば君の願いも一歩成就されるはずだ。いわばこれも試練なのだよ、スズオ君」

 

 尤も〝ソレ〟の怖ろしいところは、使いこなすよりも……〝使いこなされる〟方が厄介なのだがね。―――と、教授は誰も居ない部屋で語り終えると、パイプを口に咥えて、マッチに火を灯させる。

 煙が黙々と……部屋中に蔓延させ、気持ちを落ち着かせた。

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりです、赤須です。

今回の話は如何だったでしょうか?
シリアスとギャグがごちゃまぜで少し見づらかったりするのかもしれませんが、これらに伏線やら時系列的に考えると、無茶振りな気がして是非も無しですよね。これをご都合主義と言えなくもないのですが……
あと時系列的には原作に入る半年以上前です。パトラやヒルダが居る以上、お察しのようにけっこう前で、イ・ウーでお馴染みの理子がいないのもヒルダがいるせいかと。
早く原作に入りたい、なのでそろそろテンポを速めなければ……!



それでは感想・批評・誤字脱字がありましたらよろしくお願いします。
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