毎度ながら遅くなってしまい申し訳ありません、赤須です!
今回は短めな話ですが、次話への繋ぎとなっております。
……早く原作に入りたいものですね。
―――ルーマニアは、今宵の夜へと更けていく。
……俺は、ジャンヌから授けられた知識を活用し、ブラドの紋様の
やはり、単純な技だけではヤツには勝てない。
加えて補填を破壊しようとしても、倒れず、そのまま再生してしまう化物だと聞いた。
ならば、と抜き足で接近を試み、軍刀による抜刀の瞬発を以て、ブラドの剛腕を切り落とす―――ノット―――即座に再生されて、その腕ともう片方の腕により俺が捕まってしまう。
AKM……近代化カラシニコフ自動小銃に装填された純銀製の7.62×32mm弾を紋様へ撃ち込む―――ノット―――それはジャンヌ曰く、効かない、即座に再生、牽制にもならず、ただ単に弾の無駄遣いだ。
これも、
ならば、拘束はどうだろうか。ブラドの両足を削ぎ落とし、倒れたブラドを……いや、それもダメだな。俺とは違い、再生速度も異なるし、何よりあのブラドの両脚を一辺に斬るのは至難の業だ。俺の軍刀―――最上大業物と称された銘刀、孫六兼元が鍛えし《青木兼元》を以て、あの脚に添えてもやはり厳しいだろう。
せめて一太刀であと二つは斬り手の連撃を増やさないと。
因みに《青木兼元》―――歴史を経た武器は、それだけで神秘が武器に宿り、歴史を重ねる毎に強くなる……それが約五百年クラスの、それも兼元傑作の刀ともなれば、並の
とはいっても、相手は吸血鬼であり、魔女や超能力者による魔術の使い手ではないため意味は非ず。
ではジャンヌが言っていた四ヵ所の内、最後の四つ目の紋様を探りに入れるか。しかしそれを見つけてどうする。破壊するか? 補填を潰しても再生するような奴だぞ。やるだけ無駄か?
だとすればブラドは本気でチート野郎じゃないか。切っても斬っても無限に再生されるって、質量保存の法則とか軽く無視してるし、しかも弱点あっても効かないし、いや、それとも何か……条件があるとでもいうのか?
「……ッ。……やはり、勝利すべきヴィジョンが目に浮かばないな」
などと重い瞼を開かせた俺は、嘆くように一息を吐きつける。
思考による模擬戦を、イ・ウーの艦内という状況下の中でブラドと戦っていたが、その結果として想定された〝戦闘〟は四回中……四回とも、〝俺〟の敗北に終わっていた。
純粋な技量こそはこちらに武があると見て間違いないだろうが、吸血鬼という生物的な格差がありすぎて、接戦は可能でも、ヤツに勝つことが何よりも難しい。否、それどころか勝てないのではないか、とさえ結論に至っている自分もいる。
理由は数多くあるが、その中でもやはり決め手に欠けているのは〝情報〟だ。
ブラドの弱点……体中に張り巡らされた目の紋様を四つ狙え、とはジャンヌから教わったが、肝心の四つ目が分からない以上、その無知は致命的だし、無限の再生が悉く弱点の破壊を無に帰させるはずだろう。―――意味が無いのだろう。
かと言って、ブラドを打倒するための方法が、これの他にあるとは思えない訳で―――
『―――お前がブラドと戦うと言うのならば
最悪な状況になる事も想定しながら架空のブラドと戦っているが、それでもミスして捕まるか、腕力によるサンドバックコースが待っている。
『―――ナンバースリーを獲れるからな』
「……ああ、分かってる。これが果てしなく面倒臭いって事ぐらい」
だが、これはあくまで〝戦闘〟であり、ヤツの無限に続く再生と圧倒的な膂力、吸血鬼ならではの手段などに加え、八百年も多くの
では〝戦争〟にしてみればどうだろうか、という話になるが……俺は、再び瞼を閉じ、再びブラドを思い浮かべる。
結果。
―――■殺―――再■―――■■―――
いったい―――俺が何をしようとしてるのか、最早語るまでもない。
これは、ブラドに対する〝戦争〟なのだ。
戦争とは、理不尽で、身勝手、そして大規模な暴力に過ぎず、相手に成す術も与えないで、徹底的に勝利を収めてこそ価値があるもの。
逆に正当な立ち合いの場で、単純な力比べをするのが〝戦闘〟である。
まぁ、それは単純に規模としての考えが、木から森、蛇から龍と、範囲や図体が大きくなったという物の見方が変わった、たったそれだけに過ぎん。
……だからこそ、躊躇う必要もないのだが。
第一、そんな自分の力を抑えつけるような我慢勝負など、面倒なだけだ。
故に面倒事は、さっさと済ませるのが手っ取り早い、そうだろう?
まぁ、そこにブラドの〝命〟が保っていれば尚の事……残っていたら、上々。
だが彼はジャンヌ曰く、しぶとい、というのできっと大丈夫だ。
「―――嗚呼。だからきっと、ブラドは楽しませてくれるだろうなあ。〝本物の戦い〟というものを、あたし……いや、ここはオレか? まぁ、とにかく、準備運動には打ってつけの相手だよ」
ブラドの屋敷に辿り着いていた―――俺は、その眼差しでまるで遠い空を眺めるかのように、屋敷の方へと笑みを浮かべながら見つめた。そして、
―――さて、面倒臭いが……行こうか、囚われのお姫様を救いに。
◇◆◇
「な、んだと……ッ!?」
普段出さないであろう、すっとんきょうな声を口に出してしまった俺は、目の前のガラリとした鉄柵の檻を見て、固まる。
そしてその心境に触れてしまった俺は、感じ、ふと思う。
……もぬけの殻とは、よく言ったモノだよな?
夏場だというのにこの地下牢はやけに寒気があって、じめじめした湿った空気が気持ち悪い。そして、その地下牢に少女がいると聞いて辿り着いたのは良いが、まさかの不在、というか脱獄されているし……おい、これはどういう事か詳しく説明を聞こうじゃないか、
それにブラドもブラドで、何故こんな安易な檻に閉じ込めておくのかが解らん。
―――まぁ、そんな檻なのだが、正直もう少し檻を補強した方がいいんじゃないのかね? せめて俺がこの場に来るまでとかさ。これでは来た意味が無いだろう。
などと考えていた俺なのだが、そもそもな話……
「これ、俺が行かなくても良かったんじゃないだろうか……? いやいや、どう考えてもそうだろう」
しかもブラドの屋敷に侵入したという事から敵対関係を作ってしまった訳で、ここまで来るのに部下であるワンコとじゃれあってきたのだから、これはブラドにどう言い逃れしようとしても、話すら聞いてはくれないだろう。
あんな
ああ、何でかな……これは、どう足掻いても断言できてしまうこの気持ちは……これがお約束というヤツか。
(これでブラドと戦えというのなら……マジで勘弁してほしいわ)
心の底から怪訝そうにしていた俺は、ゆっくりと溜息を吐いた。
とりあえず、脱獄した少女の行方を探すか……
まだ、ここを抜け出してからそんなに時間が掛かっていないようだしな。
その理由も、食べかけの肉や床の痕跡が教えてくれている。
ならばやれる事は、その少女を追うだけだ。
何年も捕まっていたらしい事から金銭、土地勘、身元などといった情報はおそらく皆無だろう少女の行動にあたって、成すべき範囲は限られてくるはずだから、今から向かえば十分に追い付けるはずだろう。
「あー、面倒臭い」
構えていた
特に今回の無駄な労力は、かつて武偵だった頃の護衛任務並に疲れた。
あの護衛対象の令嬢に振り回された時なんか……ああ、思い出したくもない。女装? ははは、残念、俺は男の娘じゃないので需要はないのだよ、ワトソン君。
「……っ、変な過去を思い出した」
過去とワトソンという二つの意味で、思わず振り返してしまった俺は、唸るように手で頭を覆うように抱えた。
いや、彼……彼女に関しては別に変というか悪いという訳でもないのだが、仰天を受けた俺にとって、それほど重要な案件であり、忘れていたい案件でもあったのだ。
だから〝あの
「仕方ない、探すか……」
なので俺はその一件を忘れたいがために、屋敷から出ようとするが……やはりと言うべきか、結局は忘れられなかった。
しかし、〝これ〟はどうしたものか―――
屋敷から出て、教授に頼まれていた例の人物を探すべく、ルーマニア……かつてはワラキア公国の首都とされており、1400年代で税関の特権と、国の利益を得たいがために定められたワラキア史上、最初の商業規則が運用された地方都市でもある―――トュルゴヴィシュテの大通りを歩いて、路地裏に踏み込み、そして……足を止める。
人気のない、物静かな月明りが差す小さな路地。そこで俺は、半分だけ顔を後ろに向けた。
「―――おい、そこのお前。いい加減姿を曝したらどうだ? この殺気……微々たるものだが些か無視するのも、こればかりは面倒と言わざるを得ない」
「……」
「言っておくが、俺は面倒事が大嫌いでな。そっちが出てこないっていうんなら、こっちから仕掛けてやってもいいんだぞ?」
そう威圧に込めた一言を、静かな声音で放った。
ドクンッ。
と、体中から熱く、内なる闘争本能というものが高鳴ってくるが、そんなものは面倒でどうでもいい。
今は、俺の視線の先から―――ザッ、ザッ、と草鞋を踏み鳴らしながらこちらに歩み寄る、1人の煤けた和装の女らしき人物に集中しよう。
「……お前、か? この殺気の正体ってのは」
そう語りかけながら俺は肩に担いでいたリールを取り外し、繋がっていたカラシニコフ自動小銃を、ズボンの脛部に忍ばせていた銃剣を着剣―――そして素早く照準に定めると……和装の少女は、
「―――いかにも」
鋭くて冷たい、凍てつくされるような殺気を平然と放ちながら、短く応えた。
後ろに小さく結った銀色の髪と、鳶色の瞳をした寡黙な少女。現代らしからぬ武士のような恰好で、両肩に上腕部を守る大袖と、胴を防護するべく実用された
それに加え、足並みから、体幹の付け方から彼女が並みならぬ剣士であることは分かる。……分かるが、しかしだ。
「そして其方が―――イ・ウーの教授候補が1人、舩坂鈴雄とお見受けする」
「―――ッ」
何だ、コイツは……〝
そもそも先ほどから全身が熱く、昂っていたのは闘争本能の方ではなく、〝生存本能〟のサイレンだったのだ。
彼女の瞳から宿る膨大な殺意は、触れただけでも切断されそうなほどに、危険で、〝姉さん以上〟のものならば、尚更そう感じざるを得ない。
「ああ。確かにお前のお見受け通り、俺が舩坂スズオだ。で、そういうお前は、どこの所属で、どういう経緯で俺と接触を図りに現れたのか……是非お聞かせ願おうじゃないか」
どんよりと漂う重い剣気が、彼女と立ち会ってから僅かな時間しか経っていないというのに、全身の鳥肌が歪なほどに立ち、不思議と俺の頬に脂汗をブワッと流させる。
息も、途切れ始めた。まだ何も、銃弾の一発も撃たず、一歩たりとも動いていないというのに、だ。
『生きている英霊』『不死身の分隊長』とまで呼ばれた祖父の孫である俺が、そう悟る中―――目の前の彼女は、刀を抜いた。
「某は、鞍馬山の大天狗―――鞍馬山僧正坊、又の名を……
そう、まるで〝疾風〟が自らこちらに迫ってくるかのように……
お久しぶりです、赤須です。
今回の話は如何でしたか?
え、前話で偉人の子孫を出すと言ってたのに、まんま本人じゃないかって?
……あれは、気にしないでください。
ちなみにオリキャラの鬼一法眼はレキのご先祖様でもある源義経のお師匠様で、剣術から兵法、陰陽師として優れていた事で有名な、ある意味ココよりも万武な人物でもあり、剣術を全国に広めた偉大な人物だったりする。
それでは感想・批評・誤字脱字がありましたらよろしくお願いします。