霧がかかった広大な湖。
その畔に立つ紅く窓の少ない洋館。
その門前で二人の
「美鈴ってどれくらい昔から
そう尋ねたのは齢10いかないほどの少女。
金髪紅眼で紅を基調とした服を纏っている。
名前はフランドール・スカーレット。
紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの妹である。
「そうですねぇ……少なくとも、レミリア様が生まれる前からはいますね」
フランドールの問いに対し、そう答えたのは紅髪碧眼、10代後半に見える少女。
中華系の華人服のような緑の衣装をつけている。
名前は紅美鈴。
紅魔館の門番である。
「あれ、それじゃあもしかして
フランドールが驚いたようにそう言った。
実はこの少女、生まれてから数百年ほど
そのため美鈴が自分が生まれる前から紅魔館にいたとは知らなかったのだ。
「ええ、ありますよ」
「へ~そんな前から門前に突っ立ってるなんて、美鈴は気が長いのね」
「いえ、その頃は私、紅魔館内にいましたので……」
「えっ、そうなの!?」
若干同情したように告げた言葉に、思いもよらない答えを返されて先ほどよりも驚くフランドール。
「あはは……レミリア様にも似たような反応されました」
少し苦笑してそう呟いた美鈴。そんな美鈴にフランドールは目を輝かせながら詰め寄って、こう言った。
「
フランドールの両親はとある理由により、フランドールが生まれて間もなく、いなくなってしまったのだ。
そのためフランドールは両親や当時の紅魔館について知りたいのだろう。
そう判断した美鈴は、フランドールの勢いに若干押されながらも、ニコリと笑ってそれに応える。
「分かりました。ではまずフラン様のお父様のことから……」
◆
「旦那様、紅茶をお持ちしました」
「ご苦労。下がれ」
そういって紅茶を持ってきたメイドを下がらせる。
紅茶を飲みながら、以前に比べると随分平和になったものだ……と感慨に耽る。
一見怠惰な一時を過ごしているように見えるこの男こそ、現紅魔館当主である。
青みがかった銀の長髪。背中にはその種族を主張するように、大きな蝙蝠型の翼があった。
(一昔前は、こうして紅茶を飲むことも出来なかったものなのだがな)
当主はそう過去を追想する。
この土地を治め始めた頃は、他の吸血鬼との小競り合いが絶えなかった。
……まぁ、生まれつき
男はそうして、この領地の支配を盤石のものとした。
他の
スカーレット家の名は、いまや吸血鬼界隈で知らないものはいない程だ。
……しかし、しかしである。
「……退屈だ」
この男、根っからの
(他の奴らの方からちょっかいをかけて来なくなったから、正当防衛という大義名分が無くなってしまったではないか……)
男は心の中で舌打ちし、そう考える。
(しかも何が流石吸血鬼随一の名家、だ。そんな風に周りが騒ぎ立てるものだから、表立って大きな動きは出来なくなってしまったのだ。いや出来ないわけではないが、今の状況だと悪目立ちして却って面倒なことになる。)
ままならないものよなぁと紅茶を飲みつつ、独りごちる。
―――とその時男が何かに反応してピクリと動いた。
(これは……いやはや珍しい。しかし……)
いい暇つぶしになりそうだ。と男はニヤリと笑った。
◆
紅魔館近くにある鬱蒼とした森林。
人が住む街から少し離れた僻地にある。
その森の中程を通っている林道を、一人のメイドが歩いていた。
目が醒めるような鮮やかな紅髪。
深い青色のメイド服と相まって、より引き立っている。
彼女は紅魔館のメイドである。
当主と違って人間に近い見た目のため、街まで買い出しに行ったりもするのだ。
今はその帰り道。
紅魔館まで続く林道を通っている最中である。
「♪~」
陽気が良いことも手伝って、彼女は鼻歌交じりに歩みを進める。
と―――
カサッ
と左側の茂みで微かな音がした。
メイドは歩みを止め、茂みに注目する。
が、それっきり音沙汰はない。
メイドは風か何かだったのだろうと思い、前に向き直る。
そこには先程まで無かった人影があった。
「……!?」
驚くメイド。
身体が硬直して止まる。
―――その人物を一言で表すなら金、であった。
腰まで伸びた美しい
スッと通った鼻筋に、整った顔立ち。
十人中十人が「美人だ」と断言するような女性が、微笑みを浮かべて立っていた。
……がメイドがまず感じたのは違和感、それから何とも言えない不安であった。
―――相手は優しげに微笑んでいるのに。
その空気に耐えられなくなったメイドが口を開きかけたが―――
「―――ちょっと道を尋ねたいのだけどいいかしら」
―――相手の方が速かった。
「ッ、あ、はいどうぞ!」
そう反射的に答えてしまったメイドを誰も責められやしないだろう。
得体の知れない不安感に囚われ、正常な判断が出来ない状態であった。それに……
―――女性を視認した時には、もう詰んでいたのだから……
「……紅魔館がどこにあるか知らないかしら……?」
そう尋ねた女性の顔には先程までの優しげな微笑みではなく、淫靡で怪しげな微笑みが浮かんでいた……
◆
「……それから!?それからどうなったの!?」
美鈴に続きをせがむフランドール。
それに苦笑しつつ、美鈴は口を開く。
「その後フラン様のお父様と会われた女性は、最初こそ両者とも衝突したものの次第に意気投合。同族であったということも、それを後押ししたようです」
「その意気投合した後のことも教えて!」
間髪をいれず、そう叫ぶフランドール。
それに対し美鈴はこう答えた。
「そうですねぇ……それに関しては私より、パチュリー様の方が良く話せるかも知れません」
「そうなの?じゃあこれからパチュリーの所行ってくる!ありがとう美鈴!」
そう言うが早いかフランドールは門前から駆け出し、館の中に入っていった。
「……あはは、まぁ元気があっていいと捉えましょうか」
そう言って微笑んだ美鈴は、フランドールが飛び込んでいった館の扉を見つめていた。