コツコツコツ、と廊下に足音が響き渡る。
赤い絨毯が敷かれた窓の少ない通路。そこを歩く一人の女性がいた。
名を十六夜咲夜といい、この紅魔館のメイド長でもある。
今は一つの部屋を掃除し終え、移動している最中だ。
と―――
トタタタタ
―――足音が近づいてくる。
その音に足を止めると、やがて曲がり角から見知った顔が覗く。
「あっ、咲夜!」
現れたのは自らの主君の妹君、フランドール・スカーレット。
何やら何時になく急いでおり―――楽しそうでもある。
「これは妹様。おはようございます」
恭しく礼をし、挨拶をする。
「うん、おはよう咲夜!」
元気よく返事を返すフランドールに微笑ましさを感じる咲夜。
と同時に、少し前までは話すことすらめったに無かったのにね、と内心苦笑いする。
「咲夜は何をしてたの?」
「ちょうど部屋の掃除を終えたところです。―――何かご所望でしょうか?」
食事から少し時間も経っており、ティータイムにしても良い頃合いだ。
そう考え尋ねたのだが―――
「あ、今はねパチュリーのとこに行こうとしてたの!」
「そうですか。それで急いでおられたのですね」
そう答えながらも私は違和感を感じていた。
妹様がパチュリー様に会うためにここまで急ぐ?それも楽しそうな笑顔で。
失礼かもしれないが、私には二人がそこまで親密な仲には見えなかった。
むしろ紅魔館の中では疎遠気味ではなかっただろうか。どちらかというと美鈴のほうが仲が良さそうだ。
―――まあそれも引きこもっていた時までで、今は違うのかもしれないが。
「うん!美鈴にね、私の両親の話を聞いたんだ!そしたらパチュリーのほうが詳しいって言ってたから!」
「なるほど美鈴が……」
……やはり美鈴か。
紅魔館の中でも彼女と妹様の仲の良さは随一である。それは周知の事実なのですんなり納得出来た。
美鈴は、ことコミュニケーション能力においては紅魔館一である。
……それは私が紅魔館に来た時にも遺憾なく発揮されていた。
そんな風に過去を追想しかけた時
「じゃあ私行くね!」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
妹様からそう言われたため、私も言葉を返す。
来た時と同じように笑顔で駆け出す妹様の背中を見送った。
「さて……」
とりあえず妹様とパチュリー様に紅茶とお菓子を届けよう。
そう思い、行き先を厨房に変更。
私は、歩きながら先ほどの会話の内容を反芻しはじめた。
「両親、か……」
……私自身両親に関する記憶はほとんど無い。
そういう意味では、私と妹様は似た者同士なのかもしれない。
私は現状満足しているし、過去を探ろうとは思わないが妹様は違うのだろう。
「……ちょっと羨ましいわね」
過去に執着し過ぎないのも考え物かもしれない。
天真爛漫な妹様を見ているとそう思うこともある。……自分が冷めすぎているせいかもしれないが。
それでも今を取ったのは私自身。それは後悔していない。
あまり考えすぎても思考の海に没落していってしまいそうなので、ここらで打ち切ろう。
そう思い、用意する紅茶のことに考えを移す。
……今日は趣向を変えて、ハーブティーにしてみよう。
候補としてはカモミール、ゲットウ、ゴツコーラといったところか。
「そうね……フラン様はゴツコーラ、パチュリー様はゲットウにしましょう」
二人のハーブティーを決め、厨房に入る。
頃合い的には、もうフラン様が大図書館に着いているだろう。
そう判断し時間を止める。
止まった時間の中でハーブティーとお菓子を用意。
この動作にも慣れたものだ。
時間を止めた状態でそのまま移動し、大図書館の扉の前で解除する。
一拍おいた後三回ノックをし、声を掛ける。
「咲夜です。紅茶とお菓子をお持ちしました」
本来これでは大図書館の奥まで声が届かないが、パチュリー様の術で届くようになっている。
「入っていいわよ」
その返事を聞いてから、ゆっくりと扉を開く。
「失礼します」
そう言って私は大図書館に足を踏み入れた。