これはフランドール・スカーレットが過去を探求し始める前
―――まだ地下に引き籠もっていたころ、在りし日の紅魔館での出来事である。
「行くわよ!美鈴!」
「いつでもどうぞ!」
奇術「ミスディレクション」
虹符「彩虹の風鈴」
両者から眩いほどの光が放たれ空間を埋め尽くす。
ぶつかって相殺されていくが、そこから抜け出た光が双方に迫る。
それを器用に避けながらまた、光を放つ。
彼女たちが行なっているのはいわゆる命名決闘法である。
最近になって胡散臭いスキマ妖怪からもたらされたこの
スキマ妖怪曰く、これからの幻想郷に必要なもの……らしい。
一つ、妖怪が異変を起こし易くする。
一つ、人間が異変を解決し易くする。
一つ、完全な実力主義を否定する。
一つ、美しさと思念に勝る物は無し。
これらを理念とする決闘法である。
その他にも美しさに名前と意味を持たせる、や意味がそのまま力となるなどの文言もあるが。
とにかくそう
―――と 弾幕を打ち終えた二人が地上に降りてきた。
◆
「美鈴の弾幕は綺麗ね。どうやって考えたの?」
そう尋ねる私は所々服がすすけているが、目立った傷跡はない。
「これはフラン様の羽を参考にしたんですよ。咲夜さんの弾幕も見事でした。何か参考に?」
笑顔でそう答える美鈴は、すすけているどころかボロボロだ。
……まあ派手に被弾していたし当然か。
「私はそもそも得物がナイフだから。それを弾幕にしてみただけよ……それより美鈴。貴女当たり過ぎよ。いくら弾幕が見事でも、避けられなきゃダメじゃない」
心持ち厳しい声音でそう言ってみる。
私とて無意味に弾幕をぶち当てたいわけではないのだ。
……怪我をされても困るし。
「あはは……すみません。どうも弾を撃ち出すのには慣れていなくて、そっちに集中してしまうみたいです」
「まったく……要練習ねこれは。次はもっと回避にも気を使いなさいよ?」
困り顔と笑顔が混ざったような美鈴は、あまり気にしていないみたいね。
少しホッとしたけど、一応釘を刺しときましょう。
「ぜ、善処します……」
「……それはやらないと言っているのかしら?」
「い、いえ違います!えーっと……精一杯頑張ります!」
全く調子がいいったらありゃしない。
そこが美鈴の良い点でもあるのだけどね。
「……はぁ、まあいいわ。それじゃ引き続き、門番よろしくね」
「はい!お任せ下さい!」
ビシっと背を正して笑顔でそう言う美鈴を見ていると、まぁ良いかとも思ってしまう。
つくづく私も甘いわね。
……母親がわりの彼女に本気で攻撃できるとは、はなっから思ってないけど。
門前に美鈴を残し、館に向かう。
歩きながら私は、先ほどの弾幕合戦を思い返しはじめた。
美鈴の弾幕は本当に綺麗だったわね。
彼女は私のも見事だと言ってくれたけど、美しさでいったらまだまだね。
もっと精進しなきゃ―――
とそこまで考えた所で違和感を感じ、立ち止まる。
……何かしらこの違和感は
何かを忘れているような……そんな感じだわ。
しばらくその場で思案してみる。―――が
……ダメね、何も浮かんでこないわ。
まぁ本当に重要なことなら後で思い出すでしょう。
私はそう思い直し、再度館に向かって歩き始めた。