―――紅魔館地下 大図書館―――
幻想郷で最も本が集まっている と言われるこの場所は、一歩足を踏み入れるとその膨大な本に圧倒される。
延々と続くかのような本棚の林を抜け、最奥部に到達すると、本が積み重なった書斎机と紫の人影が見える。
この人影こそが「動かない大図書館」ことパチュリー・ノーレッジである。
彼女は分厚い魔道書を読んでいるようだったが、何かに気づくと入り口の扉を見つめた。
数瞬後、バタン! と大きな音を立ててフランドール・スカーレットが飛び込んできた。
「パチュリー!教えて欲しいことがあるの!」
そう言って駆け寄ってくるフランドールを手で制し、パチュリーは口を開く。
「妹様。大図書館ではお静かに。それと部屋に入るときはノックをしなさい。いい?」
少し厳し目の声音でそう言ったパチュリーに対し、フランドールは自然と姿勢を正して答えた。
「あ、うん……ごめんなさい」
そう言って素直に頭を下げるフランドール。
それを見たパチュリーは表情を柔らかくして話を続けた。
「それで?私に教えて欲しいことって何かしら?」
「あ、そうだった!あのね、昔の紅魔館……特に私の両親のことについて知りたいの!」
その言葉にピクッと反応するパチュリー
「……両親のこと?」
「うんそうだよ!」
「……なぜ私に聞こうと思ったのかしら?」
「あ、それはね?最初美鈴に昔のこと聞いたんだけど、途中でパチュリーの方が詳しいって言われたんだ。それでパチュリーに聞きにきたの!」
「……なるほど美鈴ね……」
若干、いや大分こちらに丸投げした門番に心の中で毒を吐くパチュリー。
しかしフランドールの願いを無碍に断るわけにもいかないので、話すことにしたようだ。
と―――
コンコンコン
「咲夜です。紅茶とお菓子をお持ちしました」
どうやら咲夜がティーセットを持ってきたようだ。
「入っていいわよ」
パチュリーは先に、咲夜へ入室を促す。
「失礼します」
そう言って大図書館に入り、手早く紅茶とお菓子を置く咲夜。
そして一礼すると、今度はまるで最初からいなかったかのように一瞬で姿を消した。
◆
「……さて、何から話そうかしら」
紅茶に口をつけたパチュリーはそう切り出す。
何やら不思議な香りの紅茶だったが気にしない。咲夜だもの。
「えっとお父様とお母様の馴れ初め?は美鈴に聞いたの!だからその後のこととかどんな人だったのかを詳しく知りたいな」
すると妹様が自らの要望を話してくれた。
……私自身大図書館に籠もりっきりの身である。
館内にいたとは言え、当時の紅魔館の日常をつぶさに見ていたわけでもない。
ここはあくまで私から見た人物像を話すのが妥当だろう。
「そうね……それじゃあ私見だけど彼らの印象について話すわ。その後のことについてはごめんなさい、私も詳しくないの」
「そうなんだ……ううん、どんな人だったか教えてくれるだけでも嬉しいよ!」
私が詳しくないと言うと一瞬残念そうな顔をした妹様だったが、すぐに笑顔で答えてくれた。
「ありがとう。それじゃあまず貴女の父親のほうから話すわね」
そこで一旦切り、かつての記憶を辿る。
「……彼は一言で言うと鬼ね」
「鬼?……とっても怖い人だったの?」
「そうじゃないわ。いえ、もちろん敵対するものには容赦なかったけど、普段は穏やかで紳士的だったもの」
「それじゃあなんで?」
「……彼はね、強者を求めて止まなかったの。鬼のようにね。貴女の母親と出会った時もそうだったわ」
「えっ……じゃあ美鈴が言ってた意気投合したっていうのは……」
「本気で戦って、お互いの力に感服して、仲良くなったってことよ」
妹様は、思ってもみなかった両親の事実に若干困惑しているようだ。
「……じゃあお母様は?」
「……この前異変を起こしたとき、館にやってきた八雲紫を覚えているかしら」
「あ、うん覚えてるよ。何か不思議な雰囲気の人だよね」
「貴女の母親はあんな感じよ」
「えっ……それはどういう……」
「掴みどころがないの。そのくせ力は人一倍持っていて、頭も回るときた。味方なら心強いけど、敵にはしたくないとはまさに彼女のことね」
一息でここまで言い切った。
妹様は何か考え込んでいるようだ。
紅茶で口を湿らせてから、再度口を開く。
「もっと詳しいことを知りたいならレミィに聞いてみたらどうかしら」
「えっ、お姉様に?」
「レミィもそんなに多くのことを知っているわけじゃないと思うけど、それでも貴女よりは長く接していたでしょうし、聞いてみる価値はあると思うわ」
私の言葉を聞いた妹様はしばらくその場で考えていたが
「……うん分かった!次はお姉様の所に行ってみるね。ありがとうパチュリー!」
そう言うとカップの紅茶を一気に飲み干し、今度は静かに大図書館を出て行った。
急に静かになった大図書館で椅子にもたれる。
……後でレミィに会いに行く必要があるわね。
そう考え、私は紅茶を手にとった。