―――紅魔館 謁見の間 フランドールが去った後―――
先程まで吸血鬼姉妹が談笑していたその場には、妹の代わりに魔女が存在していた。
少し張り詰めた雰囲気が漂う空間。
先に口を開いたのは吸血鬼姉の方だった。
「どうしたパチェ。そんな真面目くさった顔をして。何かあったか?」
「……妹様がきていたでしょ?」
「ああ」
「貴女達の両親についてレミィは何を話したの?」
「いや、話してない」
「……何ですって?」
「フランから両親のことではなく、お前と美鈴のことについて教えて欲しいと言われた。だからそのことについて話した」
まぁほぼお前のことについてだがな と補足するレミリア。
それを聞いて何か考えこんでいたパチュリーは「なるほど、だから妹様は……」「私達と違って……」など何かブツブツとつぶやいている。
「おいパチェ。なにをブツブツと言っているんだ」
ほぼ無視される形になったレミリアが不機嫌そうにそう言う。
するとパチュリーは顔を上げ、話し始めた。
「ねぇレミィ。私はいつからこの紅魔館にいるのかしら」
「……ボケたのか?パチェ」
「いいから」
「……詳しい年までは分からないけど、私が生まれる前……前当主が独身の頃からいたんだろう?」
「ええそうね、その通りよ。じゃあ何でレミィは生まれる前のことを知っているのかしら?」
「……おい、私をおちょくっているのならいい加減にしろパチェ」
「私は至極真面目よ……後でちゃんと説明するから今は何も言わず答えて」
「……その言葉を忘れるなよ?私がそのことを知っているのはお父様やお母様、メイドたちから聞いたからだ。当たり前だろう」
「……そうね。確かに当たり前のことだわ」
「それで?一体この茶番に何の意味があったんだ?」
「それに答える前にもう一つ質問。……美鈴がいつからいるか知っている?」
「そんなのパチェと同じに決まっているだろう」
「そうかしら」
「……何が言いたい?」
ハッキリとしないパチュリーに苛立つレミリア。
それを制しながらパチュリーは告げる。
「ねぇレミィ。前当主が在任中に美鈴に会ったことがある?」
「直接会ったことはないが、いた事くらいは知っているさ」
「どうして?」
「どうしてってそれは……」
「私の時と同じように誰かに聞いたのかしら」
「いや別に聞いたわけじゃ……!」
「……やっと気付いたみたいね」
「……」
「妹様の話を聞いている時から何か違和感があったのよ。ようやくそれが何か分かったわ」
「……何だ?」
「私は当時一歩も大図書館から出ることは無かったわ。文字通りね。そこに入ってこれたのは貴女とその両親のみ。そして貴女達の誰かから話を聞いたわけでもない。もちろん直接会ったことなどあるはずもない」
そこでパチュリーは一旦息を吐くと一気に言った。
「なのに私の頭の中には当時
「……」
「レミィの話を聞いて確信したわ。私だけでなくレミィも同じ。何ら確たるものが無いのに何故か美鈴は当時いたと思い込んでいる。そして当時まだ存在していなかった妹様にはその影響が見当たらない」
「……あいつは一体何なんだ」
「……分からないわ。少なくとも私たちには、ね」
「……ならば直接聞いてみればいいだろう!」
そう言って扉へ進もうとするレミリア。
が―――
「待ちなさい、レミィ」
パチュリーがそれを止める。
「邪魔するなパチェ!この紅魔館の当主として見過ごしておける事態ではない!」
「落ち着きなさいレミィ。いい?本当に危惧すべきなのは私達が思い込んでいたことだけじゃないのよ?」
「なに……?」
「
「じゃあどうする?」
「……私に考えがあるわ。今すぐに出来るものじゃないけど、うまく行けば全てが分かるかもしれない。もちろんもし分かったらレミィにも教えるわ。……だからここは任せてくれないかしら?」
そう言ったパチュリーとレミリアの視線が交差する。
互いに互いが信用できるか吟味しているかのように。
やがて―――
「……分かった。この件はパチェに一任する。……朗報を待っているぞ」
レミリアがそう言い、それに頷いたパチュリーが足早に謁見の間から立ち去った。
◆
誰もいなくなった謁見の間で、レミリアは虚空を見つめる。
「お前は何者なんだ……美鈴」
そのつぶやきに返って来るのはただ静寂のみだった。