―――幻想郷のどこか 八雲紫の住居―――
幻想郷のどこかに存在すると言われる八雲紫の屋敷。
その正確な場所を知っているのは八雲家の住人だけである。
月明かりに照らされた屋敷、その縁側に二つの影があった。
「貴女にしては珍しいことしたじゃない。ようやくその気になった?」
そう言ったのはこの屋敷の主である八雲紫。
微笑を浮かべているが瞳にその色はなく、対面の影を静かにじっと見つめていた。
そこにいたのは……
「さて、どうかしら」
―――髪は艶やかな金色。まるで吸い込まれそうな深い色を湛えた紅の瞳。
細く、しかし力強さも感じるスラっとした肢体は、黒の衣装も相まって誰もが思わず見惚れてしまうような美しさを発している。
もっと言うなら―――そう、紅魔館のフランドール・スカーレットが成長したような。そんな印象を受ける。
しばらく手に持っていたお猪口を弄んでいたが、八雲紫に向き直ると口を開いた。
「別にちょっと気が向いただけよ。ささやかなヒント程度だし、気付くかはあの子達次第ね」
「貴女は気付いてほしいの?それともほしくないの?」
「どっちもよ」
「……全く素直じゃないのね。さっさと楽になればいいのに」
「それが出来るならここにはいないわ」
「違いないわね」
軽口を叩きながら酒を酌み交わす。
二人の妖怪の酒宴は始まったばかり……
◆
「でも結構本気でそろそろいい時期なんじゃないかと思うけど」
宴も半ばに差し掛かった頃、八雲紫が唐突にそう言う。
「もう、またその話?その話はさっき……」
「……これでも結構真剣よ。貴女はどうなの?」
「……分かってるわそれくらい。でも……もう少し今の場所で見ていたいわ」
「……」
「大丈夫よ。いつまでも続くわけじゃないことは知ってるし、その時はしっかり覚悟を決めるわ」
「本当ね?」
「もちろんよ。じゃなきゃヒント出したりしないわ」
「あら、じゃあ私が言っちゃおうかしら」
「それは待ってほしいわね。もう少し私に夢見させてちょうだい紫」
「……本当に大丈夫かしら」
八雲紫は呆れたように溜息を吐く。空を見上げればもういい時間である。
「そろそろ帰ったほうがいいんじゃないかしら。貴女がいるように
「あ、そうですね。それじゃあお暇させていただきます!」
「……ホント切り替え早いわね」
「伊達に長年やってませんから」
そう言うと女の髪が金色から紅色に、瞳は碧に、そして服が緑に変わる。
最後に帽子を頭に乗せれば―――そこには門番が現れた。
「門前までスキマを繋いであるわ」
「ありがとうございます
「止めなさい。気味が悪いわ」
八雲紫がヒラヒラと手を振り早く行くように促すと、門番はニッコリと笑いスキマに向かう。
……が、スキマをくぐる直前で立ち止まり振り返ると、最後に一言残していった。
「それじゃ、また」
「ええ、また」
それだけ言い、一気に向こう側へと進む。
―――その一瞬に見せた表情は、普段の彼女からは考えられない……淫靡で妖艶なものだった。
一旦これで終幕となります。
ですが、この物語はいわゆるプロローグ的な立ち位置なので、次回作に続きます(予定では)
ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
またいつか、お会いできれば光栄です。
それでは