冬が終わり、春を迎えたある日、カズマたちはあるクエストを受ける。
それを切っ掛けに始まる、カズマのラブコメな日々!?


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このすばのSSということで書かせて頂きました。
時系列は正直考えてません、Web版と書籍版がごっちゃになってます。
アニメもいい感じですし、なろうの頃から見てる側とすれば感無量ですよね。
アクアも可愛いし、ダクネスも可愛い。
けどやっぱりめぐみんが一番なんですよねぇ。
もっとカズマとめぐみんのSSが増えるべきだと思うんです。
あと若干ですが、Web版のネタバレがあるような無いような、未読の方はお気をつけ下さい。



I Send Love To You Who Are Dear

唐突だが、俺は死んだことがある。

それも一度だけでなく、二度も三度も。

頭の痛くなる話だが、俺の今住む世界では、そういう話は別に珍しくもなんともない。

人死にがほぼ毎日………場所にもよるが、本当に毎日の様に誰かが死ぬ。

そう聞くと、葬式屋が随分繁盛してそうに思えるが、その実そんな事は全くない。

いや、そもそも葬式屋なんてものがあるのかどうかも疑わしいが、もしも存在したならきっと閑古鳥が鳴いているに違いない。

何故そう断言できるかといえば、この世界にはとても便利なものが存在しているからだ。

それは────魔法。

そう、ファンタジーの世界に必ずと言っていいほど登場する魔法が、この世界には実在する。

その種類は多種多様で、俺も全部の魔法を知っている訳ではないが、大別すれば二種類に分けられる。

殺傷力を持つものと、そうでないもの。

前者は読んで字の如く、どう考えても殺傷目的にしか使えないもの。

そして後者は、殺傷力が無く、日常生活に利用されるようなもの。

例えば火を点けたり、水を出したり、そよ風を起こしたり。

あと、傷を癒したり。

この傷を癒す魔法は回復魔法に分類されるもので、その上位互換は多く存在するが、その中でも別格の魔法がある。

それが、蘇生魔法。

文字通り、死者を蘇らせる魔法だ。

当然ながら万能ではなく、死因が衰弱や病死の場合、つまり外傷以外の場合は蘇生できない。

もっと細かい条件もあるのかもしれないが、俺が知っているデメリットらしいデメリットはそれしかない。

よくファンタジーなんかである、使用者の命と引き換えに発動、なんてものは一切ない。

なんとも便利で宜しいが、なんだか少し複雑でもある。

まあ、それはさておき、俺が葬式屋が云々と言ったのはそういう物が存在するからだ。

命を落とす奴も多いが、蘇る奴も多い。

俺が住んでいるのはそういうのが当たり前の世界で、その所為かどうも人の死に対してもあまり動じなくなったと、自分では思っている。

いや、思っていた。

少なくとも、この瞬間までは。

 

鋭く尖った針が猛烈な勢いで迫り来る。

その先端が俺の胸に沈むよりも早く、横からの衝撃が俺を弾き飛ばした。

視界の端に映ったのは、黒髪と黒いローブ。

呆気に取られる俺を他所に、そいつは笑顔を浮かべている。

ほんの一瞬で、あらゆる策を考えた。

 

手を伸ばす、届かない。

 

魔力を練る、間に合わない。

 

どうにも、ならない。

 

黒い服に、針が沈むのが見える。

止めろ、止めろ、止めろ、止めろ!!

そんな俺の叫びは当然届く筈も無く。

 

無情にも、針は華奢な体を貫いた。

 

頭の中が真っ白になる。

視界が狭まり、その小さな体以外何も見えなくなる。

もう一度、手を伸ばす。

やはり、届かない。

俺は、叫んだ。

 

 

 

 

 

「めぐみぃぃいいぃいぃいいぃん!!!!!!」

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

その日は、暖かい小春日和だった。

いや、実際もう季節は春なのだから、小春日和というのは少しおかしいか。

ただ、それまでは肌寒い日が続いていたので、全く春という実感がなかったのだ。

とにかく、久し振りに暖かい日が来て、俺の気分も自然と良くなっていた。

多分その所為だろう、別に懐が寂しい訳でもないのに、何かクエストでも受けよう、などと言い出したのは。

おまけに普段は一番始めに文句を垂れるであろう堕女神が珍しく同意し、なら私も、じゃあ私もと、まるでコントの様に満場一致。

よし、なら早速行くぞと、俺たちは颯爽と屋敷を出てギルドへ向かった。

 

「随分人が多いですね…………」

 

到着したギルドの中は、めぐみんの言葉通り、いつもよりも人が多いように思えた。

いつぞやアクアが言っていたが、この世界に住む生き物は基本的には地球に住む生き物と同じ生態をもっているらしい。

要するに、冬になれば冬眠するし、春になれば目覚めるということだろう。

暖かくなった影響でモンスターの活動が活発になって、そのモンスターを対象としたクエストも必然的に増える訳だ。

 

「昆虫系のモンスターの討伐依頼が多いわね」

 

ボードを眺めていたアクアが呟いた。

確かに、蝶やら蜂やらといった昆虫系モンスターの討伐が多い。

 

「まだ春先だからな。成虫になったばかりの昆虫系モンスターなら楽に倒せる。数を減らせる内にできるだけ減らしておきたいのだろう」

 

「虫って大量に襲ってくるからなぁ…………」

 

虫が群れるのもやはり地球と同様な模様。

 

「大量の虫の群れ………いいですね。爆裂魔法の的には持って来いです」

 

冬の間、魔物が減った所為で丁度いい的が無いとぼやいていためぐみんが素早く反応した。

クソ寒い中毎日毎日出かけてはその辺に爆裂魔法ぶち込んだめぐみんを運ぶ生活を送ってきた身としては、めぐみん本人に満足して貰う方が好ましい。

下手したら今日も俺が運ぶ事になるし。

 

「じゃあ、このクエストにしましょう!」

 

そう言ってアクアが手に取ったのは、ジャイアントワスプの討伐、と書かれた紙だった。

ジャイアントワスプ、と言うくらいだし、多分蜂の類だろう。

既に名前からしてでかそうだ。

いや、きっと俺が思ってるよりずっとでかいに違いない。

何せ、前に見たこの世界のカブト虫は子犬ほどの大きさがあった。

だがあれの名前は何の変哲もないただのカブト虫。

あれがこの世界の昆虫系モンスターの標準サイズなのだとすれば、このジャイアントワスプとかいう蜂はそれよりも更にでかいと言う事なのではないだろうか。

 

「なぁ………それ大丈夫なのか?」

 

「えー、なにカズマったら怖いのぉ?所詮蜂よ、蜂。女神であるこのアクア様に掛かれば、楽勝に決まってるじゃない!」

 

………アクアは無視するとして。

 

「こう、すげーでかいとか、すげー強いとか………」

 

「ジャイアントワスプはそれほど強いモンスターではない筈だ。駆け出しならまだしも、今の私たちなら遅れをとる事もないだろう」

 

ダクネスの言葉に、めぐみんも頷く。

確かに俺たちのレベルも大分上がっている。

ぶっちゃけ、このアクセルの街付近に出てくるモンスターなら問題なく捌けるだろう。

 

「………じゃあ、良いかぁ」

 

俺がそう言うと、めぐみんの顔に喜色が浮かんだ。

 

「久々に我が爆裂魔法が火を吹く………!」

 

出るのは火どころじゃ無いと思うんだが。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

やって来たのは街からほど遠い森。

鬱蒼と木が繁り、折角の心地良い陽射しを遮っている。

ジメジメとしているし、肌寒い。

正直、余り長居はしたくない場所だ。

 

「虫よりもアンデッドが出そうだな」

 

「はっ、それこそ私の敵じゃないわね!」

 

そうですねアンデッド相手ならアクア超強いですもんね凄い凄い。

 

「カズマ!何してるんですか!早く行きましょう!」

「あー、はいはい分かった分かった」

 

めぐみんがまるでゲームショップに来た子供の様だ。

よほど爆裂魔法を撃ちたいらしい。

先走って妙な事をされても困るので、さっさと先に進む事にする。

しかし、さっきからモンスターの影も形も見えない。

本当にこの森であってるんだろうか?

 

「なぁ、ダクネス。本当にここにモンスターが出るんだな?」

 

「少なくとも、依頼はこの周辺にジャイアントワスプが巣を作ったので駆除してほしい、という物だ。地図も同封してある。流石に場所を間違えたということは無いと思うが………」

 

語尾が尻窄みに小さくなっていったのは、ダクネスも自信がないからだろう。

………巣、巣か。

蜂の巣と言えば、縞模様で、人の頭ほどの大きさのあるスズメバチの巣を、昔図鑑で見たことがある。

そう言えば、一緒に何か書いてあった様な気がする。

うーむ、もうかなり前の事だしなぁ………思い出せない。

 

「ねえ、めぐみん。この穴なにかしら?」

 

「随分大きな穴ですね。モグラでしょうか………カズマは分かりますか?」

 

先行していためぐみんとアクアが何を見つけた様だ。

二人の視線の先にあるのは、直径1メートルはあろうかという穴。

中を覗いて見ても真っ暗で何も見えない。

 

「何だこれ。落とし穴か?」

 

「誰がこんな所に落とし穴を作るんだ」

 

子供の行動力を侮っちゃいけない。

奴らは近付くなと言われた所へ行き、触るなと言われた物を触りに行くからな。

 

「だが、自然にできたものではないだろう。モンスターの巣かもしれないな」

 

「………巣?」

 

土の中に巣。

 

「蟻、ですかね」

 

「それにしては大きすぎる。冬眠していたモンスターが出てきた跡ではないか?」

 

蟻。

そう言えば、蟻と蜂って分類上は親戚にあたるらしい。

両者の生態がよく似ているのは、そういう理由があるからなのだろう。

 

「とりあえず、落ちたら危ないし、埋めちゃいましょうよ」

 

「ふむ、そうだな」

 

三人が地面を蹴って土を穴に被せていく。

俺はそれを見ながら、何かが引っ掛かっていた。

蟻と蜂は親戚。

蟻は土の中に巣を作る。

なら、蜂は?

 

「………あ」

 

そうだ、漸く思い出した。

蜂は大抵の場合、木の洞や切り株なんかに巣を作る。

だが種類によっては、中でも大型のスズメバチなんかは───。

 

「おい、ちょっと待て………!」

 

ヴゥウウウゥゥウン。

空気を震わす様な音が突然響いた。

三人の体が、ピタリと止まる。

音の源は、足元の穴。

音はどんどん大きくなり、数も増えていく。

 

「ね、ねえカズマさん。私凄く嫌な予感がするんだけど」

「奇遇だな、俺もだ」

 

アクアが青い顔をしている。

 

「とにかくそこから離れろ!来るぞ!」

 

その言葉を言い切るよりも早く、穴から大量の黒い影が飛び出してきた。

カチカチと音を立てる顎、空気を震わす羽、黄色と黒の膨れた腹に、そこから生えた鋭い針。

見た目は俺の知るスズメバチと相違ないが、案の定というかなんというか。

 

「でっけぇ………」

 

体長は60センチほどだろうか。

それだけでかければ、当然針もでかい。

もし刺されれば、痛いでは済まないだろう。

 

「蜂って土の中にも巣を作るんですか!?」

 

「モンスターの生態はまだ判明していない点が多いからな。私たちが知らないことがあってもおかしくはない」

 

「んな話は後にしろ!アクア!支援魔法頼む!」

 

「様を付けなさい様を!」

 

文句を言いながらも、アクアが魔法を唱える。

 

「ダクネス!盾役は頼んだ!」

 

ダクネスは軽く頷くと、腰の剣を抜いて前に躍り出た。

 

「任せろ………ふふふ、針責めは初めてだ………悪くないな………!」

 

………発言は無視するとして、流石にダクネスの鎧を貫通するほどの強度はあの針にはないだろう。

 

「めぐみん!ダクネスが時間を稼いでる内に爆裂魔法の詠唱しとけ!」

 

「ふふふふ………我が爆裂魔法で跡形も無く消し飛ばしてくれよう………!」

 

一匹一匹剣で倒していたら切りがない。

こういう時にこそ、めぐみんの爆裂魔法が真価を発揮する。

あとはめぐみんの詠唱の邪魔をさせないよう、露払いをするのが俺の役目だ。

 

「ティンダー!」

 

火の魔法を放つ。

初級魔法で、正直ダメージを与えられるレベルではないが、虫だし多分火は苦手だろ。

………という俺の浅はかな思惑通り、空中に突然種火が現れるとジャイアントワスプたちは明らかにそれを避け始めた。

 

「もう一発ティンダー!!」

 

狙いなど定めてる時間はない、適当にぶっ放す。

どうせ当たっても大したダメージは与えられない。

とにかく、一秒でも長く時間を稼ぐ。

ダクネスも剣を振るってはいるが、止まってる物にも当たらないのに、飛んでる相手に当たる筈もない。

しかしこいつら、本当に数が多い。

一体何匹いるのか、見当もつかない。

 

「カズマ!後ろ後ろ!」

 

アクアの声に振り替えると、後ろからジャイアントワスプが迫っている。

 

「危ねっ!」

 

身を捩ってどうにか躱し、剣を抜いて切りつける。

適当に振った攻撃だが、運よく羽を掠めた。

片方の羽を失ったジャイアントワスプは、地面に落ちてカチカチと顎を鳴らした。

一々止めを差してる暇もない。

飛べないのなら放置だ放置。

数が多すぎる所為で、360度全体に注意を払っておかなければ後ろからブスリとやられそうだ。

 

「ダクネス!大丈夫か!」

 

「ああ………平気だ………平気だとも!」

 

がっつんがっつん突進を食らいながら頬を染めているダクネス。

うん、まあ、多分放っといても大丈夫だろ。

 

「ちょっとカズマ!余所見してると危ないわよ!」

 

「どわっ!?」

 

他人の心配をしてる暇は無さそうだ。

俺の方にも次々とジャイアントワスプが襲い掛かってくる。

 

「危っ!!ねぇ!!」

 

前から来たのを避けたと思えば、今度は後ろから、次は右、その次は左。

動きは速いが、一直線に突っ込んでくるだけで避けるのは容易な事が唯一の救いか。

 

「おいアクア!もう一回支援魔法!」

 

「無理に決まってんでしょ!!」

 

アクアもジャイアントワスプに集られて、必死に杖を振り回している。

あれじゃ何の役にも立ちやしない。

ダクネスも身動きが取れないこの状態では、俺がやられるのも時間の問題。

 

「め、めぐみーん!まだか!?まだなのか!早くしないと俺がサボテンみたいになっちまうぞ!」

 

後方で詠唱中のめぐみんに叫ぶ。

いやほんと早くしてくれないと前衛芸術のオブジェになってしまう。

 

「………お待たせしました………カズマ!ダクネス!アクア!すぐに離れてください!」

 

「待ってましたぁ!!」

 

めぐみんの声が聞こえる。

漸く詠唱が終わったようだ。

巻き込まれないようにさっさと距離を取らなければ。

 

「ティンダァー!!」

 

渾身の魔力を込めて魔法を放つ。

元々大した量の魔力も持ってないが、そこは気持ちの問題。

文字通り、気持ちいつもよりも勢いが強いような気もする火が繰り出されると、蜘蛛の子を散らすように俺の周りからジャイアントワスプが離れていった。

 

「ダクネス!さっさと逃げるぞ!」

 

「わ、分かっている!分かってはいるのだが………」

 

まだダクネスは突進を受け続けていた。

もしかして、動けない?

 

「おいダクネス!今からそこにティンダー撃つからさっさと逃げろよ!」

 

「おいちょっと待てカズマ、流石の私も火を放たれれば間違いなく燃えるぞ!」

 

「ティンダー!」

 

「人の話を聞け!」

 

文句を言いながらも、怒濤の突撃から解放されたダクネスは剣を納めて退避する。

あとはアクアだけだが、何時の間にやら一人で追っ払った様だ。

 

「む、虫って水を嫌がるのね………」

 

花鳥風月をぶっかけた模様。

 

「よし、良いぞめぐみん!ぶちかましてやれ!」

 

「久々ですからね………思い切りいきますよ!」

 

めぐみんの杖を翳すと、宙に大小幾重もの魔方陣が浮かび上がった。

きっちりと重なったその中心に、一本の線が通る。

その線が膨れ上がるのと同時に、めぐみんの声が響いた。

 

「エクスプロージョンッ!!!」

 

凄まじい轟音と共に、視界が真っ白く染まった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

視界が戻って、真っ先に目に飛び込んで来たのは、めぐみんの爆裂魔法でできたクレーターだった。

周辺には、爆風で地面に叩きつけられたであろうジャイアントワスプの死骸が転がっている。

 

「やったか………」

 

ダクネスが呟く。

依頼はジャイアントワスプの討伐、数は問わず、可能な限り多く。

元々何匹いて、何匹倒したのかは分からないが、それは後でめぐみんの冒険者カードを確認すればいいだろう。

 

「ふふふふ………見ましたかカズマ、我が渾身の爆裂魔法を」

 

「残念ながら全く」

 

魔力を使い果たして地面にキスしているめぐみんに、俺の残り少ない魔力をドレインタッチで分けてやる。

余り分けすぎると、今度は俺が大地にベーゼする事になるので慎重に。

 

「てかアクア、お前今回殆ど何もしてないんだからお前の魔力寄越せ」

 

「私の神聖な魔力にヒキニートのカズマが触れたら浄化されちゃうわよ?」

 

「ほざけ堕女神」

 

「痛い痛い!」

 

めぐみんとは逆の手でアクアの顔を掴み、魔力を吸い取る。

腐っても女神なだけあって、アクアの魔力は俺の物とは質が明らかに違う。

………こんなに良いものを持っていても、持ち主がこれじゃあ何の意味もないんだなぁ、と思うと少し涙が出てきた。

 

「ふぅ………ありがとうございました。とりあえず移動くらいは出来そうです」

 

めぐみんが立ち上がって服に着いた土を払い、帽子を被り直す。

 

「ねえめぐみん、魔力を提供した私に何か言うことはないのかしら?」

 

「さあカズマ、クエストも終わりましたし帰りましょうか」

 

「そうだな。ダクネス、行くぞ」

 

「無視しないで!」

 

あーはいはいアクア様すごーいすごーい。

 

「そう言えば………あの巣は、どうなったのだろうか」

砂埃を払いながら、ダクネスが呟いた。

 

「多分爆裂魔法で消し飛んだろ」

 

「心配ですか?」

 

「少しな。まだ中に幼虫もいただろう」

 

確かに、害虫を完全に駆除するには、その元を断つしかない。

そうでないと、また知らぬ間に数を増やされるだけだ。

 

「なら、一応確認しておくか」

 

先程まで巣の入り口があった辺りに近付く。

いや、まあ、今はクレーターなんだが。

しかし、覗いて見ても焼け焦げた断面があるだけで、それらしき物は確認できない。

 

「んー、何もないな。これなら大丈夫だろ」

 

確認終わり。

踵を返してさっさと帰ろうとすると、アクアが俺の後ろを指差した。

 

「カズマ!後ろ!何か動いてる!」

 

「はぁ?何かって何だよ………?」

 

振り替えると、地面が何やらもぞもぞと蠢いていた。

 

「やはり生き残りがいたのか」

 

「みたいだな。めぐみん!アクア!お前らは下がってろ!」

 

再びダクネスを最前に置いて、俺も剣を抜く。

数はそう多くはない筈だ、ダクネスを囮に、俺が叩く。

ボコボコと地面が波打つ。

 

「気を付けろカズマ、来るぞ!」

 

盛大に砂を撒き散らして、地面が割れた。

そしてそこから飛び出してきたのは、やはりジャイアントワスプだった。

ただし───。

 

「おいおいおいおい!幾らなんでもでかすぎるだろ!」

 

60センチはあったジャイアントワスプよりも更に大きい。

1メートルは軽くありそうだ。

 

「カズマ!恐らく女王蜂です!」

 

「だからあんなでかいのか!」

 

さっきまで俺たちが相手をしていたのは働き蜂で、こいつが女王蜂。

見るからに強い、絶対強い。

顎をガッチンガッチン鳴らして、明らかにお怒りだ。

 

「おいダクネス、こいつは流石にヤバイぞ」

 

「ああ、分かっている。私の鎧も、役に立つかどうか………」

 

女王蜂の針は、俺の腕ほどの太さがある。

あそこまで行くと、もはや槍。

もし刺されれば、致命傷は免れないだろう。

 

「まともに相手するのはリスキー過ぎる。一度距離をとろう」

 

今の距離は10メートル程度。

図体がでかくなった分、スピードが落ちているとしても、空を飛べる相手にしてみれば一瞬で詰められる距離だ。

 

「目を離すなよ、ゆっくりだ、ゆっくり下がれ………」

 

それは熊に会ったときの対処法だと思うんだが。

 

「カーズマー!足元見ないと転ぶわよー!」

 

「やかましいわ!んなこと言ってる暇あったら支援魔法使え!」

 

アクアじゃあるまいし、そんな馬鹿丸出しな事を俺がする筈がない………あれ?これフラグじゃね?

 

「痛ってぇ!!」

 

何かを踏んだ、と思った瞬間に、足に鋭い痛みが走る。

目を向けると、右足にジャイアントワスプの死骸がしがみ付いて針を突き刺している。

………今、もう一つ思い出した。

蜂は死んだ後も、体には触れられると筋肉の収縮作用によって、触れた物にもしがみ付き、針を刺すという。

 

《キエェエエェエエェ!!!!》

 

女王蜂が奇声を上げて、猛然と突っ込んでくる。

………やばい、動けない。

 

「させるか………!」

 

ダクネスが颯爽と躍り出る。

剣を抜き、思い切り振りかぶり。

 

「せぇい!!」

 

烈帛の気合いと共に振りかざした。

ああ、ダクネス、今のお前は輝いている。

───攻撃が当たればの話だがな。

 

《キシェエェラ………!》

 

当然の如くダクネスの剣を回避した女王蜂は、そのまま俺目掛けて突っ込んでくる、かと思ったが、そのままピタリと停止した。

 

「何だか分からんがチャンス………!」

 

今の内に逃げ───。

 

「カズマっ!目を離しては駄目です!」

 

───え?

女王蜂に視線を戻す。

奴は針を俺の方へ向け、小刻みに動かしている。

まるで、狙いを定める様に。

 

《グエエェエエェエェエ!!!》

 

「嘘だろおいぃ!!」

 

ボシュゥ、という音と共に、女王蜂の針が俺目掛けて“発射”された。

視認するのがやっとのスピード、避けれる筈もない。

あ、これ死んだわ。

そう思うのと同時に、俺の体を横から衝撃が襲い───。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「はて、ここは何処でしょうか」

 

真っ白な空間の中で、少女───めぐみんは呟いた。

視線を辺りに向けるが、四方八方全て純白で、目の前に神殿らしきものがある以外は何もない。

 

「確か私は、カズマたちとジャイアントワスプの討伐に行って………」

 

目の前でカズマが串刺しになりそうになって、気が付いたら体が動いていた。

要するにそう言うことだ。

 

「ふぅむ………我ながら軽率でしたかね」

 

だが、無意識だったのだからどうしようもない。

考えるよりも先に、という奴だ。

 

「これが惚れた弱味というものでしょうか」

 

あんなダメ男だが、やる時はやるのだ。

成る程、今更ながら、そんな所に惹かれたのかもしれない。

 

「しかし………本当にここは何処でしょうか」

 

改めて辺りを見回しても、やはり誰もいない。

荘厳とした神殿が佇んではいるが、それだけだ。

 

「むむむ………これはどうしたらいいのか………」

 

そもそも今の状況も分からない以上、迂闊に行動すべきではない───。

 

『めぐみーん?聞こえるー?』

 

「アクア!?」

 

突如響いたアクアの声に、めぐみんが空を仰いだ。

同時に、背後に扉が現れる。

 

『蘇生魔法かけたから、もう戻って来れるわよー』

 

「そ、蘇生魔法!?すみませんよく状況が飲み込めないんですけど………!」

 

あたふたと慌てるめぐみんに、アクアは知ったこっちゃねえ、と言わんばかりに続けた。

 

『扉が出てきたでしょ?それに入れば戻ってこれるから!』

 

「え、ちょ、アクア!アクアー!?」

 

返答が戻って来る気配はない。

諦めて、アクアに言われた通り扉をくぐる他に無さそうだ。

 

「蘇生魔法ということは、つまり私は死んだということなのでしょう」

 

まあ、自分の腕よりも太い針に胸を刺されたのだ。

当然といえば当然、さしたる衝撃もない。

 

「………つまり私は傷物にされてしまったという事………これはカズマに責任を取って貰うしか………」

 

 

何やら呟きながら、めぐみんの姿が扉の中に消えいった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

「………みん」

 

カズマの声が聞こえる。

何を言っているかは聞き取れないが、カズマの声は聞き間違えないという自信があった。

 

「…お……ろ………ん」

 

もう散々聞いた声だ、今更聞き間違える筈もない。

………そうで無くとも、間違える事はないだろうが。

 

「起き……め………ん!」

 

だが今は異様に体が重い。

できればもう少し寝かせて───。

 

「起きろ!めぐみん!」

 

「ひやぁっ!?」

 

飛び起きた。

目の前にカズマの顔がある。

珍しく心配そうな表情で、童顔気味の容姿と相まって、まるで気弱な少年のようだ。

 

「大丈夫か?どこか痛む所はないか?」

 

「え、えぇ………何ともないです」

 

カズマの顔に安堵の表情が広がる。

 

「………良かった、マジで良かった………!」

 

───抱き付かれた。

そりゃあもう、ガバッと、思いっ切り。

 

「ちょ、ちょっとカズマ!?何してるんですか!?」

 

「うるせぇ!心配かけた罰だ!」

 

「見てます!アクアとダクネスが見てますから!」

 

アクアはニヤニヤと笑っている。

ダクネスは何処と無く不服そうにしている。

───普段は誘っても乗ってこないヘタレの癖に、こんな時にだけ大胆になるなんて、卑怯だ。

 

ずるい、ずるいです。

 

カズマは卑怯者です。

 

───これ以上惚れさせて、どうしようっていうんですか。

 

「そうですね………けど………」

 

「………めぐみん?」

 

カズマが顔を覗き込んでくる。

近い、近いですカズマ。

 

「………いえ、何でもないです」

 

ドクンドクンとうるさい胸の高鳴りとか、顔の熱とか。

それら全部ひっくるめて、存外に悪くない、と思えた事とか。

素直に伝えれば、あなたも素直に応じてくれるのだろうか。

多分、そう簡単には行かない。

カズマは本当は優しくて、仲間思いで、責任感が強くて。

仲間思いだからこそ、私の想いには軽々しく応えてはくれない。

それは分かっている。

分かってはいるが、でも、もう、駄目だ。

 

「………カズマ」

 

「どうした?やっぱり何処か痛む所が………」

 

「覚悟、してくださいね?」

 

「は………?」

 

呆けたカズマの唇に、唇を重ねる。

ゆっくりと数秒、更にゆっくりと唇を離す。

 

「は………ぁ!?え、め、めぐみん!?」

 

何もキスするのだって初めてでは無いのに。

狼狽えるカズマに、にっこりと笑いかける。

 

 

 

 

「絶対、落としてみせますから」

 

 

 

 

 




最初は、蘇生魔法で蘇っためぐみんにカズマさんがやたら過保護になっちゃう、みたいな話だったんですけど、なんかそれだといつまで経っても終わりが見えてこないんで、めぐみんに漢らしくカズマさんを落としてもらう話になりました。
いや、自分でも何言ってんだろうっていう自覚はあります。
でも実際、カズマさんってどっちかと言えば攻略される側じゃないですか!
………はい、すみません自重します。
えー、一応続きはある予定です。
次はめぐみんがカズマさんを攻略するお話になるかと。
では、機会があれば、またお会いしましょう。

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