蒼い惑星、地下大墳墓に転移する   作:天休観測

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告解

 

「装備を取りに行くだけにしては結構時間かかったね、モモンガさん。何かあったの?」

「息子ができました」

「えっ」

 

 全盛期の装備を受け取りつつ、事の顛末をブルー・プラネットは真剣な面持ちで聞く。

パンドラズアクターの存在そのものは話程度に聞いていたけれど、宝物殿の方には元々あまり行かなかったためによく知らなかった。とはいえ、互いに関係性が良い方へと進んだというのならそれは喜ぶべきだろう。

 

「よかったじゃない。わだかまりが残るよりずっといいと思うよ」

「まぁ、それはそうですけど。なんだか恥かしくて……ブルー・プラネットさんが風呂で言ってたことがよくわかりましたよ」

「はは……しかし、なるほど。危うく『この泥棒猫!』とか言いながら後ろから刺されてたわけか。俺も後で謝っておくべきかな」

「……申し訳ないです、俺の作ったNPCなのに」

 

 本当に申しわけなさそうに言うモモンガに、『いいんだよ』と明るく言ってみせる。実害があったわけでもない。抱かれていた感情もごくごく自然なものだというのに、彼の何を責められるだろう。

 

「そもそも、俺はもっと前にオーレオールに刺されててもおかしくなかったし」

「そういえば、転移してからはずっと彼女と一緒でしたけど、大丈夫そうですか?」

「大丈夫そうどころか、楽しくやらせてもらってるよ。こっちは父娘として、かな?」

「ははは。父親同士、お互い頑張りましょう」

 

 冗談を言い合っている間に、ブルー・プラネット自身の装備変更が完了した。

 

 胴に巻いてある茶褐色のキトン状の防具は『イルミナスの葉』。元々得意な自然系への耐性を落とす代わりに、苦手とする炎属性の魔法を95%軽減でき、さらに範囲魔法のMP消費量が増える代わりに効果範囲を拡張してくれる。

 手に持った錫杖は『不落のシイ』。自然信仰力の80%上昇補正、下位素材のドロップ数と採取数を高確率で増加する常時発動特殊技術(パッシヴスキル)を持つ。

 もちろんそれぞれにはそれ以外にも効果はあるが、細かく調整してあるため全部言っているとキリがない。その他異常無効系と採取・製作補助のアクセサリをいっぱいにつけ、全盛期ブルー・プラネットの完成である。

こうして身に纏ってみると、やはりどこか落ち着くようだった。しっくりくるというかなんというべきか、やはりゲーム内でも信頼していた装備というのは肌に馴染むのだ。

 

「懐かしいですねぇその装備。主装備が神器級とはいえ二つっていうのがヴァイン・デスの難しそうなところですけど」

「まぁ、中衛としてのサポートが主だったから余計にね。サブ武器のメイスもあるけど、わざわざ会合で二本持つ意味はないし、これ以上アイテムつけるとごちゃごちゃしちゃって動き辛いし……うーん、迫力ではやっぱりモモンガさんには負けるねえ」

「一応見た目も含めてロールプレイ一筋でやってきてますからね、そこは負けられませんよ! とうっ!」

「よっ、モモンガさんカッコいい! 世界一!」

 

 肉もないのに胸を張って、ポーズと共に暗黒の後光を出して見せるモモンガの姿はまさに死の支配者、魔王そのものだ。その気合の入れようと拘りはブルー・プラネットもよく理解しているつもりなので、拍手や掛け声で囃し立てる。

 

「ははは、ありがとうございます……さて、そろそろですかね?」

 

 気づけば、もう報告会の時間が間も無くと迫ってきていた。

 

「あ、もう? うわぁ緊張してきた……」

「練習通りに行けば大丈夫ですって。頑張りましょう」

「頑張ろうね……ああいや、頑張ろうか、モモ……アインズさん?」

「そうそう。いい感じですよ」

 

 練習通りにモモンガへの呼び方を変え、アルベドと合流すべく、二人は執務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アインズ様、ナザリックのシモベ一同、御身の前にそろいました。何なりとご命令を」

 

 玉座に座したアインズは、平伏するNPCたちを眺めた後、スタッフを床にたたきつけ、重々しく口を開いた。

 

「よくぞ私の前に集ってくれた、ナザリックの我が同胞たちよ。まずは感謝の言葉を――と言いたいところだが、お前たちも気になっていることがあるだろう? 何人かは既に顔を合わせているだろうが、ここナザリックにアインズ・ウール・ゴウンの仲間が一人、ブルー・プラネットが帰還した」

 

 一部のNPCたちがわずかに身を震わせる。それは広がっていた静寂を一瞬だけ破ったが、水に浮かんだ波紋のように続くことはなかった。

 

「私は彼を歓迎しよう。――入れ、我が友よ」

 

 玉座の間が、再び開かれる。そこに立っていたのは、捻じ曲がった木の幹に何本もの蔦が巻きついて、その隙間を埋めるように葉が覆う怪物の姿だった。

 錫杖をかつ、かつと突きながら歩く至高の存在のその後ろには、紅白のはっきりした巫女服を纏う美女が付き従っていた。

 怪物はそのまま玉座の元、アインズのそば――アルベドとは反対側の隣に立つ。NPCたちの方へと振り返ると、錫杖の音が止まった。

 

「やあ、諸君。こうして公の場に立つのは些かむず痒くもあるが――我が友人、アインズからご紹介を受けたとおり。ブルー・プラネット、ここに帰還した」

 

 森の枝葉が風に揺られ、その葉同士が擦れ合ったようなざわざわとした声が玉座の間に広がる。

 

「私やアインズさんに尋ねたいことも積もるほどあるだろう。だが、私はまず君たちに謝らねばならないことがある。ナザリックを離れたことについてだ。――謝罪しよう。君たちと、アインズさんを置いて行ってしまったことを」

 

 頭を下げた至高の存在に、NPCたちは狼狽した。謝罪などもったいないと、恐れ多いと声が上がる。

 見かねたアルベドがそれを咎めようとするが、それはブルー・プラネットが腕をあげたことにより制された。静寂が再び広がる。

 

「君たちから我々に送られている忠誠は、よく理解しているつもりだ。だからこそ、それに背くような行為をした私は謝罪をしなければならない。そしてそれは、『至高の四十一人に何が起こったのか』を説明することでこそ払拭できると、アインズさんは俺に仰った」

 

 ブルー・プラネットだけではない。NPCそれぞれの創造主も含めた御方々が、『お隠れ』になった理由――。シモベたちは固唾を飲んで、耳を凝らした。これから御方の口から語られる言葉の一つも聞き漏らさないようにするために。

 そんな彼らの覚悟が決まったのを待っていたように口を閉じていたブルー・プラネットが、いよいよその重々しい口を開く。

 

「先ず俺たち四十一人は、このナザリックを含むユグドラシル世界の他に、『リアル』という世界に行くことができた。俺たちはそこで生まれ、育ってきたからだ。『リアル』は環境が破綻し、自分たちでは手も足も出ないような敵が跋扈した、この世の何よりも恐ろしい世界だ。その『リアル』に行くことができるのは、ナザリックでは俺たち四十一人のみ。しかも、ユグドラシルに存在するアイテムの類は世界級アイテムでも例外なく、何一つ持ち込むことができない」

 

 かつて創造主たちから聞いた覚えのある『りある』という言葉はそんな意味だったのか――聞き覚えのある者は身震いした。

 

「当然そんな世界、誰も望んで住んだりしなかった。俺もアインズさんもだ。新たに見つけたユグドラシルという地で皆で冒険し、このナザリックで生活し始めてからは、二度とあちらに戻りたくはないとだれもが考えていただろうな。だが、そんなある日――仲間の一人が、リアルに行ったまま帰ってこなくなった」

 

 ヒュッと、誰かが息を呑む音がした。

 

「事前に彼がリアルに行くという相談を受けていたアインズさんは、何があったのかがすぐにわかった。そいつは現実で、どうしても戦わなければならない相手がいると言っていたそうだ。それが口火になったように、『リアル』に次々と脅威が現れるようになった。ある者はそれがナザリックを脅かす存在であると気づき、それに対処すべく動いた。ある者は正義に燃え、『リアル』に蔓延る悪人共を断罪しに向かった。ある者は『リアル』に存在した親兄弟を救うために勇敢に挑んだ。そして、17人目の遠征者になった俺は――あの星空を創り、考えた。『リアル』でもこれができないかと。ユグドラシルとは何もかも法則が違う世界だが、あの破滅した環境を塗り替え、俺の求めた理想の世界にできないかと、そう考えた。これがもし成せれば、未だ還らない我が友たちの助けになると信じ、俺はアインズさんに許可を得たうえで、ナザリックを離れた。」

 

「……して、ブルー・プラネット。その結果、『リアル』ではお前に何があったのかな?」

 

 玉座に坐すオーバーロードは、隣に立つ友に催促するように言う。そんな問いにブルー・プラネットは首を横に振り、どこか諦めの混じった声で答えた。

 

「来る日も来る日も、すべてを消耗するような日々が続いた。何度も帰還を試みたがそれも無駄だったよ。友を助けるなど大口をたたいたくせに、何もできず、『リアル』の脅威に――殺された」

 

 驚愕と困惑。玉座の間を渦巻いていた感情はそれに加えて憤怒だった。しかしこの場がどういうものかも理解している為に、再び静まり返るのも早かった。

 

「……まぁ、その結果、俺はこうしてここに立っているわけだ。重ねて詫びよう、アインズさんの友を――お前たちの創造主を救うことができず、無力な俺を許してくれ」

 

 以上だと言わんばかりに、ブルー・プラネットは再び頭を下げる。

 あまりの事実に泣き出してしまうNPCもいる中、いち早く立ち上がり、動いたのはアインズだった。

 

「守護者達よ、狼狽えるな。私がこの事実を黙っていたのは、お前たちの心にこうして不安を抱かせると懸念していたからだ。だが、今こうして正直に伝えたのには当然理由がある。ブルー・プラネットが帰還した――これこそが理由だ。つまり、『リアル』での死は、このナザリックへの帰還という事象とつながっているということだ。今この場に帰還を果たしていない友たちは、皆無事だろう。脅威を処理できていないにしろ、今も戦っているに違いない。ならばこの地を、ナザリックを彼らの道しるべとして残さなければならない。それこそが、この地を守るために『リアル』へと挑む我が友に報いる方法だとは思わないか」

 

 アインズは、それがただの望みであると知っていながら、強調するように声を張り上げる。玉座の間に広がった支配者の言葉は、皆の迷いを断ち切るのには充分だった。

 一歩前へと踏み出し、ブルー・プラネットは続ける。

 

「俺が恥ずかしながらもここに帰還した理由は、そういうことだ。君たちがそんな愚かな俺を許してくれるというのであれば、その許しをありがたく受け取り、ナザリックと――アインズ・ウール・ゴウンのために、永久に働くことを誓おう」

 

 至高の御方が帰還されることを拒める者が、この場に居るだろうか。より一層の忠誠を乗せ、臣下の礼は続いた。

 アインズはその様を眺めながら、今一度確認する。

 

「さて……最初に言った通り、私はこのナザリックに帰還した、勇敢な戦士を快く迎え入れたい。彼の罪を許せず、それを認めないという者がいれば、今この場で立ってそれを示せ」

 

 そんな者はいないと、冷静さを取り戻したNPCたちは礼を持って応える。アインズは鷹揚に頷いた。

 

「では、我が友ブルー・プラネットは本日より、組織の二番手として働いてもらうこととしよう。私と彼は対等な関係ではあるが、職務上の立場は私の方が上だと心得よ。ただし、私がナザリックにいない時の全権は彼に委託することとする。皆、異論はないな?」

 

 シモベたちの反応を確認してから、互いに堅く交わしたのは握手だ。それは互いに信頼し合うという証であり、支配者に並び立つ存在が増えたという事実。

 そして、握った手を離したアインズは再び守護者達へと向き直す。

 

「さて、そうすると……アインズ・ウール・ゴウン。この名を司る存在が、二人になったわけだ。だが方針は変わらない。このアインズ・ウール・ゴウンを、全世界の耳に入るほど大きな物に、不変の伝説とするのだ。我が同胞達よ。新たな仲間とともに進むこれからのナザリックのために、さらなる働きを期待しているぞ!」

 

 そこに集った者たちに広がった歓喜の感情はまるで目に見えるかのごとく色づいていた。玉座の間をうねる歓声に、興奮しないものはその場にはいない。

 

「アインズ様、万歳! ブルー・プラネット様、万歳! 至高の御方々、ナザリック地下大墳墓すべてのものより絶対の忠誠を!」

「アインズ・ウール・ゴウン、万歳! 偉大なる御方々に、私どもの全てを奉ります!」

 

 守護者に始まり、NPCたちも続いて賛辞を送る。

 

 鳴り止まぬ歓声、それを治めたのはアインズがスタッフを叩く音だった。

 玉座の間に集ったすべてのものが、音を立てて頭を垂れた。以前この場で行った時と同じ動作で、しかし――その祈りを捧げる対象、主人が二人に増えたことにより、その忠誠はその時よりも増していることは確実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック全体の集会は、これにて終了。解散の指示を出された後、玉座の間に残ったのはモモンガ、パンドラズ・アクター、アルベド、ブルー・プラネット、オーレオール・オメガ、階層守護者のみ。

 モモンガは玉座に深く腰掛け、比例するように息を深く吸う。

 

「――さて、では報告会を始めよう。せっかく皆が集まったのだ、有意義なものにしなければな?」

 

 玉座に残る守護者一同が、再び静まり返る。今度は恐怖によって、だ。

 

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