蜥蜴人の集落への遠征。
彼らの湖を利用した超位魔法の適用範囲実験――せっかくの湖を凍らせてしまうのは気が引けたが――に、ガルガンチュアの起動。そして蜥蜴人の代表との対話を終え、守護者及びモモンガ達はアウラが建造途中の要塞内にいた。
一方ブルー・プラネットはこれが初の外出。モモンガから要塞周辺であれば好きに動いて良いと言われていたので、マーレを引き連れて――
「あ、あの……何をされてるんですか……?」
――そこら中の石をひっくり返して回っていた。
要塞周辺の敷地は驚くほど広く、ブルー・プラネットたちがいたのは森に入るギリギリのところだ。その近辺には幼児の頭ほどのサイズをした石が転がっている。マーレが尋ねる間にも、造物主は新たな石に手をかけた。
「石をひっくり返してるんだよ」
「い、いえそういうことじゃなくて……」
「おっ、いたいた!!」
歓喜の声と共に、しゃがみこんでいたブルー・プラネットはさらに体勢を低くして、土を浅く掘り返している。
マーレがそれを横から覗き見ると、造物主は大層上機嫌な様子でその手にあるものを見せる。
「じゃーん、ミミズ」
「……え、え、ええと。はい、ミミズ、ですね」
「ミミズはしばしば土壌の健康度合いの指標として用いられる生き物だ。もちろん種類にもよるけど、これがいるということはこの大地は健康である、ということだね」
「だ、第六階層の畑でも時折見かけますね」
「それは良いことを聞いた。土壌改善の意味合いでも利用されることが多くてね。例えば、我々は大地に栄養を与える魔法が使えるだろ? それに近いことを、ゆっくりと時間はかかるがやってくれる貴重な存在だ」
リアルではミミズを使った環境改善の研究をしてる人間もいたなぁと懐かしい記憶を辿りつつ、そっと地面に戻して土をかける。
「ここは素晴らしい。空気は澄み、草木は青々と生い茂って、水もどこまでも清いままだ。ナザリックが一番だとは思うが、こうして外へ出るのは心躍るよ」
「そ、そうですね! ぼ、ぼくも素晴らしいと思います!」
「お、マーレもそう思ってくれるか! 嬉しいね」
そう言って新しい蔦で頭を撫でてやれば、えへへと可愛く照れ笑顔を浮かべる。
「こ、この世界は、ブルー・プラネット様の理想としていた世界に、近いものなんですか?」
「うん、そういうことになる。リアルでは手に入れることのできなかった美しいものでいっぱいだからね。」
「……今も、手に入れたいとお考えですか?」
「ん? まぁ、手に入るなら欲しいかな。綺麗な風景だとか自然っていうのは、目にするだけで十分心満たしてくれるけどね」
「そ、そうですか……そうですよね、そうですよね」
その言葉を確かめるように、マーレは何度か頷いていた。
事実、この世界は美しい。ゲーム内と映像資料でしか見たことのない光景が広がっていて、手を伸ばせば届く距離にあるというのは自制するのが難しいほど。
正直に言えば今すぐにでもあの蜥蜴人の集落のあった湖の方に走って行って水に飛び込んでみたいところだが、ユグドラシル時代、似たように暴走してギルドメンバーに迷惑をかけたのを思い出す。あの経験がなければこうして大人しくはしてられないだろうな、と、かつて叱ってくれた友人たちには頭がさがる思いだ。
「さて、あんまり長居してアインズさんの気を揉ませてもまずい。そろそろ要塞のほうに戻ろうか」
「は、はい。 ……それで、あの……」
「うん?」
マーレは後をついて来ながらも、何かを言いたげにして、しかし同時に何かを気にするように口をモゴモゴさせている。
「マーレ、言ってみなよ。俺にできることなら手伝うからさ」
「あ、ええっと……そ、その、僕じゃなくて、お姉ちゃんのことなんですけど……」
「アウラ?」
今はモモンガの方のグループにいて、この場にはいない。そんな双子の姉の名前を挙げれば、マーレは頷いて答えた。
「こ、この要塞が完成途中なの、お姉ちゃんが悪いわけじゃないんです。なんていうか、えっと、その!」
ブルー・プラネットはその言葉に驚く。
この建物はアインズの命令で建造された非常時用の第二拠点なのだが、この見た目でまだ未完成だと言うのだ。言われてみれば、やたらと広い敷地はまだ建物が延長される予定なのだろうし、今は止んでいるが工事作業途中のような箇所も多い。注視すればところどころ壁紙が欠けたようなところがある。
元々はボロ屋に住んでいたブルー・プラネットの価値観からすれば、今のままでも十分立派な出来栄えだと思うのだが、つまりは姉を責めないで欲しいということだろう。
弟としての必死の姉思いに、ブルー・プラネットは微笑んだ。
「大丈夫、このくらいじゃ俺はアウラを叱ったりしないよ。そもそも想定した期日より、ここを使う機会のほうが早かっただけだからね。きっとアインズさんだって責めないさ」
「ほ、本当ですか……あっ、その、疑うわけじゃなくて、ないんですけど!」
「ははは、落ち着きなって。本当だよ。モモンガさんが優しいのは知ってるだろう?」
その言葉で納得したようで、マーレはホッと胸を撫で下ろした。
この双子、性格は真反対だが双方実に仲が良い。創造主たるぶくぶく茶釜、そしてその弟のペロロンチーノの関係性を彷彿とさせる二人の姉弟愛は微笑ましいものだ。……実際は結構厳しかったと記憶しているが。というか弟としてのペロロンチーノとマーレはあまりにも似つかないから微妙に違う気がしてきた。
そうして部屋の一つにたどり着き、開くと共に
「……お前ら黙れ」
という気の抜けた友人の声が耳に入る。植物の身体に耳は無いが。
「ああ、ブルー・プラネットさん。もう外は充分なのか?まだコキュートスの戦闘開始までは時間があるぞ」
「大丈夫大丈夫、充分堪能させてもらったよ。あとで湖の方も見学させてもらえば最高だね」
「ははは、考えておこう」
どことなく笑いが乾いていたことを感じ取りつつ、部屋をぐるりと見回す。入った時に聞こえた命令からか守護者各員――既にヴィクティムは帰還したようだが――は口を閉ざしている。
そしてさらに一人が足りないことに気づき、モモンガに尋ねようとして、その横になぜか空の玉座が放置されているのが目に入った。
それが真っ白な骨でできているあたり、きっと彼はうまいことそれに座ることだけは回避したのだろう。そこまでは納得できたが、代わりに座椅子に成っている息の荒い少女の姿には理解が追いつかなかった。
「ええと、アインズさん? それは……うん、いい椅子に座ってるね」
「え? あっ、あ! いや、違う、違うんだブルー・プラネットさん。これには深い訳があってな」
「いやいや、シャルティアに与えることになった罰だよね、きっと。うん、それ以外に我らの優しいアインズさんがそんなことするわけないじゃないか。そうだよねデミウルゴス?」
「はい。流石はブルー・プラネット様、アインズ様のご意向を直様推察されるとは」
「なんでそういうところは察しがいいのかなブルー・プラネットさん!?」
『ブルー・プラネット様もいかがですか!』などと嬉々として誘うシャルティアから目を逸らす。多分ブルー・プラネットが乗ったら潰れる。
その次に視線が捉えたのはコキュートスの戦闘風景が映る予定で配置されたのであろう《水晶の画面》だ。
「これは――」
そこには白い蜥蜴と黒い蜥蜴が絡み合う様がライブ中継されていた。否、ただ絡んでいるだけではない。自然生物の資料を資料室の端から端まで見漁ったブルー・プラネットは即座に判断できる。
「――蜥蜴の交尾じゃないか!! すごいな、水晶の画面越しとはいえ本物を見られるなんてなかなかあることじゃないよ! 彼らは卵生なのかな? それとも卵胎生? 録画、誰か録画できる人――いないか!! そういうアイテムは残念ながら持ち合わせてないし――ああ待て待て待てフィニッシュの体勢に入るんじゃない! アインズさん、今からあの集落まで直接見学に行こう! これは貴重な資料として――」
そう話を振って、気づく。座したままのオーバーロードが、〈絶望のオーラV〉を発しながら震えていることに。
「……ブルー・プラネットォオオオオ!!!!」
自制とは得てしてちょっとしたことでぶっ壊れてしまうものなんだな……。
モモンガからの説教を受けながら、ブルー・プラネットはいやに冷静に反省していた。
「怒られちゃった」
「はい……」
コキュートスの戦闘は鮮やかに、しかし見事な勝利で終わった。この世界に来てから初めての本物の戦闘――命の奪い合い。蜥蜴人の戦士、その最後の一人がすっぱりと太刀斬られたのを見て、ブルー・プラネットは少しの安堵を憶えた。水晶の画面越しに見る映像は、どこかゲームをしていたころのモンスター戦とよく似ている。敵対するモンスターをなんとか倒し終わった、そんな安堵だった。
その光景の上映後、直前に暴走していたブルー・プラネットは蜥蜴人との接触を遠慮するようにと別室待機を命じられ、部屋の隅でいわゆる体育座りをしてしょんぼりしていた。横で一緒になって体育座りしているマーレは先ほどと変わらず付添である。
「いやね、マーレにはあんまりわからないかもしれないけど、あの映像はとても貴重なものなんだ。蜥蜴人に限らず、その生き物がどうやって子孫を残すか。文面や絵でその方法が残っていても、実際その行動をとっているところを目にするのに勝る勉強はないと俺は思っている。今までは資料でしか知ることができなかったから我慢していたんだけど、いやぁ……ここなら色々実験できるかもしれないなぁ」
「そ、そんなに貴重だったんですか! ぼく、なにをしてたのかよくわからなくて……」
マーレの言葉には納得も行く。よくよく考えれば、彼ら双子は守護者の中でも子供――性教育も済んでいない可能性は大いにある。というか、言葉をそのまま受け取ると済んでいないはずだ。
一応知識の上では知っていて損のない内容である。暇なときにでも教授してあげるか、それとも他の守護者にでもお願いしておくか。
どちらにせよ急ぐような案件ではないなと一人で納得し、水晶の画面を覗き込む。映っているのはモモンガたちがいる蜥蜴人の集落だ。モモンガからの伝言によれば、戦士の一人を復活させることでさらに彼らからの信心を深める目的があるという。ついていきたかった。
画面の中のモモンガが、空間から蘇生の短杖を取り出す。名前の通り蘇生魔法を使うための道具だが、今回はそれを使うつもりなのだろう。レベルの低い蜥蜴人なら大したコストもかからず蘇生できるはずだ。
このまま黙ってみているだけも退屈なので、ともにその映像を見ていたマーレに声をかけた。
「そういえば、マーレは魔法詠唱者だろう? 先のコキュートスのような前衛、いわゆる白兵戦はどういう気分で見るんだい?」
「どういう、というと……えっと、どういうことですか?」
「んん、今のは質問が悪かったか。もちろん誰もがコキュートスの勝利を確信していたと思うけど、例えばマーレは何かあの戦闘を見て、この動きは参考になる、とかあったかな?ってこと」
改めて聞き直せば、マーレはうーんと唸って考え込む。いわゆる雑談だからそこまで真剣に考える必要はないよ、と言おうとも思ったが、彼なりの真剣な対応を受け取ることにした。
「え、ええと。ぼくの『シャドウ・オブ・ユグドラシル』には殴打ダメージに補正がかかるので、接近戦はすごく参考になります。とくに魔法詠唱者は接近されると危険だ、とぶくぶく茶釜様に教えられているので」
「なるほどなぁ。そういえば先の戦闘も、コキュートスはほとんどその場から動いてなかったから、状況としては『相手に近くまで踏み込まれた』と言えるね。そういう意味では参考になるものだったか」
杖だけでなくメイスの類も扱えるドルイドという職業である以上、近接戦闘もある程度想定しておかなければならない。どこかでそういう訓練をしておくべきだなぁと思いつつ、マーレの『腕がいっぱいあるコキュートスさんの真似はできませんけど』という冗談に、腕がたくさんある闇妖精を想像してつい吹き出してしまった。
見れば、モモンガ達の方も既に蜥蜴人の蘇生が終わったようだ。戻って来ればすぐにでもナザリックに帰還することになるだろう。出立の準備を整えるようマーレ及びシモベに伝える。
ブルー・プラネットの初めての外出は、こうして少し寂しく終わりを迎えた。
カラリ、と誰かのグラスの氷が身動ぎする音がした。
小粋なBGMのかかる、そこはナザリック地下大墳墓第九階層に在するバー。店のドアにはclosedの板がかけられ、中にいる客は六人――人ではないモノが多いが――のみ。
第五階層守護者コキュートス。第六階層守護者アウラ。第七階層守護者デミウルゴス。第八階層守護者ヴィクティム。第八階層桜花聖域守護者オーレオール。そしてナザリックが造物主、至高の四十一人の一人ブルー・プラネット。
これはブルー・プラネット発案の交流会だ。遅れたとは言うものの、わざわざ手間をかけて挨拶に来た四人の守護者とはあまり話す時間を取れていない。少しでも彼ら、自分の友人が造った存在と交流をかわしたいというのが本音だった。
各々好きなところで自由な相手と、飲み食いを楽しんでいた。事前に予約を入れていたため、給仕担当には副料理長だけでなく料理長まで揃っている。
最初にカウンター席、ブルー・プラネットの隣に座ったのはコキュートスだった。
「コキュートス、今日の戦いは見事だった。これからの任務も励むようにね」
「ハッ、アリガタキオ言葉。全霊ヲモッテ務メル所存デアリマス」
「まあまぁ、お酒の席で硬いのは無しだ。実際のところどうだい、不安はある?」
「……恐レナガラ、アリマス。ワタシ一人デハ難シイデショウナ。ダカラコソ、手ヲ差シ伸ベテ下サル御方ヤ守護者ニハ頭ガ上ガリマセン」
払拭したとはいえ、どうやら不安を抱えているようだ。そして、もう一つは緊張。
上司との飲み会など普通は緊張して当たり前である。話題は選ばなければならないし、所作にも気を配らないと何を言われるかわかったものではない。その緊張感はブルー・プラネットにもよくわかる。
とはいえ、デミウルゴスとオーレオールは親しげに話に華を咲かせているし、アウラとヴィクティムも先ほどからスナックやら料理やらを食べまくっているあたり、これはコキュートス特有の雰囲気なのかもしれない。
激励の言葉はかけた。もう一つ、シャルティアの時のように心を柔らかくする物が必要だろう。そう思い立ち、グラスを磨いていた副料理長に声をかける。
「副料理長、『建御雷』は何号まで出来てたかな?」
「私の知り及ぶところでは、七号かと。かなり試行錯誤なさってましたから」
「ソレハ、モシヤ……」
「君の創造主、武人建御雷さんの作った酒だ」
コキュートスからオオという感嘆の声が上がる。彼はナザリックにおける武器・装備知識に関して右に出る者はいないが、こう言ったものには明るくないのだろう。無理もない、きっと建御雷もコキュートスの前でそんな話はしなかっただろうし、副料理長も守護者の前とはいえ、自分から至高の存在のレシピを簡単に口に出したりはしないはずだ。
「じゃあ建御雷七号を二つ。よろしく頼むよ副料理長」
「お任せください」
そもそもの電気ブランなんていうのは、ざっくり言えば『アルコール度数の高い、舌先が痺れるような感覚のする酒』であって、電気と言うのはさほど関係ない。
が、武人建御雷という男は違った。名前から完全に勘違いし、『酒に電気を合成する』という意味のわからない力技をやってのけたのだ。この世界であれば、痺れるような味わいというのは物理的なモノに変貌を遂げるに違いない。酩酊よりも麻痺の方が作用時間が長かったことには評価者たちも苦笑いだったのを覚えている。
そんな力技をどうやって再現したのか、時折バチンバチンと青い火花を散らす酒が二人の前に出された。引火しないのは物理法則が変わっている影響なのか、そもそもこの火花のようなものは見た目だけで、全く違う作用を起こしているか……。
「俺も飲むのは初めてなんだけど、多分麻痺耐性はつけておいたままの方がいいと思うよ」
「ハイ……ソレデハ」
乾杯、とグラスを合わせれば、揺れた酒がパチンと音を立てる。
コキュートスの表情は常人であればわからないはずだ。表情筋がないのだから。
しかし、
酒を味わう彼は、微笑んでいるように思えた。創造主との思い出を懐かしんでいるのだろう、硬かった雰囲気も少しだけ柔らかくなった印象を受ける。
そんな彼を邪魔するのも野暮と、ブルー・プラネットもグラスを煽る。
液体が喉奥を滑れば、電撃に身を焼かれるような感覚が糸を引く――。
「――コレハ、武人建御雷様ガ好ミソウデスナ」
「確かに、彼なら面白がるだろうな。耐性さえつけてれば充分楽しめそうだ」
コキュートスは、感動した。隣で、まるで朝露を口に含むかのように静かに酒を飲む御方が、自分にこの酒を教えて下さった――その真意を汲み取って。
武人建御雷様は至高の御方でも有数の戦士だった。その名を冠する酒を口にすることはシモベとして、被造物としても光栄の極み。この酒につけられた銘のように、誰よりも力強い戦士としてこれからの務めを果たすことこそ、至高の御方の望みであると。
(──ブルー・プラネット様ニハ、ヨリ一層ノ忠誠ヲ捧ゲナケレバ)
ブルー・プラネットだけではない。大墳墓の支配者であり、失敗した部下である自分の言葉を聞き入れ、赦して下さったアインズにもだ。二度目の失敗はあってはならない、そう覚悟を決めたコキュートスはグラスを空にして、席を立った。
「今宵ハ酒席ヲ共二出来タコト、心ヨリ御礼申シ上ゲマス。名残惜シクハアリマスガ、ワタシハコレヨリ蜥蜴人ノ統治ニツイテ考エヨウト思イマス」
「ん、そうかい。まぁあまり根を詰めすぎないようにね」
「ハッ。失礼致シマス」
ドアベルを鳴らして、コキュートスは退室した。追加の酒を注文しようと顔を上げると、デミウルゴスから『お隣、よろしいでしょうか』と声をかけられる。もちろん断る理由がないためそれを承諾すれば、悪魔は見惚れるような所作で席に腰かけた。
「うちのオーレオールはもう口説き終わったのかい?」
「滅相もない。魅力的な女性ではありますが、まさかブルー・プラネット様の御前でそのようなこと」
「ははは。それもそうだ」
君はそんな節操なしじゃないものね、と冗談を交えつつも、アウラと話し始めたオーレオールを横目に見る。
「守護者統括殿も、彼女ほどの慎みを持っていただければいいのですが」
「ん、面白そうな話だ。アルベドはずっとあの調子なのかい?」
アルベドはやたらとモモンガに心酔している。というかナザリックのシモベは大体がそうだが、その中でも特に盲目的だ。それを隠そうともしないあたりが尚更。デミウルゴスが愚痴っぽく口にするのだから、別にモモンガの前でだけでああだというわけでもないのだろう。
「ええ。しかしそれでも優秀に仕事をこなしてはいますので、被造物としての矜持は持っているようですが。あれではアインズ様のように寛大なお方でも抵抗感を抱いてしまうやもしれませんね」
「違いない。特に彼は慎重だからね、あのままだと進展は難しいかもしれないなぁ」
「……ブルー・プラネット様も、アルベドとアインズ様が結ばれることをお望みで?」
「んー? うーん」
望み、と言えばそうなるのだろう。
この世界から最終的に現実に戻れる可能性は薄い。ともすれば、生涯はこちらで過ごすはずだ。モモンガの隣には誰か――友以外の関係性の人物が必要であるとは思う。
そして、それは自分には代われない役目だ。
「相手は誰でもいい――というわけではないけど、彼にふさわしい相手と結ばれてほしいな、とは思うね」
「なるほど」
得心したという様子でデミウルゴスは頷く。
「デミウルゴス的には、候補はどんな感じなんだい?」
「アインズ様のお相手ですね? 今のところはナザリック内で限定させていただきますが――守護者のシャルティア、アルベド、アウラ。あとはプレアデスたちを考えております。もちろん、最終的にはアインズ様の御意思に従いますが」
「そうだね、最終的にはモモンガさんが決めることだ。それは周りが押し付けるようにしちゃダメだよ」
「理解しております」
デミウルゴスの考えからも伝わることだが、自分たちはモモンガに幸せになってもらいたいのだ。ギルドマスターをしっかりと務め上げ、サービス最終日までギルドメンバーを待ち続けた誠意ある彼が、この世界で不幸に塗れていいはずがない。まず一人の友としてそう思う。
うんうんと一人頷いていると、デミウルゴスはメガネを光らせてとんでもないことを聞いてきた。
「それで、ブルー・プラネット様は如何なされるおつもりで?」
「何が?」
「お相手、ですよ」
はて、このやたらといい笑顔の悪魔は何を言っているのだろう。数秒の間が空いた後、ようやく理解が追い付いた。
「はっ、あ、俺!? いやぁ俺は良いよそういうのは」
「おや、てっきりもう決まっているものと思いましたが」
「いやほら、今は忙しいし? ナザリックや周辺の状況が安定してからで、いいんじゃないかな? うん」
「なるほど」
話を誤魔化すように、ブルー・プラネットは震える手で酒を一息に煽る。変わらず不敵な笑みを湛えた悪魔もグラスを傾ける。親戚の結婚話に便乗したら思い切り貰い火してしまった気分だ。リアルな焦りが背筋を襲う。
「あー、誘っておいてすまないが、俺はそろそろ戻ることにしよう。アウラはまた後日第六階層に行ったときに案内をよろしく。後はみんな好きなだけ楽しんで行ってくれ」
これ以上ここにいては、隣の悪魔にどんな言質をとられるかわかったものじゃない。ブルー・プラネットは言うだけ言って、逃げるようにバーを後にした。