蒼い惑星、地下大墳墓に転移する   作:天休観測

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桜舞う中で

※※※

 

 

 

「みんなは土の匂いって嗅いだことある?」

「いや……ないけど。つーか嗅ぐもんなの土って」

「外の土はすっげー臭かった……鼻が曲がるかと思ったよ。ここしばらく直接嗅いだこと無いけど」

「あれは汚染されてるからな、土というよりはヘドロだよ。臭いなんてもんじゃない」

「俺はあるんだけどさ」

「まーじか、ブルプラさんさすがっす」

「と言っても研究用の乾燥土を一欠片借りたことがあって、それでね。憶えられるうちに全部憶えようとして嗅いだりしたんだけど……すごいよ。もう大興奮」

「なるほどわからん」

「弟、お前わかるか?」

「いや、土に興奮したことは無いからなぁ……ってかブルプラさんと俺じゃオタクとしての方向性が違うんだから一緒にしないでくれよ」

「なんていうんだろうな、土って元々は木だったり岩だったり、そういうものが長い年月をかけて崩れて積み重なってできるんだけど、匂いだけでも深みがすごいのよ。ああ、やっぱりすこしでも齧っておくべきだった……」

「ブルー・プラネットさん、それはダメ。人としてアウト」

「いや、俺は純粋に研究目的で」

「で、つまり何が言いたいんです?」

「桜花聖域の地表は土面にしたいです!」

「ええ、芝の方が良くない?」

「ユグドラシルは匂いの再現性が無いとはいえ、俺はみんなにもっと土の良さを知ってもらいたい! 故に土!」

「はいはい、ブルー・プラネットさんがヒートアップしてきたので決をとりましょうか。まず他に意見のある方は――」

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 匂いがする。かつて狂おしいほど惹かれ求めた、土の匂いだ。

 朦朧とする意識の中、自分のものとは思えないほど重い身体を起こす。匂いの出所を辿ると、視界に入ったのは一面の茶色だった。

 

「……土」

 

 のっぺりとした灰色でも、墨のように滲んだ黒でもない茶色。滲み出さない程度の水分を蓄えた健康な土壌を意味するそれは、あの乾燥土が生きていたころの姿だ。映像資料やゲーム画面でしか見たことのない茶色の大地が、そこには広がっていた。

 そのことにようやく理解が及んで、男の意識は覚醒する。全身が高揚と歓喜に包まれ、思わず目を見開く。

 

「土! 土だ!!」

 

 両手で大地を浅く掘り上げ、集まった茶色を両手のひらに集めて乗せる。そこから広がるのは新鮮な芳香。男の知る限りに、これ以上に甘美な香りは存在しない。今まで口にしてきた合成食材とすら比べ物にならないほどだ。

 これが、本物の土──一度手に入れた研究職を投げ、身を犠牲にして探し求めた『本物の自然』。

 全身を電撃の如く強烈な喜びが突き抜ける。

 

「すごい、すごいぞ!! はは、ははは! はは……?」

 

 しかしそんな熱狂は冷めるのも一瞬だった。肩が震える。意識を失う前に何があったのかを、男は思い出してしまった。

 不運な事故で、男は裂溝に落ちた──その途中、視界が真っ暗になったところまでははっきりと覚えていた。その後、全身が何かにたたきつけられたような気はする。痛みがあったか、どうであったか──はっきりはしていないが、それは『自分が死んだ』という事実を裏付けるのに十分な記憶だと思う。

 仮にあの高さから落下して即死といかなくとも、そもそも救助が来ないだろう。同行者達は仕事のために降下することですら渋る連中だ。誓約書も書いた以上、死亡と判断して処理されても何らおかしくはなかった。

 

 ――自分は死んだ。それは間違いなく事実で、あれは夢ではなかったと男は既に確信していた。身を持って感じたあの衝撃が夢幻であったとはどうにも思えないのだ。

 

 掘り集めた土を震える手で穴に戻しながら、男は自分の身体の変化にようやく気付いた。自分のものとして使役しているこれは、数々の作業で角ばり、黒ずんでゴツゴツとした欠けた五本指でも、作業用手袋をつけた手でもない。数十本の植物の蔦や蔓が絡み合い、腕の形を成している。

 全身もそうだ。肉と皮でできたひ弱なものではなく、巨木が蓄えたような、さまざまな種類の葉で覆われたまるい寸胴の化け物に変わっていた。

 これは男も見慣れたものだ。ユグドラシルで使用していた種族『蔦の怪物(ヴァイン・デス)』のアバター。かつてのギルドでは軍師と呼ばれていた男と種族が被っていたため、できるだけ見た目で区別がつくように装備に気を遣ったのを思い出す。

 

 このアバターがユグドラシルのものである以上、ここはユグドラシルだということになる。

 が、それはありえないのだということも当然わかっていた。ダイブマシンを使っていない以上ユグドラシルにログインはできないし、そもそもゲーム自体、数か月前にサービスは終了している。ましてや電脳法で禁止された嗅覚の再現など言語道断だ。そんなことをしていたならすぐさま目に入るだろうし、忘れるはずがない。

 

 だからここはユグドラシルじゃない。ではここはなんなのか。そう思って顔を上げると、ひらりと薄紅色の小さなものが視界にちらちらと入ってきた。それは一つ二つではなく、次々にひらひらと舞い踊っている。

 

 ――天国。

 

 木々は桃色の華をいっぱいに蓄え、少しずつ落涙するようにこぼし続けている。それが何本も何本も、視界の果て、どこまでも続く、まるでお伽噺に出てくる天国のような光景だった。

 咲き誇る桜。目が回るようなその色に、男は寂寥にも似た感情を覚えた。

 自分はこの光景を知っている。一面の桜吹雪なんてゲーム上では完全再現できなかったというのに、目の前で乱れ舞う花弁の姿を幾度も想像し、この地をこうあれと作り上げたのだから。

 

 

「ブルー・プラネット様……?」

 

 

 呼ばれたのは、かつて仲間たちと遊んでいた時の仮初の名だ。現実では見ることのできない、美しい星の名。

 それを呼ぶ声には聞き覚えがない。だというのに、何度でも聞きたくなるような、不思議と耳になじむ声だった。

 声のした方を振り返ると、そこに立っていたのは紅白の衣装を身に纏った巫女だ。彼女は驚いたように口元を隠し、大きな紅色の瞳を潤ませて声を震わせる。

 

「ブルー・プラネット様、ブルー・プラネット様なのですね……?」

 

 ブルー・プラネット以上に、彼女のことを知っている者はないだろう。領域守護者『オーレオール・オメガ』――彼女が守護する区画は、ただ一つ。

 四十人の仲間と自分の青春と理想と課金の結晶たるナザリック地下大墳墓。その第八階層、桜花聖域だ。

 

 

 




 捏造設定詰め込みまくりです。確かブルー・プラネット氏の使用種族は判明していないはずなので、ここではヴァイン・デスとしています。ぷにっと萌え氏と同じ。後々判明したとしてもここではそういうことにしてください。
それから、現在製作者の明言されていない桜花聖域及び領域守護者をブルー・プラネット氏主製作ということに。まだ名前の出ていない他のメンバーが造った可能性は大いにあるのですけど、この作品ではこういうこととします。

 こんな感じで、明言されていないのをいいことに妄想で補って行こうと思います。つじつまが合わないところが出てくれば、お手数ですがその都度ご報告ください。
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