闇渦巻く夜へようこそ 作:キザな10代
「クイーン、裏切ったんだって?」
暗闇で怪しく光るその瞳が、これから仕事に出かけようとしていたシャドウ・ジョーカーを捉えていた。
その視線にシャドウはため息を吐くと、肩を竦めて首を振る。
「さぁ、知らねぇ。まぁオレには元々関係ないがな」
「そう言うだろうと思った」
相手は呆れた声を出して、そう答えた。どうやらシャドウの回答は予想の範囲内だったようで、それが少しシャドウの癪に触る。
そんなシャドウのピリッとした空気に、相手はため息を吐いてやがて歩き出した。闇夜の中で窓枠から覗く光がその者を捉える。
闇色の体毛に紺色の手足。更にピンと立つその耳の先も、ゆらりと揺れる尾の先も綺麗な紺色をしていた。
とてもじゃないが人間ではない。では何か?答えは黒い体毛をした狐である。
狐はピクリと耳を揺らし、長く尖った鼻をすんすんと動かした。
「薔薇の香りがするね、アイツの所へ?」
「……どうでもいいだろ。狐風情がついてくんじゃねぇよ」
「別についていかないさ。ただこの先にプロフェッサーがいるんだ。呼ばれてるんだよ」
「そうかよ」
ゆらゆらと尾を揺らし優雅に歩く姿はとても美しい。人間にはない、美しさが彼にはある。
その姿をジッと見つめてからシャドウは舌打ちと共に視線を逸らす。シャドウは少しその余裕そうな態度も癪に触った。
狐とシャドウは幼い頃からの知り合いである。シャドウがまだ幼く、ここでプロフェッサーの訓練を受けていた頃、新入りとして入ったのがこの狐だ。
千差万別の姿に変えれるという能力を持つこの狐は元々は人間であったが、本来の姿を忘れたという。今ではこの狐の姿に落ち着いたようだが、たまにシャドウに似たような姿で現れるので非常に心臓にも悪いと思っている。
会った頃よりマシだとシャドウは思う。黒く暗い影で、老若男女な声を発し、言葉遣いもバラバラ。会う度に違う姿になっていて、人格も違った。アレは思い出す度に寒気がする。当時子供のシャドウにはキツイ体験であった。
「あ、そうだシャドウ」
シャドウがそうつらつらと考えていると、いつの間にか前を歩いていた狐から声がかけられた。
その声にシャドウは愛用の武器、ブラッディ・レインを肩に担ぐことで反応する。
シャドウのその反応に狐は満足そうにしながら、微笑んだ。
「今度、手合わせ。頼むぜ?」
獣が歯を見せて微笑むのは、ただ笑っているんじゃなくて威嚇だと言われている。自身の歯を見せつける行為がそれだからだ。
だが、この狐の場合は本当の獣ではない。元は人間であり、未だその心は失われていないはずだ。じゃぁその微笑みは何なのか。
ただの挑発である。
シャドウはケッと笑い、そして口角を上げた。シャドウも戦いは嫌いじゃない。寧ろ好きな方である。
あの心の高揚感、自然と動く体。考えるより体を動かす方がシャドウの性に合っていた。
「望むところだ」
その事を狐はわかっているからこそ、相手を申し込む。シャドウは戦闘のセンスはピカイチだからだ。
その返事を聞けた狐はクツクツと笑ってまた歩き出していた。その後をシャドウも追う。
足音も立てずに歩き出す狐とは反対にシャドウは靴の音を立てていた。コツコツと廊下に音が響く。
「あ、僕さ、トロワって名乗ることにした」
「……(フランス語で“3”ねぇ……)」
結構考えたんだぜ?と言う狐は何処か楽しそうだ。
ここでは本名はあまり言わない。シャドウ・ジョーカーも仕事名であり、本名ではないし。この狐もトロワではない。
先日抜けたクイーンは本名だが、あれは例外だろう。“女王”なんて名前、特殊過ぎて彼女を知っている者以外は偽名だと思うだろう。
「何故、3なんだ?」
「ん?3はある特殊なルールで唯一ジョーカーに勝てる数字」
そこまで言われてシャドウは少し考える。ルール……数字。トランプのカードゲームだろう。そこで3がジョーカーに勝てるゲームと言えば。
答えが出れば、シャドウは自然と口にしていた。
「大富豪か……」
「正解!スペードの3はジョーカーが出された時に出せるだろう?」
あと、革命したらジョーカーを抜きに3が一番強いからね!と笑う狐は非常に楽しそうだ。
尾をゆらゆらと左右に早く揺れるのは機嫌がいい証拠である。元は人間と言えど、そこは少し動物のようだった。
しかし、いくらジョーカーに勝てると言えど普段は手札の中で最弱な数字である。しかし、特殊な条件で最強のジョーカーに勝てる数字であることには変わりはない。
特殊な条件……はてと少し首を傾げる。そう言えばこいつの能力は、千差万別な姿に変えれるだけではない。それは能力の一つであった気がする。
まぁいいか、とシャドウは思考を放棄した。元々考えるのは得意ではない。
「あ、やべぇ時間だ。じゃぁな!シャドウ!任務から帰ったら相手してよ!」
人の姿に変わって走り出すトロワに、目を閉じひらひらと早く行けという合図を送る。
足音が若干遠ざかったと思い、目を開けるとヒラヒラとマントがなびいていた。その後ろ姿は見たことあるモノで、シャドウが目の敵にしている奴でもある。
一瞬驚いてブラッディ・レインで攻撃しようかと迷ったが、よくよく考えればアレはトロワではないだろうか。
「なるほど……オレと同じような作戦か……」
自分に化けたりしないだろうか。シャドウは吐きたいため息を飲み込んで、愛する妹の下へと向かう事にした。
ここ、怪盗ジョーカーアジトでもあるスカイ・ジョーカーでは怪盗ジョーカーと助手のハチがテレビのリモコンをつけ、真剣にニュースを見ていた。
そのニュースは我々に関係するもの。
『な、なななんと!怪盗ジョーカーが予告状を次々と出して、美術品たちを奪っているー!?しかもその手口は荒い!荒すぎるぞ!ジョーカー!!』
映し出された光景は壁が壊れたり、燃えて溶けたような銅像もある。溶けている銅像はそれほど値打ちがないのが唯一の救いか。
しかし、自分が何もしていないのに自分の評価が下がるなど、腹立たしいことこの上ない。しかも名前も名乗っている。
『そしてなんと!今回はあのシャドウ・ジョーカーじゃないという!!カメラに映ったこの映像をご覧ください!』
次に出された映像は監視カメラの映像。一体どこからそんな映像を入手してきたのか。この裏社会ネットニュースは侮れない。
「じょ、ジョーカーさん!?」
助手のハチはジョーカーとテレビに映し出されたジョーカーを見比べる。
監視カメラに映されたのは、確かに怪盗ジョーカーであった。そのシルクハット、マントやスーツの色、背丈までそっくりであった。ジョーカーは眉を寄せる。
その者は監視カメラの視線に気づくと懐からトランプを取り出して投げつけた。パリンと監視カメラのレンズが割れ、映像が途切れる。
『これは本当にジョーカーなのかぁあ!?今後もハラハラドキドキだ!!』
ブツリとテレビの電源を落とす。
ハチが入れたカフェラテを啜りながら、ジョーカーは体の向きを直した。
ハチは不安そうにジョーカーの名前を呼ぶ。そのハチの姿にプフッと笑い、やがて大笑いした。
「何で笑ってんスか!?」
「いやだって、ハチが単純すぎて!あははははははっ」
「たっ!?……純粋と言って欲しいっスね!」
「いや、それはないない」
「ひどっ!!」
キッパリと断るジョーカーにハチはズーンも落ち込む。終いには涙が流れている気がする。
その背中を優しくバシバシと叩きながら、何故笑ったのかを答えた。
「あの映像、十中八九本物だどして……どこか可笑しいと思わなかったか?」
「え?……いえ、どこも……」
「ったく、忍者なのにわからないのか?」
「忍者は関係ないっスよ!」
涙目になって叫ぶハチをクツクツと笑いながらジョーカーは席に戻り、カフェラテをもう一口飲んだ。
そして、指を一つ立て自分の左眼を指差して、頬の部分をトントンと軽く二回叩いた。
その仕草にハチはうーん?と首をひねる。まだわからないようだ。
料理や家事は天才的なのに、こういうところでは凡人以下である。まぁ凡人でもジョーカーが言っていることに気づくのは難しい。
そんなハチにジョーカーはため息を吐いて、説明をした。
「今回、似たような格好をしたシャドウとは違って、オレにそっくりだったよな?」
「ハイっス!」
「けど、一つだけ違った。この傷だ」
ジョーカーの左眼には額から左頬までに一本線の傷のようなシールを付けている。これは昔に負った傷を隠すためでもあるし、今ではジョーカーのチャームポイントでもあると思っている。
その傷の数は一本。だが、先程映っていた偽物ジョーカーの傷の数は。
「二本だった」
「え?」
驚くハチにニヤリと笑うジョーカーはしてやったりという顔だ。
ハチは考えた。左眼の傷が二本。それはシャドウと同じで、まさかと考えが行き着く。
ジョーカーと同じ格好で、好き勝手やり。シャドウと同じ傷の数、手口。行き着く答えは。
「シャドウの仲間の可能性が高い」
「シャドウさんもあんな事してたっスもんね……」
何週間か前にシャドウがジョーカーの名前を奪い、手荒な手口でお宝を奪っていた。
こうしちゃおれない、とジョーカーは立ち上がる。バサリとマントが舞った。
「行くぞ、ハチ。オレの名前を語ったもう一人のやつに、挨拶しに行こう」
「ハイっス!黙っていてはダメっスね!」
「その意気だ!本物のミラクルを見せてあげようじゃないか!」
今夜出された予告状。その場所に、その者は来る。
前と同じように決定的瞬間を捉えてやろう。そう意気込み、ロード・ジョーカーを呼び寄せ、走らせた。
【予告状】
今夜、ベルグ美術館に展示されている「ヴェルダンディの懐中時計」をいただきに参上する
怪盗ジョーカー
「今回も楽勝だったなー」
へっへーと女性の彫刻がされた懐中時計を振り回しながら走る。
シルクハットを押さえ、マントを翻し靴音を鳴らしながら、闇夜を駆けている。
鼻歌交じりに走っていたその者は目の前に現れた気配に急ブレーキをかけて、止まる。
「何が楽勝だって?」
パッ!と光がその者を照らす。思わず腕で目を隠し、やがて目が慣れてくると瞼を上げた。
ふふんと上機嫌な鼻息が聞こえてきた。カツン、カツンと革靴の良い足音が聞こえ、やがて姿を現した。
癖のある銀髪に、赤色の派手なスーツ。紺色のマントを翻し、明るい紺のシルクハットが特徴的だ。見た目は十代。
その少年の名前は怪盗ジョーカー。
「よぉ、早かったな。怪盗ジョーカー」
「オレと同じ格好して、名乗ってたのはお前か」
「そう、オレさ」
ニヒッと笑う姿は怪盗ジョーカーと何ら変わらない。ハチはそう思った。
しかし確かにその左眼の傷は二本あり、それが別人だと思わせる。
話し方も仕草もそっくりなのに、そこだけ違う。そこまで完璧に真似ているのに何故そんなヘマをしたのか……ジョーカーは素直にそう思う。
「あ、何でオレがここだけ違うのを疑問に思ってる?」
「…………あぁ」
「そりゃ簡単な話だ。お前を誘き寄せるためだよ、怪盗ジョーカー」
「なんだって?」
ジョーカーは眉を寄せ、その者を見る。どこまでもジョーカーとそっくりであり、誰もが見間違う。シャドウとは違う。これはわざと、間違ったのだ。
「(オレを誘き寄せるためだって……?どうしてそんな事を……)」
警戒心が増す。ひっそりとトランプ爆弾を相手に悟られないように構える。
ハチは手裏剣も構えずに、ただゴクリと唾を飲んで見守っていた。
「この二本線、シャドウの仲間だと思わせるのと、ただの傷さ」
「傷……?」
「そう。オレが大人しくなったときに、シャドウに腹いせに傷を負わされてさぁ」
まぁあの時は二人とも情緒不安定だったし、しょうがないけど。と笑う偽ジョーカーの瞳は黒く渦巻いていた。
ぞくりとジョーカーとハチの背中に寒気が走る。
クツクツと笑っていたその者だったが、やがて思い出したように挨拶をし始めた。実に遅い。
「あ、オレ、トロワって言うんだ。よろしく怪盗ジョーカー」
「よ、よろしく」
その偽ジョーカー……トロワは嬉しそうに笑う。その意外な態度にジョーカーは少し驚いた。
ハチはそんなトロワに少し怯えており、体が震えている。しかし、しっかりとトロワを瞳に捉えていた。
「ジョーカーに会えた記念として、面白いものを見せてやるよ」
「面白いもの……?」
ジョーカーの疑問を他所に、トロワはクツクツと笑った後小さく口遊むようにある決まり文句を告げる。
「光を塗りつぶす黒い影」
「「!?」」
ふわりと風が舞う。そして、足元に伸びる影がブワッと浮かび上がり、トロワを包んだかと思うと、最近会ったジョーカーにそっくりな人物が現れた。
「シャドウ・ジョーカー!なんてな!」
そのギザギザな歯を噛み合わせ、ニッと笑う。釣り目で金色の瞳までもそっくりである。
その事にジョーカーとハチは驚愕した。
「オレは色んな奴に化ける事ができるんだよ」
「何だって?」
「そりゃぁ、仕草や声までもな」
確かに仕草も声もそっくりだ。それはもう瓜二つと言っては過言ではない。
シャドウ・ジョーカーに化けたトロワは何処からかステッキを取り出し、クルクルと回す。
「あと、物もな。ブラッディ・レイン」
やがて、バシッと掴み止めたと思うとそれは黒い傘に変化していた。
その傘は確かにブラッディ・レインであり、それをトロワがジョーカーに向けたと思うと傘先に赤色の光を灯した。
まさか、とジョーカーは冷や汗を流して、やがて飛ばされてきた光線を避けた。飛ばされそうになるシルクハットを押さえながら、見事に着地する。
光線が放たれた先を見ると見事に地面が抉れていた。
「あっぶねぇ……」
「ジョーカーさん!」
「おー、ハチ。オレは大丈夫だって」
土煙が舞う中、駆け寄ってきたハチに無事を告げる。
そんな中、笑い声が聞こえてくる。土煙の中から紫を基調としたスーツを着込んだシャドウに化けたトロワが歩んできた。
「くくっあははははははっ、良い様だな!ジョーカー!」
「くっ!シャドウ!……じゃなかった、トロワ!」
ギリィと歯を食いしばって悔しそうな顔をしてトロワの名前を呼ぶが、シャドウと間違えてしまった。
そんなジョーカーをハチはジト目で見つめる。
「……ジョーカーさん……」
「だってぇ、すげぇそっくりなんだもん、アイツ」
「それは、わかるっスけど」
ガクリと肩を落とす。何処までも緊張感のない二人である。
けど、ふとハチは思った。人や物に化ける。それはいつもジョーカーがしていることではないかと。
そう、噛んで膨らませれば、見たものであれば何にでもできるアレだ。
小声でジョーカーに伝える。
「そっか……でかしたぞ!ハチ」
「はいっス!」
二人して頷く。
今、伝えた通りだからな。とジョーカーがハチに告げたあと、双方にバラけた。
トロワは此方囲うように走る二人を見ながら余裕そうに笑い、ブラッディ・レインで攻撃する。
「この後に及んで何する気だ?ジョーカー」
「オレは奇跡の怪盗、ミラクルメイカーだぜ?奇跡を起こすんだよ!」
光線を避けながらもニカッと笑うジョーカー。
ドン!ドン!と光線が起こす地響きと砂埃をまといながら、ジョーカーは少しずつトロワに近づいてくる。
ハチも同様に光線を避けて走る。流石は忍者だろうか。その体運びはジョーカーにも劣らない。彼は少しドジで泣き虫なだけなのだ。やる時はやる。
意味もないことをする二人にイライラしながらも、光線で攻撃する。
「いつまでこんな無意味な事するつもりだ!」
かかってこいよ!ジョーカー!
そう叫ぶトロワは本当にシャドウのようで、ジョーカーは苦笑した。
そしてトロワの正面まで来たと思うと、タンと地面を蹴って空中でバク転し、後方へと消えた。
「別に無意味じゃないさ!」
何処からか声が聞こえた。
光線を放ちすぎたせいで、トロワから周りが見えないほど土煙が舞っている。
トロワはチッと舌打ちをする。やりすぎたか。
やがて、土煙を突っ切って迫ってきたジョーカーが逆手に持った刀をトロワに向かって振り切ってきた。トロワはそれをブラッディ・レインで防ぐ。そしてそのまま弾き光線を放ったが、避けられ刀で横一線に斬られる。しかしそを後ろに仰け反る事で避けた。
仰け反ったまま、バク転して距離をとる。
「なかなかやるじゃねぇか」
ニッと片方の口角を上げて笑う。
まだまだ余裕そうだが、土煙が舞う中トロワの後ろから来た攻撃を慌てて避けた。ズザザッと地面を滑る。
「ジョーカーがもう一人!?」
後ろから奇襲攻撃を仕掛けたのはジョーカーだった。じゃぁ、さっきまで戦っていたのは誰だ?
バッと後ろを振り返るが、もう誰もいない。舌打ちをする。
目の前のジョーカーがトランプを手に持ち、迫ってきた。同じようにブラッディ・レインで受け止める。
「どういう事だ?」
「トロワがしてることと同じことさ」
「何?」
キン!カン!とトランプとブラッディ・レインの打ち合う音がする。
二人ともとてつもない攻防で、一般人は目で追うのがやっとだろう。
同等だと思われるそれだが、若干トロワが押されていた。やがて土煙が晴れていく中、その攻防は終わる。
「なっ……!?」
足に何かを引っ掛けたのだ。いや、絡まっているのだ。
抜け出そうにも抜け出せないそれに、トロワは驚きながらもドテンと尻餅をつく。そして、目の前に二人のジョーカーが刀とトランプをこちらに突きつけてきた。
「「オレたちの勝ちだな」」
二人のジョーカーか同時にそう告げる。それはトロワの敗北を意味していた。
トロワは負けたという悔しさもあるが、何故二人いるのかが不思議だった。
「一体どういう……」
「こういうことさ」
「っス!」
ん?ス?
トロワが首を傾げると同時に、刀を持ったジョーカーが膨らんでいく。比喩ではなく、本当に。
プクーッと膨らんでいったそれは、やがてパァアンと言う音を鳴らして割れた。そこから出てきたのは、ジョーカーより一回、いや二回りぐらい小さい弟子のハチ。ハチは得意げに笑った。
「まず、トロワの光線を利用して土煙を舞わせる」
そして、それを利用し姿を隠し、イメージガムでハチをオレに変装させ、ハチが最初に攻撃。そしてオレが入れ替わるようにトロワの相手をしている間、ハチはトラップをしかけ、オレが誘導。んで、引っ掛けさせる。というわけさ。
そう種明かしをしたジョーカーはふふんと得意げに笑っていた。
弟子は師に似るというが、成る程こういう事か。とトロワは場違いな事を考えながら、そのトリックに感心する。
「流石は怪盗ジョーカーだな」
「お褒めにあずかり光栄。じゃ、お前が盗んだヴェルダンディの懐中時計、貰うぜ」
「チッ」
舌打ちをするトロワに、何処までも本物のようだな、と苦笑しながら、尻餅をついたときに落としたと思われる懐中時計をジョーカーは拾う。
その隙にトロワはブラッディ・レインをハチが持っていた刀に変え、自分の足に絡まっている縄を斬った。そしてバク転をして、ジョーカーとハチから距離をとる。
「しまったっス!」
「会えて嬉しかったぜ、怪盗ジョーカー」
ニヤリとトロワは笑う。
ハチは冷や汗を流しながら、トロワを見る。一方ジョーカーはお宝が手に入ったので、別にトロワを逃してもいいと思っていた。何処までも現金なやつである。
「さて、最後に“今”のオレの姿で別れるとするか」
またもや黒い影がトロワを包み込むと、大人が跨げるぐらいにデカイ黒い狐が現れる。足の先や尾の先は青い、そのサラリとした体毛が夜風に当たった。
へ?とジョーカーとハチが惚ける。
「じゃぁね、ジョーカーと助手のハチ。楽しかったぜ」
今までとは違い、定まらない口調でそうクツクツと笑う。
クルリと回って、壁の縁へと降り立つ。どうやら降りようとしているようだが、ここは美術館の屋上だ。とても危ない。
「あ、これは貰っていくよ」
「え?あ!ヴェルダンディの懐中時計!いつの間に!?」
シャラリと口に咥えた銀色の懐中時計が光る。バッと慌てて手にある懐中時計を見るが、よく見ればこれは荒い作りになっている。つまり偽物。
わざと偽物を落として掴ましたのか。あの狐、やるようだ。
「また会おう!」
トンと地を蹴り、屋上から落ちていった。ジョーカーは思わず駆け寄り、落ちた場所を見るが、そこには建物と建物の間を飛び移る狐の姿があった。
はぁーと息を吐いて、座り込むジョーカー。してやられた。
「お宝ぁ〜」
ジョーカーの中には負けたショックより、お宝が手に入らないショックの方が八割ほど占めていた。
にしても、狐とは。この世には話す犬もいるし、ありえないことでもないかとジョーカーは納得する。
暫くして立ち上がり、フリーズしているハチを叩き起こして、スカイ・ジョーカーを呼び寄せた。
今夜はカレーが食べたい。
『速報だ!なんと!先日の連続予告の犯人!怪盗ジョーカーではなく、狐!狐だったぁ!!怪盗狐の誕生か!?しかも今回はシャドウに変身していたが、色々なものにも変身できるらしい!!これは胸アツアツドキドキだぁああ!!』
プツンとテレビが切れる。
それを見ていた少年は、はぁあとため息をついた。
風呂上がりであり、怪盗ジョーカーに似せるために伸ばした髪をタオルで拭きながらソファへと座った。
ここはシャドウに設けられた部屋。水道、キッチン、風呂、トイレ完備であり、普段はここで寝泊まりしている。
「(まさか、とは思ったが案の定だったとは……)」
目の前のソファに眠る、何故かいる黒い狐にシャドウは少し怒りを覚え、立ち上がりその頭を掴んだ。
シャドウは力が強い。普段空気抵抗のあるブラッディ・レインを振り回したり、重い美術品を持ったりしているために鍛えられたこの腕だが、この時ほどこれに感謝したことはないとシャドウは思う。
「ん?何してるの?シャドウ」
さすがに目が覚めたようだ。シャドウの姿が見えると、トロワは自分の頭を掴んでいるシャドウに不安を覚えた。
そのことも余計にシャドウは苛立ちを覚えて、トロワを掴み上げドアの方へと投げた。実に凄い腕力である。
自動ドアなので、自然に開いたドアを通り抜け廊下の壁へと頭をぶつけた。きゅーと声を上げてトロワは目を回す。
「人の部屋に勝手に入るな」
人は沸点を超えると冷静になるという。
シャドウは小さく呟くと、ドアを鍵にかけ、寝室へと向かった。
その後、必死にシャドウの部屋の自動ドアを叩く狐の姿が見られたという。
これで一話。長い。
結構な不定期更新なので、更新はあまり期待しない方がよろしいかと。
ただ、アニメシーズン3をすると聞いて書いたことには変わりはない。だから、トロワ……なんつって!
因みに、三つの宝というのは、「ウルズの振り子時計」「ヴェルダンディの懐中時計」「スクルドの腕時計」です。これ以上この宝達が出てくる予定はないかも。