カンピオーネ!魔王と魔王外伝 海の精は艦隊に嗤う 作:NAIADs
続編となります。
これと次の話は原作の3,4巻に相当します。
N.A.I.A.Dが日本に回航して数日後。
イギリス、ドーバー海峡。イギリス側の沿岸付近。
カナダ船籍の一隻の貨物船が10ktで航行していた。
周囲に濃霧が立ち込め、視界は50m位しかない。
こういう場合はレーダーとソナー、そして熟練の見張り員の目だけが頼りだ。
見張り員の一人がブリッジ周辺で海を見張っていると、何かの影が見えた気がした。
双眼鏡で注視すると、十時の方向から帆船が接近してきていた。
バーク型で三本のマストを持ち、船体は黒く船首は赤い。
そしてその船の帆は…ボロボロだった。
「嘘だろ…」
見張り員は急いでブリッジに連絡した。
「艦長!右舷5kmに帆船です!」
『何!?レーダーに反応はないぞ?』
「船体は木造のようです!」
『何ぃ!警笛ならせ!取り舵いっぱい!』
けたたましい警笛が鳴り、貨物船は左に転舵した。
しかし、その先は…岩礁だった。
「艦長!岩礁です!」
しかし、その警告は届かなかった。
ズゥゥゥンッ!
貨物船は勢いよく岩礁に乗り上げ、岩塊に衝突した。
そしてその見張り員は、海へ投げ出された。
二日後、インヴィンシブル基地。大條の執務室。
大條は重苦しい式典と移転に伴うバカみたいな量の書類という試練を乗り越え、ここの所N.A.I.A.Dは出動もなく平和だった。
整備員たちは大忙しだが、隊員は久しぶりの休息を楽しんでいた。
無論、大條とノイマンも例外ではなく、午後のひと時を楽しんでいた。
「司令、手紙が来てますよ」
「ん?ロブからじゃないか」
大條はノイマンから手紙を受け取った。
蝋の判子で留めてある航空便箋は、イギリス支部のロバート・ジョンソンから届けられたものだった。
彼はイギリス支部のスカパフロー基地の司令で、大條とは比較的仲がいい。
大條、頼みがある。
うちの管区でも例の『幽霊船』が出現して、けが人が出る事故も起きた。
基地で調査を始めたんだが、君達にも調査を手伝ってほしい。
スコットも待ってる。 Rob
「幽霊船、かぁ…」
大條は感慨深げに呟いた。
幽霊船とは、ここ最近出現している謎の船舶である。
大西洋やインド洋などのあらゆる海域に出没し、乗組員の間で噂となっていた。
特徴として船体が黒いとか船首が赤いなんていう目撃証言もあるが、大條は船乗りの見間違いだろうと思っていた。
しかしこんな事故が起きた以上、イギリス支部も調査せざるを得ないのだろう。
「しかしまぁ本当に実在するんですかね?」
「知らねぇよ。まぁこの前の貨物船の事故があったのは事実だしな。一応ロブにはOKするって返してくれ」
「了解しました。しかし…機動艦隊は動けましたっけ?」
機動艦はあいにく整備中であった。
「あっ…まぁ一応確認してみるよ」
大條は執務室を後にした。
「え、機動艦ですか?」
「ああ、整備状況はどうかね?」
インヴィンシブル基地のドックで整備担当に聞いてみた。
ここは開発部の基地も兼ねているため技術者も多く、機動艦の整備は意外と進んでると思ったのだが。
「いやぁ駄目ですねぇ」
「えっ?」
大條は驚愕した。
「外装はともかく、主機がボロボロですよ。働かせすぎですね」
「ああ…、そうか…」
今までの特務機動艦隊のスタイル、定期的にどこかの港で補給するというのは確かに作戦運用上便利なものだったが、整備が余り出来ないというデメリットも持つ。
まさかそのデメリットが機動艦を使えないという形で露呈するとは…・
無い物強請りをしても仕方ないので、司令部に戻ることにした。
機動艦とは、通常艦以上の火力、装甲、速力を持った船として建造された。
特徴として、全体的に船は流線型であり全長は平均的に300m級が多く。ウォータージェット推進用のバーニアがあることが挙げられる。
旗艦を務めてもらっている常陸はズムヴォルト級のような艦首を持ち、流線形なスマートさを持つ船体構造をしている。
艦橋は船体後部に設置されており、大体の設備が後部に設置されている。
艦橋下に小型機用の発進口があるがほとんど使わない。
戦艦という艦種ではあるが、ヘリポート等航空機運用設備も充実している。
汎用的な運用ができる船だ。
近江はかなり特殊な形をした艦だ。
艦首横から航空機運用設備が足の様に張り出しており、速度性能を向上させるために常陸の様に双尾翼が装備されている。
航空戦艦の名を冠するが如く火力も充実している。
こちらも汎用的な運用ができる船だ。
対馬もかなり特殊な形をしており、艦首部の航空機&揚陸設備を有する箱型のブロックと艦橋、機関部の2ブロックに分かれている。
こちらも火力、航空機運用能力は充実しているが、主に瑞竜と共に陸戦隊を輸送、作戦支援するのが主任務だ。
装備の特殊性から、こちらはやや特殊任務に投入されることが多い。
相模はある意味一番“船らしい船”だ。
速度と火力にやや特化しており、反面航空機運用能力は限られる。
N.A.I.A.Dでは一番のレーダー性能を誇り、レーダーピケット艦というポジションだ。
要を言えばドンパチする任務が得意だが、幸か不幸かそんな任務にはあまり恵まれず、お留守番が多い艦でもある。
瑞竜はN.A.I.A.D艦隊でただ一つの空母である。
N.A.I.A.D最大級の全長500m、全幅360mという空母でも破格のサイズは航空機、ヘリコプター合わせて300機近い運用を可能としている。
また対馬と同様に陸戦隊を搭載できるが、主に対馬に任せて航空機を運用しての作戦運用がほとんどだ。
火力も高いが、反面機動性は低い。
まぁ、機動艦使えない今、これは無駄な解説なのかもしれない。
数分後、執務室。
「で、どうだったんですか?」
「まぁな、機動艦も整備要だとさ。こりゃヒースローまで民間機だな」
帰って早々にノイマンに聞かれたので、大條は少々ばつが悪そうに答えた。
「民間機ですかぁ…。まぁ久しぶりに乗ってみるというのもいいかもしれませんね」
「最近はロクに乗ってなかったしなぁ」
ほぼ艦隊での移動が多いために、二人は元エースパイロットながら軍の航空機に乗ることは少ない。ましてや民間機においておや、である
「じゃあ明日6:00に正門出発して成田まで行くかぁ…」
「了解しました」
「航空券はこっちで取っておくからさ」
「はい。じゃあコーヒー取ってきますね」
「よっろしくぅー」
ノイマンのコーヒーを待ちつつ、明日を楽しみに待つ大條であった。
翌日、成田空港の出発ロビー。
「はっ?」
「えっ?」
二人は驚愕していた。
まさか、ここで草薙護堂に遭遇するとは思ってもみなかったからである。
「何しに来てるんだ?あいつ」
「うーん…なんなんでしょうね?」
護堂は女の子を連れていた。
茶髪で、見た目は清楚な和服が似合う大和撫子という印象だ。
情報では、正史編纂委員会からの監視役(?)の万理谷裕理というらしい。
通称:草薙護堂の正妻。
ややお転婆(?)なじゃじゃ馬のパオロ卿の姪っ子とは違い、優しくおしとやかだが、怒らせると格段に怖いという性格らしい。
「あれ?大條さんとノイマンさん?」
「あの、護堂さん。あの方々は…?」
やっと向こうは気が付いたようだ。
「よぉよぉ、お久しぶりだな従兄弟よ」
「どうも、一週間半ぶりですね」
「お久しぶりです。大條さん、ノイマンさん」
「……?」
あの場に居なかった為に,二人に面識がない裕理は自然と会話に取り残されていた。
まぁ同じくあの場に居なかったエリカ嬢は彼女がイタリアが居た頃に一度会ったことがあるので、会えばわかる…多分。
「君が万理谷裕理君だね?初めまして。俺は大條透、こいつの従兄弟だ。よろしく。そしてこっちはノイマン・ジュペー」
「どうぞよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
万理谷裕理は深々と頭を下げてくれた。
やはりそこは深窓の大和撫子という感じだ。
しかし気になることもある。
「草薙護堂の従兄弟」と名乗った時に少しだけ、本当にわからないくらい程であったが、
右眉をピクッと動かしたような…
確かに正妻・愛人が居る時点で、護堂は草薙一朗と同じく女たらしは確定だが…本当に何をやらかしたんだ?
そして恐らく、俺はあの女たらしと同系列に見られたであろう。
こちらは三十路まで恋の一つもしなかったので、同系列に語られたくはないが…
「で、大條さんたちはどこへ?」
「こっちは所用でイギリスへ仕事にな。そっちは?」
「え…えっと…旅行でイタリアへ」
「ふーん…」
その割には駆け落ちの様に見えるのは気のせいだろうか?
…まぁ多分職業病だな。
大條は苦笑していた。
「じゃあ俺たちの便すぐだから」
「では、またいつか」
「じゃあまた」
大條とノイマンは二人と別れて搭乗口まで行き、ヒースロー行きの旅客機に乗って日本を飛び立った。
飛び立って一時間後、ヒースローへ向かう機内。
普段は艦隊で移動するために民間機に乗るのは久しぶりなので、楽しみにしていた。
二人はリクライニング席でゆっくりしている。
「大條さんどう思います?あの二人。なんか駆け落ちっぽく見えませんか?」
リクライニングを作動させつつノイマンが聞いてきた。
「はっはっは、お前にもそう見えたか。まぁ気のせいだって、職業病だよ」
「ですね。じゃあ少し眠ります。お休みなさい」
「お休み」
二窓から日が差す中、二人は毛布にくるまれ眠りについた。
十数時間後。イギリス、ヒースロー空港。
流石にこの日はスカパフロー行きの便が無かったため、二人はロンドンにあるイギリス支部に泊まることにした。
幸い幽霊船に関しての情報は多くあり、事前調査を進めることができた。
珍しく写真もあったが、ピンボケと霧でよくわからない。
「何なんでしょうね?この帆船」
「さぁな。うちが2年近く追っておきながら正体もわからないという代物だしな…」
「本格的な調査でわかるといいんですが…」
「ま、今日のところはここで寝ようぜ。お休み」
「お休みなさい」
大條は電気を消し、ベッドに潜り込んだ。
翌朝、スカパフロー基地内、司令室。
この基地は1956年に英軍が撤退した後の土地を利用して作られた基地だ。
未だに燻ってるアイルランド問題なんて事もこの基地では無関係で、EPF(イギリス支部)海軍の一大基地として繁栄している。
ここの基地司令兼第三艦隊(イギリス艦隊)の司令がロバート・ジョンソンである。
40歳のゲルマン系の英国人で、真面目を絵にかいたような人間である。
とにかく仕事に対して真面目で、部下にも支部の幹部にも人望がある。
現役時代は英海軍のオーシャンの艦長などを歴任し、湾岸戦争やイラク戦争に出ていた。
「久しぶりだな、大條。准将に昇格したらしいじゃないか」
「ありがとう。インヴィンシブル基地に入港するまで多忙だったんで、機材がいまやばいんだが」
「大條さん、今は・・・」
「ああそうだ。幽霊船の続報は?」
「それなんだが…」
ロブが真剣な表情になった。
「今朝は北海に現れたよ。漁船が目撃した」
「マジか!?」「ええっ!」
大條とノイマンは驚愕した。
「写真もあるんだよ、今回は」
「え、写真もあるんですか!?」
「これだ」
ロブは写真を二人に渡した。
その帆船は大航海時代の代物の様に見え、現代の北海を航行しているのが不思議なくらいだった。
「おいおい、冗談だろ?こんなオンボロ帆船がドーバーと北海に居たのかよ」
「信じられませんよ…」
「という訳で、君達にも調査を手伝ってほしい」
「了解した」「了解しました」
大條とノイマンはロブにわざとらしく敬礼した。
それを知ってか知らずか、苦笑いしていた。
「そうそう、その前に工廠に行ってくれ。スコットが呼んでたぞ」
「ガス…また機動艦作ったのか」
N.A.I.A.D艦隊の機動艦は、スカパフロー基地の工廠か、APF(アメリカ支部)のパールハーバー基地の工廠で造られることが多い。
「ああ、今回の調査の役に立つんじゃないか?」
「かもしれないな。よし、行くぞノイマン」
「了解」
二人は司令室を後にした。
数分後、工廠。
「大條、久しぶりだな」
「久しぶりだな、ガス。また機動艦作ったのか?」
「おうよ」
大條とノイマンは、作業着姿のごつい男と面会した。
この男がスコット・ガス・クリムゾン。
艦の設計者にして、機動艦の生みの親である。
黒に近い青で染めた髪にごつごつした顔に浮かぶのは、人懐っこい笑顔。
髪を染めているといっても決して彼はチャラいわけではなく、豪快な性格の仕事に忠実な奴で周囲からの支持を得ていた。
「こっちだ。今回は揚陸艦だぞ」
案内されるまま工廠の向かうと、二隻の船が居た。
手前側に居たのは、全長300mほどの船で、中央胴体を中心に艦首側に2基のドック又は上陸部隊用の格納庫を設け、後部に2基の推進器を設けた艦だ。
中央胴体には姿勢安定用のスタビライザーがX字状に4枚ある。
艦首側の構造体は中央が段差になっており、左右合わせて計四枚のハッチが存在する。
通常の艦の設計思想とは大きく異なる船であった。
奥側の船もかなり変わっている。
こちらは全長400mほどの船だ。
まず艦首側構造体の左右上部にはカタパルトデッキ、下部には揚陸部隊用のハッチが存在し、中央胴体は上部にカタパルトデッキと下部に謎の装置が一基存在し、航空機運用能力の高さをうかがわせる。
後部中央には着艦用のデッキがあり、推進器と挟まれるように存在する。
艦中央部には姿勢制御用のスタビライザーが直角に折れ曲がった様に2枚ある。
「機動艦ナーガとガルーダだ」
「また変なのを…予算微妙なのに」
機動艦に関する予算は「建造・維持費」として計上される。
しかしN.A.I.A.Dの整備でだいぶ金を食うので、振り分けられる金は少ないと思うのだが…
「ま、今のところ対馬と瑞竜で間に合ってるしなぁ…」
「イーグルネストって所ですかね」
イーグルネストは正式名第一特殊支援隊の事で、特務第一機動艦隊の洋上補給や情報支援等、インヴィンシブル基地を母港とする前にN.A.I.A.Dを支援してくれていた。
イーグルネスト(鷲の巣)という名の由来は、大條とノイマンが所属していたバルチャー隊(vulture:ハゲワシの意味)から来ているらしい。
「かぁ~、不採用かぁ~…」
「違うよ、お前の設計したあの5隻で十分やっていけるってことだ」
「うれしいねぇ。じゃぁ手続きよろしく」
大條は納入確認書類に記入していく。
機動強襲揚陸艦ナーガとガルーダは一時的に大條に預けられることとなった。
ロブとの協議の結果、大條とノイマンが一人づつ哨戒飛行へ出ることになった。
両名はAV-8BハリアーⅡでそれぞれ北海を哨戒する。
やや航続距離が短い機体なので、パイロンに燃料タンクを装備し航続距離の増強を図る。
二人は現役時代に何度か搭乗した機体なので勝手はわかっている。
ノイマンが出発して30分後、大條はパイロットスーツを着てハリアーに搭乗した。
誘導路から滑走路へ進行する。
なんだか現役時代を思い出すようで懐かしい気がした。
「コントロール、こちらバルチャー1。離陸を許可されたし」
『こちらコントロール、離陸を許可する。』
「了解。バルチャー1、ハリアーⅡ出る!」
ハリアーⅡは速度を上げて滑走し、離陸する。
ハリアーシリーズは垂直離陸が可能な機体であるが、燃料を浪費しない為にはこちらの方が有効だ。
「よし、絶対に見つけてやる」
大條はコックピットの中で意気込んでいた。
…一時間後。
1700kmほど捜索したものの手掛かりはなく。
「帰りの燃料を考えると、帰投を考えないとな…。今日は空振りか」
ハリアーⅡの機首をスカパフローに向けた瞬間。
『スカパフローよりバルチャー1、緊急事態発生!繰り返す、緊急事態発生!』
無線の声が狭いコックピット内にビリビリと響いた。
「何だ!?」
『バルチャー2を基地より400kmの北海海上でロスト』
「ハァ!?」
大條は肝がつぶれる思いがした。
『現在捜索隊が展開中ですが、いまだに発見できていません』
「分かった、すぐ戻る!」
大條は乱暴に無線を切り、ハリアーⅡの操縦桿を引いた。
大條はすぐには信じられなかった。
ノイマンは7機撃墜のエースパイロットであり、かなりのベテランなのだ。
そのノイマンが…。
「嘘だろ…、ノイマン…」
大條の頬に、一筋の涙が伝っていた。
次はいつになるかはわかりません。
3/28を目安にやっていきたいと思っています。
気長にお待ちください。