カンピオーネ!魔王と魔王外伝 海の精は艦隊に嗤う   作:NAIADs

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長らくお待たせしました!
恵那編終了です!


Case.7「陸戦隊、出動」

「・・・・・・・・・・」

恵那は無言でむくりと起き上がる。

表情こそないものの、殺気は先程より増大していた。

 

「クッソ、どんなアーマーを身に着けてやがる!」

「司令!前です!」

気づいた時には、恵那の斬撃を受けていた。

今度は受け止めていたナイフが切り飛ばされ、電磁ナックルを盾に何とか防御した。

しかしその勢いは殺しきれず、吹き飛ばされた。

5m程吹き飛び、受け身を取る。

 

「大丈夫ですか?」

「ああ、TiW合金製のナイフは見事に折れたがな」

TiW(ティウ)合金とは、チタニウムとタングステンが主の合金である。

タングステンの強靭さや耐熱性能を持ちながら、チタンの様な軽さが特徴的だ。

JPF独自の精錬技術で開発され、様々なところで幅広く使用されている。

大條の持っているナイフの場合、125mm滑腔砲が直撃しても折れない筈だった。

 

「こうなったら…容赦しない」

大條はもう一本ナイフを取り出し、左腕に持つ。

「殺してでも止めるしかなさs…」

「待って」

行動を起こそうとした瞬間に、大條は呼び止められた。

振り返ると、エリカが居る。

 

「このままやられっぱなしじゃ、エリカ・ブランデッリの誇りに傷がついてしまうわ」

「は?重傷者が何言ってやがる?」

「華麗な反撃の第二幕が開こうとしているの、邪魔をしないで…!」

エリカのその一言は、弱弱しい中にも誇りと闘志を感じさせた。

「あいよ、後は任せた」

「ありがとう」

大條は掌を返してエリカに後を任せ、武器を片付け始めた。

これは決して責任放棄という訳じゃない。

彼女の闘志に賭けてみたいと大條が思ったからだ。

そして彼の勘もある。

彼の勘が彼女は絶対勝てると囁いているのだ。

この間は昔からよく当たっていた。

 

「さてと、一件落着だな。任務報酬も少ないが」

「ですが、まぁ大きな被害が出なかっただけ良かったじゃないですか」

今回は司令2人の出動だけなので、任務報酬は人件費と弾薬代ぐらいだ。

恐らく、N.A.I.A.D創設以来の最安値だろう。

国家財政に負担を掛けない、という意味では最適かもしれない。

 

「こういう時って必ず何か起きるような…」

「お前なぁ、言霊って言葉知ってるか?そういった時ほど…」

 

誠に遺憾ながら、ノイマンの勘もよく当たる。

 

くはっ、という恵那の苦悶の声と、金属が地面に落ちる音がした。

やれやれ一件落着と二人は思ったのだが、それにしてはさっきからのヤバい予感が消えない。

いや、それどころかむしろ高くなった気がする。

先程から降っている雨も弱くなるどころか強くなっている気がした。

「—万里谷!」

「まだです!天叢雲剣はまだ戦うつもりです!」

万里谷の言葉に振り返ると、刀がどんどん膨張していく所だった。

 

身長(?)は概算で20m程で、切先が頭部となっているようだ。

何と、この剣にはご丁寧にも腕部が付いている。

肘に当たる部分にはピンの様な物があり、腕は曲がる様だ。

ご丁寧な腕部とは逆に、脚部はがっしりとしているが異常に短い。

1/5しかない脚部では歩行に支障が出そうだ。

 

「な…なんですかあれぇっ!」

『ハハハッ、面白れぇのが来やがったぜ』

「まぁそうこなくっちゃなぁ、フハハッ」

焦るノイマンに対して、笑い声をあげる大條司令と航空隊長のマイク。

二人は少なからず神経がイカレているかもしれない。

 

…それよりも問題が一つ。

恵那が天叢雲剣に取り込まれているのだ。

右肩部に当たる部分に埋め込まれてしまっている。

恵那と護堂の会話では、自力での脱出は不可能な様だ。

迂闊には巨人に攻撃できず、一切の攻撃手段を失うことを意味する。

さて、どうするか。

 

「こっちだ、来い!」

護堂が千鳥ヶ淵方面へと走っていき、巨人はゆっくりとした足取りで追う。

…どうやら、自分をおとりにするつもりの様だ。

 

「…ったく、ノイマン!」

大條はノイマンにハンドサインを送る。

「了解!」

ノイマンは着陸してきたリトルバードに駆け込んだ。

マイクの隣には座らず、後ろに座った。

「で、大條は何て?」

「”隙を見たら助け出せ”だそうです」

「了解した」

ノイマン、マイクはともに米海軍時代から大條の部下であるため、ハンドサインで十分に意思疎通が来なせるのだ。

 

マイクはリトルバードを離陸させ、巨人の居る方向へと向かっていった。

 

現場に着くなり、ノイマンは護堂がピンチだと悟った。

護堂は『鳳』を行使して恵那を救い出したが、予想より早く副作用が現れた様だ。

巨人の背後10m付近で、恵那と共にうずくまってしまっている。

一時目標を見失っていた巨人も、振り向き始めた。

護堂の存在に気付いた様だ。

完全にマズイ状態である。

 

「マイク、機体を傾けて!」

「あいよ、任せな。一か八かだ」

マイクは機体を巨人の正面に向け、右に傾けて地面すれすれまで降下する。

ノイマンはシートベルトを付けると、右のドアを開けて身を乗り出した。

手を掴むと、リトルバードの中へ引きずり込む。

 

マイクは機体を左側に傾け、そのままバレルロールした。

シュンと霞める斬撃に、二人は肝を冷やす。

何とかリトルバードは奇跡的に回避し、背後に回り込んだ。

「こいつはお土産だ、受け取れ!」

ロケット弾を発射して命中させた。

巨人は多少よろける。

「ちっ、よろけるだけか。ロケット弾じゃ威力不足だな。あとは百舌鳥に任せる」

『おうよ、任せた。おうらっ!』

一台の戦闘車両が巨人に体当たりし、巨人を吹っ飛ばした。

 

車体やクローラーはいたって普通の戦車と同一である。

前方にはサブクローラーが付いており、展開することで越壕能力を高められる。

だが、単装砲が右側に付けられた砲塔には、腕の様な物が付いているのだ。

まるで、戦車に人間の上半身が乗っているように見える。

砲塔上部にはナパーム弾、車体側面には60連装ロケットランチャーやMLRS(多連装ロケットシステム)等の様々な武装が取り付けられている。

 

この戦車の名はXM-07ダビデ。

要塞や艦艇のような戦術目標を攻撃する超弩級戦車として、ゴリアテと共に競争開発がスタートした。

砲撃機でありながら、明確なコンセプトを持たず、直接戦闘能力だけを付与された機体であるため、中途半端である感は否めず、後の開発系譜からも姿を消している。

直接戦闘を意識した本機は、戦況に応じて2種類の形態に簡易可変することができる。

通常形態は、機動力は高くないものの、各種武装を状況に応じてより有効に活用することが可能である。

機体前部のサブクローラーを展開し、上半身をスライドさせて低姿勢をとる突撃砲形態は、130kmという通常兵器を凌駕する圧倒的な機動力と被弾率の低下、高速を生かした高い越壕能力というメリットを持つ。

武装面においても改良が施されており、主砲である220ミリ電磁加速砲の他に、40mm機関砲や、火炎放射器、30ミリ機関砲、さらに機体側面には追加武装としてロケットランチャーやMLRS、重地雷を装着可能で、あらゆる距離、角度からの攻撃に対応できるように、多彩な武装を揃えている。

防御力も高く、敵装甲車両を撥ね飛ばしたり、踏み潰したりしても支障は起きない。

 

操縦席には、軍服を着た日本人の20代後半の男性が座っている。

全周囲モニターに囲まれたその男はベレー帽を被り、すこし長めの栗色のパーマで軍服に似合わぬ洒脱そうな顔だ。

この男の名は百舌鳥隼人、N.A.I.A.Dの陸戦隊隊長である。

 

『退避は完了、着弾観測が可能になった。百舌鳥、存分にやれ』

「わかりやした、大條の旦那」

バイク型のハンドルをしっかり握り、ペダルを踏む。

例の巨人はこちらを向いて、チャンスを伺っている様だ。

殺気をビンビンと感じるこの感覚、懐かしい。

心臓が高鳴り、熱い血が巡る。

百舌鳥は高揚感に支配された。

『大丈夫か?』

「なんか面白そうじゃないですかぁ…」

『大丈夫だな。やりすぎんなよ』

息を整え、敵を見据えた。

 

巨人が素早い動きで斬り込んできた。

素早く後ろに下がって躱す。

巨人は次々と斬り込んでくるが、右に左に信地旋回、超信地旋回を繰り返すダビデをとらえる事すら叶わない。

寧ろ、巨人の方がダビデの220mm電磁加速砲や40mm機関砲を全身に喰らっていた。

砲塔側面につけられたマニュピレータ―型の砲塔は、多彩な角度を取ることが可能であり、その分有利である。

百舌鳥の天性の卓越した操縦センスがなせる業だ。

 

防衛大をいわゆるキャリア組で卒業した彼は、幹部自衛官として陸上自衛隊に入隊した。

だが、デスクワークの多さや任務内容が刺激を求める彼の性格に合わず、2,3か月で日本平和維持軍に転職する。

抜群な戦車の操縦センスを目にした大條は、後に百舌鳥をN.A.I.A.Dに引き抜いた。。

求めていた刺激をくれた大條には、今でも『旦那』と親しみを込めて呼んでいる。

 

「しかしまぁ、火炎放射器やナパームが使えないっていうのはマイナスだなぁ。溶かしちまった方が楽なのに」

『バーカ、こんな街中で使えるわけないだろ』

「重地雷もダメか?」

『『アウトだ(です)』』

「へいへい、解りましたよ」

はぁ、と溜息を付く。

市民の安全を重視するとはいえ、仕事は迅速に終わらせるものだろうに。

 

『チャーリーよりアルファ、チャーリー隊現着しました。目標も捕捉』

「エックスレイよりアルファ、指定ポイントに現着。ブラボーも待機中です」

陸戦隊で使用されているM-05グラント・シリーズは車体に4条の履帯を装備した戦車だ。

所謂キャタピラーを通常の戦車の2倍付けている為、不整地踏破力は他の戦車より上である。

グラント・シリーズの特徴はこの4条の履帯と、共通化した車体だ。

これによって、色々な車両をより低コストで開発できる。

M-05t ノーマル・グラントが戦車、M-05aグラント・アーティラリが自走砲、M-05bベルゲグラントが戦車回収車、M-05cグラント・キャリアーが歩兵戦闘車である。

「了解、レッツパーティ!奴にありったけぶち込んでやれ!」

「「「了解!」」」

その号令と共に、剣の巨人に次々と砲弾が撃ち込まれていく。

 

1発の砲弾が巨人を数百メートル弾き飛ばした。

 

弾道を追うこと数キロ、インヴィンシブル基地の艀に一台の戦車が居た。

全長35m、全幅14m、全高9mもある巨大な戦車である。

巨大な砲口から砲弾を吐き出すように発射する。

この戦車の名前はXM-06ゴリアテである。

グランド等のAFVを開発する中で、要塞や艦艇のような戦術目標を攻撃する超弩級戦車として開発計画がスタートした。当初は新型エンジンと巨砲搭載の超弩級戦車として開発が進められていたが、汎用性の低い本機はその存在価値が疑問視されるようになった。

その疑念を払拭する為に開発計画の見直しを余儀なくされ、上半身やマニピュレーターを増設するなどの高性能化が進められた。

 

本機はモノアイやショベル・アームユニットを採用している。装甲車輌としては破格ともいえる巨体を誇りながら、ほぼ全てを搭乗員1名の搭乗員で補える。

大体はブラボーと呼ばれるミハイル・イワノビッチが搭乗する。

今、車内で不貞腐れている眼鏡をかけた大柄なロシア人の青年がそうだ。

 

「対象に命中。全然つまらないんですけど」

『仕方ねぇだろ?ゴリアテ重いし、武器は遠距離戦向きだし』

「ええぇー!」

人形形態に変形することで、より高い位置からの目視、射撃が可能になり、加えてある程度の接近戦闘もこなすことができる。

ただし、この状態では車高が増し、特にコクピットの被弾率が上昇するというデメリットもある。

左右に関しては側部に防弾用装甲があるため防御力はほとんど低下しない。

上半身がターレットそのものとなっている為、主砲の旋回は戦車形態にのみ限られ、人型形態では無砲塔の自走砲や駆逐戦車同様の状態となる。

主砲である30cm電磁加速砲は戦艦のものを転用したもので、最大射程距離の長距離砲撃が可能だ。

戦局に応じて各種砲弾を必要に応じて装填、射撃が可能となっている。

この大口径砲の威力と新型エンジンにより、制圧用の戦力として当初大きな期待がかけられていた。

 

だが、陸戦兵器としては機体のサイズや重量が過大で、巨大な本車が運用可能な路面や橋梁は存在する筈もなく、砂漠や平原以外、まず「自在に走らせる」事すら困難な兵器であり、加えて足回りを摩耗から防ぐ為、戦車が用いる様な本車用の巨大トランスポーター(=機動艦)の開発や配備は望むべくもなかった。

 

そんなゴリアテによる遠距離射撃で吹き飛ばされ、グラント戦車小隊に攪乱され、ダビデによる近接射撃でかき回され、剣の巨人は完全に翻弄されていた。

指揮能力の高さも彼の持ち味である。

 

しかし、神刀である天叢雲剣が相手なので、決定打が与えられない。

弾薬も多少不安になってきた。

「駄目だ、大條の旦那!弾薬の無駄になっちまう!」

『よし、一時…いや、今すぐ撤退しろ!』

「へ?」

 

百舌鳥は何故大條が焦りだしたのか理解できなかった。

 

「何でです?」

『つべこべ言わずに早く引け!』

「わかりやした。おめえら、お開きだぜ」

『もう終わりですかぁ~?』『チャーリー了解』『エックスレイ了解』

「よし。巨人、こいつはお土産だぜ」

ダビデの側面に備え付けられた60連装ロケットランチャーを巨人に撃ち込むと、素早く戦場から離脱した。

 

「よし、陸戦隊が引いた。俺たちもこんな現場からおさらばするぞ!」

「いいんですかねぇ…?」

『了解した』

大條達もそのまま離脱していった。

まるで、今から起こりうるであろう自体から目を背けるように。

 

翌朝。

インヴィンシブル基地内、大條の執務室。

喧騒に包まれた昨日の戦場とは打って変わって、平和で静かな空気であった。

カタカタ、カタカタというキーボードの音が聞こえる程である。

ノイマンが、他の隊員の報告書を手に入室してきた。

書類の束は、ドサッという音を立てて大條の机に乗る。

 

「報告書です。一応目を通しておきましたが、特に問題ありません」

「そうか、ありがとう。千鳥ヶ淵はどうだった?」

「はい、天地竜也くんの活躍で被害は最小限に抑えられました」

「そうか」

大條は返事をしつつ、ペンを進ませていた。

 

「で、それは?」

「委員会への請求書。今回は安いぞ」

「どれくらいですか?」

「まず、人件費がこれで、弾薬代はあれで、燃料代や車両代や緊急出動代を含めると…トータルで95万7千円なり」

「艦隊が出動しなかったので、かなり安くなってますね。いつもなら100万超えてるのに」

「ま、いいんじゃない?あいつらがさらに安月給になってストされるよりは遥かにましだろ?」

 

肩をすくめながら、悪い笑顔を見せる大條であった。

 

 

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