新東帝都大学...ではない大学に受験して二浪しました 作:蟹ブタ
セキレイの小説は初めてですので温かい目で見てくださるとうれしいです。
それでは、本編をどうぞ
新東帝都
そこにはMBIと呼ばれる大手企業の本社がある超大都市である。
元々は遺伝子系新薬の製薬メーカーであったが、他業界にも進出しその全てで成功を収めている。
そのため、今現在最も注目がされている超大企業である。
そんなMBIの本社があるこの新東帝都にはそれなりの数の大学があり、中でも都市の名前がそのまま使われている新東帝都大学は日本一難関と言われている名門校であり、卒業者の半数が大手の企業に就職していることから、毎年多くの若き受験生が受験し、時には涙し、時には歓喜の声を上げている。
しかし、新東帝都大学があまりにも有名な為に埋もれてしまってはいるが、その他にも沢山の名門と呼ばれる大学が新東帝都にはある。
その新東帝都にある、とある大学の合格発表者の書き出された掲示板を見て大きな大きなため息を吐いている一人の青年がいた。
乱れた黒髪に剃り残しが目立つ無精髭を生やした見た目ギリギリ30代の実年齢20歳手前の彼の名前は氷室零司(ひむろ・れいじ)。
彼の2度目の春は...今まさに儚く散ってしまっていたところだった。
「...二浪決定か。...はぁ」
そう言って再度重苦しいため息をつく零司。
握り締めていた受験番号と同じ番号は合格者の張り出されている掲示板には残念ながら見当たらなかった。
これが意味することは、受験失敗、不合格、つまりは「浪人決定」ということである。
そんな彼のとなりでは合格したのであろう青年が仲間たちから胴上げされていた。
さらによく見てみると彼の周りのそこかしこで嬉しそうな笑い声や歓喜の叫びが飛び交っていて、あたりはすっかり幸せムード全開になっていた。
それをみた零司の胸にどす黒い感情がこみあげてきた。
いわゆる嫉妬と言うものだろう。幸せそうにしているほかの学生達を見ると胸が張り裂けそうになってしまっている。
「...だめだ、帰ろう。このままここにいたら確実に誰か刺しちまう。」
そんな極めて物騒な言葉をつぶやきながら零司は自分の受験カードを握りつぶすと、それを乱暴にポケットにいれてとぼとぼとその大学の門をくぐり抜けていった。
その背中は哀愁に満ち溢れていた。
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(...二浪かぁ。流石に二浪は...きっついなぁ)
帰路の途中で買った温かい缶コーヒーを飲みながら、零司は新東帝都に来た自分の目的のことを思い出していた。
目的といっても特定の会社で働きたいとか、なりたい職業があるだとか、そんな大層な目的があった訳ではない。
ただ母親の負担を少なくさせたかったからである。
母子家庭に生まれている零司は父親というものを知らず、母親に女手一つで育てられた。
彼の母はとにかく物凄い人で、働き手の男がいなくても余裕で生活が出来ていた。
どれだけ凄いのかというと、彼女の凄さを表現する言葉がありすぎて逆に表現できないほどである。
そんな母親に多大なる恩を感じていた彼は、いつか安定した稼ぎが出来る仕事につき、少しずつ恩返しをしていきたいと思っていた。
そのために彼は新東帝都へと上京してきたのだ。
…それを口に出すのは恥ずかしいので、理由はつけずに半ば逃げるような形で上京してきたのは流石に悪いとは思ったが。
一番最初に志望したのはなんとあの新東帝都大学だった。
新東帝都大学に合格し、無事卒業ができれば、就職先も安定する。
そうすれば母親に恩返しができるのではないかと彼は考えたのだ。
ギリギリな成績だったが努力すればなんとかいけそうだ、と言う教師の言葉を信じた零司は一日のほとんどを勉学についやした。
それこそ死に物狂いで努力を続けた零司は満を辞して新東帝都大学に受けてみたものの結果は見事に惨敗。
散々その教師への愚痴をいいつつも予備校に通い、今度はランクを下げての受験になった。
しかし、結果は先ほど見たように再び敗北。
見事に二浪生へとランクダウンしてしまったのだ。
「新東帝大ならまだしも、ほかの大学で落ちたなんて…。俺ってもしかして相当頭が悪いのかなぁ。はぁ…。」
本日何度目かわからないため息をつく零司。
心も顔もうつむきながら帰路を歩いていると、彼のズボンのポケットから何かが振動する音が聞こえてきた。
それに気づいた零司は若干慌てたようにズボンのポケットに手を突っ込み、振動していたものを取り出した。
彼の手にはバイブ音を響かせている携帯電話が握られていた。
早く出ろ、と言わんばかりにその身を揺らしている携帯電話の着信ボタンを押してそれを耳に当てた。
「…もしもし?」
『あ!もしもーし、零司?あなたの愛する友人、柏原樹(かしわら・いつき)さんだよー!』
携帯電話から聞こえてきたのは明るく元気な女性の声だった。
その女性の無駄に元気のある声を聞いた零司は、今日はじめて小さく笑みを浮かべた。
電話の向こうの女性は柏羅樹といい、予備校であった浪人生仲間でありこの新東帝都で初めてできた彼の友人である。
突然の友人の電話に少し驚きながらも零司は電話の向こう側にいる樹に声をかけた。
「お~う、樹。どうしたんだよ、いきなり。それと別に愛してないぞ。」
『わざわざ否定しなくても良いじゃーん!まったく~、傷つくなぁ~。…ってそういうことを言いに電話したんじゃないよ!零司に言いたいことがあって電話したんだよ!』
「言いたいこと?何かあったのか?」
零司がそう問いかけると樹は電話越しにでもわかるほどうれしそうにしていた。
『へへー、実は~。…受験した大学に見事合格できましたー!』
樹のとてつもないほど嬉しそうな言葉を聴いて零司は思わず顔をしかめてしまう。
二浪が確定してしまっている零司には、たとえ友人とはいえ、ほかの人の合格の話を聞くのはあまり気分がよくなるものではなかった。
『いやー、去年落ちたときはマジでどうしようかと思ったけど、あきらめないで挑戦してよかったよ~!』
「…そうか、よかったじゃないか樹!これは今日は合格祝いで飲みまくりだな!」
『もっちろん!もう今回の受験は零司と飲み明かすためだけにがんばってきたようなもんだからさ!当然零司の奢りでしょ?』
「ふざけんな割り勘に決まってんだろ調子ノンな」
『うわー、けち臭い、けち臭いな零司。ここはポーンと奢らないと女の子にもてないぞ~。』
「樹、今日は俺がいくらでも奢ってやるよ。」
『…変わり身早っ!そんなにもてたいの?』
「うるせぇほっとけ。」
そう言っていつもと変わらずに、陽気に樹と言葉を交わす。
本音を言うならば、浪人生に合格の話はするなよ!と自分の悲惨な結果とともに言ってしまいそうになったが、彼はそれを何とかこらえた。
樹がどれだけ努力をしていたのかも知っていたし、自分も彼女が合格できるように勉強を教えていたり、逆に教えてもらったり、互いにがんばってきたのだ。
それに、彼女は無二の友人であり、そんな彼女に自分の浪人の八つ当たりなどしたくなかったし、自分の浪人を知られて気まずい空気にはなってほしくなかったのだ。
『あ、そういえば零司も確か今日が合格発表だったよな?もう見に行った?』
「いぃっ!?」
そんなことを思いながらしゃっべていたと言うのにいきなり痛いとこをついてきた樹に思わず変な声を出してしまう零司。
(やばい、今ここでばれたら樹に余計な気を使わせちまう…。せっかく合格したって言うのに気を使わせるなんてことはしたくないし、やべぇどうしよう。)
電話越しで少し冷や汗をかいている零司に、張本人の樹は何かに気づいたように話しかけてきた。
『どうした?いきなりだまって?…!零司、もしかしてアンタ…』
そう言ってさっきとは打って変わって小さくなっていった樹の声を聞いて零司は慌てて声をかけた。
「…ばっか!なに俺が浪人しちまった感じになってんだよ。勝手に俺を浪人生にするな!俺の合格発表はまだ先だよ!何勘違いしてんだ。おかげで焦って日にちが間違ってないかどうか確認しちまったじゃねぇかよ。」
そう言って何とか誤魔化した零司は少し怒っているように装って、少し声を荒げた。
その声を聞いた樹は少しだけ間を空けた後、安心したように声を出した。
『…なぁんだ、よかった~。てっきり零司が二度目の浪人生活に突入したのかと思ってひやひやしちゃったよ。』
「勝手に落とすな!お前そういうの合格発表前に言うのやめろよな!縁起が悪くなっちまうだろ!?」
『アハハ!ごめんごめん!…じゃあ今回はアタシの合格と、零司の合格前祝いも兼ねての飲み会だな!』
「今度は勝手に合格にすんのかよ、横暴がすぎる…つーか飲み会って言っても俺とお前の二人しかいないじゃねぇか。」
『いいじゃん、二人きり!アタシみたいな美女と二人で飲めるなんて、零司にはそうそうないことでしょ?』
「お前、家に鏡ないんだな。可愛そうに。」
『…それどういう意味?』
「言葉通りの意味」
『…童貞の癖に生意気な』
「年頃の女がそんな言葉使うなよ」
「…もてないくせに生意気な」
「それはほんとにやめて。かなり気にしてるから。」
『…彼女できたことないくせに。年齢=彼女いない歴のくせに。童貞の癖に』
「頼む…俺が悪かった。だからもうやめてくれ、心が折れる。てか二回も童貞とか言わないでくれ、傷つくから」
こうして樹と大学入試のことや他愛もない世間話などを何分かした後。
夜に、二人がよく飲みに行く居酒屋で合格祝いをするという形に二人で決定した。
『それじゃ、いつもの居酒屋に夜6時に集合ってことで!』
「了解。はしゃぎすぎてあんまり飲みすぎるなよ?お前を背負って送ってくなんて俺はごめんだからな。」
『何いってんの!今日飲まなくていつ飲むのよ!アタシは今日は倒れるまで飲み続けるから!店のお酒をすっからかんにする気概で行くから!』
「…そしたら俺の財布もすっからかんになっちまうからやめてくれよ?」
『えー、せっかく人の金でお酒がのめるのにな~。零司のけち!』
「酒もタバコも女も程々が肝心なんだよ。度が過ぎると害が及ぶってな。」
『零司は女で害にあった事はないでしょ?』
「現在進行形で害に会ってるけどな。」
『どういう意味だよそれ』
「さぁて、それじゃあまた居酒屋でな!バイバイ樹!合格おめでとう!」
『あ!こら零司!あんた逃げる気!?ずるいぞ、このくそ童貞!』
「童貞童貞うるせぇぞ!」
あまりにも童貞童貞うるさいので思わず文句を言いながら携帯を再び耳に近づける。
しかし、携帯から聞こえるのはピー、という無機質な電子音だけだった。
「…樹め、逃げたのはどっちだってんだ。」
そう言って、苦笑しながら携帯をポケットにしまう零司。
そうして何気なく真上へと顔を上げる。
そこには、白い雲とその間から見える青い空が綺麗に、悠然とたたずんでいた。
そのまましばらく空を見つめ続ける零司。
数分間、空を見続けた零司は視線をゆっくりと元に戻し、ゆっくりと大きなため息を吐いた。
「…とりあえず、帰ろう。大家さんにも報告しとかないといけないし。」
そういって再び帰路を歩き始める零司。
彼の手にあった缶コーヒーはすっかり冷えてしまっていた。
先ほどとは打って変わった静けさのせいか、彼の背中には先ほどよりも濃い哀愁の空気が漂っているように見えた。
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零司がとぼとぼと帰路を歩いてたどりついたのは、一軒の木造アパートだった。
この共同型木造アパートが、今現在の零司の住居だった。
入り口の前の木の壁には張り紙が貼ってあり、そこに『出雲荘』という建物の名前と、家賃やその他諸々詳細の記述がされてあった。
その張り紙を見ながら零司は、この出雲荘に住み始めたときのことを思い出していた。
彼がまだ上京して間もないころ、事前に物件を借りるのを忘れてしまうと言うとんでもないポカをしてしまった零司は無謀にも現地で住む場所を探していた。
しかし、中々いい物件も見つからず、見つかったとしても金銭の都合により断念せざるをえなかったり、他に人が入っていたため入居できなかったりと、上京して早々住居が見つからないというアクシデントに見舞われていた。
そんな明日への不安と後悔と軽い絶望に沈んでいた零司がちょうど今のようにとぼとぼ歩いていたとき、偶然見つけたのがこの出雲荘だった。
街中の不動産屋ばかりに訪れていた零司にとって町の少し外れたところにある出雲荘はまったく視野には入っておらず、見つけたときは思わず歓喜の声を上げてしまったほどだ。
1日2回のまかないつきで家賃5万円という安さ、さらには6畳1間というそこそこの広さ、金銭に限りのある大学生にはとてもありがたい物件だった。
貼紙を乱暴に引っぺがして、玄関をノックもチャイムすら押さず、これまた乱暴に引き戸を開けて何事か!と飛んで来た大家さんの目の前で土下座をして入居させてくれ!と頼み込んだ結果、無事零司は出雲荘へと入居できたのだ。
「今思えば、大家さんもよく俺のこと入居させてくれたよな…。事情も告げずにいきなり土下座して頼み事だもんなぁ。…傍から見たらまじ怪しい奴だぜおい…。」
そう言ってわずかに苦笑した零司は引き戸を静かに開き、玄関に入っていった。
廊下に腰を掛け、靴を脱ぎながら彼は懐かしそうな表情を浮かべた。
いきなり土下座してきた零司に対して、優しく頭をあげるよう諭し、笑顔で入居を承諾してくれた大家さん。
その時の嬉しさを彼は今でも鮮明に覚えている。
嬉し過ぎて大家さんの手を握り涙を流してしまったほどである。
「そういえば、あの時の大家さん若干引いてたよなぁ…。まぁ、あんな泣き顔の青年に近寄られたら誰でもそうなるか」
「私がどうかしたんですか?」
「どわぁ!?お、大家さん!いるならいるって言ってくださいよ…」
いきなり背後から声をかけられた零司が驚いて振り返るとそこには和服のよく似合う美人な女性が笑みを浮かべて立っていた。
彼女がこの出雲荘の大家、浅間美美哉である。
彼女は驚いた零司を見て、クスクスと口元を手で隠して上品に笑っていた。
「すみません、玄関の戸が開いた音がしたので来てみたら零司さんがぶつぶつと独り言を言っていたので話しかけづらくて…。」
「独り言まで聞いてたんですか?…うわぁ、めっちゃ恥ずかしい。」
「恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。内容はほとんど聞こえませんでしたから。」
「…ほんとですか?」
「はい、だから零司さんのことを『人の手を握っていきなり泣き出す、情緒不安定な人』だなんて私は思ったりしてませんよ。」
「大家さん絶対俺の独り言聞いてましたよね?じゃなきゃこのタイミングでそんなこと言いませんよね?」
不安げにそう問い詰める零司を見て、まるでいたずらっ子のように無邪気な笑みを浮かべる美哉。
それを見て『あ、この人絶対確信犯だ』と思い、これからは独り言を言わないよう気を付けようとひそかに決意する零司。
そんな彼を笑顔で見つめていた美哉はふと表情をすこし真剣なものに変えた。
「それで、零司さん?結果はどうでしたか?」
「え!?…えっと、その残念ですけど…今年も、ダメでした。」
美哉に結果のことを聞かれて少しだけ動揺する零司だったが、きっぱりと自分が不合格だったことを伝えた。
それを聞いた美哉は少しだけ悲しそうな顔をして「そうですか…」と小さくつぶやいた。
零司の不合格を悲しんでいるその姿を見て、やはりこの人は優しい人だと改めて感じることができる。
彼女のその表情を見た零司は、軽く頭を右手で搔いたあと言葉をつづけた。
「でも、今年はダメでしたけど、来年また頑張ります。ここまで来て、あきらめるのは嫌ですから。自分の信じる道を決めたら、あとはまっすぐ突き進む!これが氷室家の教えですから。何回失敗してもあきらめませんよ!」
そう言って歯を見せて笑う彼の表情はどこか吹っ切れたような顔をしていた。
彼とてこんな短期間で悲しみをなくすことはできはしないが、元来ポジティブな性格の零司はもうすでに前に進むことを決意していた。
あとは、二回目の不合格なので正直慣れてしまったというのもある。
こんなものに慣れるなど本来あってはならないことなのだが、少なくとも今はプラスに働いているので気にしなくてもいいだろう。
彼の発言に一瞬目を丸くした美哉はその後優しそうな笑みを浮かべ彼を見ていた。
「ふふ、受験はそう何回も失敗していいものではありませんよ?次回こそは絶対に合格するぞ!…と思うくらいの気概でいないと。」
「う…そうですよね。そう何回も失敗してらんないですよね…。それだけ金もかかるってことだし。これじゃあいつまでたっても親孝行できないし…。」
「…頑張ってくださいね、私を含めここにいる皆さんが、貴方の事を応援してますから。」
頭を抱えてうんうん唸っていた零司に美哉は優しい声色でそう告げた。
その声に反応して頭をあげた零司を見て柔らかく笑う美哉。
そして「あ、そういえばもう冷蔵庫の中身がないから買いに行かないといけませんね。零司さん、すいませんが、留守番お願いしますね?」と言って外に行くための準備をしに台所へと歩いていった。
了解です、と返事をした後、誰もいなくなった廊下を歩いて自分の部屋に向かう零司。
二階にある自分の部屋へと行くため、階段をのぼりながら零司は、改めて『自分は人に支えられて生きているんだなぁ』と人のやさしさをしみじみ感じていた。
すいませんグダグダですね・・・
美哉さんの口調ももはや誰それ状態です。
そしてセキレイを一体しか出せないという展開の遅さ。
ただただ謝るしかできません。
本当に申し訳ありません。