新東帝都大学...ではない大学に受験して二浪しました 作:蟹ブタ
だが!やっと、やっと出せた!セキレイ!
え?前回のあの人はって?あの人はセキレイではなく大家さんですよ?ナニイッテルンデスカミナサン。
「あー、まだ少し頭がクラクラするな…。樹の奴、俺が酒弱いの知ってるだろうに…」
午後23時半 夜もすっかりふけこみ、お店の光に照らされていた道は昼間の活気もなりを潜め、ひっそりと静まり返っていた。
人通りもなくなったその道を、一人の男性が頭を押さえ、すこし苦い顔をしながら歩いていた。
彼の名前は氷室零司といい、今日めでたく二浪が決定した青年である。
そんな二浪生である彼がなぜこんな夜に険しい表情で歩いているのにはある理由のためだ。
彼が二浪生の烙印をおされたのとほぼ同時刻、彼の予備校の友人である柏原樹は見事希望校に合格。
かねてより合格したらお祝いに呑みまくろうと約束していた零司は気まずい雰囲気にならないように自分が浪人したことを伝えずに、樹と居酒屋でお祝いをすることとなった。
そして午後6時に二人の馴染みの居酒屋に集合することになったのだが、零司は合格発表を見にいって帰ってきた後、精神的疲労により部屋で爆睡してしまい、居酒屋に着くのが集合時間より30分遅れてしまったのだ。
この飲み会を楽しみにしていた樹は彼が遅れてきたことに大層怒り、合格したという喜びと相まって、かなりの量の酒を飲んでしまった。
そしてべろんべろんに酔っぱらった樹は酒に弱く、ちびちび飲んでいた零司にも強引に酒を飲まし、散々騒ぎまくった挙句酔って足がふらつき、まともに歩けなくなるという絡み酒のおっさんのようになってしまったのだ。
彼が冒頭で苦しそうに顔を顰めていたのは、樹に無理やり飲まされた酒のせいで少し頭痛がしているからである。
散々酔っぱらって暴れまくった後、すっかりダウンしてしまった彼女を見て、零司は樹の体を支えながら、なんとか移動してタクシーを捕まえて樹を送り返した後、自分も少しだけ休憩して帰宅するために歩いていたのだ。
その後の彼女の世話は運転手に任せてしまったので少し心配ではあるのだが。
(まぁ…チップってことで料金割り増ししといたし、大丈夫だろ。)
そう結論付けた零司は少しだけ寒さに体を震わせた後、ゆっくりとした足取りで道を歩いていた。
やはり春が近づいてきてはいるもののまだ夜は肌寒い風が吹いている。
しかし、その寒さのせいなのか、飲まされていたときは頭がガンガンしていたが、今は痛みも多少引いてきて歩みもだいぶ軽くなってきていた。
余裕が少しできてきた零司は頭を押さえていた片手をポケットへとしまい、なんとはなしに周りを見渡した。
もうすぐ明日になるこの時間帯のためか、彼以外にこの道を歩いている人はおらずただただ零司の靴の音が響いていた。
(この年にもなってこんなこと思うのもあれだが、やっぱ夜一人で歩くのって怖いな…。不審者とか、下手したらカツアゲとかに会いそうで。…最悪、幽霊とか出てきそうだし。…てか、カツアゲや不審者よりも、いるかどうかも分からない幽霊にビビる俺って…。)
まるで小学生のようなビビり方をしている自分を情けなく感じつつも歩みを進めていく零司。
そして夜道を一人寂しく歩くこと数分後、『酔いも少し冷めてきたし、何か温かい物でも飲みたいなぁ』と思い、周囲に視線を向けると少し離れたところに自販機の明るい光が着いているのが目に入った。
ラッキー、と心の中でつぶやきながら自販機まで歩いていく零司。
自販機の前に立ち、硬貨を数枚入れてボタンを押すと、ガコンッ!という音がして缶に入った飲み物が出てきた。
缶には「じっくりコトコトあまーいおしるこ」と書いてあった。
彼は少しだけかがんでその飲み物をとると、飲むよりも先に両手や顔に缶を当てて暖を取り始めた。
しばらくそうやって暖を取った後、缶のプルタブに手をかけて勢いよく缶を開けた。
そして一口缶の中身を飲んだ後、口を缶から離した。
口にあるおしるこを飲み込んだ後、また零司はなんとはなしに辺りを見回した。
自販機のすぐそばには公園の入口があり、その公園には鉄棒や滑り台、アスレチックなどの様々な遊具が置いてあった。
その公園を見て、(自分も昔はよく公園のブランコで遊んだもんだなぁ)と懐かしみながら遊具を眺めていた零司だったが、あるものを見てふと表情を変えた。
彼の視線の先には遊具として備え付けられているブランコがあった。
そのブランコの近くには外灯もついており、暗くてもはっきりと様子がわかるようになっている。
それだけなら別だんおかしいところはないのだが、問題なのはそのブランコに一人の女性が座っていたことである。
見た目年齢は零司とそうかわらない、18~9くらいだろうか。
髪は短く、薄いブラウンの色をしている。
服装は中に来ている白いワイシャツのようなものに、これまた白い白衣を着ていた。
中も外も白い服装をしているのだが、所々ホコリや砂などで汚れておりまるでそこらじゅうを転がってきたかのようだった。
(…怪しい、怪し過ぎる。ものすごくかかわっちゃいけない気がする。けど、明らかにあの子一人だけだよな?…もしあんな女の子が一人でこんな暗がりにいたら……真昼間にはとても話せないようなことが起こってしまいそうな気もする。…まぁ、今は夜中なんだけど。)
どう考えても怪しいその女性に声をかけるのか否か迷ったあと、とりあえず放っておけないので声をかけて事情をそれとなく聴いてみよう!と考えた零司は大きく息を吐いた後、意を決して公園にいる女性に向かって歩き出した。
怪しいと思いつつ、それでも声をかけようとする当たり彼はバカでお人よしなのだろう。
彼がゆっくりと、というよりはおっかなびっくり歩きながら彼女に近づいていき、彼女の隣の空いているブランコ付近まで近づいたところで、いきなり女性がものすごい勢いでこちらに顔を向けた。
「どぅおい!?」
「……」
いきなりこちらを向いてきた女性に驚き、思わず変な声を出してしまった零司。
(こ、これは変な奴と思われたかも!?)と内心びくびくするが、目の前にいる彼女からは特に何も反応がないのでとりあえず胸をなでおろした。
そして失礼だとは思いながらもこちらに向けてきた顔を観察する。
じーっとこちらを見てくる彼女の顔はかなり整っているのだが、感情の起伏は見られず何を考えているのかがいまいちわかりにくい。
しかし、その無表情な顔よりも目に入るのは額にある入れ墨のようなものだった。
鳥を模したようなその入れ墨に思わず面食らっていると、今までこちらを見ていた女性がいきなり口を開いた。
「…誰?」
「へ?」
「…貴方、誰?」
「え、あ!お、俺!?あっ、そ、そうだよな、声もかけずにいきなり近づいてくるんだもんな。これじゃあ俺めちゃくちゃ怪しい奴だよな…。」
いきなりの問いに慌てているその姿がもう不審者なのだが、そこに気づいていないのか彼は一度大きく深呼吸したあと言葉をつづけた。
「いや、ごめんごめん。さっきそこの自販機で飲み物を買ってたら公園にいるお前が見えたからさ。つい気になって」
「…気になった?」
「うん、ちょっとだけだけどな。えっと、俺の名前は氷室零司。職業は…一応学生かな…あはは。」
「…レイジ?」
「そ、絶対零度の零に司法書士の司でレイジ。お前の名前は?」
「名前は…秋津。」
「……」
「……」
「えっと、それだけ?」
「……(コクッ」
零司の問に首を縦に振る女性改め秋津。
あまりにも短い自己紹介に思わずずっこけてしまいそうになるが、それを押さえてなんとか話をつづける。
「な、なるほど、秋津ね…。んーっと、その、職業とかは?」
「…職業?…わからない。」
「おーう…わ、わからないとくるか…。」
眉毛の一つも動かさず答える秋津に口元をひくひくさせてしまう零司。
(やっぱ関わんない方がよかったのかも…)
彼の頭の中で完全に関わってはいけなかった人認定されてしまった秋津。
しかし、かかわってしまった以上途中で投げ出すのも後味が悪い。
そこで次の策を打ち出すことにした。
「えっとさ、もしよかったらだけど、おしるこ飲む?こんな寒いところにいたら冷えるだろ?あったかいもの飲んで温まっとけよ。」
「…おしるこ?」
そう言ってキョトン、と小首をかしげる秋津。
その様子を見て零司が意外そうに尋ねる。
「ん?もしかしておしるこしらないのか?」
零司の言葉にコクコク、と首を縦に振る秋津。
彼女のその様子に少し驚いたような表情を浮かべる零司。
「まじか…おしるこを知らないなんて可哀想になぁ…。ほら、それじゃあ飲んでみろよ。すごいおいしいからさ。」
「…ん」
そう言ってポケットから自分の持っている飲みかけのおしるこではない、新しいおしるこを取り出して彼女に渡した。
軽くうなずいて零司から渡されたおしるこの缶を受け取る秋津。
受け取った瞬間彼女は驚いた表情をして「…暖かい」と呟いた。
そしてしばらく缶を振ったり見つめたりいじくったりしていた後、どことなく困ったような表情を零司に向けた。
「…開かない。」
(…おしるこも缶の開け方もしらないってどういうことだよ?一体どこで何やってる人間なんだ?)
缶を開けるのに悪戦苦闘している秋津を見て、ますます関わらなきゃよかったなぁと感じる零司。
しかし、必死に缶を開けようとしている姿が少し可愛らしく、思わず見て苦笑いをしてしまう。
「…プルタブを開けるんだよ、こうやって。」
そう言って秋津の手から缶をとると、プルタブを開けて彼女に手渡した。
秋津は受け取った缶の口をまじまじと見た後、両手で缶を持ったまま一口おしるこを口に含んだ。
その瞬間、目をカッと見開いて二口、三口と続けておしるこを飲み始めた。
その表情は相変わらずの無表情だがおしるこはおいしそうに飲んでいるのを見て、掴みはいいだろうか?と考えていた。
しかし、この後のことを零司は全く考えていなかった。
さてどうしたものか、と空いているブランコに腰かけて秋津を横目でみる零司。
彼女は先ほどと変わらず、無表情な顔をしてうつむいて、おしるこをちびちび飲んでいた。。
しかし、時折こちらが気になるのかチラッ、チラッと零司の方へと視線を向けてくる。
そして、偶然にも零司と視線が合うと、一瞬目を見開いた後、少しだけ慌てるようにまた顔を下に向ける。
しかし、数秒経つとまたこちらをチラチラと見始める。
彼女はずっとこれを繰り返していた。
どちらも相手が気になっているため、どちらかが話しかけた方がいいような空気になっているこの場面。
これは自分が行かなくては駄目だろうかと考え、思わず夜空を見上げる零司。
そして、大きく息を吐いた後、意を決して話しかけた。
「…その額の入れ墨、イかしてるよな。」
「……?」
「…」
(……死にたい。ただただ死にたい…。なんだよ『額の入れ墨イかしてるよな』だよ。もっということあっただろうが!)
自分のあまりのコミュニケーション能力の低さに思わず顔を覆いたくなる零司。
ずーん、という擬音が聞こえてきそうなほど落ち込む零司の横で秋津は、左手で額を触った後、零司に視線を向けた。
「…これの事を、言っているのか?」
「ん?あ、ああそうそうそれの事。それってなんかの鳥の入れ墨だろ?すごいきれいっていうか似合ってるっていうか…。」
落ち込んでいた零司は、秋津に声をかけられ慌てて返事をする。
そしてもう一度その入れ墨のようなものを見る。
羽を広げた鳥を真横から見たようなものと中国とかのイメージがある太極図をあわせていた。
(入れ墨とは思えないほどきれいではあるな)
そんなことを思いつつ、視線を額の入れ墨から顔へと移した。
視界に入ってきた秋津の表情は無表情ながら、どこか悲しそうな顔をしていた。
そして、呟くように声を出した。
「…これは、そんなにいいものじゃない。」
「え?」
「…欠陥品の印だから。」
「……」
そう寂しそうにつぶやいて片手を額から外し、器用にブランコの上で体育座りをした。
秋津の言葉の意味はよく分からなかったが、額にある入れ墨?によい感情はもっていないことは彼女の声色から想像できた。
ならば、これ以上の追及はよすべきだと考え、口を閉じた。
(てか、俺が入れ墨の話をしなきゃこんなことにはならなかったよな…。全く余計なことばかりしやがって俺の馬鹿。…これなら最初から単刀直入にはなしすればよかったな。家はどこだー!とかここでなにしてんだー!とか…)
そこまで考えて零司は、何回目かもわからないため息を吐き、なるべく秋津に視線を合わせないよう、正面を向いたまま声をかけた。
「あのさ、秋津…だっけ?…秋津はさ、ここで何してるんだ?こんな夜遅くに人のいない公園でさ…。」
「……」
(…だんまりですか。こりゃ訳アリってやつかな?家出かなんかか?)
そう考えつつ零司は飲みかけのおしるこを一口飲む。
のどを通った甘いおしるこは飲みかけだったせいかすっかり冷え切ってしまっていた。
「…くはっ。…まぁとにかくさ、何があったのか知らないけど、速く家に帰ってやんな。お前のことを心配してる人や待ってる人だっているんだろ?」
缶から口を離しつつ、諭すように言った零司。
そんな彼の言葉を聞いた秋津の顔が先ほど入れ墨の話をした時よりも深い悲しみで彩られたように感じられた。
しかしそれも一瞬で、再び無表情に戻る秋津。
先ほどと同じように口を開く様子はみられない。
「……」
(反応はあっても返事はなしか…仕方ない、こんな手は使いたくないけど…。)
ここまで反応がない以上、自分にできることはもう一つしかないと考えた零司は右手で頭を搔きながら声をかけた
「…まぁ、初対面でしかもいきなり話しかけてきた俺には何も言えないよな。…それじゃ、せめて交番に行こう。そこで警察官にお前の事情を話せばいい。そうすれば、何か力になってくれるさ。」
「!…ケイサツ?」
若干驚いたようにそういう秋津に零司は(お、反応ありっと)と思いながら言葉をつづけた。
「そ。交番にいるおまわりにでも愚痴をこぼせばさ、きっとらくになる」
「いや…!」
「い…!?」
ブランコから立ち上がろうとした零司の服の袖を思い切り掴んだ秋津。
そのせいで零司がうまく立ち上がれず、後ろに倒れそうになってしまう。
なんとかぎりぎり体勢を立て直した零司は少し怒ったように声をかけた。
「あぁ、びっくりしたー…。お~い、いきなり何を…」
「ケイサツは…嫌だ。」
「え~…そんなこと言われても、何も話せないなら仕方ないっていうかさ…。」
明確な拒否の言葉と共に服の裾を握る強さを強くする秋津。
そんなことを言われて、怒る気も失せてしまった零司は困ったようにつぶやいた。
それを聞いた秋津は一回だけ顔をあげて、隣にいる零司を見た後、ポツリポツリと呟き始めた。
「…帰る所、無い」
「?…それは、一体どういう」
「私は…コワレテルから」
零司の言葉を遮ってそう言った秋津は彼の服の裾を掴んでいた手を離し、再び体育座りをした。
彼女の乗っているブランコが揺れ、落ちそうになるが、彼女は微動だにせずに座ったままだった。
「コワレタ欠陥品には、帰りを待っている人も、心配している人も、必要としてくれる人も誰もいない…」
「……」
「…私自身の居場所も、ない。どこにも、ない…。」
そう言って顔を膝の間へと埋める秋津。
そんな彼女をじっと見つめていた零司は軽く息を吐いて右手で頭を搔いた。
彼女の声色や微かにしか変化しない表情をみて少なくとも嘘や冗談を言ってるようには見えない。
かと言って、今の彼女の告白で何がわかったかといえば、正直分かったことは一つもない。
むしろ彼女が一体どんな人なのか、謎が深まっただけである。
(警察官には会いたくない、自分の事や事情は全くしゃべらない、世間知らずな可能性もあり…。どう考えても普通の人じゃないのは確かなんだが…だからって放っておくのも嫌だしな。)
そこまで考えて零司は視線を秋津へとむける。
彼女は先ほどと変わらずに顔を膝の間に埋めていた。
その顔はやはり無表情で何を考えているのか全くわからないが、さっきの話を聞いたせいか、彼女の顔にはどことなく寂しさや孤独を感じさせていた。
(…こんな顔されちゃあ見捨てられないよな。とはいえ、近くにホテルがあるわけでもないし、交番は秋津が嫌がるからダメだし、金を持っているようにも見えない。…打つ手なしだよなー。……仕方ない、ほんっっっとに仕方ないがダメもとで聞いてみるか。)
大きくため息を吐いて天を仰いだ後、手を膝の上に置いて秋津に話しかけた。
「…ほんとに帰る場所も、知り合いもいないのか?」
「…ん。」
「警察にあうのもダメか?」
「…いや。」
「…でもこのままここにいるわけにも行かないだろ。こんな夜中にアンタみたいやつがいたらさ…その…」
「…ゴウカンされる」
「…わかってるじゃないかよ。だったらさ、とりあえずここから移動なりなんなりしようぜ…。」
「……」
「……」
零司の言葉に返事をせずに、膝を抱えている両手に更にギュッと力を籠める。
それを見た零司は「ぬあああ…」と小さくつぶやいて頭を両手でかきむしった後、零司はぽつりと、かすれるように呟いた。
「…なら、俺の泊まってる所に来るか?」
「……え?」
零司の言葉を聞いた秋津は膝の間に埋もれていた顔をあげて、零司の顔を見つめた。
その顔はどこか驚いたような、不安を感じているような、そして、微かに嬉しさを感じているような、そんな複雑な感情を感じさせた。
そして、同じように顔を秋津の方に向けて彼女を見つめる零司。
その顔は、とてつもないほどの疲労を感じさせるような顔をしていた。
うーむ、少し強引だっただろうか…
……ま、いいか(思考放棄