新東帝都大学...ではない大学に受験して二浪しました 作:蟹ブタ
「…ん」
6畳一間の部屋の真ん中、そこに敷いてある布団で寝ていた女性、秋津は部屋に差し込んでくる日差しに当たり、目が覚めた。
眠たそうに眼をこすりながらゆっくり起き上がった秋津は、きょろきょろと辺りを見渡した。
昨日、レイジという青年に誘われて連れてこられた彼の部屋は机をタンス、そしてテレビが一台あるだけの簡素な部屋だった。
「レイジは…どこにいるのだろう?」
そう呟きながらレイジを探すが、わかったのはこの部屋には彼がいないということだけだった。
しばらくあたりを見ていた秋津は視線を自分が寝ていた布団へとむけた。
そして次に横にある押し入れへと視線を向けた。
(…これは、あそこから出していた。つまり、しまう所もあそこの…はず。)
そう考えた秋津は、もぞもぞと動いて布団から出ると枕元に立ち、布団をじーっと見つめ始めた。
「どうやって、畳むのだろう…。」
困ったように布団のまわりでアタフタ歩きまわり始めた秋津。
しばらく布団のまわりを歩き回った秋津は、何か閃いたのか急に足を止めた後、布団をまたいで布団のちょうど真ん中を両手で持ち上げた。
いわゆる二つ折りの状態である。
しかし、彼女は掛布団も敷布団も両方一緒にして持ち上げてしまったため前方がとても見にくくなってしまっていた。
(…見えない。場所は、どこ?)
なんともおぼつかない足取りで布団を押し入れまで運ぼうとする秋津。
そして、終始ふらついてばかりだったが無事押し入れの前までたどり着いた秋津は、持っていた布団をポイッと投げ入れた。
ボフンッという音を立てて押し入れの中に入った布団を見て、少しだけ満足そうに頷いた後、ほんのちょっぴり胸を張った。
やりとげた達成感を感じたまま、秋津は押し入れの戸を閉めようとした。
ところが、ここでまた問題が発生する。
押し入れの戸は出っ張っている布団が邪魔をして、閉めることができなかったのだ
秋津は何度も何度も、開けたり閉めたり開けたり閉めたりを繰り返した後、悲しそうにぽつりと呟いた。
「……閉まらない。」
傍から見ても分かるくらいシュンとして落ち込んだ秋津は、これまた悲しそうに顔をうつむかせた。
その時、後ろからガチャリとドアの開く音がした。
慌てて後ろを振り返るとそこには、和服の似合っているきれいな女性が立っていた。
その女性は口元に手をあてて驚いたような表情をうかべていた。
「まあ、起きていらしたんですね。そろそろ起こしに行こうかと思っていたんですけど。」
そう言って嬉しそうに笑う彼女を見ても、秋津は何も反応を見せなかった。
そんな彼女を見て少しだけ不思議そうな顔をした後、何かわかったかのような表情を浮かべた。
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね、すいません。私の名前は浅間美哉。この出雲荘の大家になります。」
そう言って柔らかな笑みを浮かべた美哉はきれいに一度お辞儀をした。
彼女の自己紹介を聞いた秋津は一瞬目を見開いた後、彼女と同じようにぺこりとぎこちない様子でお辞儀をした。
「私の名前は…秋津。その…よろしく?」
「はい、よろしくお願いしますね。」
疑問系で返ってきた秋津の言葉に何か言うでもなく笑顔で返事をする美哉。
その姿は優しい母親のようであり、昨夜レイジが話していたような怖い人にはとても見えなかった。
「さて、秋津さん、とりあえず下に降りましょうか。もうそろそろお昼御飯の支度ができる頃でしょうから。」
「…お昼御飯?」
「ええ、貴方もお腹が減っているでしょう?朝ごはんも食べないでずっと寝てらしたんですから。」
「きっと疲れていたんですね」と口元に手をやり、小さく笑う美哉。
そんな彼女の言葉を聞いた途端、秋津のお腹から『ぐぅぅー』という音が聞こえてきた。
それと同時に、先ほどまでは何も感じなかったのにも関わらず、空腹感を感じ始めた。
恐らくは彼女の言葉を聞いて、ようやく自分が空腹であることに気が付いたのだろう。
美哉は手を口にやり「あらあら」と面白そうにつぶやいた。
「ふふ、お腹の虫さんに急かされたことですし、一階に行きましょうか。」
「…ん、了解した。」
小さく笑った後部屋を出て、一階を目指して歩いていく美哉の後ろをついていく秋津。
そんな彼女の背中を視界に入れながら、美哉と共に階段を下りていく。
「…美哉、お前は本当に大家、なのか?」
「?…ええそうですけど、それがどうかしたんですか?」
突然の秋津の質問に少しだけ驚いたような様子で答える美哉。
彼女が返してきた答えに対して、秋津は無表情のまま言葉を返していく。
「…レイジは、ここの大家のことをものすごく怖い人だと言っていた。でも、美哉はそんな怖い人には見えないから。本当に大家なのか疑問に思った…それだけ。」
「まあ、零司さんがそんなことを?」
振り返って秋津に再度確認した美哉に、秋津はコクリと首を縦に振った。
「もう、零司さんったら見ず知らずの人にそんなことを言うなんて。…そんなことを言われたら私が怖い人だって誤解されてしまうのに…。本当に、零司サンったら、怖い物知らず。」
そう言って美哉が笑ったかと思うと、一瞬だが、美哉の背後に般若のお面のようなものが姿を現した。
その瞬間ゾクリと背中に悪寒が走ったかと思うと、美哉の後ろにあった般若のお面は影も形も無く、先ほどと同じように人当たりの良さそうな優し気な笑みを浮かべていた。
「とりあえず、この件の追及はまた今度にしましょうか。今はそれよりも、貴女の事の方が先ですから。」
「…私の事?」
「はい、貴女の事です。」
一階の廊下に着いた美哉はくるりと秋津の方を向き、真剣な表情で秋津に話しかけた。
「…零司さんから話は聞いています。貴女が公園にいたところを零司さんに見つけられてここに連れてこられたことも、貴女が何か、人に言えないような事情を抱えていそうなことも、すべて聞きました。」
それを聞いて、秋津は無表情のまま瞳をまっすぐ美哉に向ける。
確かに、秋津は人には言えないようなものを抱えている。
そしてその事情はおいそれと他人に言えるようなものではない。
だがそれ以上に、彼女には自分の抱えている事情を説明できない理由があった。
それは、言えば他人を巻き込んでしまうとか、レイジ達を傷つけてしまうなどといった理由ではない。
もっと、彼女自身の奥底にあるものが原因のものである。
「私は……。」
思わず美哉から視線を逸らし、言葉を詰まらせてしまった秋津をみて、美哉は真剣だった表情を変えて、優しそうな笑みを浮かべた。
「貴女が何者なのか、一体どんな事情を抱えているのか、それを私に説明することは別にしなくてもいいです。」
「……。」
「ここ出雲荘は、『来るものは拒まない』ところです。貴女が本当に困っているのなら、私は貴女を拒みはしませんから。」
「……。」
美哉の言葉を終始無表情のまま聞いていた秋津は、一言もしゃべらないまま顔をうつむかせた。
それから、視線を美哉の方に向けたり、またうつむかせたり、とせわしなく動かし始めた。
その様子は、何かを迷っているような、あるいはこの事に戸惑っているような、そんな風に感じられた。
そんな彼女を苦笑しながら見ていた美哉は、優しそうな表情を浮かべると彼女の肩に軽く手を乗せた。
「何も、何も言わなくていいですよ。」
「…。」
「ただ、零司さんにだけは、しっかりと事情を説明してください。いつになっても構いませんから、彼だけには、すべてを話してください」
「…レイジに?」
秋津が顔をあげてそう言うと、美哉は何かを思い出したのか少しだけ嬉しそうに笑って話をつづけた。
「ええ、零司さんが貴女をここに入居させるよう私に頼んだんですよ。『実は、彼女は俺がここまで連れてきたんですよ。事情は全く知らないんですけど秋津は、帰る場所も、頼れる人もいないらしいんです。このままじゃもしかしたら、あいつはたった一人で、この先ずっと一人で生きていかなきゃならなくなるのかもしれない。…彼女の分の家賃も俺が払います。だから、せめて事情が全部わかるまででもいいですから、秋津をここに入居させてはくれませんかね…』って必死に頭まで下げて。」
「…レイジが……。」
秋津は、相変わらずの無表情のまま顔を下に向け、零司の名前を何回か呟いた。
「貴女のことをここに連れてきたのは彼で、貴女のことを懸命に考えて、ここに入居させようとしたのも彼です。素性も事情も知らない貴女のことを一番気にかけ、心配してくれたのはほかでもない零司さんなんです。」
「…。」
「ですから、せめて彼には、貴女の抱えている事情の全てを、説明してあげてください。まぁ、それを余計なお節介だと切り捨ててしまうのも秋津さんの自由です。零司さん、自分にはだらしがないんですけど、他人の事となるとついついお節介を焼いてしまう人なんですよ。」
そう言って苦笑する美哉を尻目に、秋津は何かを考え込むように顔をうつむかせていた。
何かを必死に考えている秋津の目の前でパンッ!という音が聞こえてくると、考えることに没頭していた秋津が慌てて音のした方向に視線を向けた。
いつの間にか目の前にいた美哉は両手を合わせており、彼女が音源だということがすぐに理解できた。
「はい!思案しなければならないことが多いのはわかりますけど、今はそれは置いておきましょう!とりあえず、秋津さんには覚えてもらいたいことがたくさんありますから。」
「…了解した。」
「はい、素直でよろしい。それでは、初めにこの出雲荘について説明させてもらいますね。…と言いたいところなんですけど実は私、お昼の支度がまだ残ってるんです。というわけで、ここからは零司さんに説明してもらいますね。…零司さーん、ちょっとこっちに来てもらえますかー。」
美哉がそういうと、廊下の奥の方からだろうか、零司の声が聞こえてきた。
「えぇー!?す、すんませんちょっと待っててもらえますかー!あと少しでこっちの揚げ物が上がるんですー!」
「…零司、揚げ物は僕が見てるから早く美哉のところに行ったらどうだい?」
「え、いや、でも本当にあとちょっとで…」
「篝の言うとおりだよぉ。零より美哉の方が料理うまいんだから、おとなしく選手交代しなさいって。」
「はぁ!?味見係でしかないうずめにそんなこと言われたくないんですけど!?言っとくけどお前よりも俺の方が全然料理とかできるから!」
「…いいから速く行った方がいいよ零司。…そろそろ美哉が大変なことになるかもしれないからさ。」
「篝さん揚げ物よろしくお願いします。」
「うわぁ…変わり身はやーい…。」
そんな零司と他の男女の声会話が奥の方から聞こえてから数秒後、ドタドタと廊下を走る音がしたかと思うと、白いエプロンを見にまとった見た目20代後半の老け顔19歳の氷室零司がこちらに向かってきた。
「すいません、大家さん諸事情によりちょっと時間が掛かりまして。」
「いえいえ、急にお呼びだてして申し訳ありません零司さん。実は秋津さんに出雲荘の禁止事項の説明と案内をしてほしいんです。」
「俺がですか?そりゃもちろんいいですけど…別に大家さんでも大丈夫なんじゃ…」
「あら、でも昨日、秋津さんの面倒は零司さんがきちんと見るように、と約束したじゃありませんか。私もお昼御飯の準備をしなきゃいけませんし…。…それとも?零司さんは自分がした約束も守らないと、そう言うんですか…?」
「全力で案内させてもらいます!」
背筋が凍るような笑みを浮かべながらそう言う美哉を見て、零司は慌てたように『是』の返事をした後、視線を美哉から秋津へ移すと、右手を頭の上に置いてボリボリと搔いた後、笑みを浮かべた。
「よっす、秋津。昨日ぶりだな、夜はちゃんと眠れたか?」
「…ん。…きちんと寝れた。」
「そかそか、それは何より。…臭くなかったか?」
心配そうな顔をしながら小声で聞いてきた零司に、首をフルフルと横に振って返事をする秋津。
秋津の返事を見て、ホッとしたように胸をなでおろした。
「そうか、よかったよかった。いや、女に自分の使ってる布団を貸すのは初めてだったからさ、いろいろと心配だったんだ。なんも問題がないんなら安心だ、うん。」
そう言って零司は目をつぶって安心したように何度か頷いた。
そんな彼をじーっと見つめていた秋津だが、ふと何かに気づいたのか零司の右頬に人差し指を向けた。
「レイジ…けがを、してるのか?」
「ん?…ああ、これか?」
秋津の指さしているその先の右頬には、白い四角のガーゼのようなものが貼ってあり何かけがをしているのが見て取れた。
貼ってあるガーゼのようなものを軽く指で触った後、げんなりしたような表情で隣の美哉を見つめた。
「これなぁ…。実はこれそこにいる大家さんににやられたんだよ…。こう、刀の切っ先が俺の頬に当たってサクっとさ…。」
「ほんとに、すいません零司さん。でも、いきなり零司さんが『夜中に公園にいた女の子を自分の部屋に連れ込んだ』なんていうから、つい先走っちゃて…。零司さんもきちんと説明してくだされば、私も先走らずに済んだんですけど…。」
「いや、事情も何も聴いてくれませんでしたよね、大家さん…。」
そう言って恨めしそうに美哉を見つめる零司。
しかし美哉は彼の視線もどこ吹く風といった様子でにこやかに笑っていた。
秋津は、けがをしている零司の右頬を見つめ、無表情のまま声をかけた。
「…大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。軽く切れただけだからさ。これも念のためにしてるだけだから。」
「そう、か…」
零司の返事を聞いた秋津は無表情でそう呟いたが、その声色はどことなく安心したように感じられた。
そんな二人を見て、穏やかな笑みを浮かべる美哉。
とその時、廊下の奥から先ほどの女性の声が聞こえてきた。
「美哉ー!ちょっと、はやく来てくんなーい!篝が全然頼りにならないんだけどー!」
「…うずめ、君、味見するだけの係なのに随分と偉そうな物言いだね…。」
美哉は「あらあら…」と手を口元にやり、楽しそうに笑った後零司の方を向いた。
「ふふ、御呼ばれしてしまいましたね。それじゃあ、零司さん、彼女のことは頼みましたよ。秋津さん、お昼御飯、楽しみにしててくださいね。腕によりをかけて作りますから。」
「わかりましたぁー。」
「…ありがとう、美哉。」
そう言って声のした奥の方へと歩いていく美哉を見送った後、零司は片手で後頭部を搔きながら秋津の方へと向き直った。
「んじゃ、改めてよろしくな秋津。」
そう言って零司は秋津の目の前に右手を突き出した。
それを見た秋津は突き出された右手をじーっと見つめたあと、困ったような表情を浮かべた。
「……」
「…あー、握手とか、知らないのか?」
「…知らない。」
秋津がそう返事をすると、零司は少し口角の端をあげると彼女の右手を強引につかんで握手をした。
「こうやって手を握るのを握手っていうんだ。まぁ、手軽な挨拶みたいなもんだよ。」
そう言って握手している手を軽く上下に振ってから握っていた手を放す零司。
秋津は、先ほどまで握られていた右手をじっと見た後、ぽつりとつぶやいた。
「…暖かかった。」
「ん?どうした、秋津?」
秋津の呟きが聞こえなかったのか、零司は不思議そうな顔で秋津を見つめていた。
「…よろしく、レイジ。」
「へ?…お、おお、よろしくな。」
自分の疑問に返事をしないでいきなり挨拶をしてきた秋津に少したじろく零司。
秋津の顔は相変わらず無表情で、何を考えているのかは全く分からなかった。
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「…暴力沙汰と不純異性交遊、この二つが出雲荘の主な禁則事項な。破ったら大家さんにお仕置きされるから注意しろよ。」
「了解した…。」
「理解が早くて結構!それじゃ、ちゃちゃっと中を案内しちゃいますか。」
零司はあらかたの出雲荘の説明を秋津にした後、出雲荘の中の案内をし始めた。
零司と秋津、二人分の足音が廊下で響き渡る中、零司は通り過ぎる部屋を紹介していく。
「えー、右手に見えますのわー、出雲荘の居間になりまーす。御飯は基本的にここで食べるのがルールでーす。現在、襖により閉じられておりまーす。」
「…レイジ、そのしゃべり方は、なんだ?」
「いや、バスガイドっぽくやったら面白いかなーっと思いまして…。」
「…バスガイドが何か、わからない。」
「さいですか…」
自分の精一杯のボケにも表情を変えない秋津を見て(なんか、デジャブを感じる…)などと頭の中で考えていると、突然閉じていた居間の襖が開かれた。
驚いて零司と秋津が少し後ろに下がると、居間から二人の男女が出てきた。
一人は顔だちの整ったイケメン、篝
女性の方は長い髪をポニーテールにしており、着ているシャツの背には『10』とプリントされていた。
彼女の名前はうずめといい、篝と同じく零司より前から出雲荘に入居している。
そんな二人を見た零司は、最初はいきなり出てきたのに驚いていたが、すぐ顔を不思議そうな表情に変えた。
「なんでうずめがこっちに来てるんだよ?きちんと大家さんの手伝いしろよ、さぼんな。」
「失礼だなぁー、ちゃんと手伝いはしてるって。ちょっとトイレに行くだけだって!。もー、女の子にこんなこと言わせるなんて、零はデリカシーにかけるよねー。」
「いつもパンツ一丁で男の目の前に出る奴を俺は女とは言いたくないんだよ。」
「女の子って案外そんなもんだと思うけどなー。」
「すべての女の子が君と同じなわけないじゃないか。ほかの女の子たちに失礼だよ、うずめ。」
「あんたの発言は私に失礼でしょ、篝。てか!なんで零は篝には何も言わないのよ!」
「篝さんはお前と違ってさぼるわけがないからな、何か理由があると思ったんだよ。」
「あはは、さすが零司といったところかな。実は美哉から頼まれごとされてね。ま、物置からものをとってくるだけだから、時間はそんなにかからないんだけど。」
「ほら見ろ、お前とは違うじゃないか。」
「…理不尽だ、理不尽だよ。千穂ぉ、助けてぇ~。」
恨めしそうに零司と篝を見ていたうずめは、秋津を見つけると笑顔で彼女を指さした。
「ああー!もしかして彼女が零司が自分の部屋に夜な夜な連れ込んできたっていう女の子?」
「間違っちゃいないけど言い方に悪意を感じる。」
うずめの言い方に不満を漏らす零司だが、うずめの耳には聞こえていないらしい。
嬉しそうに彼女に近寄ると笑顔で話をし始めた。
「へぇ~、零司もこんなかわいい女の子を連れ込むなんて、隅に置けないねー!あ、私の名前はうずめって言うんだ!これからよろしくー!」
「私の名前は、秋津。…よろしく、うずめ。」
「おい、だから俺はそんな理由で連れてきたんじゃないんだって何度も…」
「うんうん、よろしくね!いやーそれにしても…」
「…聞けよ、俺の話…」
零司の話には耳を貸さずに、うずめは途中で言葉を切ると、ぐるぐると秋津のまわりを歩くと、いきなり彼女に抱き着いた。
「秋津ちゃんかわいいねー!無表情でクールな顔立ちだし、まるでお人形みたいじゃん!肌もすべすべだしー!」
「…ん、くすぐったい。」
抱き着いてお互いの頬をすりあわせたり、肌を触ったり女の子同士のスキンシップに花を咲かせるうずめ。
秋津も少し体をもぞもぞさせているが、不快感を感じているようにはみえない。
「ほれほれ、羨ましいか、羨ましいかぁ~。」
「…うずめ、顔がおっさんみたいだよ。」
「篝さんの言う通り。少なくとも女の顔じゃねぇよ。」
呆れた様子でため息を吐く篝と苦い顔をして二人を見ている零司。
秋津を抱きしめながらブーブー文句を言ううずめを無視して篝が秋津の方へと顔を向ける。
「さて、うずめも自己紹介してたし、僕もしとこうかな。僕の名前は篝。これからよろしく頼むよ。」
「ん、よろしく。」
そう返事をする秋津のことを篝はしばらくの間彼女のことを真剣な眼で見つめていた。
その視線は彼女というよりは、彼女の額に注がれており、心なしか彼の口元が微かに動いているように感じられた。
(篝さんのあんな表情初めて見るなぁ。何考えてんだろ?)
基本的に親しくない人にはあまり関心をもったりはしない篝にしては珍しい反応だなぁ、と思いつつ零司はいまだに抱き着いてるうずめを引っぺがそうと声をかけた。
「ほらほら、そろそろ離れたまえうずめ二等兵。秋津君はこれから私と行動を共にするのだ。君は直ちに持ち場の厠に向かいたまえ。」
「はっ!わかりました、零司軍曹、うずめ二等兵、直ちに厠に向かいます。」
零司の変なノリに、楽しそうに乗っかりながら返事をしたうずめは、秋津に「じゃ、またあとでねー」と手を振ってその場から去っていく。
「それじゃ、僕も行くよ。このままここで油を売ってたら美哉に怒られちゃうからね。」
「また後で」と笑顔でそう言ってから、その場から去っていった篝を見送ったあと、零司は再び視線を秋津に向けた。
「よし、意図せずしてここの住居人とも挨拶できたし案内を再開しますかね。」
「……」
「ん?秋津、どうしたんだ?」
そう問いかける零司の目の前にいる秋津は、先ほど去っていった篝の通って行った道筋を見つめていた。
どうしたんだろう、と首をかしげてから、零司は秋津の顔を覗き込むように見た。
その顔は相変わらずの無表情で何を考えているのか全く分からず、(一体何考えてんだろ?)と思いながら顔を見つめていると、彼女がいきなり口を開いた。
「篝…」
「うぉ、びっくりした…。ってか、篝?篝さんがどうかしたのか?」
「私と似てる…?」
「…いや、そんなこといきなり言われても。…まぁ、似てないとは思うけど。」
秋津の言葉に、首をかしげながら答える零司。
そんな彼を一瞥した後、秋津はもう一度だけ篝の去っていた廊下を見つめる。
その表情はいつもと同じ無表情だったが、秋津は不思議そうに首を傾げていた。
彼女の後ろにいる零司も、彼女の不思議な言葉に、首を傾げる。
二人とも同じように首を傾げている姿は、傍から見たら何ともおもしろい光景だった。
今回長くなりましたねぇ。いつもより1,000文字くらい多くなっちゃいましたよ…。
というわけで、二回に分けました。
ぐだぐだでごめんなさい…。
てか、この後の文字数がかなり少なくなりそうな予感が…