「岡崎夢美……ですか」
カイトは魅魔から告げられた名前を口の中で反芻し、どんな人物なのかと思いを馳せる。
魅魔の口ぶりからすると、占い師の類なのだろうが、それにしてもマスター・ライラスとして名が通っている魅魔の口からその道のエキスパートとして出た名前だ。 非常に信憑性のある情報だ。
「それで魅魔さま。 その岡崎ってのはどこにいるんだ?」
「トラペッタの地図を出しな。 えー……っと、ああ、この辺だ。 この辺にあいつは住んでいるよ。 ただ、最近は失せ物探しだとか失せ人探しは不調みたいだねえ」
「おいおい(苦笑) そんなあるさまで忍者を探すことはあもりにも難しすぐるのではないかな? まあ一般論でね?」
「しかし、現状僕たちはその人のもとへ向かってみるしかないですね。 ダメだったなら、その時はその時で考えましょう」
ブロントさん達は、魅魔にお礼を言い、地図で指し示された場所へと向かう。
カイトはこれ以上町に残っていたら面倒事を引き起こしかねないと考え、クラリスのもとへと向かった。
「しかし魔理沙がマスタん・ライラスの弟子だったという事実に驚きが鬼なった。 教えてくれても良かったんですがねえ」
「いや、私だって魅魔さまがマスター・ライラスだって事実にビックリしてるよ。 そもそも最初にあったのはパルミドの町だぜ? あんなスラム街に高名な人が来るなんて夢にも思わないぜ」
「それもそうだぬ」
二人で他愛のない会話をしながら、目的地へと歩いていく。
周りを行き交う人々に、様々な建物。
流石はトラペッタの町だと関心はするがどこもおかしくはない。
「お、ここじゃないか?」
魔理沙が地図とにらめっこしながら見つけたのは、近くに井戸がある、町の端っこに位置する家だった。
一見しただけでは占い師的な要素が見当たらないが、近づいて見てみればドアの近くにそれらしい看板があった。
ブロントさんは逸る思いを抑えるようにドアをノックするが、反応はない。
聞こえなかったのかと思い、今度は強めに叩いてみるが、それでも反応なし。
どうやら留守のようだが、いつ帰ってくるかもわからない以上、ずっとこの場所で待ってはいられない。
「どうする? なんなら私がチョチョイと鍵を開けてもいいんだが……」
「おいィ? 鍵を開けるとかそれ間接的に殺人罪だろ……。 まあいない異常は仕方ないからよおえrと魔理沙でトラペッタの町を見て回るのはどうかな?」
「へー私とブロントさんとで……え? 二人っきりで?」
「他に誰がいるって証拠だよ」
「だ、だよな! てことはこれってデ、デートってやつなのかな……」
魔理沙は顔をゆでダコのように真っ赤にしながらぼそっと呟く。
ブロントさんは耳こそ長いが別に音を拾いやすいわけでもなく、魔理沙がなんと言ったのかは聞こえていない。
それから魔理沙はブツブツ言いながらわたわたしていたが、意を決したのかブロントさんの腕に己の腕を絡める。
「なんだ急に腕を絡めてきた≫丸沙
そんなことをされたら歩きにくいんですがねえ?」
「な、ナイトは婦女子をエスコートするのも役目じゃないかな? ま、まあ一般論でね?」
「ほむ……。 「」確かに俺は思考のナイトだからよ女のエスコんともゆゆうでできてしまう。 ならととっと行くんだが?」
「うん!」
「まずはここだな」
「男と女の二人っきりで最初に行くのが武器屋とか聞いたことないので抜けますね^^;」
ブロントさん達が最初にやってきたのは武器屋だった。
店員なのか店長なのかは不明だが、角が生えた怪しいマスクにムッキムキの体を惜しげもなく晒している人がカウンターにいる。
「らっしゃい! 何か欲しいのはあるかい?」
「取り敢えず取り扱っているももの一覧を見せるべきそうすべき」
「あいよ! ウチではヒノキの棒、棍棒、大木槌、銅の剣、ブーメランを取り扱っているよ! 見たところそっちのデカいにいちゃんは剣を使うみたいだから、銅の剣なんてどうだい? 一本270Gだぜ!」
「は? 銅の剣とか剣として認めないしそももも鞘がダサい」
「あぁん⁉︎ ウチの商品にケチつけようってのか! ……と、言いたいところだが、にいちゃんの言う通りだ。 鞘はともかくとして、こいつは剣なんて代物じゃねえ。 斬れ味なんてえのはないから、叩き斬るじゃなくて叩き潰すってのがこいつに相応しいしな。 でもにいちゃんぐらい鍛えてればダメージは見込めるぜ?」
ブロントさんの指摘に店員は声を荒げるが、それは一応は武器屋の店員だからアピールをしたのか、すぐに元に戻った。
だがブロントさんの指摘を最もだと受け止めた上で商品を売ろうとする商魂は逞しいと言わざるをえない。
ブロントさんは佩いていた剣を無言で店員に差し出し、確認するように仕草で促す。
店員が鞘から剣を引き抜くと、鈍い輝きを放つ刀身が露わとなる。
「こいつぁ……一応量産品みてえだが、そん中でも質の良いやつみてえだな。 何より斬れ味も悪くなさそうだ。 こんな剣があるならそりゃあ銅の剣程度じゃあ満足できないわなぁ」
「それを見抜ける武器屋は本能的に長寿タイプ。 お前もっと誇っても良いぞ」
「はは、あんがとなにいちゃん。 まあ、にいちゃんは買い換える必要が無いとして……嬢ちゃんは何がいい?」
「……うえっ? 私?」
デートだとウキウキしていたところで最初に来たのが武器屋でムードもへったくれもないとウジウジしていた魔理沙に店員が声をかけ、現実に引き戻される。
魔理沙もラインナップを確認するが、欲しいものはなさそうだった。
「うーん……魔力を通しやすような武器があれば考えたんだが、これじゃあなあ……」
「なんだ嬢ちゃん魔法使いだったのか。 てっきりシーフかと思ったぜ」
「はぁ? どこからどう見ても黒/シだろ」
「……や、シ/黒じゃねえかなあ……」
格好はともかくとして、足捌きや体の運びから店員はシ/黒だと判断する。 素晴らしい慧眼の持ち主であった。
トラペッタは大きい町ではあるが、周辺に生息する魔物が弱いため、必然武器もそこまで強いものはない。
売ってるものは量産品がいいとこだ。
魅魔という強力な魔法使いはいるにはいるが、魅魔レベルになると別に量産品の杖でも凄まじい威力を叩き出せるので不便はしていない。
「んで、出来れば何か買っていってほしいんだけどね」
「しゃあねえな(ソルボイス) それなら砥石をくれ」
「あいよ。 今なら一ダースで200Gだぜ」
「9個でいい(謙虚)」
ブロントさんは謙虚にも12個のところを9個だけ買った。
武器屋を後にしたブロントさんと魔理沙は防具屋、道具屋と冷やかしていくが、武器屋と同じで欲しいものはなかったのでそのまま退店した。
魔理沙はブロントさんはこうだよなあと思いつつも、普通のデートがしたいという思いにも駆られて危険が危なかった。
そんな魔理沙の気持ちを知ってか知らずにか、ブロントさんが次に入ったのはトラペッタでも人気のデザートを取り扱っている店だった。
おそらくブロントさんとしてはただ単純に食べたかっただけなのだろうが、魔理沙の嬉しさは止まることを知らなかった。
「いらっしゃいませ、喫茶『光の教団』へようこそ」
「随分とけったいな名前だぬ」
「それはこの店で提供されるものがこのトラペッタを中心に、まるで宗教のように情報が伝播されればと思いました次第で。 申し遅れました、私、この店の店長をしているゲマと申します。 さて、本日は……ああ、いえ、言わずともわかりますよ。 カップルデーに若い男女。 これはもうアレですね?」
「いあどれだよ」
「恥ずかしがらずともよろしいのですよ。 ジャミさん! ゴンズさん! カップル1組さまをご案内して差し上げなさい!」
「「了解いたしました!」」
ジャミと呼ばれた馬面の男とゴンズと呼ばれた顔が厳つい男に案内されてブロントさんと魔理沙は席に着く。
なお、魔理沙はカップルと呼ばれて顔がアーチーチーアーチー状態だ。
少ししてからメニューを渡され、中身を確認する。
どれも心惹かれるものがあるが、ブロントさんはそこでふと思い出す。
店長は確かカップルデーと言ってなかったかと。
カップルデー。 その詳細はわからないが、おそらくその日専用のメニューがあるはずだ。
ブロントさんは迷うことなくそれを注文する。
「この力ップノレデー限定メヌーをくれ」
「かしこまりました。 実はそう言うと思いまして既に用意させていただいてます」
「マジか。 おもえすごいな」
「当然です、店長ですから。 ではこちらカップルデー特別メニューとなっております」
店長であるゲマがそう言ってジャミとゴンズに置かせたのは、同じ種類の小ぶりのケーキが二個ずつ、五種類のケーキが乗せられた皿と、一体どうなっているのか、ハート型に湾曲した、それでいて飲み口が二つちゃんとあるストローが一つしかないジュースに刺さっていた。
「む……? ジュースが足りないんじゃないですかねえ? これでは一人だけはぶらるるという事実」
「いえ、お客様。 これで正しいのですよ。 そちらのジュースはカップルであるお二人が一緒に飲むことを想定したモノですので。 ほら、このコップを見てごらんなさい。 これをどう思いますか?」
「すごく……大きいんだぜ……」
今まで会話に参加してこなかった魔理沙がアーチーチーアーチー状態から治ったのか返答する。
いや、返答の内容からしてまだオーバーヒートしているのかもしれない。
ブロントさんはその答えに満足したのか、大きく頷き、ジュースを飲み始める。 視線では魔理沙も飲むように促している。
魔理沙は内心で「かーっ! 本当は恥ずかしいんだけどなー! ブロントさんにそうされちゃしょうがないよなー!」といった心持ちでジュースに臨んだ。
魔理沙の喉を数種類の果実を混ぜ合わせて作ったトロピカルジュースが通るが、ハッキリ言って味がわからない。
目の前にはブロントさんの顔がある。 かなり近い。 キスできてしまいそうな距離だ。
ふとした瞬間に目と目が逢い、慌てて視線をそらす。
ブロントさんは魔理沙がさっきから何をしているのか理解不能状態だった。
ある程度ジュースを飲んだ二人は、ケーキに手をつけようとする。
そこでブロントさんのあもりにもすごすぐる勘がピキーン!と発動してしまう。
「魔理沙さん」
「ななななな何かようかなぁ↑?」
「ほれ」
ブロントさんが無造作に差し出したのは、フォークに刺されたケーキだった。
魔理沙は突然の事態にフリーズし、その後再起動、そして再びオーバーヒートを起こす。
魔理沙の脳内にはこれは伝説のハイ、あーんと言うやつではなかろうか。 しかし何故ブロントさんがこんな行動を? もしかしてだけど? などなど色んな思いが錯綜していた。 金髪の子かわいい。
ちなみにブロントさんはこのデートの時に魔理沙が最初に言ったエスコート云々を実践しているにすぎない。
そう、レディーファーストだ。 断じて毒味などではない。
魔理沙は意を決してフォークに刺さったままのケーキを頬張る。
心なしか、今まで食べたケーキよりも甘かった気がする。
魔理沙がケーキをもぐもぐしている様をしっかりと見つめ、大きく頷いたブロントさんは自分もケーキを食べる。
ブロントさんは一切気にしてはいないが、間接キスというやつである。
魔理沙はしめやかに爆発四散しそうになってしまう。
魔理沙は頬にこもった熱をどうにかしたいがために、敢えて自らブロントさんに攻めていく。
「ぶ、ブロントさん!」
「何かようかな?」
「あ、あーん……」
おずおずとケーキをブロントさんの目の前に持っていき、反応を待つ。
やってみて気づいたのだが、これは顔から火が噴き出そうになる。
わかっていただろうにのう、魔理沙。 そんなことをすれば、熱を払うどころか余計増やしてしまうのは。
ブロントさんはそんな魔理沙の心境なんぞ知ったことじゃねえとばかりに余裕のよっちゃんでパクつく。
ナイトの対応力はA+といったところかな。
そんな光景をさっきから無音カメラでパシャパシャ撮っている店長の姿があったとか。
これから後に、この店に一枚の写真が飾られる。
タイトルは『無愛想な彼氏と初心な彼女』
写真の情景から感じられる初々しさとか、なんか色々と惹かれるものがあったらしく、客が増えたという。
「もうケッコーいい時価んになってしまった感。 そろろろおかあzき夢美の家に行くべきそうすべき」
「だ、だな! そろそろ向かわないとな!」
町は地に沈みかけている太陽に照らされ、赤く燃えがっている。
それに照らされている魔理沙の顔も赤く染まっているのだが、果たしてこれは太陽の影響なのか。
再び岡崎夢美の家に訪れたブロントさんと魔理沙は扉を軽く叩く。
反応が無い。 まただよ(呆れ)
「どうする? ブロントさん」
「も少し時間を潰すしかにい。 酒場が近くにある系の話があるからそこで情報酬集をしつつ酒を飲むのがいいと思うぞ」
「……? ブロントさん、酒、飲めたのか?」
「お前は俺を何だと思っているんですかねえ。 俺は不良だからよ酒は飲むし学校はサボる」
「てっきり下戸かと思っていたぜ」
「むしろザルなんですわ。 お?」
魔理沙は平行世界からの情報的にはブロントさんは下戸だと判断していたのだが、どうやらここでは違うらしい。
珍しいこともあるものだ。
ブロントさんと魔理沙は近くにある酒場に着き扉を開くと、中には客がチラホラといた。
その中で酒場のマスターの前に座っている赤髪の女がマスターに絡んでいるのを見つける。
「あによう! あたしの酒が飲めないってのー?」
「勘弁してくれよ、夢美ちゃん。 ウチに金を落としてくれるのは嬉しいけどさ。 酒は飲んでも飲まれるな、って言葉もあるだろ? ちいとばかし飲みすぎじゃねえのかい」
「うっさいわねー……。 飲みたいときに飲む! それのどこが悪いってのよ」
「昼夜を問わず飲むところかな」
どうやら女の方は酔っ払っているらしい。
だが聞き捨てならない言葉をマスターは言った。
ブロントさんは女に近づいていき、聞きたいことを訊ねる。
「おもえが岡崎ゆえmみなわけ?」
「んー……? そーよー、あらしが岡崎夢美ちゃんでーすっ!」
女はケラケラと笑いながら、呂律の回らない口でそう答えた。