「俺の座布団に綿がはいっていません」
「我慢して下さい」
「俺の卓袱台の足が折れてます」
「我慢して下さい」
「無茶言うなや!」
「冗談です。木工ボンドが支給されていますので、後で自分で直してください」
あんまりに酷い扱いに、級友は涙した。
「窓が割れていて風が寒いんですけど」
続いて不備を口に出す級友が居たが、
「ビニール袋とセロハンテープの支給を申請しておきますので、後で直してください」
応急処置にしかならない事を宣ってくれた。
「そこまで酷いんですか!?」
「それがFクラスです」
何か言っても駄目そうだと、漸く理解したFクラス全員は、表情がひきつっていた。
「設備の確認は終わりましたね? では、端の列から自己紹介をお願いします」
福原教諭に促されて、男子の制服を着た可愛らしい女の子が立ち上がった。
「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる。最初に断っておくが、ワシは男じゃ」
「?!」
その言葉に、つぐみが目をむいた。
「じょ、冗談だよね」
「雨宮、認めたくない気持ちは分からないではないが、秀吉は、正真正銘の男だ。」
「……女子に見えちまうのも厄介だよなぁ」
雄二とつぐみが会話してる横で呟く明久。
「……土屋康太」
それだけ言って着席する小柄な体系の少年。
単に無口なのか、それとも口数が少ないだけなのかわからない雰囲気がある。
彼が座ると次の人が席を立つ。
「島田美波です。海外育ちなので日本語は会話以外苦手です。
あ、でも英語も苦手です。育ちはドイツだったので」
スレンダーな肢体がモデルさんのような女の子で、髪をポニーテールにしている。
つぐみが「また、綺麗な人だぁ~」と思っていると、次の言葉に親近感がわいた。
「好きなものはぬいぐるみのミニベア集めかな? とりあえず、よろしく」
そう言いながら笑顔で告げる美波と名乗った少女。
そんな一幕もあったが、自己紹介が続き、つぐみの番が来た。
「雨宮つぐみです。家庭科部所属で、趣味はお料理です。特技は……」
一息あけると、
「『声帯模写だ』」
雄二の声でしゃべった。
シンッと、教室が静まり返る。
「『聞いたばかりの声でも、感情的でなければ、この通りじゃ』」
ついで秀吉の声。さらに口を開く度に別人の声になる。
「ス……」
呆然とした声を誰かが絞り出すと、
「「「「スゲーーーーっ!!!!」」」」
と、教室は一気に騒然となるとつぐみは照れくさそうにしていた。彼女が着席したので次の人が席を立つ。
「あ、次は僕だね。 吉井明久です、これからよろしくお願いします」
と笑顔で自己紹介をする明久。
明久が着席して次の子が立ち上がる。
「吉井彰人だ。 こいつの兄で、面倒も地位もうえなんでよろしくな☆」
「ちょっと、彰人兄! 冗談でもいっていいものが!」
明久とよくた少年はにこやかに挨拶をすると明久はツッコミをいれる。
そんな感じで着席すると。
「衛宮深紅や、あんじょうよろしゅうに。 特技はお茶をいれることやな」
と、にこにこ笑顔で答えるのは水色のロングヘアーの女性、でもどこかつかみどころがなさそうに見える。
本当にこれは本来の彼女なのだろうかとつぐみは思ってしまっていた。
不意にガラリと教室のドアが開き、息を切らせた女子生徒が現れた。
「あ、あの、遅れて、すみま、せん」
『えっ?』
誰からともなく、教室全体が豆鉄砲を喰らった鳩のようになった。
「丁度良いですね。みなさんに自己紹介して貰っているところなので、
姫路さん、あなたもお願いします」
「あ、はい! えと、姫路瑞希です。よろしくお願いします……」
つぐみや希程ではないものの、小柄な身体を縮こまらせ、恥ずかしげに自己紹介する瑞希。
白い肌と柔らかそうな長い髪は、いっそ小動物的な保護欲をかき立てる。
「はいっ! 質問良いですか?」
「あ、はい。どうぞ」
いきなりの質問に、少し驚いているだ。
「なんでここにいるんですか?」
失礼極まりない質問だ。しかし、クラスの大半が感じている疑問でもあるだろう。
この可憐な少女は、入学後に行われたテストで、
学年三位を記録しており、その後も必ず上位一桁以内に名前が残るという才女だからだ。
だれもが彼女はAクラスに違いないと確信しているに違いない。
「えっと、その、ですね……」
緊張した様子で、瑞希が口を開く。
「振り分け試験の最中に高熱を出してしまいまして……」
文月学園では。試験途中での退席は、かならず0点扱いとなる。
そのせいで彼女はFクラスとなってしまったのだ。
『そう言えば、俺も熱(の問題)が出たせいでFクラスに』
『ああ。化学だろ?あれは高難度だったな』
『俺なんか、事故にあった弟が心配で集中できなくて』
『黙れ? 一人っ子♪』
「実は、朝まで彼女に求められて……」
「うん♪ 今年一番の大嘘をありがとう♪」
Fクラスはバカばっかりである。
「で、では、一年間よろしくお願いしますっ!」
「よろしくな~」
ピンクの髪が跳ねるほどの勢いでお辞儀すると、パタパタと恥ずかしそうに明久と雄二の後ろの、空いている卓袱台に着いた。
「はあ、緊張しましたぁ~……」
瑞希は、安堵の表情で卓袱台に突っ伏した。
巨大ましゅまろがちゃぶ台にのっかり押しつぶすかのような状態になっているが、彼女は気づいていない。