艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

113 / 134
【JULIET】-JOLT

 

「ふっざけやがって!」

 

 東雲が通信機に声が入らないように怒鳴る。別室でホロウィンドウを大量に展開して、海軍本部内の各所を見ていた。ホロウィンドウのモニターには海軍本部内に放たれた人形兵と戦闘をする横須賀海兵隊や海軍本部内にいた。またかろうじて戦うことができそうな人員が人形兵と銃撃戦やら格闘戦を繰り広げられている映像も。

 

 しかし、東雲はそこに苛立ちを感じているわけではなかった。

 

「人をいいように使いやがって! 召使いかなにかじゃねえんだぞ!」

 

 海軍本部内の人形兵を掃討するため、その指揮を任された。それだけ言えば聞こえはいい。だが実際はゴミ掃除をやっていることとなんら違いはない。

 

「第3班、移動。7班と合流して区画域Aにいる3体を迎撃。いいか、腕によほどの自信がないのなら近接戦は挑むな。必ず遠距離で撃ち合え。近づかれる前に仕止めろ。無理なら距離を空けていい」

 

《はっ》

 

 一人の能力で相手をするには手に余る。必ず1体が相手でも集団で対応すること。これを徹底しても被害は出てしまう。

 

 それでも非戦闘員を巻き込むことは防がなくてはいけないし、かといって人形兵を市街地へ出すのは論外だ。なにを基準に脅威判定を下し、なにを対象にして攻撃しているのかわかったものではない。それにも関わらず、市街地へ出してしまおうものならどんな悲劇が巻き起こるか想像することは容易い。

 

 ……ことは十分なほど理解しているのだが、それでも使いっぱしりのように感じてしまうのは仕方ないだろう。

 

「ああ、説明には納得したさ。筋も物的証拠も揃ってる。確かに倒すべき敵ってやつは明確化されたとも。なら始めから言えよ!」

 

 蚊帳の外におかれ、勝手に話を進められた。それにもだいぶ腹が立つが、それ以上に人権を無視した兵隊なんてものを平然と運用してくることだ。

 

 ふざけやがって。

 

 苛立ちはする。だがただでさえ私情で行動してきたのだ。迷惑をかけるにしても、人死には出したくない。だから峻にも殺しはしないように徹底して言い続けた。

 

 にも関わらず人を殺すためだけに作られたような人形兵が岩崎重工から海軍本部の地下通路を使って侵入してきた。ホロウィンドウのモニターから見える戦闘の様を観察するだけでもわかる。合理的に、ただ単純な流れ作業でもするかのような行動。

 

「こちとらシュンに救援のひとつでも送ってやるべきだってのによ!」

 

 完全に巻き込んだ。元々は、峻の腕があれば絶対に死ぬようなことはないと踏んでの依頼だったが、こうなるのは想定外だ。

 

 このレベルが相手。しかも若狭が言うには例の隠し地下通路とやらを使って人形兵が発生している根拠地である岩崎重工の工場へ殴りこみに行っているらしい。

 

 おそらく叢雲もそれに同行している。もしかしたらすでに合流を果たしているかもしれない。

 

 だが2人いたところでなんとかなるものなのだろうか。これから先もわらわらと生まれてきて、襲撃してくるであろう状況に歯止めをかけてくれるのはありがたい限りだが、根拠地に殴りこむということは相応のリスクがある。

 

 発生源に攻め込んで人形兵の培養を止めてくれるのは確かに助かる。このまま無制限に湧かれ、海軍本部へ攻め込まれ続けられてしまうと今は持ちこたえることができていても、いずれ限界を迎えてしまう。

 

 制限なしに増え続ける敵と戦い続けるというのは相当に消耗する。こちらの兵力は有限。向こうの兵力は不明だが、結構な数を倒したがまだ襲撃してくることから、かなりの数がまだいるであろうことは察せられた。

 

「頼むから無事に帰って来いよ」

 

 半ば祈るような気持ちで東雲が呟く。叢雲も峻も無事に帰ってくる保証はどこにもない。それでも死地へ2人とも赴いた。

 

 峻はただ利用されて。

 

 そして叢雲はおそらく彼女自身のために。

 

 もちろん、あの2人は利用価値が高い。うまく手綱をにぎることができれば、あれほど強大な戦力になるものはない。

 

 だが、それ以前に同期で友人だ。そして友人の秘書艦だ。

 

 人が死ぬのは気分がよくない。それが友人であるのならなおさら。

 

《第9班です! 第5区画の掃討が完了しました!》

 

「よし、できるかぎり封鎖してから引け」

 

《はっ》

 

 報告が来るたびに、通路の封鎖を東雲は命じていた。通路までは至ることが難しい。そのため、できることは封鎖して侵入路を塞いでおくことくらいだ。

 

 今はやれることをするしかない。とにかく数を減らして余裕を作ったら、峻へ救援を送る。その機会を待ち続ける。

 

 逸る気持ちを抑えて、ただひたすらに東雲は人形兵掃討の指揮を執り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 叢雲と峻が左右にステップで別れた。ほとんど間を開けることなく床面に銃弾が数多く突き刺さる。

 

「さっきまで銃なんて使うやついなかったじゃない!」

 

 叢雲が反対側で叫ぶ。確かにその通りだ。さっきまではマチェットナイフや脇差などの近接系統が多かった。だがここにきて急に銃器だ。質が大幅に向上していた。

 

 だからといって、近接型の人形兵がいないというわけではない。

 

「うっとうしいわね」

 

 叢雲の刀が警棒の武器を受け止める。金属同士がぶつかり合う嫌な音がすると、火花が散った。

 

「なんでもってフーデットマントなんて着てんのよ。さっきまでのはそんなの装備してなかったじゃない」

 

「あのマントの下、替えの弾倉やらがあるらしいな」

 

「そういうこと……ねっ!」

 

 真横に刀身を一閃させて追い払うと、叢雲が後方へと大きく跳んだ。すぐに追撃の銃弾が飛んでくるため、1体に対してかかり切りになることができない。

 

 これが近接型の人形兵オンリーならば話も変わっていた。たとえ相手にするのが複数体にしても有効範囲に大きな変化がなければ同じだ。

 

 峻がCz75を連射する。だが、一発たりとも命中しない。しかも峻に背を向けていた人形兵すらも避けてみせた。

 

「さっきのと動きが違うわよ」

 

「知ってるよ」

 

 首を引っ込めて鼻先を掠めていく銃弾を回避。そもそも銃に類するものすら使用してこなかったのだ。それにも関わらず、今回の人形兵たちは平然と使用してきた。

 

 さっきまでの行動よりも精緻で、そしてがむしゃらに突っ込んでくるようなことはせず、慎重に様子を窺いつつも攻撃してくる。しかも、銃持ちと近接戦闘型が分かれて連携をしながら交互に攻撃をして来る。

 

 どうかんがえても今まで相手をしてきた人形兵の戦闘プログラムとは格が違う。

 

 峻が振り下ろされる刃を避けると、その姿勢が崩れたタイミングを狙い澄ましたかのように銃撃。上体を逸らしていくつかは避けるが、このままでは当たると踏んだ峻は義足のブースターを一瞬だけ始動させる。

 

 ブースターによって勢いのついた体が真横に回転する。背筋に捻りを加えて姿勢を戻す。目の前には大きく飛び上がって、襲いかからんとする人形兵が迫っていた。

 

「ちぃ」

 

 もう一度、ブースターを作動させて人形兵を蹴り上げる。ブースターは吹かし続けて、そのまま後方へバック宙をすることで、距離を空けると同時に体勢を整えなおすための時間を捻出する。

 

「やあっ!」

 

 気迫のこもった叢雲の声が耳朶を打つ。叢雲も苦戦しているのか、人形兵が倒れた音はしてこない。手こずっているのは峻も変わらないため、あまり人のことは言えないのだが。

 

 不意を突いているはずなのにかわされる。意識の外から攻撃をしているにも関わらず、見ることすらせずに避ける、あるいは弾くなりして無傷で済ませてしまう。

 

 さすがに視界の外からくる攻撃を何度も避け続けることなどありえない。第六感のようなものがあるわけでもなし、なにかのカラクリでもなければ不可能だ。

 

 音かと考えてみるが、さっきから叢雲の踏み込みや峻の義足に内蔵されているブースター、人形兵たちの銃撃がある。これだけの音がごちゃ混ぜになっている状況下ではいちいちどれがどの音かを判別して判断をするようなことは無理だ。

 

 視界には収められない範囲から攻撃している以上は視覚ではない。かといって聴覚も違う。触覚や嗅覚はもちろん、味覚など論外だ。

 

 見えなくとも避けることができる。このトリックも別の戦闘プログラムに種があるのかもしれない。

 

 じり、と峻が後退する。叢雲も後退していたのか自然と距離が縮まる。

 

「囲まれてるわよ」

 

「それも知ってる」

 

 そもそも最初から囲んで逃げ場を潰されていなければ、こんな不利な状態からはさっさと脱して、よりこちらにとって有利な場所まで誘導した上で、いっぺんに相手するのではなく個別撃破を狙うように方針を転換する。それをしないのは囲まれているからということもあるが、さっきから後手に回る羽目になっているからだ。

 

 下唇を噛む。状況の打開が必要だ。このまま続けたとしても、数で劣るこちらが不利なのは火を見るよりも明らか。しかも、そろそろ義足のブースターを作動させている燃料の残りが心もとない。

 

 勝負に出るしかない。

 

「……南無三」

 

 自棄まじりに吐き捨てながら、残りの燃料をすべて使い切る勢いでブースターを吹かす。峻に向かってきていた人形兵の隙間を縫うようにして銃を構えている一団へと突っ込む。

 

 幸いなことに銃持ちは多くない。前衛と後衛がきっちりと分かれて、隙を与えずに攻撃を続けたおかげで後方の銃持ちは今まで無傷でいられた。

 

 だが峻はブースターを使って一瞬で加速することで前衛の格闘戦を担当していた人形兵を抜けて銃持ちの目の前まで到達した。

 

 しかし、よりよい戦闘プログラムをインストールされているせいかすぐに対応として銃の台尻で殴りつけてくる。だが苦肉の策だ。確かに咄嗟の判断としては優秀だ。後ろに下がったとしてもまだブースターが生きている状態では効果が薄い。ならば迎撃に切り替えるというのは妥当だ。

 

 けれど、そう易々と落とされるつもりはない。台尻の一撃くらいなら避けることができる。銃弾が避けることができて、振り下ろされる台尻の速度が目で追うことができないことなどない。

 

 さらにブースターを吹かして時計回りに回転。首の根元あたりにナイフをねじ込むと回転の勢いをそのままに深く抉りつけるようにして捻じ切った。峻を殺した人形兵ごと刃で貫こうとしていた打ち刀持ちの人形兵が肩越しに迫る。死体を蹴りつけて迫り来る人形兵ごと強制的に距離を空けさせる。

 

 まだ近づかれてはいけない。とにかく銃持ちを処理しないかぎり、この悪い状態は打開できない。

 

 Cz75を連射して近接戦闘型の人形兵を遠ざける。撃って回避してくれないのならば命中させるか、武器で弾かせることで足を鈍らせるくらいしか期待できないため、せいぜいが稼げて数秒といったところか。

 

 再び義足を使って加速。左目から後頭部を銃弾が突き抜けていくと、力が抜けた人形兵が崩れる。

 

 次。次。次。

 

 銃弾が当たらないのなら、必中の距離まで肉薄して撃てばいい。撃ってくると理解できたとしても、間に合わない。こうしてしまえば実質、必中だ。目に付いた銃持ちを徹底的に殺しつくしていく。視界の隅で叢雲が一体の銃持ちをアサルトライフルごと斬り捨てていた。どうやって近接戦闘型の包囲を抜けたのかわからないが、こうして銃持ちのところまで来て、刀の錆にしているということはうまいこと抜け出したのだろう。

 

 時間はあまりない。だが、叢雲も銃持ちに攻撃を加えて屠っているため、すぐに射撃型の人形兵は片付いた。

 

 あとは共に有効範囲が同じ近接戦闘型のみ。これで土俵に引きずりだすことはできた。あとは純然たる殺し合いのみ。

 

 だが完全に状況が覆ったかと言えばそうではない。多少なりとは好転したが、数の不利は依然として立ちはだかったままだ。

 

「これでちょっとは楽になるでしょ」

 

 ぴっと刀身から人形兵の血液を振り払って叢雲が相対する。同感だが、あえて口にする必要はないように思えたので、黙ったまま峻は攻撃の姿勢を作った。

 

 行動する前に軽くブースターを吹かそうとしてみるが、小さな空気だけが吐き出される。これで完全にガス欠だ。義足はただ少し威力のある蹴りくらいにしか使えない。使えないとわからないままで突入するより、わかっていた方がはるかにいい。

 

 人形兵たちが峻と叢雲に向かって踊りかかる。真っ先に飛びかかってきた人形兵のナイフをこちらも同様にナイフ受け止めると、わずかに力を抜く。

 

 かくん、と急に緩んだ圧に対応できずに人形兵がグラつく。それを逃さずに、手に握られているナイフを叩き落とした。そのまま一気に片をつけんと峻が左手のCz75を人形兵の頭部に向けて撃つが、すんでのところで避けられる。

 

 銃弾がフードに穴を空ける。多少なりと後方へのエネルギーを受けたフードと、頭を下げようとした人形兵の動きに差異が生まれたせいでひらりとフードが脱げた。

 

 そしって峻はフードの下を見てしまった。

 

 運が悪かった。人形兵のフードが脱げてしまったことも、その下を見てしまったことも。

 

 それは青みがかった銀髪だった。そして燃えるような赤に近いオレンジの瞳だった。

 

 殺意のない虚ろな瞳と視線がぶつかる。ニセモノだということくらいはすぐにわかった。なにより叢雲(ホンモノ)はすぐそこで刀を振り回している。

 

 これはクローンだ。わかっている。

 

 しかし、脳裏にはあのもうひとりの少女が浮かんでしまっていた。峻の目の前で撃たれて死んでいったもう一人の叢雲が。

 

 始めから死ぬことがわかっていたはずだ。それでも笑って死んでいった別の叢雲。

 

 ━━『私』をお願いしてもいい?

 

 少女が死ぬ前に残した最後の言葉が蘇る。ここでまた新たな叢雲が殺されることを少女は果たしてみとめるのだろうか。それは同じことが繰り返されないことを願ってその命を投げ打ったあの少女の覚悟を踏みにじる行為ではないと本当に言えるのか。

 

 なにより、帆波峻はそれを許容してしまっていいのか。

 

 ぎぎ、と峻の動きが錆びついたように鈍る。まるで経年劣化して壊れたブリキの人形のように。

 

 ありえることではあったはずだ。人形兵がクローンを素体として改良を加えられていると若狭に聞いた時点でこうなることは予想して然るべきだった。

 

 わざと考えないようにしていた。また叢雲と同じ細胞データを使ったクローンが生産されることなど起きない。そう思い込むことにしていた。

 

 けれど目の前にいるのはどう考えても叢雲のクローンだった。

 

 ありえない。そんなことが起こるわけがない。否定の言葉はいくらでも出てくる。だが、現実として髪色も瞳の色もそっくりを通り越して同一と言わざるをえない。

 

 本能は殺せと告げる。だがどれだけ動けと命じても体が硬直していた。カラン、と右手からナイフが滑り落ちて床で跳ねると転がった。

 

 時間が信じられないくらいゆっくりと流れているように感じる。叢雲の容姿をした人形兵の袖口から新しいナイフが飛び出していく。人形兵がそれを握り締めると踏み出して、峻の胸へと突きたてた。刺されたとは思えないくらいに小さく鈍い痛みが胸部に走る。

 

 割り切らなくてはいけなかった。いや、すぐに割り切れた。ただ、一瞬の硬直という犠牲を払えば、だが。




こんにちは、プレリュードです!

ズルズルと続きに続いてクーデター編。だいぶん更新もキツキツになって参りましたが、このまま定期更新を続けていければと考えております。

なんだかワンパターン臭くなってきましたが許してください。この話だけで何人、叢雲が出てこれば気が済むんだよってぐらいに叢雲全力プッシュです。叢雲ハーレムと考えると作者としてはめちゃくちゃ天国なんですけどね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。