構うものですか!とにかくいきます。
何度もエンジンをかけようとしてようやくかからないことに気づいたらしい。操舵室から矢田が姿を見せた。急いでゴーヤを船尾の影に押し込み隠し直す。
「諦めな。何度もいうが、最初っから言ってるだろ、チェックメイトだってよ」
「(おい、イムヤ。なんでゴーヤ連れてきた?)」
敢えてでかい声をだして矢田の気を引き、一方で声を潜めてイムヤだけに聞こえるような音量で話しかける。
「(基地をこっそり出てこうとしたときにあの子に見つかっちゃったのよ。それでどうしても来たいっていうから仕方なく……それに基地の内情を知ってるから役に立つって言われたし……)」
「(だからといって連れてくるか?普通よ)」
「(あら、自由にやっていいって言ったのは提督じゃない)」
「(むぐ……)」
確かに言った。確かに言ったけども。
「帆波、貴様はなぜここまでする⁈なにが望みだ?何のために!」
「それはね、ゴーヤが助けてって言ったからでち」
船尾の影に押し込んでおいたゴーヤがイムヤの横に歩み寄る。
「おい、ゴーヤ⁈出てきたら──」
「伊58⁈貴様は私が沈めたはずだが……」
そう思ってるのはここにはあんたぐらいしかいねえよ、このマヌケ。
「待て。そうか、貴様か!貴様がこの男に密告したのだな!この裏切り者が!」
「いい加減にしろ!お前が自分勝手な都合でゴーヤを深海棲艦に殺させようとしたからだ!彼女は裏切り者なんかじゃねえ!お前が彼女を裏切ったからこうなったんだろうが!」
ついに矢田の呼び捨てからお前になってしまった。
すいとゴーヤが一歩前に出た。
「おい、ゴーヤ……」
「少佐、どうしても聞きたいことがあの人にあるの。だから少しわがままを言わせて欲しい」
「……大丈夫なんだな?」
「うん。心配しないで」
ゴーヤは気丈に振る舞い笑ってみせるがその小さな拳は固く握られ小刻みに震えている。
それでも目線を逸らさずにしっかりとこちらを見据えてくる。
「……わかった。ただ、こっちでヤバイと判断したら介入するからな」
元の位置に戻り、ゴーヤが一歩前に出た状態になる。
「ねえ、大佐。なんでゴーヤを見捨てたの?」
覚悟のこもった声でゴーヤが問いかける。Cz75の銃口を下に向けてはいるがいつでも打てる体制にしておく。
「見捨てた?はっ!なにを言っている?どうせ沈んでも次の伊58がいるだろう!艦娘というのはな、司令官のために戦い司令官のために死ぬ。そういうものだ!お前も私のために死ねば良いものを生き延びおって!」
「違う!ゴーヤたちはそんなもののために戦ってるわけじゃない!ゴーヤたちが戦うのはいろんな人たちの命を守るためでち!」
「そんなものはただの夢想に過ぎん!」
「……そう。なら次でち。ゴーヤたちを暴力や恐喝で従わせて楽しかった?」
「なにも感じんよ。兵器にそもそも感情を植え付けるのが間違っとるのだ」
がくり、とゴーヤの肩が落ちる。
「少佐。お願いがあるの」
「なんだ?」
「ゴーヤを少佐の、ううん。てーとくの艦隊に加えて。正式に。いまので踏ん切りがついた」
こちらを見つめて懇願するように頭を下げようとするのを止めて銃を左手に持ち替えて右手を差し出した。
「いいぞ。ようこそ、帆波隊へ」
「えっと…よろしくでち」
ゴーヤがその差し出した右手を確かに握った。
「なにを言っとる!私を早く逃せ!隣のその男を殺せ!」
「そんなことばかり言って力で抑えつけることしか考えれないからあなたはこうなったのよ!」
船着場に遅れて今着いた陸奥が声を荒げた。矢矧も一緒だ。
「おい、矢矧。なんでお前まで連れて来ちまうかなあ?」
「あら、責任は全部とってくれるんでしょ?」
うん。確かについさっき言ったけどさ。
「……イムヤといい矢矧といいそういうことどこで覚えてくるんだよ」
「「間違いなく提督だと思う」」
イムヤと矢矧がハモった。俺普段そんなこと……してるな、うん。心当たりしかないわ。
「ゴーヤ、生きてたのね。本当によかったわ……」
「陸奥さん……」
きっと沈んだと聞いてとても悲しかったのだろう。慈愛の目をゴーヤに向けている。
そしてその目をこちらへ向けて陸奥が一礼した。
「帆波少佐、ありがとうございます。ゴーヤを保護していただいて」
「大したことじゃねえ。それに俺の仲間の友人なら助けるさ」
さっきから長い間黙りこくっていた矢田が口を開いた。
「お仲間ごっこがそんなに素敵か?」
空気が一気に冷えきった。
「ごっこじゃねえよ。こいつらは正真正銘俺の仲間だ」
自分の声が低くドスの入ったものに変わる。
「艦娘などという気持ち悪い化け物相手に仲間か」
矢田がせせら笑うのを見てふつふつと怒りが沸き、右手に持ち替えた銃がぶるぶると震える。
「……もう一回言ってみろ」
「ああ、何度でも言ってやる!艦娘などというヒトモドキの化け物に──」
「ざけんな‼︎」
思いっきり踏み切り、一気に接近。そして大きく踏み込むと右足を矢田の土手っ腹に叩き込んで船のそとに蹴り飛ばした。
そしてそのまま飛び上がりコンクリートに叩きつけられ、ぐえっと呻き声を上げる矢田の側に着地しCz75を再度構えた。頭の中が沸騰しそうなくらい熱い。
「俺への悪口なら大抵のことは流してやる。ただな」
銃口を矢田の眉間に突きつけて睨みつける。
「あいつらは俺の大切な仲間で大切な家族だ。それを侮辱することだけは許さねえ」
「はっ!貴様にはその引き金は引けん!貴様は人殺しにはなれんよ!」
銃口を突きつけられても笑い、挑発する。殺されないと思っているからこそできるのだろう。
「余裕ぶってるとこ残念だが俺は引けるぜ。俺は
矢田の笑みが凍り、顔面蒼白になる。
彼は思い出していた。日本海軍に対して起きた多数の洗脳者による大規模なテロ事件を。響き渡る高く鋭い悲鳴から
「知らないわけないよな?生き残り達は洗脳された市民を撃って殺して生き延びた。正当防衛ということで不問にはなっているがな。その生き残りの俺が撃てないと本気でそう思うか?何十人も殺して今更一人を殺すのを躊躇うと?」
頭の中とは対称に声はぐっと冷えきる。
「や、やめろ……。わかった、話す!全て話すから、殺さないでくれ!」
「さんざん俺たちを消そうとしといて自分はやめてくださいなんて理論が通ると思ってるのか?」
「そ、それは……」
ふっとため息を吐き、首を左右に捻りゴキゴキと骨を鳴らす。
「憲兵隊がまだ来てなくてラッキーだよ、俺は」
「な、何を……?」
「抵抗されたためやむなく射殺したって言い訳が効くからな」
乾いた銃声が空気を震わせた。
弾が真っ直ぐに飛び出し狙い通りの場所に突き刺さった。
「ちっとは暴力にさらされる側の気分が味わえたか?」
「……………」
ぶくぶくと口から泡を矢田が吹き、白目を剥いて起き上がる気配もない。
「なんだよ気絶しやがった。情けねえ」
「…提督、あなたやりすぎよ」
矢矧に窘められてようやく我に返った。
しまったな。確かに少々頭に血が上りすぎた。
「悪い。ちょっと冷静じゃなくなってた」
「ていうか今更だけど私に燃料抜いとけって言ったってことは事前に船でこの人が逃走すること見越してたのよね?」
イムヤにジトッとした目つきで見られて、頭を掻く。
「想定内の想定外ってとこかな。理想はさっさと投降してくれることだったが」
そううまくもいかねえな。ブチ切れて醜態晒しちまうとは。
Cz75に
「矢矧、憲兵隊はいつ来るって?」
「さあ?でもすぐに向かうって言ってたからもうちょっとしたら来るんじゃない?」
「そうか。イムヤ、ゴーヤ連れて船から降りてこい!矢田を拘束しとかなきゃならねえ」
イムヤとゴーヤがゆっくりと船からおりてきた。峻が泡を吹いたままの矢田の足を掴み、引きずりながら運ぶ。
頭の中にカツンという音が鳴った。通信がきたのだろう。
「俺だ」
『明石です!提督、大変です!』
「どうした?えらく慌てて。こっちは片付いたぞ」
『違います!まだ終わってません!』
「なに⁈」
矢田のやれることはだいたい全て手を打ってたはずだ。これ以上なにが……
『深海棲艦の艦隊が攻めてきてます!』
「叢雲が対処できないレベルでか?」
『違います!館山じゃありません!』
「じゃあどこだ?」
『銚子……つまりそっちにです!』
直後、遠くで倉庫が吹き飛んだ。
まじか。勘弁してくれ。
終局かと思いきや次の災難。
まだまだ帆波の受難は続きそうです。
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