昔々、あるところに一人の男がいました。
男は少女たちとともに海を侵す化け物と戦いながらも仲良く暮らしていました。
いつしか男は思います。
「こんな日が永遠に続けばいいのに」
でも男は知っていました。
永遠なんて存在しない、と。
それでも目を逸らし、耳を塞いでいたのです。
そのツケが回ってくるまで。
ついてない。
そう思わずにはいられなかった。
今日は外はバケツをひっくり返したような大雨だ。なんでも大型低気圧が接近しているとか。直撃していないのにこの雨は気が滅入る。
そして舞い込んだイムヤからの通信が余計に俺のその思考を加速させる。
『哨戒中に敵艦隊を発見!現在本土に向けて進行中!至急艦隊を出撃させて!』
「了解。すぐに出す。イムヤはそのまま気づかれないように後を付けておいてくれ。やばそうだったらお前の判断で撤退しろ」
プツンと通信を切って考える。
この天気では艦載機の発艦は困難だ。ということは加賀と瑞鶴を出すべきじゃない。となると……
『悪いけど私は出すのはオススメできないわよ。艤装の調子が最近どうもよくないのよ』
考えを遮るように叢雲が不満げに言う。確かにあまりいい動きが出来ていないのは確認していた。原因は分からないが、スランプといったやつかもしれない。
「しゃあねえ。陸奥を旗艦にして矢矧と鈴谷に北上をつける。全員聞こえたな?出撃スタンバイ。発進だ!」
『了解よ。戦艦陸奥、出る!』
雨が強くて出撃したのが執務室の窓からでは見えない。それでも確実に四人は出た。
まだ陸奥たちが接敵するのは時間がかかる。イムヤはまだバレてないみたいだがそのまま保つといいんだがな。
もどかしさを誤魔化すためにペンを意味もなく、くるくると回す。
イムヤに下手に通信を送ると余計にバレる可能性が増える。
それだけじゃない。
この雨で通信が不安定になってるせいで艤装への介入がうまくいかない。
今回俺は何もできない。
それがたまらなくもどかしい。
どれくらい経ったか。
また通信が入った。
「こちら館山基地の帆波だ」
『よし、繋がった!こちら硫黄島泊地!至急、支援艦隊を送ってほしい!』
硫黄島か。基地司令誰だっけ?最近新しく着任したはずだが忘れちまった。
ってそれどころじゃねえな。声が慌ててる。すぐに対応してやらにゃならん。
「状況の説明を」
『現在硫黄島は深海棲艦の攻撃を受けている!なんとか耐えてはいるが苦しい状況だ。支援艦隊を送ることは可能だろうか?』
「この天気で空母は出せねえ。そしてうちもさっき迎撃に一部出しちまった。残りですぐに動かせるのを出すのでよければ」
『助かる!少しでも手が欲しい』
えっと今出せるのは……陸奥と矢矧と鈴谷と北上は他の迎撃に当たらせてる。叢雲は不調でゴーヤはまだ出すべきじゃない。イムヤも出撃中だから空いてるのは榛名と夕張と天津風か。
「残念だがうちから出せるのは3人だ。それでもよければ出そう」
『そちらの練度の高さは話に聞いている。非常に助かる』
そう言い残し、硫黄島の基地司令サンからの通信は切れた。
横須賀も他の近くの基地も出す余裕がないらしい。
この天気に紛れて深海棲艦が一斉に攻勢に出てるのか?だとしたらなんて厄介な。
「すまんが出撃だ。榛名を旗艦にして随伴に夕張と天津風頼む。場所は硫黄島だ。すでに交戦中とのこと。急いでやってくれ」
『いいのですか?』
「仕方ねえだろ。どうやらどこも出張ってるみたいだ。横須賀も手が空いてない。うちしか出せねえ。そして見捨てるのは後味が悪い」
『……わかりました。榛名、出撃します』
これで残ってるのは叢雲とゴーヤと明石だ。もううちから出せるのはない。
硫黄島は手一杯。横須賀は横須賀で遠征に出ていて出せるのはなし。他の基地もここしばらくの出撃やらで被害を受けていて唯一普段滅多に出撃しないうちが出すしかない。そしてこういう時に限って叢雲が不調で天候不良で空母二人が出せない。
最悪だ。運が悪すぎる。
頼むぜ、お前ら。
陸奥はこの状況に歯嚙みした。
視界が悪いせいでいつもなら当たるものも当たらない。北上も魚雷を打ってはみるものの、荒波で軌道がうまく定められない。いつもなら提督が戦術コンピュータに繋げて微調整するところだが、通信は生憎と繋がりにくい。
そのせいでだらだらと戦闘が長引きてしまっている。
「被害状況は?」
『鈴谷、小破だよ』
『矢矧、損傷軽微よ』
『北上、同じく損傷軽微だよ』
三者三様の答えが通信越しに返ってくる。普段なら少し叫べば聞こえるのに今日はそうもいかない。
まったく提督も無茶な戦場に送ってくれたものね。
水柱で濡れたのか雨で濡れたのかわからないほどグショグショになりながらも砲撃。電探もまともに反応しないのでどれくらい敵が残っているかも判定がつかない。
だが現状ではこちらの被害はかなり軽い。手間はかかるが問題なく撃退できる。
ま、それもわかってあの人は私たちを出したんでしょうけど。
それに矢矧をつけたのは私の旗艦としてのサポートのため。鈴谷はプレッシャーを和らげさせるためのドリームメーカーとして。北上は腕に覚えがあり、なおかつ高い雷撃能力で敵の撃滅に適しているから。
気づかれないようにしているつもりでしょうけど結構手をかけてくれているのよね。
強い雨音に砲撃音が混ざり、砲弾が降りそそぐ。けれど悪条件は向こうも同じで的外れな位置に着弾する。
これじゃあ埒があかない。
『陸奥、矢矧より意見具申よ。私が接近して魚雷を叩き込むわ』
普段ならそんなことはできない。けれどこの悪天候ならばギリギリまで気づかれずに行ける。
「オーケーよ。私が主砲の砲撃でこちらに意識を向けさせるからその隙にお願い!」
『任せて!』
『あ、アタシもいくよー』
矢矧と北上が回りこみ始める。とにかくこちらに引きつけるために砲撃を続けないと。
「鈴谷、まだいける?」
『鈴谷はダイジョーブだよっ!』
「ならやるわよ!撃てぇ!」
自慢の41cm砲が轟く。
さあ、こっちを見なさい。そして気づいた時にはきっともう沈んでるわ。
硫黄島から少し離れた場所で砲弾と魚雷が行き交っています。ギリギリで渡り合っていますが撃退するのは厳しそうです。
急いで連絡しましょう。
「硫黄島の司令官の方、応答してください!館山からの支援艦隊旗艦、金剛型戦艦榛名です!」
『こちら硫黄島泊地。救援感謝する!』
「榛名たちはどうすればよろしいですか?」
『左翼に展開している敵水上打撃部隊を叩いてほしい。可能か?』
「勢力は?」
『戦艦クラス含む合計6隻の一艦隊分だ。こちらから2隻ならそちらに付けられる』
榛名は頭の中でざっと計算した。
こっちには榛名と夕張ちゃんと天津風ちゃん。希望すれば2人は付けてもらえる。
対する敵艦隊は数の上では三つ多いが、戦艦だけの数なら同数。やりようによっては勝てる!
「わかりました。しかし支援は必要ありません。他に手を回してあげてください」
『しかし……』
「他も結構厳しそうです。榛名たちを気遣ってくれるお心遣いは嬉しいですが、それでここが落されては意味がありません。だから大丈夫です!」
『……そうか。すまない』
支援艦隊として送ってもらっておいて、大きな被害を与えさせてしまうことを心苦しく思ったのでしょう。謝られてしまいました。
でも断ったのは3人でいけると思ったからなんですよ?
「目標、左翼の敵水上打撃部隊!攻撃開始っ!」
『榛名、念のために対潜警戒しとく?』
「夕張ちゃん、お願いします。天津風ちゃんは攻撃準備を!」
撃ち込んだ砲弾の着弾位置か辛うじて視界に捉えられました。
少しズレましたが、許容範囲内です。
次は決めます!
天津風ちゃんの連装砲くんが海上を走り、すぐに見えなくなりました。おそらく自分の判断で分離させたのでしょう。
ここのところの演習漬けは伊達じゃありません。
もう一度砲撃。主砲を斉射します。
やりました!今度は命中です!燃料か弾薬かに命中したのでしょう。黒煙を上げて傾いていきます。
あれは重巡サイズですね。まだ戦艦クラスは健在です。
「天津風ちゃん、いけますか?」
『問題ないわ』
降りそそぐ砲弾をひょいっとかわしながらもう一度砲撃します。
この天気では水偵は飛ばせません。
でも着弾を確認できるものはあります。
天津風ちゃんの操る連装砲くんが。
そして確認さえできれば弾着観測射撃は可能です!
「榛名、全力で参ります!」
タ級に命中。次も命中。立て続けにくらったタ級が怨嗟の声を残し沈んでいった。
「左翼展開中だった敵水上打撃部隊の撃破を確認しました。次に移ります!」
形勢逆転。左が崩れた深海棲艦の列が崩れていき、対照的に艦娘たちの士気が上がっていく。
「次です!」
榛名たち3人が次の目標を目掛けて攻撃準備をしながら駆ける。
硫黄島の戦況はこちらに傾き始めた。
少し書き出しを変えてみました。
またやるか今回だけかは気分次第できめます。