艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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今回ネタバレになりますが轟沈描写などがあります。
苦手な方はブラウザバックお願いします。
いいですね?
それでは参りましょう。


悲愴

 

現在の状況をまとめよう。

陸奥率いる合計4人が出撃中。

榛名率いる合計3人は現在硫黄島沖にてまだ戦闘中だが直に片がつくらしい。

空母は強い風雨で艦載機の発着艦不能。

イムヤは合流したかは定かじゃないが陸奥たちの方にいるだろう。

えらく大軍で攻めてきやがったな、深海棲艦。ったく厄介なことこの上ねえ。

 

峻が苛立ちを紛らわすためにフラフラと執務室を歩き回り、時たま急に立ち止まりまた歩き始めることを繰り返し続ける。

 

今回はこの天候のせいでまともにフォローが出来ねえ。せめて雨も小降りから中降り程度で済んでくれればいいがこんな車軸の雨じゃ通信の電波が阻害されちまう。

低気圧の動きからしてあと数時間もしないうちに晴れるとは思うが早くしてくれ。

 

「ちょっとは落ち着きなさいよ」

 

叢雲にたしなめられる。今回出られないなら格納庫で待機している必要なくね、と言ったところ本当に執務室に戻ってきたのだ。

 

「落ち着ついてられるかよ、この状況で!」

 

「だからこそ落ち着けって言ってんのよ。あんたは今回何もできない。それがもどかしいのはわかるけどペンギンみたいに歩き回ったって事態はなにも好転しないわよ。少しはみんなを信用してあげなさい」

 

「……すまん」

 

「こんなことで私に手間をかけさせないでよね」

 

それに艤装の調子が悪くて思うように動けない叢雲自身が一番もどかしいはずだ。それなのに俺はまったく。嫌気がさす。

 

「ほら、お茶でも淹れてあげるから座ってなさい」

 

「ああ、悪いな」

 

執務机の椅子に座る気は起きず、来客用のソファにどっかりと腰掛けた。ふかっとした感触が峻の体を押し返す。

 

あいつらならきっと大丈夫だ。演習で腕も上がってるし、シュミレーターで指揮官として広い視界も持ってる。

叢雲に言われた通り、信じて待っててやらなくちゃな。

 

ガリガリと髪を掻き毟る。不安が取り除かれたわけではない。それでも少しは落ち着いた。

だがその息をつく束の間の時間を基地の警報がぶち壊した。

 

「くそっ、今度はなんだ⁉︎」

 

警報がなった理由を確かめるため、基地のコンピュータにアクセスする。そして信じられないものを見た。

 

「嘘……だろ………?」

 

哨戒線に深海棲艦が引っかかったのだ。それも明らかにこちらに向かって侵攻している。

 

「この前のお礼参りってか、ふざけやがって!」

 

最後まで生きてた監視カメラに接続して数を確かめる。冗談じゃねぇぞ。12とかうちに対抗できる勢力ねえじゃねえか。

かといって周辺の基地はほぼ他に出張ってる。残ってるのは空母ばかりだ。

 

こいつは圧倒的にヤバいぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叢雲は給湯室でヤカンに水を入れて火にかけ、急須に茶葉をいつもより少し多めに入れて水が沸騰するのを待つ。

気分を落ち着かせるために少し濃いめのお茶にしておいたほうがいいと思ったからだ。

 

あいつが本気で狼狽えている姿を見せることはなかなかない。他の艦娘の前で見せることはありえないと言ってもいいくらいだ。

本人は、

「司令官の俺が狼狽えたらみんなを不安にさせちまうからそんな姿は見せるわけにはいかねえんだよ」

と言っている。だから見せるのは私の前くらいね。ほんの少しだけ弱いところを見せてくれるのが嬉しかったりね。

出撃できないのは残念だけどね。しっかり訓練もしてるしなんでうまく動けないのかしら。

 

取り留めのないことを考えているとヤカンがピーッと笛を鳴らして沸騰したことを知らせる。

じっと見てるとなかなか鳴らないのに他ごとしてるとこういうのってすぐ鳴る気がするのはなんでかしらね。

火を消してしばらく待つ。煎茶を淹れるときのお湯の適温はだいたい80度くらいだから沸騰してから少し待つのがベストなのよ。

 

適温になった頃を見計らって急須にお湯を注ぐと煎茶の香りがふわりと漂う。2つ湯呑みを用意して均等に注ぎ、お盆に載せて給湯室をでた。

別に私が入れたんだから私が飲んだっていいじゃない。あいつもそれに関して文句言ったことはないし。

 

執務室の前の廊下を歩いていると基地の警報がけたましく鳴り響いた。零さないように、でも急いで執務室に滑り込む。

 

「この前のお礼参りってか、ふざけやがって!」

 

ああ、どうやらここに攻めてきたようだ。お盆ごと机の上に置く。まだあいつは慌てていて、私に気づいていない。

 

「ここに来たのね?」

 

「……叢雲か。そうだ。今すぐ避難をするしかない」

 

「避難するにも時間が足りないわよ」

 

「わかってる!だがどうしようもねえ」

 

あいつが壁を殴り、唇を噛む。

私はため息をついた。1つ方法ならあるでしょう。意図的に言わないようにしてるのバレバレよ。

 

「私が出るわ」

 

そう。私が出ればいいのよ。

 

「……許可できねえ。艤装の調子が悪い奴を出せるか」

 

「でもそれ以外に手はないでしょ?」

 

「そうだな。でもその手段は間違ってるからやらねぇぞ。お前は確実に沈むからな」

 

「それはあんたの私情でしょ。私情を挟むなんて司令官失格よ。悪いけどあんたの駄々でこの基地消すつもりはないわ」

 

あえて冷たく言い放つ。

 

「でもそれは────」

「なら現時点であんたの指揮能力喪失と判断するわ。これで司令官は私よ。そして私は私に出ろと命令する。以上よ」

 

「待て!おい!」

 

引き止めるあいつの声を残して執務室を飛び出し格納庫へと走る。

格納庫へ入ると艤装を降ろそうとするが降りてこない。

さては執務室からロックかけたわね。でも残念だけど私この基地のパス知ってるのよね。矢田の件で私に教えてからパス変えてないの忘れてるのかしら。

 

手早くパスを入力すると艤装が降りてきた。それを装着するともう一度パスを使って扉を開けると海へ飛び出した。

 

 

 

叩きつけるような雨に閉口する。さっき盗み見たところによるともう少し先に行ったところで恐らく会敵するはず。

時折、艤装から変な音がする。速度もいつもみたいに自分の思うように出せない。普段なら自分の体の一部のように動く艤装がぎこちない。

それでも動く。なら私は戦える。

 

『おし、繋がった!おい叢雲!今すぐ戻ってこい!』

 

「そうもいかないわ。ここで誰か足止めしなきゃ」

 

『だとしても今のお前じゃ無理だ。まだ間に合うから戻れ!』

 

「残念だけどもう間に合わないわ」

 

自分の周囲に砲弾が降り注ぐ。そりゃこの雨でも目視で確認できるくらい接近したもの。仕込み刀の断雨を引き抜き思うように動かない砲塔を深海棲艦に向ける。

ざっと見ただけで戦艦4隻は最低いるわね。

 

『逃げろって言ってんのがわかんねえのか!』

 

「悪いけどここは引き下がれないわ」

 

無理やり艤装を動かし、大雨の中を駆け抜ける。また砲撃音。いつもなら避けれる砲弾についに当たってしまった。痛みに思わず顔をしかめる。

 

「っ……!まだまだぁ!」

 

残弾数なんて気にしない。どうせまともに狙いもつけられないからとにかく撃ちまくる。

 

「きゃあっ!」

 

またくらった。機関から嫌な音がする。警告ウィンドウが開き、出力の低下を教えた。深海棲艦たちは私専用の対策を打ってきているのか接近しようとしても離れていく。これじゃあ刀が使えないじゃないの。

 

『戻ってくれ!おい、聞いてんのか!』

 

あいつも機銃や爆雷などの操作をしながら必死で通信を行う。でもまだ戻るわけには行かない。

 

「ねぇ、聞こえる?」

 

『ああ!早く戻って────』

「あんたのこと、嫌いじゃなかったわ。じゃあね』

 

プツンと通信を切り、その後は通信機を切り離して海中に投下した。艤装のコントロールも全てこっちでロックしたからもうあいつは私に干渉できない。

これでいい。あいつに最後まで付き合わせる意味なんてない。それにあんなのずっと聞いてたら戻りたくなるじゃない。

 

次々と周囲に着弾。砲弾の破片が皮膚を裂き、当たった砲弾が主砲を吹き飛ばす。でもまだ動ける。

 

「沈め!」

 

まだ残っている武装をとにかく撃ちまくる。爆雷投射機が吹き飛んだ。けどまだ主砲一門と機銃と魚雷が残ってる。

 

「ぐっ……でもこっから先は通さないわよ!」

 

戦艦を取り囲むように重巡や軽巡、駆逐艦が陣形を取り、一斉に魚雷を発射した。こっちも残っている魚雷を全て放つ。両者の間で魚雷同士がぶつかり、大きな水柱を上げた。

とにかく接近させる気はないらしい。回避に専念せざるを得ないため、前に進む余裕がない。

 

バチバチとついに艤装から火花が出始めた。速度も最高速度の半分を切った。

いたるところから血が流れ、感覚が鈍くなる。

体内に宿す妖精もそろそろ限界のようだ。

ドォンと大きな音が鳴る。

ゆっくりと目の前に砲弾が迫ってくる。

 

死ぬ前って時間の進みが遅く感じるのかしら。

しまった。せっかくお茶淹れたのに私飲んでないわ。

もう少し最後くらいあいつに優しい言葉かけてあげるべきだったかしら。でもあれくらいが私らしくてちょうどいいわよね。うん、きっとそうよ。

 

そして叢雲の世界が閃光に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あんたのこと、嫌いじゃなかったわ。じゃあね』

 

一方的に通信が切れ、艤装への介入路もロックされた。

ふざけんなよ。なに勝手なことしてんだ!

雨はまだ強い。加賀と瑞鶴はまだ出せない。自室待機のままにするしかない。

なら動いているのを頼るしかない!

何度もコールをかけるとようやく繋がった。

 

「陸奥!応答を!」

 

『どうしたの?珍しく慌てて?』

 

「そっちの状況は?」

 

『ごめんなさい。もう少しかかりそう。何かあったの?』

 

「いや、なんでもない。そっちの戦闘に集中してくれ。悪かったな」

 

陸奥はまだ厳しそうだ。なら次は榛名だ。もう一度コールをしまくる。

 

「榛名!応答してくれ!榛名!」

 

『はい、榛名です。どうしました?』

 

よし、出た!

 

「硫黄島での戦闘は終わったか⁉︎」

 

『え、えぇっとあと少しで片付きそうですが……』

 

「そうか。終わり次第、このポイントへ急行してくれないか?連戦続きで悪いが頼めるのはお前くらいしかいないんだ!」

 

『……何かあったんですね?』

 

「ああ。叢雲が館山の哨戒線に引っかかった深海棲艦を単身で挑みに行った。艤装の調子が悪いのに、だ。さっき通信も切られたから詳しい状況がわかんねえんだ!」

 

『全力で急行します!』

 

「すまん、頼む!」

 

デカい事件を片付けて油断してた。まさかあいつがパスをそのまま流用してくるとは。しかも無断で出撃するなんて予測してなかった。

自分の愚かさに腹がたつ。

頼む。榛名、急いでくれ。

頼む。叢雲、無事でいてくれ。

 

拳を強く握る。爪が手のひらに食い込み、皮膚を突き破り血が流れた。

ホロウィンドウを開いて戦況を確認。まだ大丈夫。叢雲の反応はある。

もう仲間が死ぬ姿なんて見たくない。

お願いだ。ここに帰ってきてくれ。

 

 

 

コンコンと執務室のドアが控えめにノックされた。

 

「……入ってくれ」

 

榛名が顔を俯かせて入り、俺の執務机にゴトリと何かを置いた。しばしの沈黙が部屋を支配する。

 

「……榛名、お疲れ様。休んでいてくれ」

 

「でも!」

 

バッと榛名が顔を上げようだ。俺も下を見ていて榛名の顔は見えないが。

 

「いいから!全員に通達だ。連戦で疲弊してるだろ?ゆっくり休め」

 

「中佐……わかりました。榛名、失礼します」

 

ガチャリとドアを開けて榛名が出ていきかけて止まる。そしてくるりと振り返った。

 

「あまり無茶をなさらないでくださいね」

 

労るような声で榛名が言うと今度こそドアを閉めて出て行った。

榛名は行ったな?

 

ようやく榛名の置いていった報告書に目を通した。結果は知っているのに。

 

 

 

 

 

───────報告書──────

 

指定された海域付近に到着。周囲に敵影などは見られず。また救援対象の駆逐艦叢雲も見られなかった。

その後、捜索を開始。されど周辺を捜索するも捜索対象者は発見されず、艤装の一部のみが発見された。

以上の状況より、旗艦榛名は駆逐艦叢雲が撃沈されたと判断し、帰投する次第である。

 

 

 

 

 

榛名が机に置いた何かが低気圧が通り過ぎ、顔を出した太陽の光を反射しキラキラと虚しく光る。

そのキラキラと光る物は叢雲の頭部浮遊ユニットの残骸だった。

 

「クソったれ…………」

 

ポツリと呟く。またか。また仲間を死なせてしまったのか、俺は。

 

「クソったれがあああああああああ!!!!!」

 

峻の叫び声が執務室にただ響く。

叢雲の淹れた煎茶はもう冷めてしまったようだ。

 

 





物悲しくなる回です。
作者的にはついにやっちまったよ俺……といったところです。

感想、ご要望(改行変えてなど)はお気軽に。

それでは
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