艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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こんにちは、プレリュードです。

本編に入る前にこの場をお借りして謝罪を。
前回投稿させていただいた「ナポリよいとこ」ですが、英訳部に非常に問題のある間違いが見つかり、何度も改稿したことに関してお詫び申し上げます。今後はこのようなことがないようにしていくつもりです。
今後とも艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜をよろしくお願いします。

それでは本編参りましょう。

6/10誤字訂正しました。


赤色ワインは危険なかほり

〈イタリア州パラッツォホテル12F1204号室-現地時刻7月25日22:47〉

 

ホテルはスイートルームのコネクトだった。コネクトというのは廊下に出なくともお互いの部屋を行き来できる、というタイプの部屋だ。片方の部屋に俺はあいつらを押し込むと少しホテルの外に出て飲み直す用の白ワインを買った。

 

部屋に戻りユニットバスでシャワーを浴びる。残念ながらこちらには湯船に浸かるという概念がないのですこし物悲しいが我慢するしかないだろう。

部屋に備え付けのバスローブを着てミニキッチンで軽いツマミとしてカナッペを作る。クラッカーにクリームチーズとスモークサーモンを載せたものだ。簡単だが割と美味い。

冷やしておいたボトルを取り出しグラスに注ぎ一口。

 

おっ、やっぱり本場のイタリアワインはいけるな。あの時は外交問題上とはいえ毒物が盛られている可能性が高いワインを口に含む必要があった。その後はちゃんとハンカチに吐き出してしっかりと口の中を洗浄したが、そんなヤバイものをあいつらの口に含ませるわけにはいかない。だから俺だけにしてあいつらには一口も含ませなかった。少し愚痴らせてもらうなら白のハンカチに赤ワインの染みができてしまったことだ。あれ落ちないんだよな。染抜きってこっちでも安く売ってるといいんだが。

 

ぼんやりとグラスを傾けていると通信が俺の元に舞い込んだ。

 

『もしもーし!帆波クン?アタシだよー』

 

「おー。で、常盤。結果は?」

 

『ヒット。マーシュテストで反応が確認されたよ。三酸化二砒素(さんさんかにひそ)だったかな。さしものアタシもこれはちょっと無理かなー』

 

「そりゃそうだ。で、そっちは大丈夫か?」

 

『アタシは帆波クンと違って有名じゃないからね。特に何もないよ』

 

「別に好き好んで有名になったわけじゃないんだけどな……。うん、まあわかった。わざわざ悪かったな」

 

『謝っとかないといけないのはこっちだよ。正直ここまでするとは予想してなかった。帆波クン、気をつけてね』

 

「ああ、そっちもな」

 

通信を切りながらもう一度グラスを傾ける。三酸化二砒素(さんさんかにひそ)か。くそっ。厄介なものを。

 

コンコンとコネクトルームのドアがノックされる。はいれ、と許可を出すと向こうの部屋の叢雲たちがゾロゾロと俺の部屋へ入ってきた。

 

「少し飲むか?赤は気が乗らないと思ってシャルドネの白にしたんだが。まだ今年に作られたばっかりの一級品だぜ」

 

ゴーヤ以外にグラスを用意して白ワインを注ぎついでに作ったカナッペを勧める。弱いって宣言してる奴に無理やり飲ませる趣味は俺にはない。

 

「ねぇ、提督さん。なんでさっき止めたの?」

 

「あ?あのワイン飲んでたら瑞鶴、お前今頃は頭に輪っか浮いて背中に翼生えてたぞ?」

 

「えっ……私死んでたの⁉︎嘘っ!」

 

「マジだ。瑞鶴のワインを調べてもらったが三酸化二砒素が検出された」

 

「ごめん提督。さん………何?」

 

「三酸化二砒素。亜砒酸(あひさん)って言った方がわかりやすいか?」

 

鈴谷の疑問に答えてやる。確かに三酸化二砒素っていきなり言われてもわからんわな。

 

「ゴーヤそれ聞いたことある。確か猛毒だって」

 

ゴーヤの言う通りだ。

三酸化二砒素とは、名前の通り砒素の一種だ。非常に強い毒性を持ち、致死量は僅か100〜300mg。ルネサンス時代では暗殺に使用されたほど歴史のあるものである。

そんなものがあの時に俺たちに注がれたワインすべてに致死量を大幅に超えて混入されていた。もし一口でも飲んでたら本当に全員お陀仏だ。

 

「ま、ワイン注ぎに来たやつに毒盛られてるって気がしたから至急で叢雲に頼んでオルター少将へ連絡入れてもらったわけだ。今ごろ捕まってるんじゃないか?」

 

「少将はすぐに動くって言ってくれたわよ」

 

「そうか。なら確実に捕まっただろ」

 

来て早々に起きかけたアクシデントも未然に防げたし何よりだ。

 

「ねえ、提督さん。なんでそんなことに気づけたの?」

 

「瑞鶴、奴の胸に金の葡萄のバッジがつけられてたの気づいたか?」

 

「えっ?……うん。おしゃれだなーって思ったのを覚えてる」

 

「あれはおしゃれじゃねえ。ソムリエバッジっていうもんだ。いわゆる職業証明みたいなものだな」

 

「へえー。あれソムリエバッジっていうんだ」

 

一口ワインを飲んで唇を濡らす。自分で買ってきてたった今栓を抜いたばっかりのワインだ。警戒せずにのんびり飲めて気が楽でいい。

 

「で、もう1つ気づいたか聞きたいんだがあの消毒用アルコールみたいな匂いはどうだ?」

 

「した。柑橘系の香りが。デオドランドに気を使ってるのかなって思ったもの」

 

「あ、瑞鶴も気づいた?鈴谷もいい匂いだなって!」

 

「それだ。ソムリエってのは鼻も大事な仕事道具だ。なのに柑橘系なんて強い匂いで嗅覚を鈍らせるような真似するわけがない。そもそも食事を出す人間が変に別の匂いを付けてると料理の匂いを阻害しちまう。客によってはそれに不快感を覚えるのもいるからホテルって場所は人一倍そういうのに気を使う。それなのにあんだけプンプン匂いを飛ばすのは不自然だ。つまりどうしても消臭をする必要があったんだろ。じゃあなんの匂いを消そうとしたんだ?シンナーとかを使ってる様子はなかったな」

 

「なんでち?」

 

「もしかして………タバコ?」

 

パチパチと称賛の意を込めて手を叩く。

 

「叢雲正解。あくまで俺の推理に過ぎんが暗殺前の緊張を紛らわせるために一服やったんだろ。で、実際に一服やってから自分にヤニの匂いがついたことに気づいた。焦ったニセモノくんは手近に見つけた消臭スプレーの類で慌てて匂いを消そうとしたが逆にそのせいで俺にバレたってわけだ」

 

ひょいっとカナッペをつまみ上げて口へ放り込むと咀嚼し、そのまま白ワインを飲む。クリームチーズと辛口の白ワインのハーモニーが口の中でふわりと解ける感覚を楽しみながら思考を巡らす。

 

あれは素人だな。化ける役の下調べが杜撰すぎる。普通ソムリエってのは注いだワインについての説明を必ずするもんだ。それに毒のチョイス。普通は遅効性のものを選んで逃走時間を稼ぐところを三酸化二砒素なんて選びやがって。即死してたらすぐに会場封鎖されて捕まることくらい予想がつくだろ。

 

「あ、お前らもカナッペ食っていいからな」

 

「そんなことがあったのに食べれる提督さんの神経は図太すぎるよ……」

 

「俺が作ったんだから大丈夫だ。ほれ」

 

恐る恐るといった様子で瑞鶴がカナッペに手を伸ばし慎重にかじる。

 

「あ、おいしい……」

 

「当たり前だ。ほら、鈴谷もゴーヤも食え食え」

 

「あ、鈴谷はもう貰ってるよ!」

 

「ゴーヤも!」

 

ふと皿を見るとさっきまで結構あったカナッペが半分以上なくなっている。

 

「待て!てめぇら遠慮なく食い過ぎだ!俺の分も残せ!叢雲、お前もさりげなくめっちゃ食ってんじゃねえ!」

 

よし。瑞鶴はワインも飲んでるな。これをきっかけに変にトラウマ植えつけるようなことがあっちゃいけない。変に意識する前に食べても大丈夫って刷り込んでおきたかったんだがなんとかなりそうだ。だが。

 

「せっかく作ったツマミが……。お前ら根こそぎいきやがって……」

 

すべてやるつもりはない。せいぜい2つか3つくらいにして残りは後でゆっくり1人で楽しむつもりだったのにくそぅ……。

 

「提督さん、油断したら喰われるのが私たち艦娘の世界なんだよ……」

 

「ただの食べ物争奪戦を深刻な空気にしようとしてんじゃねえ!」

 

あはははっと瑞鶴が無邪気に笑い、それが伝播していく。

 

「鈴谷はそろそろ寝るね。提督ごちそうさ

ま」

 

「ゴーヤもちょっと眠いからそうする」

 

「まあ時間もいいところだしな。ほれ、寝てこい」

 

コネクトルームのドアを通って隣の部屋にぞろぞろと戻っていく。

戻っていったところを見計らって荷物から愛銃たるCz75を引っ張り出し、机の上に古新聞を敷く。

分解掃除(オーバーホール)しておきたかったからだ。いざという時に蹴出器(エジェクター)が動作不良をおこして詰ま(ジャム)ったら冗談にならない。

手入れ用の工具やクリーニングロッド、ガンオイルなどを机の上に並べて手際よく分解していく。

 

未遂に終わったこの事件の裏にはおそらく反欧州連邦組織がいる。あそこで俺たちを殺して非難を欧州連邦政府に集中させることが狙いだったのだろう。

そして殺されたのが俺だとわかれば日本政府は強い態度に出ざるを得ない。ウェークの件で俺は日本国民から小さな英雄扱いをされている。そんな人物が異国の地で暗殺されたら?国民は確実に怒る。そして日本政府が弱い態度で動けばその怒りの矛先は弱腰の日本政府に向かい、結果的に日本政府は欧州連邦に対して強気に出るしかなくなる。そうすれば欧州連邦政府はガタガタだ。それだけ日本は今世界の中において力を持ってる。

そしてガタガタになったところを見計らって各地で国々が独立していき欧州連邦解体……ってのがシナリオだったんだろう。

過激派か。あまり無視できないことになりそうだ。

そう思ったからこそ、Cz75の整備をしているのだ。何か起きたときに備えておかなくてはいけないから。

 

カシャン、と一度完全にバラバラにしたCz75を組み立て直して動作の確認をする。

 

「相変わらず早いわね」

 

「うおっ⁉︎」

 

いきなり叢雲の声が聞こえた。聞こえた方を見てみるとうつ伏せになってベットの上で何かの雑誌を読みながら足をパタパタしている。バスローブでそれやるなよ。生足がゆれるローブの裾からチラチラと露出してるから。

 

「なんだまだいたのかよ。全然気づかなかった」

 

「すごい集中してたみたいだから静かにしてたのよ。私がいちゃ悪い?」

 

「別に構わないけどよ。なんか用か?」

 

「用と言われれば用ね。あんたは私たちの部屋へは立ち入り禁止だから」

 

「わかってるって。覗きはしねえよ」

 

覗いたらどうなるか想像するのも恐ろしい。俺が原型を留めていられるのか?確実に艦載機に爆撃されて魚雷で撃たれて砲撃されて最終的に刀で真っ二つにされる未来が見えるんだが。

 

「ねえ。あんたはこの後をどう読んでるの?」

 

さっきの立ち入り禁止は建前でこっちが本件か。

 

「……はっきりしたことは言えん。ただ一つ確実なのは穏やかにいってくれそうにはないってことだ」

 

「……そう」

 

「叢雲、常に銃を携帯することを大佐権限で許可する。いざとなったら自分の判断でぶっ放せ。責任はすべて俺が取る」

 

「了解。あの娘たちに撃たせるわけにはいかないもの。それは私がやるべきだから」

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

「………いや、なんでもない」

 

言えるわけがない。ここまで覚悟を決めてくれているのに撃たないでくれなんて自分の身勝手な考えを押し付けることは俺にはできなかった。なればこそ、引き金を引かなくて済むように俺がそれを引こう。

 

「それにしてもあんたその銃好きよね」

 

「ん、これか? いいだろ。ファーストモデルだぜ?」

 

「そう」

 

右手に持っているCz75を軽く振るが興味なさげにスルーされる。ここら辺は女子にはわからない世界かねえ。無骨で実用的なデザインとか技術士官としては非常に萌えるんだが。まあ深く突っ込まれても困るからいいんだけどな。

 

「ねえ、さっきあんた瑞鶴の質問わざとはぐらかしたでしょ」

 

「………なんのことだ?」

 

「瑞鶴がさっき本当に聞きたかったのはなんで毒を盛られたことに気付いたかじゃない。なんであんたは見落としても不思議じゃないあんな情報から気づくことができたか、よ」

 

「俺がなぜそんなことを知ってるかってことか?」

 

「ええ、そうね」

 

ちっ。瑞鶴の聞き方が曖昧だったのをいいことにうまいこと話をすり替えたんつもりだったんだが……

 

「………実はな」

 

「実は?」

 

ベットの上で叢雲が身を乗り出す。この後俺はそこで寝るんだからあんまりシーツを乱さないでくれるとうれしいが言っても聞いてくれるかどうか。

 

「実は昔俺はソムリエに憧れてな。その時いろいろ調べたんだよ。結局ならなかったけどな」

 

「………そう。ならそういうことにしといてあげるわ。おやすみ」

 

そう言うと叢雲がベットからぴょんと降りてドアを開けて隣の部屋に戻っていった。

 

ありゃ誤魔化したバレてるな。敢えて聞かないでおいてくれたのか。

だがソムリエについて調べたのは本当のことだし実際にソムリエにはなってないから嘘はついていない。

ま、追及されても話すつもりはないが。

あれは俺の黒歴史みたいなもんだ。思い出したくもないほど忌まわしい記憶。

だがその記憶が俺たちを救った。まったくなんて皮肉だ。

 

ボトルに残った僅かなワインをグラスに注ぎ一気に呷る。これで寝酒としては充分だろ。寝酒なしではあまりよい睡眠が俺はとれない。一種のアル中かもな。

そんなくだらない考えを一蹴してベットに潜り込み、日本にいる若狭に通信を飛ばす。

 

「夜遅くに悪いな」

 

『こっちは朝だよ。急に何の用だい?』

 

「初日に毒を盛られかけた。幸い未然に防げたが次も何もないとは考え辛い」

 

『次は何がくるか調べてくれってこと?それはさすがの僕にも無理だなあ』

 

「わかってる。だから別の用件だ」

 

『………ふうん。一応聞こうか』

 

俺は逡巡した。ただの取り越し苦労かもしれない。俺の考えは馬鹿馬鹿しいことこの上ないし、具体的な根拠はなに1つない。

 

『いつまで僕を待たせる気だい?』

 

「あ、ああ。悪い。少しな」

 

『迷ってるのかい?』

 

その通りだ。俺は迷ってる。自分の直感以外は何も起きないと告げている。

 

『言う言わないは好きにすればいいさ』

 

ああ、そうだな。だが俺は決意を込めた声でゆっくりと若狭に告げた。

 

『帆波、正気かい?』

 

「たぶんな。頼んでいいか?」

 

『僕は防諜対策部対内課だ。そっちは門外漢なんだけど?』

 

「わかって頼んでる」

 

『………やれることはやるよ。あまり期待をされても困るけどね』

 

「そこまで深入りしなくてもいい。あるかないか。それさえはっきりすればいいんだ」

 

『わかった。だけど気長に待っていてほしい。僕も仕事の片手間になるからね。こう見えても結構忙しいんだ』

 

「わかってるさ。すまんがよろしく頼む」

 

ピッと通信を切り再び布団を被る。本当なら今すぐに日本に帰国したいところだ。だがそううまくはいかない。

これは日本政府と欧州連邦政府の結んだ一種の契約だ。期間が終わるまでは俺たちはよっぽどのことがない限り帰れない。そしてそのよっぽどの事態はまずは俺が起こる前に防いだ。ならまだここにいることになるのだろう。

 

そういえば明日は実際に教壇に立つことになる。さてさていったいどんな生徒がいるのやら。基本的にこういう学校ってのは自尊心の塊みたいなのが多いからまともに言うこと聞かないやんちゃなやつが絶対にいる。俺がそうだったから間違いない。

授業中に寝てたり机の下で変なの作って遊んでたりしたなー。

成績も気まぐれで全力でやってトップクラスだったりテキトーにやって下から数えたほうが早いところまで落ちたりとやらかしまくったしな。

 

ま、そこまでとは言わんが面白い奴がいるといいね。唯々諾々と言われたことをこなすだけのつまらん奴ばっかりだったら教鞭をとる気も失せるぞ。

 




えー、はい。大変投稿が遅れて申し訳ございません。今回はボツを5回近く繰り返し、改稿し続けた結果です。
次回はもう少し早く出せるように頑張ります。(出来るとは言っていない)

感想、評価などお待ちしております。それでは。
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