艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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こんにちは、プレリュードです!

今日は7月7日、七夕ですね。
もう七月なのか……

うん、なんかすみません。

本編参りましょう。


ウェーク島新設基地建設計画会議

 

〈日本神奈川県横須賀市横須賀鎮守府執務室-現地時刻7月30日21:56〉

 

ここで話を一度日本に戻そう。

日本海軍は多くの基地を擁している。そしてそれらの基地を統括する役割として横須賀、舞鶴、呉、佐世保の4つの鎮守府と大湊警備府が存在している。

例えば帆波峻が基地司令を務めている館山基地は横須賀鎮守府の支部という扱いになるのだ。

そして支部を多く持つのは横須賀、佐世保、大湊、舞鶴である。

呉は防衛基地というよりは兵装実験団としての役割を強く持っているため、支部はあまり多くないが最新の兵装が多く置いてある。こうして全ての鎮守府と警備府のパワーバランスは均衡を保っているのだ。

 

話が逸れた。

先日ウェーク島が日本海軍の統治下に入ったのは周知の事実だ。既に前線基地も急拵えとはいえ建設され、現在は本格的な防衛基地の建設計画が作られている。

そしてその計画書を作るのは誰か。それはもちろん、軍本部のお偉方だ。だがそこに口出しすることのできる人物がいる。

横須賀鎮守府のトップ、東雲将生中将だ。

ウェーク島を落としたのは横須賀鎮守府支部、館山基地の帆波隊だ。つまり間接的に横須賀鎮守府に属する部隊である。それは東雲将生がウェーク島全ての采配に関して強い発言権を有することを示すのだ。もちろん彼一人の独断で防衛基地建設を進めることはできない。あくまで発言権があるだけだ。だがそれを利用しない手はない。

 

そのため彼は横須賀鎮守府の執務室においてカリカリとペンを走らせ計画書を作っている。

 

「提督、お疲れ様です。お茶、どこに置きましょうか?」

 

「翔鶴か。執務机の上は散らかってて危ないから隣のミニテーブルに置いてくれ」

 

その言葉通り、机の上は大量の資料が所狭しと置かれて机の木の面がほとんど見えない。そういう時のためにちょっとした物を置く用のミニテーブルがあるのだ。折り畳み可能でコンパクト。必要な時のみ開けばいいという利便性の高さが東雲は気に入っている。

 

「はい、わかりました。防衛基地建設計画書の進捗状況はいかがですか?」

 

「芳しいとまでは言えないが形はできてきた。あとはどうやって本部の頭の凝り固まった連中を説き伏せるかだな」

 

「提督。壁に耳あり障子に目あり、ですよ」

 

翔鶴が優しく忠告しながら東雲の左肩から机の上を覗いた。

そこには東雲の達筆な文字でこう書かれていた。

”基地航空隊運用の提案について”

 

「基地航空隊、ですか?」

 

「ああ。今はウェーク前線基地には二航戦の蒼龍と飛龍が配属されているがその2人が報告書を寄越した。それによると深海棲艦の艦載機からの攻撃に苦戦しているらしい。現状ではなんとか対処はできているがそれでもかなりの数とのことだ。それでこの計画だ」

 

それらの艦載機を発艦させている空母はおそらくミッドウェーから流れてきているのだろう。あそこは航空戦力が非常に高かったはずだ。それが継続的に空襲を仕掛け続けてこればせっかく奪還できたウェーク島は再び深海棲艦の物となってしまう。それはなんとしても防ぎたい事態だ。

空母の艦娘が同時にコントロールできる艦載機の数はその艦娘自身の腕だ。だが搭載できる艦載機は艤装との兼ね合いによりどうしても最大数は限られてしまう。ならば他で発進させればいいという東雲の考えを基に考案したのが今回の計画だ。

 

「これは急がなくてはいけませんね……」

 

「その通り。だからこうして何度も見直して修正しているわけだ」

 

二航戦の2人を永続的に配備しておくわけにはいかないし、襲撃があるたびに他の基地や泊地から支援艦隊を寄越してもらい続けるのは無理がある。ならば別の手段を用いて防衛できるようにしておく必要がある。

 

「すみません、お邪魔でしたね」

 

「いや、とんでもないさ。少し煮詰まってたんだ。ちょうどよかった」

 

屈託無く笑いながらお茶に手を伸ばすとそれを啜った。すこしぬるくてとても飲みやすい温度だ。

 

明日にまた本部で会議がある。そこで多少強引な手を使ってでもこの計画を通さねばいけない。

 

ふと糖分を取りたくなり、机の中から小さな飴玉を取り出して口に放り込む。コロコロと口の中で転がすと優しい甘さがじんわりと広がった。

 

計画が通るのが遅れれば遅れるほど基地航空隊の編成や基地の建設が遅れ、その分だけウェーク島が再び深海棲艦の手に落ちるリスクが高くなる。

急がなくてはシュンの頑張りが水泡に帰してしまう。

 

焦燥感と共に東雲の健康的な奥歯が飴玉をガリリと噛み砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈日本埼玉県さいたま市海軍本部会議室-現地時刻7月31日9:00〉

 

最初に会議室に入って感じたのは身を突き刺すような敵対的な視線だった。

俺は弱冠30歳にもならないうちに中将という地位に登りつめた。それは異例のことであることは理解している。だがこの視線はなんだ?

自惚れるつもりはないが俺もなんの努力なくこの地位にいるわけじゃない。嫌々ながら頭を下げたことだってあるし嫌味や陰湿な嫌がらせだって何度もやられた。それらを堪え忍んで掴んだ横須賀鎮守府のトップだ。

若手だと侮られているだけなら何とかなる。自身の実力を見せて納得させればいいからだ。

だがこの視線はそうじゃない。

この本部勤めの将校サマたちは自分が蹴落とされるのが怖いのだ。この連中は何とかしてこいつを排除してやりたいという浅はかな事しか考えていない眼だ。

 

これは計画を通すのは骨だな。いくらいい提案をしたって必ずいちゃもんを付けてくるのが簡単に予想できる。

これは日本の防衛線の問題だ。そんな些細な個人の感情を優先すべきじゃないだろう。それが何でわからないんだ。

 

「落ち着いてください。きっと何とかなります」

 

隣にいる翔鶴が俺だけに聞こえる声でそっと俺の背中を支えるように手を当てて言った。

 

「……ああ、そうだな。ありがとう」

 

円卓に座る将校をぐるりと見渡して最後にどっしりと座る男を見る。

日本海軍元帥、陸山賢人。この男の重いであろう腰さえ動かせれば俺の勝ちだ。

 

「本日はお忙しいところをお集まりいただき誠にありがとうございます。それではウェーク島防衛基地計画についてお話させていただきます。お手元の資料をご覧ください」

 

同時に翔鶴へ合図を送り、投影されたスライドが動いていく。

 

「ウェーク島の二航戦からの報告書です。深海棲艦空母群からの激しい攻撃を度々受けている、と書かれています。これらの深海棲艦はおそらくミッドウェー諸島の深海棲艦の泊地からやってきていると思われます。それらに対抗するための基地航空隊です」

 

一度息を整えるために間を開けるとその隙をついて1人の将校が口を開いた。

 

「具体的にその基地航空隊を防衛基地計画に練り込めばどうなるというのだね?」

 

「まず空母艦娘一人が操れる艦載機の上限が大幅に上がります。本来、空母艦娘は艤装に搭載できる艦載機分くらいの数ならば同時にコントロールすることが可能です。しかし補給などローテーションの関係で全機発艦は出来ない。ですがそれを基地航空隊として別で補給できる施設を作ってしまえば能力を全て余すことなく発揮することが可能となるでしょう。実際にここにいる翔鶴は実験で同時に100を越える艦載機を操って見せました」

 

 

誰かがほう、と感嘆の声を漏らした。

かなり下準備をしてからやったんだけどな。横須賀の湾内で何があってもいいように吹雪を待機させておいたり、潜水艦の艦娘に潜らせておいていざという事態に備えておいてから実験したが翔鶴は事もなさげに容易く艦載機100機を操った。

 

「つまり基地航空隊の設営により、迅速な艦載機への補給と空母の戦闘力の格段な向上が見込めるため、私はこの計画の実行を具申いたします」

 

「東雲中将、この計画はどこの企業にやらせるつもりだ?」

 

てっぺんが禿げ上がった小太りな男が眉根を揉みながら聞いてきた。肩章を見るところによると俺と同じ中将らしい。確か名前は山崎だったか。

 

「それに関してですが、指名競争入札にしようかと思っています。現状では岩崎重工と川中飛行機にさいたま製作所、水主工業などを打診しております」

 

名前を挙げたのは国内の大手軍需企業だ。新たな試みなのでしっかりとした企業に頼まなければいけないと考えた結果、浮かんだ名前がこれらの企業だった。まだいくつか候補はあるが、大方はこんなところになるだろう。

これで話が通ればあとは各企業に入札してもらって検討といった流れだろう。

 

「……だめだ」

 

「山崎中将、なぜですか?」

 

「それがわからんから貴様は若僧なのだよ」

 

「宇田川少将、なにを言われているのか理解に苦しみます」

 

山崎が反対した途端、あれよあれよと言う間に全員が反対し始めた。沈黙を守っているのは陸山元帥と海軍においてたった4人しかいない大将のみだ。

 

「再びウェーク島が落とされては日本海軍の恥です!それだけではなく太平洋上に拠点を持っておくことは今後、深海棲艦へ攻勢をかける際に有利に状況を運べます!反対なさるのならその理由をお答え願います!」

 

「理由だと?貴様の懐を潤すために防衛基地を建設するわけではないのだぞ!」

 

ガタン!と山崎が立ち上がりわめき散らす。

 

「おっしゃる意味がわかりません」

 

何が言いたい?仮にこの計画が通ったとしても俺に金は入らない。もともと俺はただの一般市民からの出身だ。家が工場というわけではもちろんなく、しがないサラリーマンだ。

 

「シラを切るか!貴様はこの計画を岩崎重工にやらせるのだろう!私は知っているぞ!横須賀は岩崎重工との癒着がある!」

 

こいつは何を言っている?そんな事実は一切ない。そもそも中将というだけで給金は相当なものだ。金には俺はまったく困っていない。

 

「それは事実無根です!横須賀にそのような事実は存在しない!」

 

「ならばこれをどう説明する気かね?」

 

山崎が手元に用意してあったのであろう、資料を全員に配り始めた。それを手にして俺はぎょっとした。

そこにはシュンと岩崎満弥が式典場の裏で会っている写真が載っていた。

 

東雲は内心で毒づいた。

シュンの奴にこの話は聞いている。叢雲ちゃんの艤装を岩崎満弥に無料で貰ったと言っていた。話によると試作機のデータテスターを務めた報酬として譲り受けたとのことだが艤装の単価はとんでもなく高い。それを無料で受け取った事実を一種の賄賂か癒着と見なされたということか。

 

参ったな。これはシュン自身も予測していなかった事態だろう。当然俺自身もこんなことになるなんて思ってもいなかった。だがこの件でシュンを責めるのは酷だろう。シュンなりに叢雲ちゃんを助けるための最善の手を尽くした結果なのだから。

 

「館山基地の帆波大佐と岩崎満弥には金銭的な繋がりがある。これでもまだ癒着はないと言えるのか?ないならば本人を呼んで弁解してみたまえ!」

 

雲行きが怪しくなってきた。報酬と賄賂を混ぜこぜに見やがって。急がなければそれだけウェーク島が落とされるリスクが高まるんだぞ!

別に俺は岩崎重工じゃなくてもいい。ただ実現できるほどの技術力を持っているならばどこでもいいんだ。

だが今の状況で下手に何か言っても余計に怪しまれる。だが何も言わなくても事実を認めたと思われるのだろう。

万事休す。なんとしてもこの計画を通させまいとしているのか。自分たちの席を守ることに必死な無能どもめ。なぜ大局を見ることが出来ないんだ!

 

内心で幾度となく舌打ちをし、それと共に背中を嫌な汗がつつー、と伝う。

弁明させようにもシュンは今頃はヨーロッパだ。通信で済ませられるものではない以上、手の打ちようがない。

それにしてもこの情報を知っている人間はそう多くはないはずなのになぜ知られている?

誰かが情報を流した?一体誰がなんのために?

 

いや、今はそっちじゃない。如何にしてこの状況を切り抜けられるかだ。

問題の艤装も問題の人間もヨーロッパに行っちまってる。物的証拠の提示は厳しいだろう。

 

「東雲中将、何か言うことはあるか?」

 

「ぐっ、そのような事実は────」

「すまないが少しお邪魔させてもらうよ」

 

苦し紛れの言い訳をしようとした俺の言葉を遮って会議室の扉が重々しく開き、入ってきた初老の男を見て愕然とした。

その男の名前は岩崎満弥だ。

 

「なっ!い、岩崎会長!何故ここにっ!」

 

その姿を見た将校が一斉に配られた写真を隠した。当然の反応だろう。

 

「名前を呼ばれた気がしてね。確かあなたは山崎中将だったかな?」

 

「は、はあ。そうですが……」

 

「そうか。ところで私の名前が出ていたようだが何かあったのかな?」

 

「そっ、それは…………」

 

山崎は言えるわけがない。目の前にいる男は艦娘という国防の全てを担う存在を作っている企業のトップなのだ。一言なにか発するだけで艦娘を好きにできる存在でもある。

そんな人間の前で「あなたがそこの東雲中将とその部下の帆波大佐との癒着の疑いがあってその件で言い争いしてました」なんて言えばどうなるか。もしも艦娘の供給をストップされようものなら本格的に日本はおしまいだ。

 

「お久しぶりですね、岩崎会長」

 

「これはこれは。どうも、陸山元帥」

 

陸山が立ち上がり岩崎を迎え入れる。それだけの対応をするに値する人物なのだ。

 

「東雲中将、だったかな。なかなか面白いプレゼンだね。すまないが最初からやってもらえるだろうか。少し興味が出てきた」

 

「東雲中将、そうしたまえ」

 

「はっ!翔鶴、資料を岩崎会長にお渡ししてくれ」

 

「はい。わかりました」

 

元帥自らの命令だ。やり直さないという選択肢は存在しない。

翔鶴が予備の資料を渡すと岩崎は穏やかに笑いながら礼を述べる。

 

「それではやり直させていただきます。まず今計画の骨子たる基地航空隊の設営に関してですが…………」

 

風向きが変わった。一時はどうなるかと思ったがなんとかなるかもしれない。

もう一度スライドを動かして説明を始める。

 

俺は横須賀のトップだから滅多に海には出ない。この前のウェークだって俺自ら出撃したのはいつぶりだろうというくらいだ。さればこの場もまた俺の戦場なのだろう。

なら再び気を引き締めてこの戦場に臨むとしよう。油断したら却下(やられる)のが戦場なのだから。

 

それにしても俺もうっかりしてたな。どうも考え方が保守的になってた。

こんなんじゃ”荒鷲”らしくない。

攻めて攻め抜くのが俺のスタイルだ。ならばその二つ名通り、攻勢に出させてもらうとしようか。

 

いやはや俺には防戦は似合わないらしい。そういうのは若狭の管轄だったな。大学時代には攻撃の俺、防戦の若狭に遊撃のシュンと3人で組んでチーム演習をやったもんだ。演習の時だけは体術訓練や座学でも本気を出さないシュンが珍しく真面目にやるんだよな。

今回は俺一人しかいないがこの戦場、なんとしても勝利を掠め取ってやる。

 

東雲は強い意志を秘めて彼の戦いを始める。物理的ではなく、だがもしかしたらそれよりも厳しいかもしれない戦いのゴングは鳴ったばかりだ。





唐突に話が日本に戻りましたが問題……ないですよね?(電感)
艦これ要素が死んでるとかそういうツッコミをしてはいけない。
欧州編とか言いながら日本に戻しやがって何考えてんだこの作者!と思われた方はしばしの辛抱を。

感想、評価など、お待ちしております。それでは。
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