艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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こんにちは、プレリュードです。

更新が大変遅くなりすみません。

どうでもいいけどイベントの情報まだですかね?まだ新艦娘の情報とか一切合切出てきてないんですけど。

まあうちはどうせ前段作戦は甲乙織り交ぜで後段作戦は丙選択なんですけども。艦娘の数も層の厚さもないんで。

それでは参りましょう。


荒鷲の葛藤

〈日本埼玉県さいたま市海軍本部防諜対策部ビル4F-現地時刻8月5日13:11〉

 

長月がゼリー飲料のパックを口に運ぶ。耳にはヘッドホンをつけて盗聴器が送る音を聴き続けていた。こういうときにはゼリー飲料は楽でいい。なんていったって片手で食べられる。こういう離れられない見張りをするときには最適だ。味気ないのが唯一の欠点だろうか。

一昨日は私が。昨日は若狭が。一日ごとに交代のローテーションで既に一週間も横須賀鎮守府を盗聴しているが目立った動きはない。盗聴されていることに気づいた上で利用するつもりで敢えて放置している可能性もあるかもしれない。しかし──

 

『将生さん、そろそろお昼にしませんか?』

 

『んん、おっともうそんな時間か。翔鶴、なんか作ってくれー』

 

『わかりました。冷やし中華でよろしいですか?』

 

『おう。いいねー、翔鶴の手作り』

 

『うふふ。楽しみに待っててくださいね?』

 

こんな甘々なシーンを見せつけ、いや聞かせつけている時点で盗聴器は気づいていないだろうと長月は断言できた。根拠はないがはっきりと。くそ、このゼリー飲料甘すぎないか。パサパサでモサモサな携帯食糧の方が遥かにマシだ。この前に若狭から貰った最中を食べるのはかなり後になりそうだが賞味期限は大丈夫だろうな?

 

苛立ちを隠しきれずに長月の手がゼリー飲料のパックを握り潰す。なんの動きもなくこんな会話を聞かせ続けられる身にもなってほしい。よく若狭は耐えられるものだ。エナジーバーの袋を破きモソっとしたバーをかじる。これは甘いタイプではないやつでよかった。これ以上甘いのは勘弁願いたい。

 

それにしても若狭はどうなってほしいのだろうか?東雲中将がクロだと本当に判明してほしいのだろうか。それともシロだとはっきりしてほしいからこんな風に見張りをつけて監視しているのだろうか。

若狭は帆波大佐のことをわからないものだとよく言っている。いや、違う。言ってはいない。だがそう思っているのは確実だろう。帆波大佐はさすがに気づいてはいないようだが東雲中将との対応を比べると若狭は帆波大佐との会話においてほんの僅かだがレスポンスにラグがある。あれは探りを兼ねているからこそのラグなのだろう。

 

む、話がかなりずれたな。ともかく私も若狭がなにを望んでいるのかわからないのだ。東雲中将をシャーマンかと疑わなくてはいけない理屈はわかる。そうではなく、本当に若狭は東雲中将がシャーマンでいいのか?いや、実際にそうだったとしても若狭は仕方ないで切り捨てられるのだろうな。まるで感情のない人形のように。

 

『あー、やっぱこの季節は冷やし中華だよなー。翔鶴さすがだな』

 

『はい!お口に合ってなによりです』

 

『いやー、うまいうまい』

 

『ふふっ』

 

…………キョウ モ ヨコスカ ハ ヘイワ ダナ。

 

その後交代の時間にやってきた若狭は白目を剥きながら見張りを続ける長月を見たとか見ないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈日本神奈川県横須賀市横須賀鎮守府執務室-現地時刻同日14:02〉

 

翔鶴が昼の食器を片付けに行っている間に懐からタバコとオイルライターを取り出す。キン、と甲高い音を立ててライターに火を灯すと口に咥えたタバコに火をつけて一服。ニコチンが肺を満たした後に紫煙を勢いよく吐き出す。いくら健康に悪いとは言ってもこれは止められない。もともとは威厳を出そうとして吸い始めたタバコだが今ではすっかりクセになってしまった。これが依存性というものなんだろうか。

 

「ふう。疲れるな、横須賀鎮守府のトップってのは」

 

「でも提督は望んでその椅子に座ったんですよね?」

 

誰もいないと思ってポツリと漏らした弱音をちょうど戻ってきた翔鶴が聞いて東雲に問いかける。

 

「まあな。あの人の遺志をせめて俺が継ぎたいってのもあるが」

 

「あの人、ですか?」

 

新堂(しんどう)辰海(たつみ)元海軍大将。俺の憧れみたいな人だよ」

 

「元ってことは退職なされたんですか?」

 

「正確には殉職だ。特進してるから故新堂辰海元帥になるのかな。すごい人だった。我ら海軍、人民を守るための矛と盾であれってな。今の海軍においてあの人は死んでも思いは死んでない。俺はそんな人間になりたくて上を目指したってのもあるんだ」

 

「もしかして深海棲艦に……」

 

「違う。新堂さんは殺されたんだ。トランペット事件の被害者としてな。最後まで他の人員を逃がすために仮設対策本部に残り続けてたんだ。そして洗脳された市民がそこに踏み込んで体に巻いた爆弾で本部ごと吹っ飛ばした。骨も残らなかったよ」

 

あの事件は多くの死者がでた。その中には基地司令も含まれており、その空いた穴を埋めるためにと俺やシュンは出世して基地司令になった。その後も俺は精力的に出世を続けて今の地位になったわけだ。よくよく冷静になって考えて欲しい。たかが少佐ごときが基地司令なんて職務につけるわけがないのだ。当時、少佐になったばかりのシュンが館山の基地司令なんて大役を担えたのはある意味ではトランペット事件のおかげとも言えるのである。

 

「ならその遺志を提督は継げていますよ。現にあなたは今、横須賀鎮守府の司令長官です。たくさんのものを守る基地を統括する鎮守府のトップなんです。大変なこともわかります。だけど新堂元帥の思いはあなたの中で生きていると私は思いますよ」

 

そうだといいな。ねえ、新堂さん。俺はあなたの遺志を、思いを継げていますか?

返ってくるはずのない問いかけをすると吸っていたタバコを灰皿に押し付けて消火する。翔鶴の目の前であんまり吸い続けるといい顔しないからな。健康に悪いからダメですって何度取り上げられたことか。

 

トランペット事件。まだ人々の記憶に新しいこの事件は深海教と名乗る宗教団体によって起こされた。深海棲艦は世界を清浄する聖獣である。そしてその聖獣を撃つ海軍は悪である。その思考に浸かり一種の洗脳状態となった数多くの人間がおこしたテロ事件。俺が生きたいという欲望のために何人も射ち殺した悪夢の日。

そういう意味では俺の今のこの地位は大量の屍で築き上げられているわけだ。守るためと言っておきながら上り詰めた場所から見下ろせば山と積み上がる犠牲の数々。そりゃ時折愚痴の一つや二つこぼしたくなる。俺だって完璧な人間じゃないんだ。

 

「さて、いい休憩になったし執務に戻るとするか。お仕事お仕事っと」

 

「そうですね。でも大変だったら休んでいてもいいんですよ?」

 

「冗談キツいぜ。やらないわけないだろうがよ」

 

それにやんなきゃ支部が回らないだろ。まだウェークの防衛基地建設についての話は完全に終わったわけじゃないし各地からの報告書にも目を通しとく必要がある。たしかに忙しいがこの仕事も悪くない。

 

椅子は用意しといてやる。だからシュン、早くここまで来いよ。

 

無性に吸いたくなり、二本目のタバコに火をつけようとしてオイルライターを取り出したが、にっこりと笑う翔鶴に取り上げられた。

 

「…………だめか?」

 

「だめです。ついさっきお吸いになったばかりでしょう?」

 

「へいへいわかりましたよっと」

 

咥えたタバコを箱に戻してペンを握り、書類の山との格闘を始めた。これが民を守ることに繋がるならどんなことだってやってやろう。

 

「それにしても瑞鶴、きちんとやってるかしら……」

 

「大丈夫だって。本当に翔鶴は妹思いだな。少なくともシュンがついてる限り問題は起きねえよ。あいつがそんな事態を見過ごすとも思えないし起きても対処できるだろうさ」

 

シュンは優秀だ。滅多なことではマジにならないが、本気になればあれほど有能な男もいない。大抵のことならうまいことできるだろう。海大の頃、隠しちゃいたが明らかに体術は周りより頭一つどころの騒ぎじゃないレベルで抜きん出ていたし、頭も切れる。もし俺だったとしたら敵に回したくはないタイプの人間だ。連絡によると初日に暗殺未遂事件があったらしいがシュンじゃなかったら未遂で終わらなかっただろうな。そういう意味ではベストな人選とも言えるんだろうがだとしてもおかしいのだ。

 

「でもそうなるとおかしいですよね?」

 

「やっぱ翔鶴も思うか」

 

「ええ。普通ならあんなに有能な方を国外へ送るなんて変です」

 

「そうなんだよなあ」

 

常識的に考えてあり得ないだろう。そんな人材を国内に留めておかないわけがない。そもそもシュンは技術士官でもある。一歩間違えれば情報流出の危険があるのにそんな人物を国外へ送る?そこまで情報観念がガバガバな国なんて一瞬で倒れるだろう。

 

「翔鶴はどう考えてる?」

 

「……ここだけのお話にしていただけますか?」

 

おずおずとした様子で翔鶴が声のトーンをいくらか落とす。

 

「当たり前だ」

 

「なら……おそらく何者かが帆波大佐がヨーロッパへ送られるように工作したのでしょう」

 

「さすが翔鶴。俺も同感だ」

 

誰かが意図的にシュンを欧州連邦に送るように仕込んだとすれば繋がってくるものがある。本部の山崎中将だ。あれは明らかに俺の邪魔をしに来ていた。偽の癒着疑惑を浮上させるという形で、だ。ただ、あそこまでの芸当となると事前に仕込んでいなくてはいけない。なぜならあれはシュンが日本にいないことが前提となるからだ。そうなれば山崎中将がシュンを欧州連邦に送り込む根回しをしたのは確実だろう。確か山崎中将の派閥には宇田川少将がいたはず。人事部や外交関係にツテがある少将を利用したのだろう。

 

「だとしたら館山基地の代理基地長を早めに派遣したのは正解でしたね」

 

「ああ、本当にラッキーだったな」

 

もし他の息がかかった人間があそこに着任していたら目も当てられないことになっていただろう。

具体的に言うと資材の着服に無駄な経費の申請。承認判を秘書艦に預けているという穴だらけの管理体制だ。ここら辺は俺の部下からの報告ならば握り潰せるがそれ以外の人間にすっぱ抜かれたら洒落にならないことになる。どう贔屓目に見てもシュンの独裁体制だからな。まあ実態は全部艦娘のためって側面が多いんだが。

資材の着服はモルガナなどの戦闘補助兵装の開発。無駄な経費は艦娘たちの生活レベル向上のため。

あ?  承認判の押し付け?  ありゃただ仕事やるのが面倒なだけだろ。そこはフォローできん。

 

「でもあそこに仮とはいえ着任した人は大変ですね」

 

「あー。まあ大丈夫だろ。順応性高そうなやつぶっこんどいたし艦娘に対する態度が柔らかいやつだから問題ないはずだ」

 

苦労はするかもしれんけどな。シュンによって構築された独特すぎる基地運用システムとかそれに毒された艦娘とかに。やれることはやらない。やらなきゃいけないことは適当にやれ。そんな個人の尺度バリバリで回ってる基地の代理なんて俺だったら絶対にゴメンだ。他人に押し付けた本人が言うべきじゃないかもしれないが。

 

「あ、でもしばらく館山から回ってくる書類はまともなものになるんじゃないですか?」

 

「そうだな。シュンはいっつも俺がいるのわかって適当に流して終わらせた書類回してくるからなー。叢雲ちゃんが担当してる時はちゃんとしたやつがくるから誰がやったか一目瞭然なんだよな」

 

毎回穴だらけの書類をこっちで処理している俺の苦労を少しは知りやがれあの野郎。どのみち言ったところで本人はヨーロッパだがな。

 

「つかの間の平和だな」

 

「以外と大佐もそう思ってるかもしれませんよ?」

 

「あいつはどこにいようがどうせ変わんねえよ」

 

「ふふっ。そうですね」

 

翔鶴が口元に手も当てて上品に笑う。それにつられて俺も少し笑った。

 

シュンめ。面倒ごと押し付けて苦労ばっかさせやがって。せいぜいお土産に期待するとしよう。”粗品”とかだったらまたあの演習漬け地獄にしてやる。

 

ダークな笑みを浮かべながら東雲が再び執務に取り掛かる。さりげなく片手で各所の部隊リストをチェックすることを欠かさずに。

 




欧州編とか言っときながら1ヶ月近く日本の話しかしていない件。

誰得な話が続きますがしばしお付き合い下さい。というかそれを言うならそもそもこのカルメン自体が個人の趣味嗜好をつっこんだ話なので自分得以外の何者でもないわけですけど。

感想、評価などお待ちしております。それでは。
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