本日2回目の投稿です。
それでは行ってみましょう!
カツカツと歩く音が、朝日の射し込む廊下に反響する。向かう場所は執務室だ。
(寝る前まで考えたけどあいつが何を懸念してるのかは、わからなかったわね)
早朝のランニングをして、シャワーを浴び、その後食堂で朝食を食べる。それが叢雲の朝の日課だった。
しかし、今日は少し問題が発生していた。
(食堂にあいつがいなかったのよね)
そう、食堂での点呼に峻がいなかったのだ。別に過去に例がなかった訳ではない。執務を溜め込みすぎて顔を出せなかった時や、ただ単に寝坊して来なかったりという、馬鹿馬鹿しい理由の時が多いが、
(昨日の伊58のことで何かあったのかしら)
ボロボロで漂流してきた伊58のことで何かあったのか、そんな懸念が頭を離れない。
「ひとまずは、あいつに会わないと」
そんな訳で朝食を食べてから執務室に向かっていた。
実は食堂に峻がいなかったのを見て、朝食を食べてないから心配して来たいう裏があるのだが、本人は意識しないようにしている。
執務室の前に着くと意味もなく軽く咳払いをし、ドアをノックした。しかし返答が返ってこない。
(いつもならここにいるはずなんだけど)
そう思いながらノブを回しドアを開けて入室する。
「あっ……そういうことね」
なぜ返答が返ってこないかの理由がわかり、思わずクスッと笑った。
そこには執務室の机のうえに散乱した資料と立ち上げたままのホロウィンドウと、資料に突っ伏して寝ている峻の姿があった。随分とぐっすり寝ているのか側に叢雲が寄っても起きる素振りも見せない。
(夜遅くまで調べ物してて、そのまま寝落ちしたってところかしら)
規則正しい寝息を立てている峻の下に轢かれている資料を見ないように注意して、片付けていく。
(まだ言わない、でもいずれ教えてくれるなら今はまだ私は知らないままでいいわ)
ウィンドウも見ないようにしてすべて閉じて、首のコネクトデバイスを取り外し、机の端に置いておく。
本当ならばすぐ隣の、執務室と直結した仮眠室のベットまで峻を運びたかったが、起きてしまいそうなので、毛布を持ってきてかけておくだけに留めた。
「あとは一言残しておけばいいわね」
メモを一枚ちぎり、手近にあった適当なペンを走らせ、書いたメモを寝ている峻の目の前に置いておく。
《調べ物ご苦労様。内容は覗いてないから安心なさい。朝食は確保しとくから後で食堂であっためてから食べること。
叢雲より》
「さて、あとは朝食を確保してこないとね」
ドアを音を立てないように慎重に閉め、今度は食堂に向かっていった。
そのわずか5分後に、食堂で峻の朝食を確保しようとしているところを、ニヤニヤ笑いを浮かべた鈴谷と瑞鶴に
『提督の嫁さんは流石ですなぁ』
とからかわれ、顔を真っ赤にした叢雲が
『私はただの秘書艦よ‼︎』
と叫びながら2人をぶっ飛ばした後に簀巻きにし、天井からぶら下げ放置したのは完全に余談だろう。
「む…うぅん」
叢雲が出てってしばらくすると、峻は目を覚ました。机に突っ伏したままの体を起こすと毛布がふわりと床に落ちた。
(叢雲が掛けてってくれたのか)
相変わらずできた秘書だ。さりげなくメモを残して朝食を確保していることを教えてくれるあたりが特に。掛けてくれた毛布を叩き執務室のドアから仮眠室に向かい、ベットに戻しておいた。
(資料とかも見ないように片付けてくれたみたいだしな)
机の上に寝落ちする前に見ていた資料が綴じられたファイルを本棚に戻し、机の端に置いてあったコネクトデバイスを首に装着し直し、電源をいれた。
(時間、時間っと…10時ちょい前か)
首を回して骨を鳴らしながら時計を確認する。昨夜はたしか夜中の4時前後を最後に記憶が途切れているのでだいたい6時間ほど寝ていたことになる。
「せっかく叢雲が朝飯を確保しといてくれたんだ。食いに行くとするか」
だが、食堂に行く前に身だしなみを軽く整えにかかった。隣の仮眠室で着替えをし、軍服を羽織り、はねた髪を整える。顔を洗ってすっきりしてから食堂に向かった。
食堂でラップのかけられた自分の朝食のお盆を見つけ、席に座るとさっそく箸をとって食べ始めた。
味噌汁を啜っていると目の前に加賀がすわった。
「おはようございます」
「ん、おはよう」
「昨夜は遅くまで起きていたようですが」
「まぁ、ちょっと調べ物を、な」
「それで寝坊、ですか。大概にしてほしいものね」
「それを言われると弱いんだよなあ」
食べる合間合間に加賀の質問に答えていく。加賀も問う合間を縫ってお茶を飲んでいた。
「提督さーん、提督さーん」
「提督ー、提督ー」
「私たちにはその調べ物の内容を教えてはもらえないのかしら」
「叢雲にも言ったが、物的証拠は何もないことだからな」
「ちょっとー」
「ねぇー、提督ぅー」
「…どうしても教えられない、と」
「あぁ、どうしてもだ。」
峻は朝食を食べ終わったので箸を置き、ふぅと息を吐いた。
「別にお前たちを信用してないわけじゃねぇよ。ただ、俺にも立場と事情があってな。頭の回転速い加賀ならわかってくれるだろ?」
「…その言い方は卑怯よ」
「そう言いながらもちゃんと退いてくれるのはいつも助かってる。ところでさ」
「なにかしら」
きょとん、と首を傾げる加賀に一言どうしても聞きたいことがあった。人差し指を立てて、天井付近を指差す。
「なんで瑞鶴と鈴谷は簀巻きにされて天井からぶらさげられてんの?」
「あれは自業自得よ」
「助けねぇのか?」
「多少は罰があった方がお調子者の五航戦と重巡にはちょうどいいと思ったので」
「……よくわかんねえけど加賀がそこまで言うなら俺もほっとくわ」
「加賀ァーーー!覚えてなさい!」
「提督の薄情者ーーー!」
天井付近から聞こえる怨嗟の声をスルーし、茶碗に注いだお茶をズズッと飲んだ。なにをするわけでもなく、ただぼんやりとお茶を飲むだけの時間が過ぎていった。
「そろそろ行くわ。加賀、そろそろあの2人降ろしてやれ」
「わかりました。これだけ長い間ぶらさげられたら反省するでしょう。今から降ろします」
加賀がロープの結んである柱の根元に向かい、緩めると瑞鶴、鈴谷の順番に降りてきた。
「やっと解放された〜」
「きつかった〜」
「何をやらかしたかは知らんが程々にしとけよ」
ぐったりとした2人に軽く喝(デコピン)を入れてから食堂を後にした。
「さて、工廠にでも顔出そうかね」
ぶらぶらと歩きながら工廠へ向かう途中で首のデバイスが通信が入ったことを知らせた。
「はい、帆波。はい、はい。そうですか!すぐにそちらに行きますっ!」
通信を切り、予定を変更して工廠への道を回れ右した。
(伊58が目を覚ましたっ)
すぐに話を聞くことは彼女の負担になるはずなので控えるつもりだ。だが、様子は見ておきたいところだった。それに一つ、どうしても聞いておかなければならないこともあった。
(既にイムヤは病室に着いてるみたいだから、もしも混乱してても落ち着くのは早いと思うんだが、何があるかわからねえからな)
確かに不安要素はある。銚子との演習はその最大の理由だろう。それでもひとまずは伊58が目覚めたことを喜ぶことにして、峻は医務室へ小走りしていった。