艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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こんにちは、プレリュードです!
台風がすごいですが自分は元気です。ぶっちゃけると暇なのです。

警告
今回もグロテスクな描写を含みます。苦手な方はブラウザバックを推奨です。
何度も警告をしてすみません。

では本編参りましょう。


殺意の奔流

〈イタリア州ナポリ市内大通り-現地時刻8月12日-14:11〉

 

背中越しにアイドリングの振動と車に当たる銃撃による振動とが混ざり合う。

硝煙と、鉄臭い血の匂いが否応なしにここが戦場だと峻に意識させた。

 

周囲を確認。もう何度もした。だが、護衛が全滅したという事実は変わることが無い。

 

『ベータ班、応答するんだ。今どうなっている。応答を』

 

通信機が何度も返事を求めるが、その通信機を使っていた護衛はこめかみに穴が空き、赤い液体がとめどなく流れていた。

 

もう応戦できる護衛はいない。こちらからの銃撃が途絶えた以上は、直に近づかれて蜂の巣にされるのがオチだ。

 

「お前ら、しっかり頭下げとけよ」

 

「てー、とく?」

 

すぐ側で事切れた護衛が手に持っているサブマシンガンを拝借。まだ死んで間もないため、死後硬直が始まっておらず、指を外すのは楽な作業だった。付着した血液を拭い、軽く構える。

 

「SMG……火力は低いが無いよりかマシだな」

 

肩に当てて、頬付けしてから立ち上がる。狙いをつけるというよりも牽制としてばら撒くことを重視して引き金を引いた。狙撃されないようにすぐに車の陰に隠れ、また立ち上がると接近しようとする一団に向けてSMGを撃つ。薬莢が石畳に落ち、あらかた撃ちつくすと、別の護衛の死体からSMGを拾い、再び陰に隠れる。しゃがみこむとアドレナリンにより心臓が激しく脈打つ音が聞こえ、息を整えた。

伏せている叢雲とゴーヤに目をやると、叢雲が9mm拳銃のスライドを引き構えていた。

 

「叢雲、何もするな」

 

「でも!」

 

「それじゃあ押し切られる。それに馴れてないだろ」

 

いくらトランペットの経験者とはいえ、たった一度だ。それだけでは場慣れしているとはとても言えない。

 

「応戦は俺がやる。ゴーヤ、大丈夫か?」

 

「う、うん」

 

「叢雲、ゴーヤのこと見てやってくれ」

 

それに青い顔をしているゴーヤにフォローを入れる必要があった。だが峻は戦闘でそこまでは手を回している余裕がない。唯一この場の空気に中てられておらず、そして冷静に動くことが可能であるのは叢雲だけなのだ。

 

「……わかったわ。あんたこそ、そっちは任せるわよ」

 

「ああ。後続の護衛チームが到着するまでなんとしても持たせるさ」

 

頬付けして銃撃。自分の近くに敵方の弾が当たり始めた瞬間、すぐに体を引っ込めてまた別の所から飛び出し、銃撃を繰り返す。

自分がやらないで誰がやる。2人を守るためには俺がやるしかないんだ。殺させてたまるものか。もうあんな思いはしたくないから。そのためならこの手をまた血に染め上げることすら厭うものか。

 

遠くでテロリストが一人、血を噴き上げてどっと倒れた。まずは一人。だがまだ一人だ。数はまだいる。無機質な銃声を響かせてただひたすらに時間を稼ぐ。何分経っただろう。まだ後続が到着する様子はない。

 

急げ。早くしてくれ。

 

弾切れになったSMGを捨てて車の陰から躍り出た。護衛の死体に向けて走り、素早く武器を回収。そのまま別の車の陰に飛び込み、すぐに他へ移ると叢雲たちのいる車へと駆け込んだ。

 

「あんた大丈夫なの?」

 

「問題ない……ってのは強がりだが今のところはなんとかなってるな」

 

時間の問題だが、と内心で付け加える。護衛チームが着くのが早いか、テロリストどもが殺しに来る方が早いか。

緊張で口の中が渇く。いつぶりかの感覚にじっとりと汗が滲んだ。何かに耐えるように奥歯を強く噛み締める。

 

だがそんな峻のことなどお構い無しに鉛の雨は車体を叩く。そしてピシッという嫌な音が峻の鼓膜を微かに揺らした。直後に鼻腔を刺すようなツンとしたガソリンの匂い。背中越しに感じていたアイドリングが唐突にピタリと止まった。

 

「走れ!!」

 

SMGを投げ捨てて、震えているゴーヤを右手で抱えあげると、駆け出した。叢雲を先行させながら路地裏へ向かって全速力で走り続ける。

あと少しで、というところで左肩に焼きごてが当てられたような鋭い痛みを感じて顔をしかめる。だが、その痛みを無視してそのまま路地裏へ右に抱えたゴーヤと共に飛び込んだ。

峻たちが飛び込んだのとほぼ同時に、さっきまで峻たちが隠れていた車が爆発した。爆風が衝撃となって空気をビリビリと震動させる。

車から火柱が屹立し、空を燻す。あと少しでも遅ければあの車と同じ末路を辿っていたかもしれない。そう思うと背中に冷や汗がどっと流れた。

石造りの壁にもたれて荒い息を吐く。銃声はまだ鳴り止まない。何も終わってなどいないのだった。

ホルスターからCz75を抜き、スライドを引いて弾を装填した後に両手で構え、銃口を下に向ける。左腕を動かす度に肩が疼き、眉をひそめた。

 

「っ!」

 

「あんた、左肩!」

 

「血が……出てるでち」

 

「掠っただけだ。大した事はねえ」

 

軍服の左肩が赤黒い液体で染まる。恐らくは走っている時に、銃弾が命中したのだろう。だが痛みに呻いている余裕はない。それに少し掠っただけなら動かすこともできる。角から体を出してCz75を連射。5発ほど撃ってからまた路地裏にひらりと舞い戻る。再び別の車が爆発したため、迫り来る熱風から身を守る必要があったのだ。黒煙が路地裏の入り口付近まで襲来し、一時的に銃撃を諦めた峻が壁にもたれこんだ。石のひんやりとした感覚が熱っぽい傷に心地がいい。

 

「お前ら無事か?」

 

「私もゴーヤも無傷よ。ていうかあんたが大丈夫なの?」

 

「そうだよ! てーとく、肩撃たれてるんだよ!?」

 

「心配すんな。大したことはねえよ。こんぐらいなら死にゃしねえ」

 

「そんなら全員地獄へ叩き込んでやるぜ!」

 

もうもうと立ち込める黒煙の中からヘルメットを被り、アサルトライフルを持った男が2人、突如姿を現した。刺すような殺気に肌が粟立ち、寒気が背中を通り抜けた。男2人が構えるアサルトライフルの銃口がこちらに向けられて人差し指がトリガーを……

 

瞬間、峻の中で何かが弾け飛んだ。

 

「させて……たまるかあああああ!!」

 

肩の痛みを無視して、峻の左手が男の人差し指の動きよりも早く跳ね上がり、Cz75がマズルフラッシュと共にパラベラム弾を2発吐き出した。撃ち出された弾は峻の狙い通りに真っ直ぐ男たちの構えるアサルトライフルの機関部へと吸い込まれていく。そしてようやく男たちの人差し指がトリガーを引ききった。

だがその銃口から弾は出なかった。脆い機関部を正確に撃ち抜かれ、内部が歪んだため、詰ま(ジャム)ったのだ。

 

「くそっ、弾が出ねぇ!」

 

トリガーを無意味に引き続けるが詰まっている以上、弾が出るわけが無い。その間に峻が右手を腰に装着されている革製の鞘に伸ばして、コンバットナイフを引き抜いた。

 

「ゴーヤ!」

 

叢雲がこれから起きることを予感して、ゴーヤの頭を抱き寄せ、直接見せないようにする。それで正解だった。叢雲はまだ、見慣れている。けれどゴーヤは慣れてなんかいないのだから。

 

右手に逆手でナイフを握り、男の懐へ峻が飛び込んだ。慌てたように振り下ろされたライフルのストックを蛇のようにぬるりとした動きで躱すと、右手を一閃。男の喉笛をナイフが掻き切った。

鮮血が迸り、峻の服や顔を紅く染める。路地裏に血の匂いが回り、口の中は鉄臭い味に占領される。だが止まらない。隣に立つもうひとりの男に向かって峻が突進していく。

 

Fuck(くそったれ)!」

 

野太い声で罵りながら男がナイフを抜き、勢いよく突き出した。白刃が峻の胸の中央に向かうが、それを防ぐように峻のナイフが弾いた。金属どうしがぶつかり合って火花が散り、甲高い音が路地裏に反響する。その衝撃でお互いの右手が弾かれて体の後ろに下がる。

けれど峻は止まる事なく、左手が素早く持ち上がり銃のトリガーを引いた。飛び出した凶弾は直進して男の右目を貫き、後頭部から突き抜けて血飛沫を散らす。操り人形の糸が切れたように力ががくんと抜けて、男が後ろにどっと倒れ込んだ。主人を失ったナイフがあらぬ方向へと虚しく消えていく。あとに残ったものは2人の成人男性の死体と機関部を撃ち抜かれて使い物にならなくなったAK-47が2つのみ。

 

「ちっ。カラシニコフかよ」

 

峻は苛立たしげに口内の液体を唾液と共に吐き出し、ナイフを真横に勢いよく振って付着した血液や脂肪を吹き飛ばした。軽く拭いてから腰の鞘にナイフを収めて、ようやくはっと我に返る。

やりすぎだ。武装を破壊した時点で殺しまでする必要はなかった。せめてやるにしても、締めあげた上で意識を落とすだけで充分だった。

 

「あんた」

 

「…………」

 

「顔。拭いときなさい」

 

「あ、ああ……」

 

袖で顔に飛んだ血をぐいと(ぬぐ)う。だが心の中に渦巻くものを拭うことは出来なかった。

幸いなことに、察した叢雲がゴーヤの頭を抱えて直視させないようにしてくれたようだ。

 

「まだ終わってないわよ」

 

「わかってるよ」

 

SMGを失ったのは痛いが、まだ手元には愛銃たるCz75が残っている。なんとか進撃を食い止めて多少の時間を稼ぐことくらいなら、厳しいができなくもないはず。

 

「うん、やっぱり私も出るわ」

 

9mm拳銃を構えた叢雲が峻の後ろに屈むように立ち、角から顔を出さないようにして慎重に敵の動向を伺う。

 

「なりふり構ってる場合じゃないでしょ」

 

「……まあ、な」

 

「何も出来なくてごめんでち…………」

 

「気にすんな。むしろ出来ないことが普通だ。それよりそのパソコン、ちょっと寄越してくれ」

 

「……? はい」

 

「さんきゅ。それじゃ、そいっ!」

 

Cz75の引き金を連続して引き、地面に置いたパソコンが破壊されていく。

 

「えぇっ!? よかったの!?」

 

「ただの荷物になった以上はいらん。大丈夫だ、代えぐらいはどうとでもなる」

 

穴だらけのパソコンを下水道に蹴りこむ。惜しい気持ちが無くもないが生存率を下げるよりはましだ。パソコン1台と3人の命。天秤にかけるまでもない。

 

「さて、やるか」

 

角から半身を出してトリガーを引く。その動きに合わせるようにして叢雲もひたすらに撃ち続けた。適当なタイミングで路地裏に体を入れ込み、霰のごとく撃ち込まれる銃弾を避ける。石造りの建物に鉛弾がめり込み、あるいは抉り飛ばしていき、破片が空を舞い落ちる。飛ばされた破片が峻の頬の皮を浅く切り裂き、血が一筋流れ落ちた。

 

もう限界だ。今のまま状況を維持し続けた上で時間を稼ぐのは苦しすぎる。

 

「こりゃ逃げの一択か……」

 

「ずいぶんと弱気じゃない」

 

「弱気にもなるさ。せめてここが海外(そと)じゃなけりゃなぁ……」

 

暢気に愚痴っているように見えるかもしれない。だが峻は内心では舌打ちの連続だった。国内ならば多少の融通は効いた。だが国外となればそうもいかない。

 

「くそっ、弾切れかよ」

 

弾を撃ち尽くしたのだろう、Cz75がホールドオープンになっていた。ポーチから新しいマガジンを引き抜くと、叩き込んでからスライドを引いて弾を装填して構え直す。そして使い終わったマガジンをポーチに戻そうとした時に気づいた。

もう予備のマガジンが残っていない。これでは打つ手なしだ。

 

万事休す。逃走したいところだが、車がなければすぐに追いつかれてしまう。走って逃げるなどは言語道断だ。こちらはイタリアの地理に疎く、向こうは地元というだけあって恐らくは詳しいのだろう。そんな大きすぎるハンデを抱えた状態で撒くことは難しいというより、もはや不可能だ。

ぎりりと奥歯を噛み締める。もうどうしようもないのか。やるしかないのだろうか。

 

目の光がすっと落ちて頭の中で何かがまた弾け飛んで切り替わる。だらりと全身の力が抜けて、いわゆる自然体になると、右手がゆっくりと腰に伸びていく。

だが、その右手がナイフの柄に触れる前にことは起きた。

 

けたましいスキール音を撒き散らしながら黒塗りの車が数台、大通りに乗り込んだ。助手席の窓が開き、銃口が覗くとそれら全てが一斉に火を噴いた。しばらくの間、黒塗り陣営とテロリストとが互いに銃声をかき鳴らし続けた。

 

「ホナミさんですね? 遅れて申し訳ございません。ここからあとは我々、護衛チームにお任せ下さい」

 

「……はい。よろしくお願いします」

 

峻の目に光が戻り、ふっと短く息を吐いた。裏路地の外に車が止まり、入れと促すように後部座席のドアが開いた。

 

「お怪我を……すみません。我々の力不足で……」

 

「大丈夫ですよ。大した怪我じゃないですから」

 

「後で手当をさせていただきます。どうぞお早く」

 

「わかりました。叢雲、ゴーヤ。行くぞ」

 

新しい車に3人で峻を挟むようにして乗りこんだ。ドアが閉じられてすぐに車が滑らかに発進してからようやく安堵した。両隣から確かな命の温かさを感じて張りつめていたものが少しだけ緩む。

 

「っ…………」

 

「てーとく大丈夫なの?」

 

「左肩が今更になって痛んできてな。だがまあ安心してくれ。あんだけ動けたんだから本当に大したことはねえよ」

 

あの時はアドレナリンで無理やり乗り切っていたことは否めないが、実際は弾が肩を貫通しているため、見た目は酷いが骨に大きなダメージはない。数日程度ちゃんと安静にしていればすぐに治るレベルだ。きちんとした手当をするまでの繋ぎとして、傷口に服の上からハンカチを当てるだけの簡単な応急処置を施す。

 

「2人とも怪我はないか?」

 

「こっちは大丈夫よ」

 

「ゴーヤも大丈夫」

 

「ならよかった」

 

無事らしい2人を見てから目線を少しだけ落とした。時間が経って今なお、左肩の撃たれた痛みより、右手の喉笛を掻き切った時の生々しい感触が強く残り続けていた。本当にいつぶりかの感触だ。もう経験することなんてないものだとばかり思っていた。そう願っていた。

 

「逃げられないもんだな……」

 

誰にも聞こえないように後部座席で峻が小さく呟いた。

 

「あんた、肩見せなさい。ハンカチ変えた方がいいわよ」

 

「っ! 触るな!」

 

上着を脱がせようとした叢雲の手を反射的に峻は払い除けた。呆気に取られた様子の叢雲を見て峻ははっとした。

 

「わ、悪い。ちょっと気が立ってた」

 

「……本当に大丈夫なの?」

 

「あ、ああ。大した事はねえよ。悪かったな。叩いちまって」

 

「別に……あんたの怪我が大丈夫ならいいんだけど」

 

叢雲が窓の外に視線を外し、気まずい沈黙が流れる。咄嗟の事とはいえ、差し伸べられた手を払い除けたのは良くなかった。

左の二の腕を軽く右手で握る。ハンカチからしみ出した血液が服に垂れて生暖かい。

 

「そういえば常盤たちは今、どこにいますか?」

 

「一足先にプローチダ島にご到着されています。安心してください。あちらは襲撃なども特になく、全員が無事です」

 

「そうですか……よかった」

 

瑞鶴たちは切り抜けられたらしい。今頃は首を長くして待っているだろう。先に行った瑞鶴たちが襲われなかったのは単純に運がよかったのか。こちらとは別のルートで護送されているため、純粋にハズレを引かされたのが自分たちだったというわけだ。

 

「ま、向こうもこっちも無事ならいいさ」

 

小さく言いながら手に持ったままだったCz75をしっかりとセーフティがかかったことを確認してからホルスターに収めた。この銃に命を救われたのはもう何度目だろうか。長らく使い続けているせいか手に馴染み、クセなども全て把握しているのもあるだろう。そっとホルスター越しに冷たく黒い金属を撫でてから上着を戻すとショルダーホルスターが覆い隠されて見えなくなった。

 

視界に入る自分の上着は返り血でかなり赤黒く染まっていた。あれだけの至近距離で敵の喉元を抉れば当然だ。

それにしても、だ。

 

やってしまった。あの時にも思ったことだがやりすぎもいいところだ。結局のところ俺は何も変われてない。本質は怯えて力を無為に振るうだけの獣だ。恐怖に震えて殺し続けた臆病者。自らが手を下した者たちの上げる怨嗟の声から耳を閉じて目を背けた軟弱者。

 

そんな俺のことが。

 

 

 

 

 

──────俺はたまらなく嫌いだ。

 

 

 

 

 

俯いた峻の表情に影が差し、明るい茶色の瞳がゆっくりと閉じられた。こうしてまた目を背けていく。出来ないと分かっているはずなのに。




…………はい。やらかした自覚はあります。
知ってるか? この章、深海棲艦が1回しか出てきてないんだぜ? しかもヨーロッパでは影も形もない。
ほんとにこれは艦これなのか?と思ったそこのあなた。大丈夫です。書きながら自分も思ってます。

感想、評価などお待ちしてます。それでは。
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