こんにちは、プレリュードです!
イベント進捗、ダメです! E-1は甲作戦でクリアしたけどこっから後に不安しかありませぬ。でもサラトガ欲しいし、カタパルトも欲しい……
まあ、よければイベントで入渠時間の暇つぶしとして読んでやってくだせえ。
ただし、今回(というかほぼ毎回)は少々血なまぐさい表現を含みます。苦手な方はブラウザバックを推奨です。
本編参りましょう。
横須賀にはヘリポートがある。
何のことかわからないかもしれないが、へリポートがあるのだ。何のためにと言われると、緊急時にとしか言えないが、ともかく存在する。滅多に使うことはないが。
そこに今日は珍しく、本当に珍しくヘリコプターが来ていた。
「翔鶴、頼んだぞ」
「はい、任せてください」
東雲は横須賀に残り、指揮を執る。そして翔鶴は東雲隊を率いて峻のいる海にまで飛び、レ級と戦う。
だが峻が東雲に飛ばした位置情報によればかなりラバウル寄りの位置にいる。今から船で飛ばしてもおおよそ3日はかかる。それではもう手遅れだ。
だから1度、飛行場まで艦娘をヘリで送り、その後に高速輸送機に乗り換えて一気にその間を詰めるのだ。
「では、行ってきます」
「おう。ちゃんと帰ってこいよ」
東雲が翔鶴の背中を優しく押すと、じんわりとした温もりが広がった。鉢巻をきつく結び直して翔鶴はヘリコプターに乗り込んだ。ヘリのローターが回転数を増していき、ゆっくりと陸から離れていく。東雲がある程度までヘリが浮き上がったことを見届けると、踵を返して建物内に戻っていくのを翔鶴は窓から見ていた。
「翔鶴さん、あの……」
おずおずと吹雪が翔鶴に声をかける。
「吹雪ちゃん、どうしたの?」
「えっと、詳しい説明もなしにここまで来たので状況を教えてほしいんです」
「そうね。なら簡単に説明しましょうか」
窓の外に向けていた視線をヘリの中に戻して部隊をぐるりと見渡す。
「今作戦の目的は打撃支援です。帆波大佐が率いる輸送船団を襲撃中の敵艦隊を叩きます」
「……敵の編成と数はどれくらいなんですか?」
「2隻よ。ただ……」
「ただ、どうなんですか?」
言いよどむ翔鶴を吹雪が促す。
「相手は2体ともレ級です」
はっと息を飲む気配がいくつも連鎖した。艦娘であれば誰しも噂くらいは聞いたことがある強敵だ。
「ちなみに帆波大佐の元には誰がいるんですか?」
「叢雲ちゃん、天津風ちゃん、北上さんにゴーヤちゃんと聞いているわ」
「たった4人ですか……」
吹雪が難しそうな顔で黙り込む。確かにあの部隊はかなりの練度を誇る。だがレ級の全力は未知数なのだ。どれだけ時間を稼ぎきれるかどうかは判断しにくい。
「だから急ぎましょう。ヘリがもう飛行場に着くわ」
ヘリの高度が下がっていた。ローターが回ったままで扉を開き、小さく飛び降りた。すぐ目の前にはスラリとした細身の航空機がエンジンを入れた状態で腹を開けて待っている。
いわゆる超音速輸送機というものだ。高高度をマッハ2で飛行する鉄の鳥。
「将生さん……いえ、薄々そんな気がしてましたけど」
通常の航空機ではたった2時間という短い時間で東南アジア寄りの海域にまで飛ぶことは不可能だ。だから2時間という数字を聞いた時点で翔鶴はこの超音速輸送機に乗ることになるのではないかと予想していた。
だが予想していても憂鬱なものは憂鬱なのだ。
マッハ2などという速度で飛べば体にかかる慣性力はとても無視できるようなものではないし、話すのも難しいはずだ。もちろんGスーツなどを着ることになるのだろうが、それにしても圧迫感がある。いろいろ苦しくて敵わないのだ。
「翔鶴さん……これ司令官は明らかに…………」
「そうでしょうね……」
吹雪は言葉の続きを言わずとも翔鶴には伝わった。「明らかにパラシュート降下させる気ですよね」に違いないと。
考えればすぐにわかる話だ。ヘリと違って飛行機はホバリングなどできない。
ならば飛行機はそのまま突っ切らせて艦娘をパラシュートで降下させようというわけだ。
どうやら快適なフライトにはならないらしい。
そう思いながら翔鶴は超音速輸送機に乗った。全員が乗り込むと輸送機がタキシングを始める。
東雲隊が到着するまであと1時間と40分……
「目標レ級! 撃て!」
「アイアイ! てぇ!」
「砲撃来ます!」
「回避! おーもーーかじ!」
「了解! おーもかーーじ!」
艦橋に怒声が響く。大きく船が揺れて水柱が立ち上がる。既にいくつかの区画が浸水してしまっている。速力もまだ問題になるレベルではないとは言え、低下していることは否めない。
「損害報告!」
『叢雲、被害はほとんどなしよ』
『北上、んー、中破ってとこかな』
『天津風、中破寄りの小破よ。自律駆動砲はもう半分しか残ってないわ』
『ゴーヤは潜ってるから大丈夫だよ』
「わかった。引き続き回避に専念しつつレ級の注意を引いていてくれ。すまん」
モルガナの残機はあと3機。もう9機も削られてしまった。できる限り叢雲たちの被害を抑えられるように前に出し続けたため、消耗が激しいのだ。
だがそれだけしても完全に抑えられてはいない。たった2体にも関わらず、航空戦も砲撃戦も雷撃戦もこなせるレ級の手数は脅威と呼ぶ以外に相応しい言葉を想起させることはないものだった。
「魚雷接近! エコー、フォックストロットより6ですっ!」
「回避! 両舷全速おーもかーーじ!」
「両舷全速おーもかーーじ!」
戦闘が始まってからなぜかレ級は徹底してさらしなを狙い続けている。そのため輸送船団はほぼ無傷なのだが、その代償としてさらしなはもうボロボロだった。
「右舷に被雷! 火災発生しました!」
「防火隔壁を落とすんだ!」
「はい!」
船体が不気味に軋み、重い音を立てた。こうやって誤魔化せるのもあとどれくらいだろう。
「投錨! 速度全開!」
レ級の艦爆隊が接近し、爆弾を投下しようとしていた。。それをわかった上で沖山は錨を沈めさせておき、機関を全力で回させる。直進したさらしなは当然、錨に引っ張られて急激に船首の向きを直角に変えた。急に目標を失った爆弾は海中へと虚しく姿を消していく。
「軍艦ドリフト……秋津洲流戦闘航海術か。無茶するな、沖山」
「こうでもしなくては捌ききれませんよ」
直前になって沖山が何をしようとしたのかを察した峻は咄嗟に司令席の肘置きを強く掴むことで体をどこかにぶつけずに済んでいた。艦橋の何人かは頭を軽くぶつけたようで、「痛っ」という声も聞こえたが。
峻はちらりと時計を見た。遅々として針は進まない。何度も見たがあまり変化していないように思える。
「あと1時間……持たせられるのか……?」
誰にも聞こえないように小さく呟く。半分でここまでの被害。艦娘は傷つき、さらしなは複数区画に浸水し、武装もいくつかを喪失。その上、機関の出力も落ちてきているのだ。つまりは満身創痍もいいところだった。
再びさらしなにレ級が飛ばした艦載機が迫る。機銃を掃射するが、今までの攻撃によって欠けた数では防空の網に穴が出来てしまう。
結果的に肉薄され、数多の魚雷が放たれた。ついさっきに滅茶苦茶なやり方で舵を切ったばかりだ。すぐには方向転換することなどできない。
「直撃しますっ!」
「総員、対ショック姿勢を!」
今までとは段違いの衝撃がさらしなを襲う。船体が激しく揺さぶられ、少しだけ傾いてから止まった。
「三間坂中尉、被害報告を」
「…………」
「三間坂?」
「……機関、停止しました。反応を返しません」
機関が停止した。それが示す事実はひとつ。
「再稼働は?」
「……だめです。エラーしか返しません」
そう、船の動力源が死んだ。加速が止まり、波の抵抗により緩やかに減速していく。
「長浜船団長、こちらさらしな艦長の沖山です。応答してください」
『こちら長浜。見とりました。こちらは問題ありません』
「ありがとうございます」
短いやりとりの後に沖山が大きく息を吸う。決断の時だ。
「総員退艦」
しん、と艦橋が静まり返る。全員が唇を噛み締めながら俯いていた。
沖山が発した言葉。短すぎるたった一言。それはさらしなの放棄を意味していた。
乗員からすればこれほど悔しいことはない。船だとしても共に戦った仲間なのだ。それを見捨てて行かなければいけない。
「繰り返す。総員退艦」
背中を押すように言われ、各々が席を立つ。そして制帽をさっきまで座っていた、そしてもう座ることのない席に置くと艦橋から出ていく。
最後に沖山と峻を除き、艦橋は誰もいなくなった。
「帆波さん、あなたも早く」
「わかってる。だがまだやんなきゃなんねえことがある。だから先にいけ」
「……死ぬ気ではないんですね?」
「当たり前だ。どうしても取っとかなきゃならんデータがある。消しとく必要のあるデータもな」
「…………わかりました。脱出用の小型艇を1隻のこしておきます。それを使ってください」
「了解だ。沖山、また後で会おう」
「はい」
沖山が艦橋から出ていった。これで残っているのは峻だけだ。司令席に深く座り直すとまずは消すべきデータを消していく。
最近は深海棲艦も進化してきている。ならばこのデータがいつか向こうの手に渡ったことを後悔する日が来るかもしれない。だから後悔する前に消しておく。
ズン、とまた船が揺れた。だがそれすら意に介さず、ひたすらにデータを消し続ける。何か起きてからでは遅いのだ。
そしてひとつのデータだけコピーを取り、外部記憶媒体に焼きつけていく。
「沖山たちは……無事にけやき丸に拾ってもらえたか」
小さく開いたホロウィンドウで脱出艇がけやき丸に収容されていくところを確認してからウィンドウを閉じた。まだ処理は続いている。すぐに離れることは叶わないようだ。
叢雲は刀を抜いていなかった。いや、抜けずにいた。回避に専念せよ、という命令に従うなら接近することは自殺行為になる。
「私の得意分野は近接なんだけど……」
ステップで飛来した砲弾を避けながらぼやく。実際、愚痴を言ってはいるが余裕があるかと問われればない。
だが、いやだからこそ叢雲は余裕があるように見せる。戦闘において心の余裕がなくなった者の末路は決まっているからだ。
「にしても強いわね……」
そう言った叢雲は小さく笑っていた。強敵と相対した時の興奮。命のやり取りをするこの緊張感。だがそれすらも心地いい。もしこの戦闘で勝てたらそれは自らの強さの証明になる。
それがたまらなく嬉しいと感じる。
ここで与えられたミッションを達成して証明する。それが今の望みだ。
「ん……?」
止まっていたさらしなが小型艇を吐き出した。その上には人影がたくさん乗っている。それだけで状況を察するには十二分だ。
「さらしなが沈む……」
ぽつりと天津風が言った。ここまで自分たちを乗せてくれた船の終わりだ。無感動ではいられなかった。
だが立ち止まることは許されない。降り注ぐ爆弾を隙間を縫うようにして躱し、天津風の操る自立駆動砲が艦載機に向かって砲撃を繰り返す。
「あと3機しか残ってないわ……」
「堪えて。あと1時間を切ったわ!」
痛々しい傷から流れる赤い血を拭い、レ級を叢雲は睨みつけた。にたりと笑うとレ級の主砲が火を噴く。
「っ!」
迫っていた魚雷の処理に手間取っていた北上に向かって砲弾が飛来。咄嗟に北上は持っていた単装砲を盾にして直撃を防ぐ。だが爆風までは防げずに鞠のように海面を北上の体が弾んでいった。
「ぐぅ……ったたた…………」
「下がって! それ以上くらったら不味いわ!」
「……ごめん、そうさせてもらうよ」
また戦力が欠けた。ゴーヤも隙を見て魚雷を放ってはいるが、狙いが甘い。まだ完璧にトラウマを克服できていないからだろう。
そして叢雲自身はレ級の弾幕のせいで得意のレンジに持ち込めず、天津風は自立駆動砲の半数を失った。本格的に状況は悪化している。
さらしなの甲板にレ級の砲撃が直撃した。何ヶ所か誘爆し、遂には艦橋も小さく爆発する。強化ガラス製の窓が破片となって吹き飛んだ。
「……」
思うところはある。けれど幸いだったのは全員が脱出した後で艦橋にはもう誰もいない……
『──てください! あそこにはまだ!』
『落ち着け、三間坂!』
『離してください! あそこには……団長が! 帆波大佐が!』
そして流れてきた通信を聞いて叢雲の思考のネジは吹き飛んだ。
艦橋にあいつが残っていた? たった今、吹き飛んだ艦橋に?
砲撃をしたレ級の片割れに目をやるとレ級は口角を吊り上げてニタッと嗤う。
「冗談……でしょ?」
艤装と峻のリンクを
また何も出来なかった。また見ているだけだった。
「よくも……よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもーーーーッ!」
叢雲は愛刀の断雨を抜くとゆっくりとレ級を見る。そして殺意にまみれた刀を大きく振りかぶった。
『あそこには団長が……帆波大佐が!』
ガツン、と頭を殴られたような衝撃。海中にいるゴーヤは殴られることなどあるわけはないのだがそれでもそう錯覚した。
『よくも……よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもーーーーッ!』
だが叢雲の叫び声がゴーヤを現実に引き戻した。出発前に言われたイムヤの言葉が脳裏に蘇る。
「ゴーヤが……ゴーヤがやらなきゃ……ううん、ゴーヤがやるんだ!」
ゴーヤは方向転換してさらしなへ向かう。脱出用の小型艇を吐き出してから開きっぱなしのハッチからさらしなの船内へと潜り込んだ。
「焦げ臭い……それにいたるところに亀裂がはいってるでち……」
だが足を止めるわけにはいかない。艦橋への道のりをただひたすらに駆け抜ける。崩れそうな道を避け、瓦礫で塞がれた廊下を飛び越えて進み続けた。
「生きてるよね……てーとくなら。ゴーヤを、みんなを助けてくれたてーとくなら!」
それは確信というより願望に近いものだった。ゴーヤはただ思い、そして願う。生きている。死んでいるはずがない、と。
その強い願いに駆られてゴーヤは走るのだ。どこかでまた誘爆したのかドォォン! と船体が不気味な震動に襲われた。足が縺れて躓くが、すぐにゴーヤはバランスを取り戻してまっすぐに走る。
そして艦橋の前まで来て、自動だったスライド式のドアが開かないことに気づいた。電力の供給が途切れているのかと思い、力任せに開けようとしたが頑として開く様子は無い。
「爆発したせいで歪んで開かなくなってるの……? ならこうでち!」
艤装に付けられている機銃をドアの接続部に向けて連射。接続部はあっけなく壊れ、ドアはばったりと艦橋側に倒れこんだ。
「てーとくっ!」
艦橋に飛び込むと中は酷いものだった。小規模の誘爆とはいえ、窓ガラスはすべて吹き飛び、電子制御卓だったものから火花がバチバチと散っていた。幸いなことに天井は崩落していないが、艦橋内部に据えられていた椅子などは無残に壊れ、小さな火の手がチラチラと空気を舐める。
「てーとく! てーとく! 返事をしてよ!」
ゴーヤは艦橋をぐるりと見回し、そして見つけた。壁際にうつ伏せになって倒れている人影を。
「てーとく!」
急いで駆け寄り大声で呼びかける。白かった軍服は峻の血で赤く染まっていた。
「しっかりして! 返事をしてよ!」
「ぐ……その声は……ゴーヤ、か…………?」
「てーとく!」
峻が途切れ途切れに口を開いた。生きていたのだ。それだけでゴーヤのなかに何かがこみ上げる。
「ごふっ、がはっ」
峻が血の塊を吐き出した。唾液の混ざった粘つく血が床にぶちまけられる。呼吸音は乱れ、腹部には服の上から何かの破片が数多く突き刺さっていた。ひどい怪我であることは間違いない。
それでも生きている。
「てーとく、立てる?」
「ああ……ちょっと、待って、ろ…………」
右腕で峻は体を支え、ゆっくりと上体を起こす。傷口から溢れる血が増えるが構うことなく立ち上がろうとして左膝を立てて右脚を前に出そうとする。
そして右脚は空をきった。
「てーとく!」
バランスを失い、どっと峻は倒れ込む。うめき声とまた血を吐き出すような咳き込む音。
「なんで…………っ!」
なぜ峻は立ち上がれなかったのか。峻の右脚に目を向けたゴーヤの喉が一瞬にして干上がった。
「てーとく…………あ、足が……」
ゴーヤは自らの震える体をかき抱いた。必死に震えを抑えようとしても収まることなく、むしろ強くなっていく。
長い間、帆波峻という人間を物理面でも精神面でも支え、また卓越した体術の根幹を担っていた峻の右脚。
その右脚がなくなっていた。
さらしなの元ネタは更級日記から持ってきてます。だからタイトルに作者の孝標女を持ってきたわけです。
さあ、いい感じに叢雲が壊れてきた一方で少しずつ自立し始めているゴーヤ。最悪の方向に向かいつつあるわけですが、どうなることやら。
感想、評価などお待ちしてます。それでは!