艦隊これくしょん〜放縦者たちのカルメン〜   作:プレリュード

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──さあ、始めよう。私と彼の話を。君は知るだろう。私がいかに愚かなのかということを。


男の懺悔

電子音だけが室内に響く。それは通信が峻の元に舞い込んでいることを知らせていた。だが峻はそれを取ろうとしない。取る余裕がない。

 

 

「出ても構わないぞ?」

 

 

相模原が見かねたように峻に告げる。はっとした峻は通信に出ようか一瞬だけ悩んだ。

 

 

「……いえ、やめておきましょう。確か時間がないのでしたよね?」

 

 

「ああ。出ても構わないと言った手前で申し訳ないが、時間がないのは事実だ」

 

 

けれど苦笑する相模原はそこまで時間を気にしているようには思えない。時計を見るような素振りもなし、呼吸も一律で乱れはない。むしろ峻が勧めたスツールに「失礼」などと一言断って座っているほどだ。

 

 

「先程の話を続けても大丈夫かい?」

 

 

「へっ? ……は、はあ…………」

 

 

急に話し方が変化したことに虚を突かれた。物々しい話し方だったのが、丸みを帯びた柔らかい口調になっている。

 

 

「本当に悪いことをした。君が軍を辞める気がないことなど知らずに私は君をなんとかして軍を去るように仕向けてきたのだから」

 

 

「は…………?」

 

 

「だが君はすごいな。私のような老骨が必死になって立ち回ったのに全て自分でなんとかしてしまうのだから。やはり純一郎の息子なだけはあるよ、峻くん」

 

 

「その……名前、は…………」

 

 

動悸が激しくなる。目の前にいる男が異形のもののように目に映る。

 

 

「石川純一郎。私の親友で同僚の男だよ。そして()()()()()()()?」

 

 

「違う!」

 

 

否定の言葉が連続して頭に浮かんだ。強く手を握りこみ、堪えるようにシーツに向かって言葉を叩きつける。

 

 

「違う! 俺は帆波だ! 名字は石川じゃない!」

 

 

「……そうか、君は知らないんだな。実にあいつらしい。君の前でも嘘を貫き通したとは」

 

 

「な、にを…………」

 

 

「君の帆波姓は母方のものだよ。純一郎がわざとそうしたんだ。婿入りという形にして入籍しているからあいつも石川から帆波に変わっている。自分から帆波純一郎と名乗ったことはあいつの生涯で一度もなかったが……」

 

 

「嘘だっ!」

 

 

「そうだね。突然こんなことを言われればそう思う気持ちもわかる。だが私の言っていることが真実かどうかは君が1番わかってるんじゃないのか?」

 

 

遠い昔の記憶。薄れかけた幼少期の記憶で自分は父親の名前を何度も書面などで読んだのではなかったか。読めない漢字が多いなかで、ふりがなを読んで父親の名を知ったのではなかったか。

なにより。

いくら6才ごろの記憶だとしても、姓名を知らなくとも実の父親の名前を忘れることなどありえるわけがない。

 

 

「やはり心当たりはあるようだね。一応、私とも君は会っているんだよ? まだ君が生まれてすぐのころだから覚えているわけがないだろうが……」

 

 

「……覚えて、ないです…………」

 

 

「当たり前だ。私も始めはわからなかった。幼少期と今では顔つきが違うからね。ウェーク島攻略の新聞記事で君の顔を見た時も最初は半信半疑だったよ」

 

 

「っ! あの時の新聞か……」

 

 

ウェーク島戦後に発行されてきた新聞。そこにはでかでかと峻の名前と顔写真が貼られていた。

 

 

「偉そうなことを言っておきながら私も新聞を読むまでは気づかなかったよ。何せ名字は石川だと思い込んでいたからね。別の機会で君の名前を何度か見たが帆波、という名を見てもああ、純一郎の奥さんと一緒の名字だな、くらいしか思わなかった。だがさすがに写真を見れば面影がチラついた。そしてカラーで見ることで確信に変わっていった」

 

 

相模原が顔を上げて峻の茶色の目をまっすぐに見つめる。急な展開にたじろぐ峻を懐かしそうにただじっと。

 

 

「君は純一郎に似ている。小柄な体格も黒髪も。だがその明るい茶色の瞳だけは母親譲りだ。……生まれてすぐに母親を亡くした君は彼女の顔は知らないんだろうが…………」

 

 

そう、峻は母親の顔を知らない。生後まもなく死んでしまったこともあるが、父親が死んだ日に悪いことは続くというが、住んでいた家は全焼し、写真類なども全て無くなってしまっていたからだ。

 

 

「最初は否定したくて仕方なかった。だから否定材料を探そうと必死になったよ。けれど現実は無情だ。年齢的にもピッタリと符合する。わざわざ昔の写真から作った骨格モデルとの照合も一致し、同一人物だと私は認識せざるを得なくなってしまった」

 

 

君が3歳くらいの頃の写真さ、と峻に向かって胸ポケットから写真を差し出す。そこには相模原と幼い頃の峻、そして父親の純一郎が写っていた。

 

 

「それがどうしてウイルスコードの件に繋がるんですか?」

 

 

「私はね、君をなんとしても軍から退かせたかった。このまま君が軍にいれば必ず不幸な目に遭う。だから進めていた軍の転覆計画を急遽、取り止めたんだ」

 

 

「軍の……転覆計画…………?」

 

 

本格的に峻は目の前にいる相模原のことがわからなくなってきた。落ち着いて淡々と驚かずにはいられない内容を告げる相模原はなんのためにおおそれたことを計画していたのだろう。

 

 

「矢田大佐が暴走したせいで最初の計画が水泡に帰してしまってね。まさか深海棲艦と手を組むなんてことをやるとは……あれはあれで意外に有能だったのかもしれないな」

 

 

「は……矢田? まさか…………()()()()()()()()()()()()!?」

 

 

「む、その名を知っているということは若狭くんあたりから聞いたのかな? ならある意味で私は彼の目論見通りになっているわけか。さすがは対内課の期待のルーキーだ」

 

 

私からシャーマンだなんて名乗ったことはないんだけどね、とおどけたように相模原が続ける。だがその言葉は耳に入れど理解することはない。

隠すことなくあっけらかんと言われてしまったせいか、むしろ信じることができなかった。

 

 

「君は本当に優秀だ。ヨーロッパで情報漏洩の責任のもとに辞めさせようと、向こうの技術屋にセキュリティの突破ルートを教えたりしたのに、それを逆手に取ったプログラムを組んでいたり、そのまま犯人を取り押さえてしまうのだから」

 

 

「そこも……あなたが!?」

 

 

「そして今回。本当にまずったものだ。昔から純一郎にはお前は大局を見すぎて他を疎かにしすぎると何度も言われたな……まさにその通りになったわけだ。本来なら輸送作戦を失敗させて左遷。その後に退職へと追い込む予定だったが、まさか山崎があそこまで大胆な手に出るとは。私は失脚させることが目的であって君を殺すことではないというのに」

 

 

いないはずの人間を見たように目を細めてはあ、とため息を相模原がはいた。

 

 

「ウイルスコードに起動した瞬間、私の元に信号が来るようにプログラムしておいて正解だった。そうでなければ手遅れになっていた」

 

 

「つまりあなたは自分が作ったウイルスコードを自分で破ったのか!」

 

 

「その通り。あれは昔、純一郎と作ったものに私が少し手を加えたタイプでね。かなり複雑ではあるが製作者の私が突破できない道理はないよ」

 

 

自ら作ったウイルスコードを流し、それを自らの手で破壊した。その理由はたったひとつ。

 

 

「峻くん、すべては君を守るためだ」

 

 

「……なんでだよ! そもそもなんで俺を軍から離そうとするんだ!」

 

 

「ひとつ。純一郎が事故死したその日に家が全焼するなんて不運が連続して起きることが有り得ると思うかい?」

 

 

「っ…………」

 

 

「当時、私はちょうどヨーロッパに行っている頃でね。帰ってきた時には純一郎が死んでから2年もの月日が経過していた。だから何も出来なかった。帰ってきて親友が死んだことを聞いた時の気持ちは一生忘れない……」

 

 

「でもそれと軍は関係ない!」

 

 

「もちろんそうだとも。だが君はもうひとつ知っている事件があるはずだ。なにせ君自身が巻き込まれているんだから知らないはずがない。およそ4年前の事件だ」

 

 

知らないとは言わせない。有無も言わさぬ気を放たれる。もちろん言われずとも知っていた。

悪魔の夜笛(トランペット)事件。深海教を名乗る集団が身体に爆弾を巻いた上で武装し、軍に対して起こしたテロだ。そしてなにより峻が何人も殺して生き延びた現場でもある。

 

 

「冷静になって考えるとただの市民がいくら洗脳されていたとはいえ、身体に爆弾を巻くなんてことが出来ると思うかい? なにより銃の引き金を引くことが出来るわけないだろう。正しい撃ち方も知らないのだから」

 

 

「それは……」

 

 

「彼らは箍を外されていた。それも洗脳などというチャチな手段ではない、もっと確実な方法で、だ。その上で戦闘の知識も植え付けられていたとみるのが妥当だろう。そしてそれは純一郎を轢いたトラックの運転手にも言える。私は調書を読んだけどね、不明瞭なことしか言わなかったと記録されているよ。記憶に無いとかわからないとかそんなことばかりだ。これらのことも、外部から強引にリミッターを外しているのなら不可解な現象にも説明がつく」

 

 

峻は回らなかった頭を強引に動かす。持てる知識を総動員して思考する。外部から倫理観念を外すということが可能か。そもそも脳に干渉することは……

 

 

「君ならわかるだろう? 脳に干渉しなくてはそんなことはできない。そしてそれが多少なりと可能である装置は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

相模原が峻の首筋を指さした。そこには峻のコネクトデバイスがしっかりと装着されている。

コネクトデバイス。それは脳から神経を伝って送られる信号をキャッチしている装置ではなかったか。だがコネクトデバイスはあくまでも読み取るだけ。それ以上のことはできない。

なら出力を上げてやることが出来れば脳に直接的な干渉も可能ではないだろうか。そうすれば射撃の技術も倫理観を外してやることもでき、死を恐れない兵隊を作ることができてしまうかもしれない。まるでトランペット事件の武装した市民のように。

 

 

「トランペット事件。軍部主導で作られたコネクトデバイス。もう言わなくともわかるだろう? 明らかにふたつは繋がっている。だから私は軍を変えようとしたし、だから私は君がひどく傷つく前に軍を辞めさせようと躍起になったんだ!」

 

 

叩きつけるように言葉を吐き出す。苦しそうにその顔がくしゃりと歪む。

 

 

「私はヨーロッパに行っていたせいで純一郎の力になれなかった。防げたかもしれない悲劇はおきてしまった……」

 

 

「でもそれはあなたの……」

 

 

「ああ。私のエゴ以外の何物でもないよ。それを今、身をもって痛感している。わかっていたこととはいえ、君の望まないことを私は必死になってやろうとしていたんだな……」

 

 

峻の言葉を遮って相模原が言葉を続ける。悔いるような、そして詫び祈るように頭を垂れた。

その隙に峻は思考を整理する。

 

 

つまり相模原はシャーマンである。そして海軍転覆を計っていた。それの一環として矢田を使っていたが失敗。次のプランを練っている最中に峻が軍にいること、親友の息子であることを知り、軍から退かせようと決意した。

 

 

「なぜ今のタイミングに俺と接触を?」

 

 

「何度も言ったが時間がない。だからこれを君に渡しにきた」

 

 

相模原がごそごそとポケットから長方形の外部記憶媒体を取り出した。それを目の前の簡易テーブルに優しく置く。

 

 

「……これは? 随分と古い型のメモリーだ」

 

 

「まあだいたい20年前のものだから多少は目をつぶってやってくれ。これは私が純一郎から託されていたメモリーだ」

 

 

「……父さんから」

 

 

「ああ。私がヨーロッパに行く直前に渡された。いつか息子に渡してやってくれ、とな。中には何があるのか見ていない。ずっと封印していた。今日、君にこれを渡そう」

 

 

「…………ありがとう、ございます」

 

 

置かれた旧式のメモリーをじっと見つめる。年季を感じさせる細かな傷と色のあせ方が目立つが中のデータは問題ないだろう。

 

 

「礼には及ばない。本当なら私は両親を失った君を保護しなければいけなかった。その責務をずっと放棄してきたのだから責められこそすれども、礼などは受け取れないよ」

 

 

頭を振って峻の礼を相模原が留める。そしてスツールから立ち上がり、病室のドアへと向かっていった。

 

 

「待ってください」

 

 

「なんだい?」

 

 

「あなたはどこまで知っている?」

 

 

「すべて、とは言わない。だが肝心の部分は推測した。だから今回は多少、強引な手に出たんだ。だがこれは君に教えられないな。巻き込んでしまうからね」

 

 

「…………」

 

 

今更なにを、と思ってしまったことは否定できない。だがこれよりも奥があるということだろうか。何も言えずに黙っている峻の顔を見て、微笑むと相模原は背を向けた。

 

 

「軍を辞める気はないんだね?」

 

 

「辞めることなんてできない。俺はやらなくちゃいけないんだ」

 

 

そうか、と小さな呟き。寂寥感が滲み、そして同時に儚い決意が揺らめいているその背中はとてもちっぽけだった。

 

 

「なら私は祈ろう。願わくば君がこの世界を覆う籠から逃れることを。ではさようなら」

 

 

パタン、と音を立ててドアが閉まった。

峻は残された旧式メモリーをしげしげと見つめて、つまみ上げる。たった6年間、共に生活した父親の遺したものがこの中にはある。しょっちゅう家を空けていてなかなか帰ってこなかった。それでもなんとか休日を見つけては遊んでくれていた父親。

そして一緒になって出かけた時に、目の前でトラックに轢かれて肉の塊になった父親が親友に託したメモリーが目の前にある。

 

 

パソコンを立ち上げてメモリーを躊躇いがちに差し込む。長めのロード時間が終わると動画の再生ボタンが画面上に現れた。

 

 

「……」

 

 

少し怖い。

それと同時に見たいという好奇心。ふたつの感情がマーブル模様を描く。勝ったのは好奇心だった。

 

 

そして峻はカーソルを再生の三角形に合わせてボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀中央病院の正面入口であるガラスの自動ドアが滑らかに開く。相模原は駐車場へと足を向けた。

 

 

「動かないでください」

 

 

そして降り注いだ警告に足を止める。相模原は薄い笑みを浮かべて警告を発した人物へと向き直る。

 

 

「やあ、若狭陽太中佐。久しぶりだね」

 

 

「はい。こんな形で会うとは思いませんでしたよ」

 

 

半月状に憲兵隊が取り囲み、それを率いるようにして若狭が立っていた。両手をポケットに突っ込み、半歩後ろに長月を伴っている。

 

 

「想像以上に早かったね。なかなかどうして若い世代にもいい粒が揃ってるじゃないか」

 

 

「お褒めに預かり光栄です。用件は言わずともおわかりですよね?」

 

 

「ああ。私のパソコンには侵入者が防壁を突破して中の情報を抜けば私に連絡が来るようにしてある。大方、矢田情報漏洩事件の重要参考人ならびにさらしなウイルスコードの件で強制連行といったところだろう?」

 

 

「話が早くて助かりますよ」

 

 

「私の取り柄などそれくらいのものだ。私のパソコンを覗いたということはさらしなに仕掛けられていたウイルスコードと同じものを見つけたのだろう? 矢田との通信記録も根気よく辿れば見つかったはずだ」

 

 

肩を竦めてあっさりと自白とも取れるような内容を喋る。突きつけられている銃口もどこ吹く風といった様子だ。

 

 

「ひとつ謎があるとすればなぜ私に目をつけたかだな」

 

 

「さらしなの外部アクセス履歴ですよ。帆波が沈む前に回収してくれたので逆探でアドレスを見つけれたんです」

 

 

「ふむ、なるほど。その手があったか。あの土壇場でよく……いや、本当によくぞやり遂げたものだ」

 

 

相模原が顎に手を当てる。思案顔をしながら、2、3度なにかに納得するように頷いた。

 

 

「どのみちこうなることはわかっていた。小泉が検挙され、宇多川も挙げられた時点で察していた」

 

 

「そうですか。随分とあっさりしていますが覚悟を決めたので?」

 

 

「そんなところだよ。最後にやりたかったこともやれた。もう十分だ」

 

 

相模原がまっすぐに若狭へ視線を合わせる。若狭の眉がほんの一瞬、わずかにつり上がった。相模原がとても晴れやかな表情だったからだ。

これから捕まる人間の顔とはとても思えなかった。急ぐべきだと本能が告げる。

 

 

「相模原貴史。矢田情報漏洩事件の重要参考人として拘束する」

 

 

相模原の両手首に拘束具がしっかりと嵌められる。両隣に憲兵が付き添い、確保は完了した。

 

 

「この後は留置場に置かれて軍法会議といったところか」

 

 

「言わずともおわかりでしょう」

 

 

「これは愚問だったな。では私は行くよ。さようなら」

 

 

もう言葉は必要ない。車に乗せられて連れていかれる相模原を若狭はただじっと見送り続けた。

 

 

「苦労した割に呆気なかったな……」

 

 

「下手に抵抗されるよりいいよ。出来れば病院の前でドンパチやりたくはないからね」

 

 

長月が胡乱な目で走り去っていく車を見つめる。だが、若狭はここで銃撃戦が始まると困るため、正直なところ助かったと胸を撫で下ろしていた。使わずに済んだ拳銃にしっかりとセーフティを掛け、ホルスターにしまい直す。

 

 

「僕はあんまり戦闘派じゃないからね。撃ち合いはやれるけど極力さけたいんだよ」

 

 

「でも言論の殴り合いはするんだろう?」

 

 

「それはまた話が別なんだよ」

 

 

「タチの悪さでは五十歩百歩だと思うが……」

 

 

飽きれたように言われるが若狭からすれば何をいまさら言っているんだというところだ。本部に帰るために、脇に停めていた車へ向かう途中、若狭は空を見上げた。

 

 

「曇ってきたな……」

 

 

「そうだね。降られると厄介だし急ごうか」

 

 

長月と車へ乗るとエンジンをかけてアクセルを踏んだ。ハンドルをきって方向転換し、少しだけ速度を上げて走っていった。

 

 

空にだんだんと灰色の雲が増え、青色を覆っていく。ついさっきまで明るかったはずが、辺りはどんよりと暗くなっていた。

 

 

「さて、これで無事に終わってくれればいいんだけどね……」

 

 

若狭が囁くように呟いた。その表情は晴れやかなものとは程遠い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか狭苦しいところだな、留置所というのは」

 

 

薄暗い留置所とは反対に、ずいぶんと気軽な調子で相模原が呟く。

わざわざ独房を用意し、しかも他に人はいないようにしてある。考えようによってはプライバシーの守られた高待遇ではないか。

 

 

高い足音が壁を跳ねる。食事のトレーが猫の勝手口かと思うほど小さな置き場から回収された。

 

 

「……食べなかったのか」

 

 

「食欲があまりないのだよ。それに私は老いた。脂っこいものはなかなか胃が受け付けなくてね。それに……」

 

 

にこやかに相模原が笑う。それは若々しい笑みだった。

 

 

「私には睡眠薬を食べる趣味はないんだ」

 

 

「……ひとつまみのパンがよかったか?」

 

 

「なら先に私の足を洗って全身を潔くしてくれるのか? ふふ、これだと死ぬのはあなたみたいじゃないか」

 

 

簡易ベットに腰を下ろしたまま、相模原は話し続ける。キィ、と軋んで檻が開いた。

 

 

「君にはああ言ったがね、やはり私は君に辞めてほしいようだ」

 

 

「……誰に向かって話している」

 

 

「だからこれで最後だ。それでも君は貫くつもりなら私は君に諸手をあげよう」

 

 

「…………」

 

 

興味を失ったのか、ゆっくりと相模原に向かって近づいてくる。それを気にも留めずに相模原は虚空に向かって話す。

 

 

「さあ、終わりを始めよう」




そんなわけで今年最後の更新でした。なんだか最近、説明ばっかりで戦闘してない気が……
それにしても今日を含めてあと5日で年明けです。思えば本当に早かったですね。次回は来年でお会いしましょう。

感想、評価などお待ちしてます。それでは皆さま、良いお年を!
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