「血の力が覚醒した……?」
ベッドの上で俺はただ鸚鵡返しをしていた。目の前には見慣れた面子が並び、全員俺と向き合っていた。
「あぁ、お前を病室が病室に運び、ラケル先生に報告したところ、血の覚醒であるということが分かった」
「でも、あの時にはもう、そうなんじゃないかと思ったんだけどね~」
淡々と話すジュリウスと笑みを見せながら話すナナ。ジュリウスの方はともかく、ナナのそれはどういうことだろうか。あの時……俺があの白いアラガミに苦戦を強いられているときには分かっていたということなのだろうか。
「ちょうどコンゴウを倒した時だった。以前からジュリウスが使っている『統制』の力と似たような感覚を感じてな」
「そうそう!なんかこう、全身の血がぶわぁーーってなる感じだろ?」
「なるほどな……それで俺の身に何かあったと思ってこちらに来たわけか」
血の力か。自覚はなかったが、どうやら目覚めていたらしい。原因があるとすれば、やはりあの白い獣だろうか。とにかく、怪我も比較的軽傷で済んだようで結果的には良かったのだと思いたい。
「それもあるが……まあ、どちらかと言えば彼女のおかげだな」
「彼女?」
「恍けんなよ、フランに決まってるだろうが」
「あぁ……なるほど」
彼女が迅速に対処してくれたのか。それなら納得だ。だが待ってほしい、無線もしていないのにどうして分かったのだろうか。いや、以前より疑問にも思っていたのだが、無線中によく「バイタルが危険」と言われることがある。いや、どうして分かる?最初聞いたときはフランはもしや上位者なのかと疑ったが……まあ、結局はこの時代の技術的な何かなのだろうな。
「いや~、帰ってきたはびっくりしたよな。
「まったくだよ~。アドルも隅に置けないね~」
「あ?」
人の感情などが分からない俺でも流石に煽られていることぐらい分かる。確かに帰ってきたときは
◇ ◇ ◇
「痛むか?」
ジュリウスが俺を見てそう問いかける。対して俺は無言で首を横に振ることでその問いに応えた。そんな様子の俺にジュリウスが「大丈夫そうだな」と小さく笑いながら呟く。
「ホントに大丈夫ー?鎖骨折れてたんでしょ?」
ナナが割と心配そうに俺の顔を覗き込んだ。そんなに心配しなくても問題ない。上位者とオラクル細胞の自己治癒能力は凄まじいらしく、実際もうほとんど治りかけている。なんてことは正直に言えるはずもないので、俺は手で制して「大丈夫だ」とだけ言った。
俺たちブラッド隊はフライアまでの家路についていた。あの白い獣に襲われ軽傷を負った俺とメンバーは輸送車に揺られ、残り僅かな帰路を辿っていた。現にフライアがすぐそこまで見えている。
「とにかく、着いたら医務室に行って傷の手当てをしてもらえ。報告書はこっちで適当にまとめておく」
「すまない、助かる」
そう言ってくれるギルに感謝する。彼が言っていたように、今後遠慮することは無しに決めたのだ。正直、仲間ということだけが理由で俺を助けたことにまだ納得はしていないのだが……そのことを考える時間はほとんどなく、もう出撃ゲートの目の前まで来た。
「よし、車を降りるぞ。ロミオ、アドルの神機を頼む」
「へいへい、りょーかいっと」
「では、僕はアドル殿に肩を貸すとしよう!」
神機を持つロミオを横目に、俺はエミールに肩を貸される。至れり尽くせりなのは非常に有り難いのだが、それと同時にかなり罪悪感も湧いてくる。ほとんどもう治ってしまった自分の患部を眺めながら俺はため息を吐いた。エミールも気遣っているのか、かなり慎重な歩幅で歩いている。
「頑張ってくれ、もう少しでロビーだ」
「いや、肩を貸されるほどでは――」
「何を言うんだ友よ!それでは僕の気持ちが収まらないんだッ!またしても……またしても君に怪我をッ……!!」
……ああ、また自分の世界に入ってしまったのか。この状態になったら声が届かなくなることはもう知っている。それを踏まえて俺は諦めて肩を貸されることにした。
エミールの懺悔を耳元で聞かされながらロビーに踏み入る。そして、そのままエレベーターに乗って医務室へと降りる――。
「アドルさんッ!」
「む?」
……はずだったのだが、予想外の事が起きた。聴き慣れた声がした方向を見ると、1つの人影がこちらに走ってくるのが見えた。
――ドンッ!!
「だから僕は誠意を持っtごはぁッ!!?」
「……
何が起こったのだろうか。一瞬理解が出来なかった。とりあえず、エミールが吹っ飛んだことは分かる。そして花の様な香しい匂いがしたと思った刹那、腹周りに温かく、なにやら柔らかい感触が広がった。目線を落とすとそこには……。
「大丈夫ですか!?あぁ、良かった……本当に……」
「フラン……か?」
目元を真っ赤にしたフライアのオペレーターが俺の腰に手を回し、体を密着させていた。色々と言いたいことはあるが、予想外の事態に俺は思考が半ば停止し立ち尽くした。
「すみません……私、ずっと謝りたくて……謝れないままあなたが死んでしまったらと思ったら……」
「は?」
話が読めない。謝る?何についてだ?彼女に対して嫌悪を抱くような行為はされた覚えがない。と、とにかくだ。俺は今重症を負っている『という』状態なので、このままでは周りの不信感を煽ってしまう。とりあえず離して貰いたいのだが……。
「ヒューヒュー!お熱いね、二人とも!」
「ほほ~、アドルとフランちゃんってそーゆー……」
「ふむ」
「仲がいいな」
何言ってんだコイツら。だがしかし、思っていたよりずっと違う反応を示しているようだが、誤解を受けているのは明らかだ。様々な反応を示すブラッドの面々を背に、俺は体を密着させているフランの肩に手を置き、とりあえず少しだけ離れるよう力を入れた。
「別に俺はフランの事を嫌いになったりはしていないが……とりあえず、離れたほうがいいんじゃないか?人目を引いているぞ」
「え……あっ、す、すみま……せん……」
唐突にしどろもどろになりながら、俺の体から離れるフラン。体の怪我の事には誰も触れてこないのを見ると、どうやら勘付かれていないようだ。変な視線を受けているのは別として。
「フラン、話したいことがあるのは解るが後にしてほしい。これからアドルを医務室に連れて行かなければならないんだ」
ジュリウスがそう言いながら歩み寄る。それに対してフランは「……了解しました」と顔を伏せながら答え、スタスタと受付まで戻って行った。結局、何だったというのだ……。
「ここで立ち止まっていては邪魔になるだろう。移動するぞ」
「あ、ああ……」
吹っ飛んだエミールの代わりに今度はジュリウスが肩を貸した。ただでさえ、あの獣の事やギルの言ったことで考える余裕などないというのに、無慈悲にも疑問が次から次へと生まれる……今日は眠れる気がしないな。そんなことを考えながら俺はそのままエレベーターへと歩みを進めるのであった。
吹っ飛んだエミールはというと、ロミオとギルに起こされ、とりあえず自室に帰らせたらしい。実は今回の任務が終えたら極東に帰る予定だったらしく、俺が怪我の療養中、あの一際響く声はいつの間にかフライアから消えていた。
この物語のヒロインは……一体誰だッ!(白目)