グリモアーたとえ面倒でも世界は動く- 作:FAMZ
「「・・・・・。」」
アイラとチトセは
険しい顔をして黙っていた。
「・・・あの2人、どうしたの?」
「ふふふ、どっちが先に言い出すかと
思ってたけど・・・アイラちゃんかしら。」
「何をよ?」
あやせと千佳は様子を見る。
「のう、少年よ。」
「なんだ。」
「我ら、このままアイザックに会ってよいの
じゃろうか? なにせ、これまでとはけた違いの
過去じゃ。何が歴史に影響を与えるかわからん。」
「・・・どうしてロウ君に相談したか、わかったわ。
彼なら、ここが裏世界の過去だということに
触れないものね。」
にやりと笑う。
「違うわ! かつて霧の嵐で過去に行った遊佐達の
話じゃ! きゃつらは過去、大人の魔法使いに
助けられた記憶があった。となれば・・・こちらの
過去にも同様のことが起きておる可能性がある。我らの
過去にどこかの我らがおるかもしれん。」
「世界は裏と表だけじゃないってことか?」
「そもそもこのロンドンが裏だとは限らんじゃろ。
第3の世界かもの。そして同じくらい、我らの過去である
可能性もあるし・・・歴史を変えてしまう可能性もある。」
「・・・確かにその可能性はあるわ。少し考えた方が
いいかしら。」
2人はまた考え始める。
「ほらね。」
「何しゃべってるのか全然わかんないし・・・。」
「ふふふ、恥ずかしいのよ。久しぶりに会うんだもの。
だから行かなくていい理由がないか、探してるの。」
「って、言ってたぜ。」
律はエミリアとレティシアに
さっきの会話について話した。
「さっきから足が遅いのはそれが理由なのね・・・
大丈夫?」
「魔物が弱いうえに、ロウの力がある。
しばらくは任せておけ。」
「私たちも情報を集めようと思ったけど・・・
人が少ないうえに、魔物と戦ってて気味悪がられてる
から・・・。」
「ちぇ、この時代でも魔法使いは魔法使いか。」
ため息をつく。
「女ばかりで朝から歩き回っている時点で、
白眼視されるのは当然だ。そういう時代だったからな。」
「ロウはノーカンか? 結局女装してないけど。」
「アイツの女装ってマジで?」
「意外と似合う、って東雲さんが言ってました。」
「やったことあんの!?」
「・・・・。」
その話はするな・・・。
「17世紀後半は宗教戦争があり、その後は全国的な
不作が続いた。1700年ごろはちょうどイギリスが
回復してきた時期だ。それと産業革命が合わさったこと、
魔物が現れたことから・・・18世紀は光と影の世紀と
呼ばれている。」
「みんながやっと、余裕を持ち始めたんだよね。
カフェみたいなお店がたくさんあるでしょ?」
「ああ、すんげーたくさんあるな。」
言葉通り、何軒も並んでいる。
「コーヒーハウスって言って、男の人たちがいろんな
話をしてたの。店を構えてない人が商売の拠点に
したり、世間話をしたり・・・上流階級の人たちは
見栄を張りあったり、成人話をしたりね。」
「ふーん、クラブみたいなもんか?」
「酒も賭博も出さないクリーンな店、上品な
店として売り出したのだ。」
「クラブ・・・じゃねーな・・・。」
「最近ではコワーキングスペースの方が近いのでは
ないか。後々、どちらも出し始めて衰退していった。
魔物のせいもある。人々から余裕がなくなったため、
コーヒーハウスは消えたのだ。」
「ふーん・・・・ところで、なんでコーヒーハウスの
話になったんだっけ?」
律は首をかしげる。
「・・・ニュートンもまた、コーヒーハウスで
科学の討論をしていたからだ。」
「朝まですまなかったな。ベッドフォード。」
「アンタの話が聞けると知って客が寄ってくるんだ。
いい儲けさ。夜いっぱいやるんなら酒も出そうかね。
どうせ魔物が多くて、朝までいるんだ。」
「やめておけ。酒を飲んで出世したためしはない。」
「アンタも酒好きのくせに、言うね。」
「それを後悔しているのだ。また来る。」
「ああ。怪物に気を付けて・・・ってのは
お節介かね、アイザック。」
「お前こそ気を付けるのだぞ。今晩も生きて会おう。」
2人の男の会話をレティシアは見ていた。
「・・・エミリア。」
「ん? どうしたの?」
「フフ・・・なんという偶然だ。トキサカを
呼べ。見つけたぞ。あれがアイザック・ニュートンだ。」
「アイザックが・・・見つかった?」
エミリアはレティシアの話をロウたちに
伝えた。
「こんな広い街で、もう見つけたのか?」
「私は老齢のニュートンを知りませんが、レティは
知っています。肖像画を見たことがあるということでした。」
「あの偏屈な顔じゃ。見間違いではあるまいて。
そりゃ見つかるわ・・・この地区じゃものな。」
「ええ。アイザックが入り浸っていたコーヒーハウスが
あるもの。今日、彼が来ているかはわからなかったけど、
試してみるものね。」
「まぁ・・・では早速行って、お話を聞きに
行きましょうか。」
「・・・いいや、待て。」
行こうとしたあやせをアイラが止める。
「会わないつもりか?」
「いいや、会う。じゃが先に確認せねば
ならんことがある。偽名を名乗ろう。
いいな、朱鷺坂。」
「・・・・ええ、わかったわ。」
「妾の名前はアイザックがつけた。東の空より
飛来した『あい』・・・それが東雲アイラ。
先にその名前を持つ人間が出ると、アイザックは
別の名前を付けるわ。」
「あい・・・お前、日本人だったのか。」
「そうじゃ・・・ま、どうでもいいことじゃ。」
小さく息を吐く。
「ではゆこう。我らは、そうさな、魔物を退治して
回る野良の魔法使いじゃ。村をなくした子供の
集団でよかろう。この時代にはよくあった。」
「・・・それで、知識を渡す? 話す?」
「それは・・・ノリじゃわ。大丈夫そうじゃと
判断したら、話そう。」
<ロウたち、移動中>
「・・・来たか。この先の家に入った。」
レティシアは一軒の家を指さす。
「ロンドン大火でわずかに焼け残った地区だな。」
「わかっておるよ。妾の記憶と同じ場所じゃて。」
「そうか、ニュートンに興味はあるが、
私はほかの場所を見てくるとしよう。」
そう言って、離れていく。
「・・・東雲さん。」
「構わん。妾の約束は、もう死んだアイザックと
交わしたんじゃ。このアイザックではない。
むしろ朱鷺坂、お主はどうじゃ。」
「・・・私は、一度世界を諦めたわ。アイザックに
もう一度会えるなら・・・その方がいい。」
「ならばよし。ロウ。よく見ておけ。
ヤツが魔導科学の草分けを行った男じゃよ。」
「・・・・・・。」
アイラはドアをノックする。
「誰だ。朝早くに非常識ではないか。」
1人の老人が出てくる。
「・・・妾じゃ。」
「こんな朝早くにうろつく子供は知らん。」
「・・・ふふ・・・ではまだ、妾は来て
おらんのじゃな・・・。」
聞こえない声でつぶやく。
「村を亡くした魔法使いじゃ。お主の知恵を
借りたくて参上した。」
「・・・魔法使いだと?」
アイザックはロウたちを見る。
「子供ばかりの詐欺集団か。私は謀ったとて、
金目のものなどないぞ。」
「お主を謀ろうとすれば、魔法の餌食じゃろうが。
狙ってどうする。」
「私は魔法を人間に使ったりなどせん。用を言え。」
「じゃから、我らは孤児じゃと・・・」
「孤児がそんなに上等な着物を着ている
わけがない。」
・・・まあ、そりゃそうか。
「おっと・・・これは痛いところを突かれたな。
朱鷺坂、魔法を解け。」
「ええ。」
チトセは魔法を解く。
「・・・なんと、幻を見せる魔法か。しかし・・・
魔法を解いたらさらに珍奇な格好だな。やはり
謀っていたか。」
「説明が面倒くさいゆえな。話をさせてくれ。
害意はない。お主に有益な情報もやれるぞ。」
アイラはにやりと笑う。
「・・・興味深いな。入れ・・・いや・・・」
「!?」
「・・・私の勤めだ。化け物が増えたな。
・・・街を歩きながら話そう。お前たちも魔法が
使えるなら、この老いぼれに力を貸すがいい。」