グリモアーたとえ面倒でも世界は動く- 作:FAMZ
「・・・よし、これでいいか。」
魔力補給を終え、ロウは目を開ける。
「・・・ロウ、助かった。」
「あーもー、びっくりしたぜ・・・。みんな、
単に怖がってたわけじゃねーのか。」
「そうねぇ~。この時期の魔物はまだ
弱いから・・・屋内まで入り込むことが
できなかったのね。」
あやせは魔物の行動を分析する。
「でもさ、それっておかしくない? そんなに
弱っちいなら・・・なんで第1次侵攻で、
もの凄い被害がでたわけ?」
「それはわかってないのよねぇ~。」
「第1次侵攻は、特定の地域のみ甚大な
被害が出た。・・・もしかして、この時代で
我らが探らねばならないのはこれか?」
「アイザック! はぁ・・・全部、片づけたぞ!」
アイラは魔物を倒し終え、
アイザックの元に戻る。
「そのようだ。まあ、もう少し歩くか。毎朝の
散歩も兼ねているのだよ。」
「待て! お主の魔力量も無限ではあるまい!
少年・・・少年はどこじゃ!」
「落ち着きなさい。あなたがレティシアさんの
ところに向かわせたばかりよ。」
チトセも戻ってくる。
「魔物が出れば私たちの魔力を使えばいい。
彼に頼ってばかりではだめよ。」
「ぐぅ・・・・・。」
「・・・あの少年がなんなのだね。見たところ、
魔法でもなさそうな、妙な技を使うようだが・・・。
まさかお前たちの情夫でもあるまい。」
「じょっ・・・しょ、少年は魔力を他人に
受け渡すことができるのじゃ。お主の知恵で
その謎を解いたりできんか。」
「魔力・・・とはまた、魔法を使うための
精力のことだな。まだ魔法使いが誕生して何年も
経っていない。わからんよ。しかし時間さえあれば、
わかるやもしれん。少年を呼んでくれ。見てみよう。」
アイラに呼ばれたロウは
アイザックの前に立つ。
「・・・少年よ。アイザックに魔力を渡してくれ。
アイザックは少年から渡される魔力を受け入れる
心持でおれ。」
「わかった。」
そう言って、アイザックは目を閉じる。
「よし、行くぞ。」
ロウも目を閉じ、アイザックに魔力を渡す。
「・・・・・ふむ。疲れが取れ、気力が充実
してきたわ。なるほど、これが魔力の受け渡しか。
不思議なものだ。」
「どれほど有用なものかは、わかるじゃろ。
この原理を解き明かそうと・・・これから先、数多の
人間が魔法を調べ始めた。お主もな。」
「私はその実例を最初に見ることができたのか。
長生きはするものだな。」
かすかに笑う。
「お主は不老不死の力も追い求めることになる。
あと数年のうちにそれをかなえる。」
「見てきたようなことを言う。」
「今年中、いつかのこの時期にお主は、テムズ川の
ほとりにある幼子を見つける。英語も話せんし、
半分魔物になっておるが、お主の助けとなるじゃろう。」
「・・・名はわかるのか?」
「吾妻村の、あいという。」
「・・・あなた・・・。」
ったく、こいつ・・・。
「あづまむらの・・・あい、だな。
覚えておこう。ではお前たちなら既知のことかも
しれんが・・・私の知っていることを1つ教えよう。
多くを教えてもらった礼だ。この化け物は
おそらく、天から来た。」
「・・・まさか。妾の知っているお主は悪魔論者では
なかったぞ。」
「違う。天の先から来たのだ。これは事実の話だ。
誰も見ていなかったようだが、私は確かに見た。
最初に化け物が現れる前、太陽がわずかに欠けた。」
「・・・なん・・・・」
「なんだと?」
「影だ。そしてまた、僅かに天が暗くなった。お前たちの
言うところの霧が、天を覆ったのだ。」
そう言いながら、アイザックを空を見上げる。
「・・・その時、日本は夜じゃった・・・。
世界各地に似たような証言はあるとはいえ・・・」
「日食が起きたというような記録は残っていない。」
「もしかしたら見間違いだったかもしれんと
思い始めていたところだ。アテにはならんだろうが、
老人の戯言だと思って聞くがいい。太陽が陰り、
天が覆われ、化け物が現れた・・・お前たちの言う
霧と魔物はその先から来たのだよ。」
特級危険区域
話を聞き終えたロウたちは
表世界に戻ってきた。
「・・・意味が分からん。魔物が宇宙から
来たなど、眉唾のオカルトではないか・・・!」
「もっと話を聞かなくてよかったのか?」
「馬鹿を言うな。あれ以上いたら、あっちに
残ってしまうわ。それにここのゲートを管理している間は
・・・いつでも会えるしのう。」
「どうだった。」
結希がロウたちのもとにやってくる。
「アホウ。1724年なら先に伝えておけ。
肝を冷やしたぞ。」
「・・・・あまり踏み込まない方がいいと思ったから。
いつからそんな余計な気配りをするようになったんじゃ。」
「気配りじゃないわ。あなたはここがあの年と
つながったことを知った。それがどういうことか、
わかるわね。バイアスがかからないよう、何も言わなかったのよ。
どういう結論を出すか、楽しみにしてるわ。」
そう言って、結希は戻っていく。
「・・・ねえねえ、どういうことなの?」
「・・・・考えさせろ。まだ断言するのは怖いんじゃ。」
「・・・なんなの。不安になるじゃない。」
「・・・歴史を、変えられるかもしれないのよ。」
「え?」
千佳は軽く首をかしげる。
「あの時代の魔物はまだ弱い。ムサシがいたことは
確かだけど・・・。私たちがどうにか霧を駆逐する
方法を見つけて、ここからまた裏に行って・・・
霧をどうにかしたとするわね?」
「・・・そしたら?」
「少なくともその世界では、もう一切の
魔物が現れなくなる。」
「・・・・・・・・・・・・。
・・・え!? それって・・・・。」
「人類の繁栄を願うなら・・・まだ南半球も
無事な、あの時代を救うのが一番でしょう?」
その日の夜
学園 屋上
ロウはアイラに呼び出された。
「なんだ、東雲。こんな時間に。」
「なぁに、ちょっと少年とお話ししたいと
思っただけじゃ。ほれ、ここ座れ。」
ベンチをポンポンとたたく。
「ったく・・・。」
「いい月夜じゃのう。少年。」
「ああ、そうだな。」
「しかし、まさか少年がこの学園、いやさ、
人類のカギとなるとは・・・。」
「体質のことか?」
「他にもあるぞ。この女たらしめ。」
「? 何の話だ?」
ロウは軽く首をかしげる。
「ふん。ほれ、もそっと寄れ。手を見せろ。」
「はあ?」
何の意図かわからないがとりあえず、
手を見せる。
「ふむふむ。」
アイラは何度もロウの手を握る。
「・・・もういいか? くすぐったいぞ。」
「なんじゃ、カマトトぶりおって。ほーれ、
こうしてやるぞ。むにむに・・・うむ、
よい手じゃ。・・・お主の手を見てみろ。」
「ん?」
自分の右手をじっと見る。
「お主が覚醒したころに比べ、何が変わったか、
わかるか?」
「なんだ?」
「経験じゃ。覚醒前はどうだか知らんが、人と交わり、
戦いを重ね、様々なものと巡り合った結果・・・
それは手と目に現れる。特にお主は手の方じゃの。」
「・・・そうか。」
「頼もしいぞ。まだ魔法使いとしては生まれたての
ようなものなのにのう。」
「言ってくれるな。俺は、お前は
300年生きたとほざくババアだという
印象だけだな。」
「やかましいぞ。だが、まあ確かにそうじゃ。
じゃからこうしてお主に引っ付くのもただの
戯れよ。・・・いずれお主も妾を残して死ぬ。」
「・・・・。」
「・・・ふふ、少し意地悪だったか?」
「まったくだな。」
軽くあくびをする。
「妾の人生はそれの繰り返しよ。出会っては死に別れ、
出会っては死に別れ・・・じゃから、あんまり愛着と
いうものを持たんようにしてきた。」
「今もか?」
「お主は妾の弟子。それ以上には思わん。・・・と、
戒めねばならなかった。が、それもここまでじゃ。」
「?」
「妾な、いつの間にか少年と離れたくなくなっておるわ。
この前の北海道の一件からそうじゃったわ。」
「・・・あの時は心配かけたな。」
「まったくじゃ。お主の死に目には立ち会いたくないからの。
だからな、少年。1つ約束してくれ。」
アイラはロウをじっと見る。
「なんだ。」
「妾は魔物を滅ぼし、体内の霧を排除し、時間停止の
魔法を解く。その瞬間に、妾のそばにおれよ。
そんでな、妾が死ぬとき、そばにおってくれ。」
「・・・東雲・・・。」
「・・・なんつってのう! ちいと思い頼み
じゃったかのう!」
「ああ。まあ、記憶の片隅くらいには置いといてやる。
それに、安心しろ。俺は・・・絶対に死なん。」
にやりと笑う。
「・・・・ふふ、やはり頼もしいな。少年。」
「うるせえ。」
そうだ・・・俺はまだ死ねない・・・
あいつから・・・絶対・・・。