グリモアーたとえ面倒でも世界は動く- 作:FAMZ
今年もよろしくお願いします。
ロウと望がクエストに出て
数時間後
結希の研究室
「・・・沖縄にいる間、極端な
攻撃はなかったようね。」
「はい。」
裏人格の心が結希に
報告をしていた。
「攻撃されていたら、耐えられたか
どうか・・・。」
「あなたが全ての責任を負ったり
しなくていいわ。あなた以外の
対抗手段を用意できない、私たちが
問題なんだから。」
深くため息をつく。
「とはいっても、対抗できるのが
私だけなら・・・心ちゃんのためにも、
私がやらなければ。」
「・・・。」
結希は心をじっと見る。
「ねえ、あなたは心ちゃんとは別人のように
振る舞っているけれど・・・どちらも
同じ、双美心。それを忘れないで。」
語気を強め、心に念を押す。
「あなたの自己犠牲的な精神は
心ちゃんにも影響するわよ。」
「心ちゃんは私が活動している間の
ことを覚えていません。彼女は私を
完全にシャットアウトしています。
何も影響はありません。」
「・・・あなたがそう言うなら、
これ以上踏み込まないけれど。話を
戻しましょう。裏世界の双美心・・・」
途中で言葉が止まる。
「ねえ、呼び方を変えた方がいい?」
「そうですね、紛らわしいのもありますが
心ちゃんが聞いたらと考えると・・・
別の呼び名があった方がいいと思います。
今更ですけど。」
「確かに今更だけど・・・『JD』では
わかりづらいかしら。」
「ジェーン・ドゥですか?」
「『メーラーデーモン』でもいいわよ。」
「識別できればなんでも結構です。
ただ短い方がいいですね。」
結希は腕を組んで考える。
「じゃあ、ウィッチでいいわ。ウィッチが
やった悪戯はどの程度のこと?」
「あとで書面に纏めますが、落書きです。
コードにメッセージを残していく。それは
基本的に私への挑発で、正確な文言は・・・
口では言いたくありません。」
不敵な笑みを浮かべる
ウィッチを想像し、不快な顔をする。
「それ以外のことはしていないの?
なにも?」
「はい。おそらく私がダイブしたら、
また変わると思いますが・・・」
「やらないほうがいいわね。」
「私もするつもりはありません。それ以外の
ことは本当に何もしていませんね。
不思議なことに。」
「・・・わざわざ裏世界から連れてきて
何もさせないわけがない・・・。すぐに
インフラを壊すくらいはすると思ったの
だけど・・・。」
「大変だ! 入るぞ!」
結希が考えているところに
聖奈が強くドアを開け、入ってくる。
「テレビをつけろ! 今すぐにだ!」
「・・・テレビ?」
聖奈の言う通り、テレビをつける。
街中
「・・・ふむ、いい具合に集まった
ようだ。」
間ヶ岾は周囲に人が集まる様子を
見ながら何度か頷く。
「双美君、首尾はどうだ。」
『上々。いつでも流せるわ。どうぞ、
話しちゃっていいわよ。』
「それは結構。さて・・・では始めようか。」
間ヶ岾の目付きが鋭くなる。
「みなさん、共生派政治団体『霧の護り手』
日本支部代表の間ヶ岾昭三です。本日は
ご多忙と存じますが、是非ともお耳に
入れていただきたいことがあります。」
穏やかな顔で間ヶ岾は演説を始める。
「それは・・・『政府、いや国連が
あなた方を騙していた』という事実。」
この言葉で近くを歩く人々は
足を止めた。
「テロ組織、キネティッカによって暴露
された映像はフェイクではない。
それどころか、すでに人類は安全であるにも
関わらず・・・霧の魔物との不毛な
戦闘を続けようとしている! 本来は!
すでにして! 魔物と戦う必要など
ないのです!!」
報道部部室
間ヶ岾の演説の様子を
鳴子はテレビで注意深く見ていた。
「・・・共生思想か。だが共生思想が
なんの役にも立たないことは誰もが
わかってる。わざわざ地上波をジャックして
姿を現したんだ。何か手があるはず・・・・
共生思想が有力だと思い込ませるための・・・」
すると、間ヶ岾の背後にいた
あるものの存在に気付いた。
「ふふ・・・なんてことだ、あるじゃないか。
とっておきの方法が・・・。でも・・・
街中でやるつもりか・・・!」
「『霧の守り手』は、残念なことに
テロ組織だと捉えられております。私に
ついても、過去、どのように報道されたか
よくわかっています。どれだけ話そうと、
あなた方の心に訴えることはできないでしょう。」
演説しながら、後ろをちらりと見る。
「ですから、今日は見ていただきます!
斯瞞に隠されていた事実を! これが
あなた方に隠されていた真実だ!」
指をパチンと鳴らす。
すると、巨大な犬の姿をした
霧の魔物がゆっくりと歩いてくる。
「うわぁー!」
「魔物だぁ!」
間ヶ岾の周りの人たちは
魔物を見て、当然騒ぎ出す。
「・・・・・さて、まずはここからだ。」
間ヶ岾はその光景を
冷静に見る。
「逃げろ! 殺されるぞー!」
「グリモアの生徒はいない!?」
「・・・・・。」
魔物の前に立つ。
「後ろを向き、座り込むのだ。」
すると、魔物は間ヶ岾の言う通り、
後ろを向き、ゆっくりと座る。
「聞ける方だけ聞いてくだされば結構。
パニックになるのは仕方がない。」
一部の人たちは逃げる足を止める。
「ですが、魔物が、このように! 叱られた
犬のように丸まっている! その姿を
見たい方はどうか一瞬で結構です!
振り返り、こちらを見てください!
そうすれば理解できるはずだ! 人類は
すでに・・・魔物と戦う必要がないのだと!」
「な、なによあのペテン師・・・!
アンタ達が奪った科研の研究は魔物の知能の
低さを利用したものよ!」
天はテレビの前で怒りをあらわにする。
「ある程度成長した魔物には効かない、
全く意味がない代物・・・。そんな技術を
使って・・・まさかこんなパフォーマンスを
するなんて!」
デバイスを取り出し、電話をかける。
「神宮寺!? アンタのお兄さんに、早く
出動要請を出しなさいよ!」
相手は初音のようだ。
「今、あの魔物が成長したら・・・街が
とんでもないことになるわよ! はぁ!?
テレビ見なさいったら!」
「この通り・・・霧の魔物と呼ばれ、化け物と
排斥された者たちは・・・意思疎通もできれば
共存もできる、我らの新しい友人です。」
魔物を優しくなでる。
「これまでの経験から魔物を許しがたいと思う
方々もいらっしゃるでしょう。ですが、
このように! 魔物は人間を殺すだけの
異形の生物ではない! それがわかれば共生は
夢ではありません!」
声高らかに演説を続ける。
「人類と魔物、いや新種の生物が戦う限り、
命は無駄に散っていく。政府も国連も、
この事実を知っている! ではなぜ公表
しないのか! これは陰謀論でも何でもない。
厳然たる事実として・・・戦い続けることにより
得をする者がいるからです。」
徐々に人々は足を止める。
「戦い続けることで金を稼ぎ、戦い続ける
ことで人々を支配できる! いつ現れるか
わからない天敵をちらつかせることで
人々を誘導している! ・・・む。」
サイレンの音が鳴り響く。
「双美君、今日は撤収する。警察の
システムに潜り込んでくれ。」
『了解。全部壊しちゃう?』
「魅力的な提案だが、パトカーがいる
場所の把握だけでいい。・・・今日の
出来はそこそこといったところか。
やはりブランクがあるな。・・・。」
魔物の様子を見る。
「魔物の様子がおかしい・・・? この
操作方法は限界が近いのか・・・。
途中で護り手の魔法使いと合流し、
魔物を霧散させるとしよう。」
時間は戻り、バスの中
「・・・ちっ、間ヶ岾め・・・。
うまくやったもんだ。」
「くそ・・・。」
ロウはデバイスの画面を閉じようとする。
「・・・・ん?」
間ヶ岾の後ろに一瞬映っていた
ある人物を発見する。
「・・・・俊・・・?」
目が虚ろになっている
俊の姿だった。
「ロウ、どうした?」
「・・・いや、なんでもねえ。」
あいつ・・・あんなところで何を・・・?