グリモアーたとえ面倒でも世界は動く- 作:FAMZ
「・・・ここ、通るの? げぇ・・・。」
どんどん進むにつれ、
においがきつくなっていく。
「・・・ここは・・・地底湖、ですか?
天然のものではなさそうですね。」
「天井がコンクリートだからな。
どこかからか浸水してるだろうな。」
「ぎゃあ!?」
夏海が急に叫ぶ。
「なな、なんか這った! あ、足!」
「足を水から出せ。」
ロウは刀を構える。
「あ~・・・ヒルだな。」
「ヒル!?」
「まあ、慌てんな。吸い付いたばかりだ。」
そう言って、ヒルを取り除く。
「あ・・・ありがと・・・すっごい
イヤな汗かいたわ。」
「もうかなり降りてきましたからね。
この辺りは第8次侵攻のかなり早い
段階で放棄されたはずです。」
話ながら、徐々に進んでいく。
「なにせムサシが現れたすぐ近くですから。
誰も近寄りたがらなかったかと。おそらく
ここにも生態系ができているでしょう。
そう言った意味ではジャングルと変わりません。」
「・・・コ、コンクリートジャングル?」
「それを狙って言ったわけではありません。
さあ、そろそろ未知の領域です。
ここから先は地図にもない最深部。」
デバイスで確認する。
「生徒会がいればよし。しかし・・・別の
何かがいる可能性もあります。明かりを
絶やさず、警戒を怠らず。そして・・・
意志を強く。」
「・・・意志を・・・強く・・・。
水瀬・・・あなたの言葉を胸に、
ずっと待ち続けていた・・・。
ようやくそれが報われそうだ。この
深く暗い檻を・・・離れるときが来た。」
「・・・ちっ。」
苛立ちから焔は舌打ちする。
「うぅ・・・薫子がなんで意志を強くって
言ったのか、ようやくわかったわ・・・。
もう何時間経ってるんだっけ・・・ずっと
暗いのってほんとヤダ。」
「そういうことあまり言うな。
気にしちまうだろ。」
ロウも多少苛立っている。
「てか、また変なにおいがしてきたな。
どこかで水が腐ってんのか? ガスが
出たりしてねえよな。」
焔は臭いを少しだけかぐ。
「・・・あり得る。ガス管も水道管も
通ってるし、大雨や地震もあったはずよ。
しかもメンテされないままずっと
放置されてたんでしょ?」
「ここまで深い場所になると、天然の
ガスである可能性が高いと思います。
どちらにせよ、他に道がある限りは
近寄らないようにしましょう。」
<ロウたち、移動中>
「・・・もうずいぶん深い場所のはずだ。
地図に記載されていないエリアが
こんなに広いとは・・・。」
「・・・ぉにんぎょ・・・ぁり・・・
ぁした・・・。」
ありすが落ちていた人形を
拾い上げる。
「人形? こんなところにか・・・いや
待て。人形・・・つまり子供がいた・・・?
・・・人が住んでいたのか?」
「・・・ひと・・・にゅぅぃん・・・。」
「なるほど・・・こんな深い場所に人形を
持つような者がいた・・・」
「そこを動くな。」
「!?」
不意に別の人間の声が聞こえる。
「ふぇ?」
「久々に人間の声を聞いたと思ったら・・・
まさか、だな。まさか『私』が来よう
とは・・・思いもしなかったぞ・・・。」
「・・・わ・・・私か・・・!」
声の正体はこの世界の結城聖奈だった。
「・・・すっごい変わってるわね、聖奈。
誰にも見られてないからって、
あんな大胆な服・・・」
「少し黙れ。」
「でも・・・なんでまた、こんな真っ暗な
地下に・・・電気も通ってないのに・・・。
・・・やっぱり、会長?」
「やはり貴様らは・・・ゲートを閉じる方法を
知るために来たんだな。」
「そうだ・・・だが・・・。」
一瞬、薫子を見る。
「それだけではない。会長に会い、
こちらに来るよう説得したい。こちらでは
霧の浸食を止める手段がある。我々は
協力できるはずだ。」
「・・・まだ学園も卒業していないのに、
よくここを探し当てることができたな。
だから敬意を払い、正直に答えよう。」
それぞれの目を見る。
「武田虎千代と水瀬薫子は、ここにはいない。
私だけだ。私だけが、お前を待っていた。」
「・・・・な・・・・・」
あまりの事実に言葉が出なかった。
「なんだと! まさか・・・。」
「まさか・・・会長はもう・・・。」
「言い方が悪かったな。ここにいないだけで
生きている。私はそれを伝えるためにここで
待っていたのだ。かすかな明かりを求め
訪れた者が立ち往生しないよう・・・次の
明かりを示すために待っていたのだ。」
「せ、生徒会がここにはいない?」
「そうだ。もうずっと前に去った。
生天目と合流するために。」
思わぬ名前がここで挙がった。
「生天目!? こちらの生天目は
生きているのか!?」
「ああ。誰もが死んだと思っていたがな。
数年前にふらりと現れて、私たちを
インドに連れて行った。」
「インド・・・まさか、ゲートを閉じたのか?」
「そうだ。生天目と協力して、できた
ことだ。インドでゲートを閉じた私たちは
生天目と別れ、ここに戻った。・・・もう
ここを出ることはないと思っていたが・・・。」
「ま、待て・・・おかしいぞ。」
一度、裏の聖奈の言葉を遮る。
「どうしてここにいるんだ。会長たちが
いないなら、なぜあなただけが・・・。」
「わからないか? 待っていたんだ。
ゲートを閉じる方法を求める者が、ここを
訪れるのを。」
「・・・! 私たちのことを、レジスタンスから
聞いたのか。」
裏の聖奈は静かに首を横に振る。
「いいや。だが来ると知っていた。いや
信じていた。」
「何故だ!」
「あの人と水瀬が、幼いころに貴様らに
会っているからだ。」
「幼いころ・・・スカウトの時の!」
・・・あのときか・・・。
ロウもその光景を思い出す。
「ああ。私には信じられなかったが、あの
人たちは疑っていなかった。貴様らが・・・
いつかここを訪れると確信していたのだ。」
そういって、聖奈をじっと見る。
「まったく。本当に十年前の私の姿が
見えた時は、肝をつぶしかけたぞ。」
「・・・わ、私たちのことを信じたのですか・・・?」
「実際に会っていない私には、あの人たちの
本心はわからない。もしかしたら、そう
あってほしいというだけだったのかもな。
だが、来た。だから私は、貴様らをあの人の
もとへと連れていく。」
「・・・・・。」
警戒していた焔は
何かの音を聞いた。
「なんだ、この音・・・。」
「すごい嫌な予感がする・・・。」
「これは・・・かなりまずいな。
焔、夏海。聖奈に知らせろ。」
「わかってる。・・・くそ・・・!」
「ちょっとちょっと! 魔物がわんさか
来てるわよ! 逃げなきゃ!」
「魔物・・・ああ、来たか。」
裏の聖奈も足音を確認する。
「く・・・ひとまず脱出するぞ!」
「で、でもどーすんのよ! どの道が
近いかもわからないんでしょ!?」
「・・・結城さん、あなたは長い間、ここを
拠点としていました。道はわかりますか?」
「逃げ道はない。この音・・・詳しく
調べなければわからんが・・・おそらく
あるゆる道から魔物が来ている。」
「なに!?」
「また・・・最悪のタイミングで・・・!」
「待て。この数は・・・かなり釣れたようだ。」
裏の聖奈の目が鋭くなる。
「おびき寄せるぞ。一網打尽にする。」