グリモアーたとえ面倒でも世界は動く- 作:FAMZ
「・・・・・。」
偵察に出ていた梓は地面を
触り、注視していた。
「・・・さっきの微かな振動。他の人は
気づかなかったようですが・・・地下に
まだ魔物が?」
地面をゆっくりとなでる。
「・・・大深度地下の空洞がある上に、
この戦いで地盤自体が脆くなっている。
もしかしたら崩れるかも・・・急がないと。」
ブオオォォォン・・・・!
突如、サイレンが街に響き渡る。
「これは・・・退却の合図。だとすると、
もう風飛を守るのは諦めたということ・・・。
・・・水無月会長・・・・・。」
「本部が撤退!? では、先ほどのサイレンは
聞き間違いでは・・・」
「目指している場所に本部はありません。
自分らは即刻脱出しましょう。」
デバイスを取り出し、地図を確認する。
「ここから南に方向転換し、神凪神社を
目指します。」
「いけません! 私たちはまだ戦えるのです!
まだ散り散りになった国軍が、街の
どこかで戦っているはず! 私は野薔薇の
人間として、彼らと市民を助けなければ・・・」
「少し黙ってください。」
「!?」
怒りの表情で梓は姫の胸倉をつかむ。
「撤退指示が出たと言ったんです。あなた
一人が死ぬくらいなら好きにすればいいですが
・・・自分はあなたに、彼を会長のもとに
連れていくよう依頼しました。従ってくれますね?」
「・・・・・・・・・あの、殿方を安全なところに
送り届けたら、ここに戻ってきます。」
梓の腕をつかみ、引きはがす。
「お好きにどうぞ。」
姫は合流した国軍兵士たちを集め、
撤退指示が出たことを伝える。
「・・・というわけで、私達はこれから
神凪神社を目指します。口惜しいですが
残っている国軍の皆様にはしばらく
待ってもらいます。ここから、迅速に
行動に移ります。行きましょう。」
「俺もそこに行けばいいのか?」
「ええ。まずはあなたの安全を優先させます。
ですが、お気になさらず。あなたも今、
ここにいる以上・・・野薔薇が守る市民で
あることに間違いありませんから。」
「お前はどうするんだ?」
「・・・私は、あなたを送り届けたら
ここに戻りますよ。」
残った人たちを諦められない姫。
ロウは姫の肩をつかむ。
「だめだ。さっさと撤退しろ。」
「な、なんですか・・・。なぜあなたに
口出しされないといけないのですか。」
ロウの手をつかんで、肩から離させる。
「街の人々を置いて撤退することなど
できません。野薔薇として、魔法使いとして!
それは許されないことなのです。」
「お前がそういうヤツなのはよく知ってる。
だが・・・それでもだめだ。ムサシが
現れるからな。」
「・・・・・は?」
『ムサシ』という言葉に、口がポカンと開く。
「ムサシ? ムサシとは、あのムサシですか?」
「あのムサシだ。」
「・・・・・・。」
ロウを鋭い目で睨み、距離を取る。
「申し訳ありませんが、虚言を弄するのは
おやめくださいまし。実在が確認されていない
今日に至るまで出現していない魔物の
ことなど・・・伝説にしか存在しないムサシの
ことなど、気にしてはいられません。」
「本当だ。じゃなきゃ、こんなこと言わねえよ。」
「・・・どうしてそんなことを知っているのですか。
根拠をおっしゃってくださいな。それが
できなければ・・・あなたとは話さない方が
いいでしょうね。」
「信じるも信じないも、お前の自由だ。
だが、俺は警告したぞ。」
「・・・・・神凪神社までは、送り届けます。
が・・・そこから先は無関係でいましょう。」
「・・・なんかお嬢、機嫌悪いですね。」
「先ほど、あの男と話してからだ。不遜な
ことを言ったに違いない。」
刀子は少し離れたところにいるロウを睨む。
「ぐむむ・・・こんな時に、姫殿につまらぬ
悩みを・・・。許せん! 拙者が
叩っ斬ってくれよう!」
薙刀を握る力が強くなる。
「必要ありません。彼に近づかないように。」
姫が淡々として、止める。
「ムサシだなんだと吹き込まれますから。」
「ムサシ?」
「ムサシとは・・・あの、ムサシでございますか。」
「そのやり取りはもう私がしました。
とにかく、近づかなくていいのです。
・・・しかしなぜ、ムサシの名前を・・・
この状況で、そんないたずらを・・・?」
<ロウたち、移動中>
撤退するロウたちに次々と魔物が
襲い掛かってくる。
「魔物が来ますよ! 総員迎撃態勢!」
「ここから先は私達魔法使いに
お任せください!」
「くっそ、次から次に・・・なんで魔物の
ヤツら、こんなに襲ってくるんだ・・・。
もう、アタシたちの他に人間はいないって
ことなのか・・・?」
攻撃しようとするが、律の魔力が切れる。
「アンタ、魔力回復してもらっていいか!」
「ああ。」
「・・・よし。アンタがいりゃ、まだ
戦えるぜ。魔物をぶっ飛ばしてやる。」
「・・・この程度なら、問題なく乗り切れるか・・・。」
梓は後方にいるロウを見る。
「しかし、あの学園生を名乗る不審者が
いなかったらと考えると・・・・・弾薬も
魔力も尽き敗走していた、ということですか。」
「服部、来るぞ!」
律が慌てた様子で呼びかける。
「わかってます。この魔物群は自分が
見つけたものですから。」
「バカ、もっと来るぞ。アンタと野薔薇で
逃げるか戦うか決めといてくれよ!」
別方向に走っていく。
「もっと・・・?」
攻撃音が鳴り続ける中、梓は耳を澄ませる。
「・・・これは・・・後続の足音・・・
確かに・・・。耳の良さは敵いませんか。
それも今は、ありがたいですね。」
「な、なに・・・また魔物来たの・・・?」
物陰に隠れていた千佳は
恐怖から体が震え始める。
「・・・み、みんな死んじゃったじゃん。
人間殺すのなんてこんだけやりゃ
飽きるでしょ? なんで、なんでうちらの
こと、殺したがるの・・・・・。」
ふと周りを見ると、律の姿がなかった。
「・・・あ、あれ? 律は?」
姿が見えないことに慌て、ロウに駆け寄る。
「ちょっとアンタ! 律、どこ!? 前線!?」
「別方向に魔物の群れがいてな。
魔力回復した後、そっちに行った。」
「なんで・・・・・・・律!!」
「あ、おい!」
「でやあ!」
律は魔法を使うが、魔物は霧散せず
律を睨む。
「くっそ、なかなか倒せねえ・・・・・。
魔物が強いな・・・。」
疲れが見えるが、魔物の数がさらに増えていく。
「!? は、はや! もう来たのかよ!
こうなったら、1回ぶちかまして・・・・・・・あれ?」
魔法を使おうとするが、発動しなかった。
「マジ!? も、もう魔力切れたのか!?」
魔物がじりじりと律に近づく。
「う、嘘だろ・・・ここまで来たのに・・・。
うわ!」
魔物の攻撃に思わず、目を閉じる。
しかし、律に攻撃が届く前に魔物が霧散する。
「律! アンタ魔力使い過ぎ!」
駆けつけた千佳によって、魔物が
何体か消滅した。
「早く引っ込んで! アイツに魔力
回復してもらってきてよ!」
「千佳・・・サンキュ!」
「いいから! アンタが戦ってくれないと
うちも死んじゃうんだからね! 早くして!」
「おう! ちょっと待ってろよ!」
律は急いでロウの元に戻っていく。
「・・・う・・・な、なめないでよ。
あ、アンタたちなんか・・・怖く、ないんだから・・・!」