グリモアーたとえ面倒でも世界は動く- 作:FAMZ
「は? ゲートが消えた?」
『ええ。』
結希の報告を聞いた望は素っ頓狂な声を上げた。
「待って待って。ゲートって消えるもんなの?」
「・・・霧の嵐ってこと?」
『そう。宇宙飛行士に聞いたら、これまでも
断続的に出現していたそうよ。』
「出ては消えってこと? またイレギュラー・・・
あーもう・・・。」
天は苛立ちから髪を掻く。
「・・・通信は終わりました?」
「終わったわ。何か見つかった?」
「ええ・・・動画が・・・。」
心のパソコンに一本の動画が映し出される。
それを見た結希の顔は険しくなる。
「・・・ロウ君。今のあなたは見ない方がいいわ。」
「あ?」
「・・・これは・・・大量虐殺・・・。しかもこの
アポロンで・・・。」
「大量虐殺だと・・・? だが、血の跡はなかった。」
アポロン内の様子を思い出す。
「そもそも画面に映っているだけで数十人います。
アポロンにこんなに人がいた時期はないでしょう。」
「・・・フェイクでもない。なら・・・これは・・・
裏世界のアポロン・・・!」
「・・・・・。」
ロウは地球の方を見た。
「そういえば・・・アンタ、気づいてた?
ロウ、地球のことが大好きみたいよ。」
「ああ。やたら地球の方見てるんだろ? 本人は
無意識みたいだけど。」
天と望は作業をしながら、ロウの様子について話していた。
「ロウもあんな感じだけど、宇宙好きなのかな?」
「・・・そんなんとは思えないけど・・・。」
『そろそろ電磁波が来るわ。いったん船内に入って。』
「楯野。戻るわよ。」
「うん・・・うわあ!?」
「ちょ、ちょっと! なによ!」
「ご、ごめん・・・重力ないの忘れてた・・・。
・・・ん? なんだこれ?」
機体に描かれた数字を見つけ、目を細める。
「なんか書かれてないか? 16・・・?」
「あとで説明するから・・・今は離れなさい!」
急いで二人はアポロン内に引き返した。
「ふー・・・あのね! 今の、下手したら
死にかけてたのよ!?」
「わ、わかってるよ・・・悪かった・・・。」
「・・・1679よ。さっきアンタが見た数字。」
「1679? その年になんかあったの?」
「違うわよ。1679のドット数で絵を描いたの。」
「・・・意味わからん。絵ってなに?」
「アンタ、宇宙人は信じる?」
「え? あ、いや、どうだろう・・・。」
突拍子のない質問に望は少し戸惑った。
「それを信じる学者が宇宙に向けて送ったの。
1679個のドットでできた絵を。こういう
生き物がここにいますよって、説明してる絵をね。」
「・・・マジで?」
「あそこに落書きしたのは宇宙飛行士の誰か
でしょうけど・・・もしかして、アポロンからは
今もメッセージを発信している・・・?」
その後、作業を終えた結希が合流した。
「・・・いったん休みましょう。」
「アンテナが直るまで帰れない。電磁波が
過ぎるまでアンテナは直せない。どっちにしろ
休むしかないわ。」
「そうね。・・・それと、ロウ君・・・。」
「・・・が、どうしたの?」
「彼の様子がおかしいわ。」
『・・・・・ぁ・・・。』
『ぁえ・・・ぇた・・・・・。』
『〇×▼▼♦〇×××□・・・。』
「・・・きて・・・・・。」
(誰だ・・・?)
「おき・・・ろ・・・。」
(あの声は・・・いったい・・・)
「起きろ、ロウ!」
大きな声がし、ロウはゆっくりと目を開けた。
「よかった、起きた・・・。」
望が安心した表情を浮かべる。
「バイタル・・・興奮気味ですが、正常の
範囲です。」
「・・・どうした? 一体何が・・・。」
「突然倒れたんですよ。覚えてます?」
「・・・倒れた?」
頭を押さえながらゆっくり起き上がる。
「お前、まさかこの間からずっと体調悪いまま
じゃないだろうな?」
「馬鹿言うな。いくら俺でもNASAの健康診断を
ごまかせるか。」
「そうね。何か異常があったなら、ロウ君は
そもそもここに来ていない。・・・明らかに
アポロン内部で起きた変化。心当たりはある?」
「心当たり・・・この部屋で確か・・・
・・・てか、魔物はどうした?」
魔物を確認するため、辺りを警戒する。
「大丈夫。あなたが気を失っている間に
船内の魔物は掃討しました。」
「地球に帰還する前に、宇宙に来た実感を
噛みしめるためにここに来たの。ここは
地球が良く見える。」
「・・・そうか・・・。」
壁伝いに歩きながら、大きな窓のある場所に移動した。
「そういえば、アンタ。地球好きなの?」
「は?」
「地球の方ばっかり見てるから。気づかなかったの?」
「生憎、俺にはそんな童心はねえよ。それに
もう散々見・・・・て・・・・・」
ロウは地球を見ると、言葉が止まり、
目を大きく開いた。手を震わせ、窓に手を触れる。
「・・・ロウ君。あなたの異変・・・地球を
見たから、で間違いないわね。」
「ロウ・・・アンタ、やっぱり・・・何か
見えてる? 私達には見えないもの・・・。」
「・・・心拍数、発汗量上昇・・・。パニックの
危険があります。」
「ろ、ロウ! 地球を見てそんなになるなら
見るなって!」
「・・・私達には、地球しか見えない・・・。
ロウ君・・・あなたには・・・何が見えているの・・・?」
「・・・・・。」
ロウの目には、ただの地球の姿は映っていなかった。
その目には、巨大な紫色の生物のようなものが
地球に覆いかぶさっていた。
「・・・ロウの話、どう思う? 地球を覆う
黒い影・・・しかも目が二つ。雲のように
動きながら、目はずっと同じ場所で動いてる・・・。」
「・・・・・。」
結希はじっと地球を見る。
「今も、私の目には何も見えない。綺麗な地球だけ。
でも、ロウ君が見えているのはおそらく・・・
『霧』ね。」
静かに窓をなでる。
「魔物を形作るための、地球上に蔓延している
黒い影のようなもの。それに目があって
脈動しているように見えるなら・・・」
「・・・・・ねえ、もうちょっと現実的な
答えってない? これまでの科学者たちの
研究が無意味になっちゃうんだけど。」
「・・・でも、誰もがうっすらと考えて
いたでしょう? 霧は地球上にある
どの物質とも一致しない。宇宙から
来たとしか考えられないって。」
「そこまでは考えてたっての。でも・・・
安直すぎるじゃない。」
「ロウ君が嘘をついているとは思えない。
幻覚を見ているとも思えない。」
目を閉じ、静かに座るロウを見る。
「間ヶ岾は宇宙に来ればわかると言ったわ。
そして宇宙に来た。そしたら、同じ
『切れ端』のロウ君がそれを見た。」
「・・・・。」
「私だってこんな安直な答え、認めたくないけど・・・
霧の魔物・・・そして霧の正体は・・・
地球外生命体。・・・宇宙人だわ。」
「博士。ロウさんの記憶のコピー、完了しました。
こちらです。」
心はパソコンにロウの視界の景色を映し出す。
「大きすぎて肉眼では判別しにくいですが
細かく脈動しています。」
「・・・ロウ君には、こんな景色が・・・。」
「なになに・・・・・ぐえー・・・
こ、こんなの見えてたのかよ・・・。」
画面を見た望は真っ青になる。
「あ、やば・・・また気分悪くなってきた・・・。」
「・・・魔物は排除。データルームは別の部屋で
再構築。霧の嵐が現れる部屋は隔離。カメラ
設置済み。アンテナ修復。宇宙飛行士たちは
全員生存。・・・私たちの目的も達成。
地球に帰りましょう。」
「・・・動画撮っとこ。」
望はデバイスで動画を撮り、心は
別人格にもその景色を見せている。
「大気圏突入は最も危険なアクションよ。悔いの
ないようにね。」
「・・・うえ・・・。」
「そういうのはもう宇宙飛行士たちに任せて
いいわよ。結希。そんなに脅かさない。」
「脅かしたつもりはなかったのだけれど。」
「そっちの方が問題だろ。」
頭を押さえ、ロウがやってくる。
「・・・お疲れ様。クエストは大成功よ。」
大きな収穫を手にし、ロウたちは地球へと戻った。