グリモアーたとえ面倒でも世界は動く- 作:FAMZ
樹による宣戦布告が響き渡ると、初音はニヤリと笑った。
「よし、兄さまの宣戦布告だ。」
「・・・まさか、本物の宣戦布告が見られるとは思いませんでしたね。」
あまり見られない光景にましろは若干の戸惑いを見せる。
「まあ、物に宣戦布告なんてしないからな。このまま俺ら・・・は・・・」
ロウの言葉はある人物を見て止まる。
「てか、あんたここにいていいのか? アイザック・ニュートン。」
視線の先にいたのは、アイラの恩人。アイザック・ニュートンの姿があった。
「アイザックでいい。未来兵器の戦いを間近で見ておきたいだけだ。それと、この娘の使う予知の魔法にも興味がある。」
近くのゆえ子を言葉通り興味のある目で見る。
「アクティブなじーさんだな・・・。でも、ついてくるからには手伝ってもらうからな。アンタの魔法の知識、役立ててくれよ。」
「300年前の老いぼれの知識で役に立てるのならな。」
「兄さまたちはこれから、相手のことを『ジャベリン』って呼ぶらしい。」
「こっちのJGJか・・・。まあ、そうでもないと紛らわしいからな。」
「しかし、先ほどは大口をたたいたな。戦争は・・・古来より人が死ぬものだ。」
「アタシは初体験だから、そういうジョーシキは知らないぜ。」
「・・・・。」
(まあ、そうだろうな・・・。)
自らの過去が頭によぎり、ロウはそれを消すように頭を軽く振った。
「だが始まるまでもう時間はないぞ。ここからどうする気だ?」
「しばらく死人はでねーよ。戦いの序盤は障壁を張って、遠距離攻撃・・・砲撃の撃ち合いだ。砲弾は障壁を貫通できない。魔物の攻撃より、ビルの倒壊なんかに合わせた・・・物理攻撃に特化した障壁を、どっちも用意しているはずだ。本番はそのあとさ。」
「ただし、時間の猶予が多いわけではありません。迅速に目標を達成いたしましょう。」
「目標?」
「敵総大将・・・ジャベリンを指揮している人物を拘束します。名前は、鏑木和樹。」
「鏑木・・・・・。」
「アタシもあったことある。っていうか・・・近縁だよ。はとこだ。」
初音、沙那は険しい顔になる。
「信頼のできる、経営陣の一人でした。樹様の依頼で、JGJ社内にいる内通者を探っておられましたが・・・フューチャー襲撃の際に亡くなったお方です。」
「それがこっちじゃ間ヶ岾の手下か・・・皮肉ったらないな。」
「間ヶ岾が表に連れてきてなかったんだ。対して重要な役じゃないんだろうけど・・・とりあえず、詳しいことは後回しだ。」
初音はそう言うと、デバイスを取り出した。
「さっき配った戦況データに鏑木の写真も入れてある。今回はJGJとの戦いで警戒はどこかで手薄になる。」
「そこで捕らえて両軍に見せれば戦いは終わるってわけか。」
「そういうこと。・・・ここのJGJはテロリストだ。守るものなんかねー連中なんだ。引っ張ってるエリートさえ仕留めれば、残りは烏合の衆さ。」
「・・・なんだ。それでけりがつくなら簡単なものだな。」
「簡単に行くわけねーじゃん。ジャベリンはJGJより10年先の技術を持ってるんだぜ? まあ・・・時間さえ同じなら、こっちの方が技術は上だけどよ。しかも魔物相手じゃなく、魔法使いや人間相手の武器を作ってる。」
「普通のJGJよりは厄介ってことか・・・。」
「どのような方法で捕らえますか?」
「正攻法だ・・・っつーか、アタシたち自身を利用する。」
初音は沙那を見て、自分の体を軽くたたく。
「私はこちらの世界では死んでおります。」
「アタシは行方不明・・・。目の前に現れたら、ビビって頭が真っ白になるはずだぜ。」
「・・・仇を取るのか?」
「ん?」
「家族や社員を大勢殺されたのだろう。会社も乗っ取られた。別世界の、とはいえ、自分たちも不幸な目に遭わされた。その恨み、簡単には消えまい。例え、殺したとしても。」
「!」
(俺に言われてるかと思ったな・・・。)
アイザックの言葉はロウに心当たりがあった。
「じーさん。この時代はな、魔法使いは一般人を傷つけちゃいけねーんだ。かすり傷くらいなら・・・だけど、大出血でもさせちまったらもう終わりさ。そんで、この戦いは表世界にも中継される。鏑木のおっさんを殺すなんて、やりたくてもできねーのさ。」
「・・・・。」
「そのために、西原・・・頼むぜ。」
「はい・・・微力ながら、ゆえの予知の力・・・お貸しします。」
「まずは両軍の歩兵たちと鉢合わせしねーように、ジャベリン陣地に近づく。行くぞ。」
<ロウたち、移動中>
ロウたちが進むにつれ、戦闘の始まった地点が増える。
「・・・始まってしまいましたね・・・。これでもう後戻りはできません。ロウさん、デクの調子はよろしいでしょうか?」
「今のところは問題ないな。・・・てか、デクの免許ないんだがいいのか?」
「ここは裏世界。無免許でもデク使用に問題はありません。」
「ならいいんだが・・・今回俺は自衛の術がないしな。」
今回の初音の作戦ではロウのROOMを使ってしまっては隠密行動とはならないからだ。
「・・・初音様は、是が非でも鏑木様を捕らえたいとお考えです。彼は初音様の・・・つまりご兄弟全員のはとこです。JGJ内部での影響力も高かった。軍を率いるのも当然と言えます。」
「なるほど、鏑木を捕まえればジャベリンは力をなくすだろうな。・・・が、それだけが理由じゃないんだろ? 沙那。」
「・・・かないませんね。鏑木様は以前JGJの内通者を調査しておりました。そのくらい、信頼されていた方です。しかしこちらでは、共生派の手先になっている・・・・不可解です。鏑木様の真意を確認したい。そう考えています。」
「・・・え? 道が?」
部下からの報告に茉理は首を傾げた。
「待って、わざわざ偵察機飛ばして調べたのよ・・・見せて。・・・・・はぁ、初音ちゃんね・・・。」
「初音がどうかしたのか?」
ため息をつく茉理のもとに樹がやってくる。
「これ見て。」
「・・・瓦礫で通路がふさがれている?」
「ええ。この街、入り組んでるでしょう。だから細かい路地を通って進軍するしかないんだけど・・・そのルートがことごとくね。」
「・・・それが初音の仕業・・・だとすると・・・初音は俺たちと相手の歩兵を遭遇させないようにしているのか。」
「多分ね。」
樹は頭を押さえ、ため息をつく。
「懲戒免職ものだぞ・・・。」
「あの子、社員じゃないのよねぇ・・・。」
「まあいい。そんな小細工をやっている間は心配する必要はないな。対応は司令官に任せよう。俺たちより、プロの判断の方が適切だろう。」