グリモアーたとえ面倒でも世界は動く- 作:FAMZ
ノエルから『話を聞きたい』という
要望を受け入れ、ロウはノエルと
2人きりになっていた。
「そういえば、戦闘服が違うな。」
表のノエルの戦闘服はオレンジを
基調としていたが、こちらのノエルは
青が基調となっている。
「戦闘服ってその人の心境が
関係してくるっていうから・・・。
・・・順番に話すよ。そしたらこの
戦闘服の意味も分かるから。」
さみしげな表情になる。
「昔々、仲のいい双子の姉妹がいました
・・・・ってどう?」
「・・・まあ、続けろ。」
「その家は両親2人とも、とても教育熱心でした。
生まれてきた双子には、将来エリートとして
人類に貢献し、有名になって、家を盛り立てて
ほしかったのでした。」
「でも、残念なことに2人の片方は期待には
答えられそうにありません。勉強ができず、
本を読めば寝てばかり。」
・・・妹の方か。
「勉強ができるお姉ちゃんのほうを、
両親は可愛がりました。妹を邪険にはしませんでしたが
快く思ってはいなかったでしょう。ご飯はもらえましたが、
お菓子はもらえず。服は与えられましたが、プレゼントは
与えられず。・・・なぜそうなのか、双子には
わかりませんでした。」
「・・・・・。」
黙って話を聞く。
「2人とも、自分が楽しいことをしてただけなのです。
イヴはお勉強が楽しいから。ノエルは外で運動
するのが楽しいから。ですが、それを口に出すことは
できませんでした。」
「代わりに2人は時々入れ替わることにしました。
入れ替わっている時だけ、ノエルは親の愛を
享受しました。イヴは親の愛を喪失しました。」
「入れ替わる・・・・。」
「どちらかが出し抜いて親を独り占めしよう
・・・なんてことは思いつきませんでした。
2人が幸せで親も幸せで・・・でも、
そんなの続かないよね。」
にこりと笑う。
「・・・どういうことだ?」
「成長してから、気づくんだ。しかも、
私たちは、運が悪かったの。」
「運が悪い?」
「・・・入れ替わったまま、魔法使いに
覚醒してしまったから。」
「!? じゃあ・・・・お前は、まさか・・・。」
「そう、わたしは本当は冬樹イヴ。
姉のほうだよ。覚醒した時に『冬樹ノエル』に
固定された。」
「な・・・・。」
驚きを隠せない。
「言い出すのが怖かった。入れ替わっていたと
白状することは・・・それまでの裏切りを親に
ばらすことだったから。・・・それでも、
言っておくべきだった。狂い始めたのが
そこからだったから。」
「・・・・。」
おそらく、表では裏返っていない。
「じゃあ、表なら。」
「え?」
「表なら、間に合うのか?」
「・・・たぶん。そっちじゃケンカはまだ
1回だけだと思うから。」
「そうか・・・・。」
あいつ・・・ちゃんとうまく
やってんだろうな・・・。
「話は終わったか?」
「ああ、十分だ。」
「こっちもいろいろ聞けたしね。」
そのとき、足音がする。
「! 誰だ!」
メアリーは相手に銃口を向ける。
こちらに来たのは沙那だった。
「月宮か。脅かすなよ。」
「様子はどうですか?」
「見つかってねーよ。今はどこも
手が足りねえからな。ちょっと注意すりゃ、
1か月は隠せるぜ、きっと。」
「・・・つまり、逆に言えばそれだけ
今は学園のセキュリティが脆いって
ことじゃねえか?」
「・・・確かにそうですね。
それで、こちらの方はどうしますか?」
メアリーに問う。
「こいつには無傷でかえってもらう。こいつの話が
真実がどうか確かめることはできねえ。なら
信じるくらいしか、好意的に受け取る方法がねーだろ。」
にやりと笑う。
「それにこいつの力があったところでこっちは
どうしようもねえ。なら夢のある向こうで力を
使ってもらえたほうがいい。」
「そうだすけな。」
「! 里中。」
花梨も戻ってくる。
「けど、いつ帰れるかわかんねえすけな。それまで、
おらの部屋いろじゃ。」
「えっ!? で、でもさすがにそれだと・・・。」
「どうせおらはずっと学園にいるすけな。」
「・・・まっ、いいだろ。学園の教室は
原則誰でも出入りできるからな。」
「にしても、一気に協力的になったな。」
「うるせえ。てめえが見つかったら
面倒なことになるだろ。」
照れているのか、そっぽをむく。
「・・・・・私はこれ以上
関わらないほうが良いでしょう。」
「そうだな。この件じゃ協力してるが、
JGJが裏切者には変わりねーからな。アタイの
権限で、歩哨はクビだ。神宮寺と2人で引きこもってな。」
「メアリーさん・・・・。」
「お心遣い、痛み入ります。」
頭を下げる。
「けっ、裏切り者から礼を言われるなんて世も末だ。」
「そう言うな・・・って、少し暑いな。」
「え? そりゃそうだよ。今は9月だもん。」
「9月? こっちじゃ7月くらいだったな・・・。」
「なるほど、つまりあそこは
襲われていないのですね。」
「ん?」
「汐浜ファンタジーランドです。7月末に
襲われました。」
「ああ・・・そうだ。そっちじゃまだ
起きてねえのか。」
「ああ。そんな事件はまだ」
ゴォーン・・・ゴォーン・・・
ゴォーン・・・ゴォーン・・・
学園から鐘の音が響き渡る。
「!?」
「え!?」
「!!」
「な・・・。」
4人は鐘の音に驚く。
「なんだ? この鐘の音。」
「総員戦闘配置につけ!
ノエル! 学園生全員集めろ!! 出動するぞ!」
学園が騒がしくなる。
「どうなってやがる・・・。」
「お、おい! こいつは部屋さ連れてくで
いいのか!?」
「ちっくしょう、運が悪りーな!
学園生が全員集まるじゃねーか・・・!
里中! しばらく2人でここにいろ!
出動したら学園から人がいなくなる!そしたら
こっちに合流しろ!」
「あ、ああ。わかったすけ。」
「・・・お兄さん!」
ノエルはロウの手を握る。
「あっちのわたしたちによろしくね!
『がんばって』って・・・伝えておいて!
じゃあね! バイバイ!」
ノエルは走り去る。
「・・・では、私も。」
沙那はロウに向き合う。
「初音様とご兄妹にくれぐれも霧の守り手に
注意されるようにと。そして、私には、
『後悔のないように』と。」
沙那も走り去る。
「なんだよ・・・遺言みてえに・・・。」
「へっ、だが、テメーとはもう会えねー気が
するのも確かだ。向こうのアタイに伝えとけ。」
拳をロウの胸に当てる。
「『テメーは弱ぇ。それを忘れたとき、絶対
大事なものを失う。仲間がいるんならそれを
失わねえように気張っときな。』ってな!」
メアリーも2人の後に続く。
「・・・・まあ、遺言みたいな
ものだべな。」
「・・・なあ、あの鐘は?」
「あの鐘か・・・。第7次侵攻の後に
つけられたすけ。」
「こっちにはなかったな。
鐘が鳴ったのはなんでだ?」
「大規模侵攻が始まったって知らせだ。
・・・まさか1年経たずに来るなんて
思わなかったすけ。」
「そうか・・・ !」
巨大な足音がする。
「!? な、なんだ!? もう魔物が来たべか!?」
「くそ・・・・ ! あれは!」
霧の竜巻のようなものが発生する。
「霧の嵐・・・・。」
「おっ、これであんた、帰れるのか?」
「ああ、そうなるな。」
「そりゃよかった・・・よかったなぁ・・・。
・・・じゃあ、やっぱりおらの分も
伝えてくれじゃ。」
そう言って、花梨は
ロウの顔をつかむ。
「いやどこつかんでんだよ。」
「『そっちは友達たくさんいて
羨ましいすけな。おらの分も料理
作ってやってくれ』ってな・・・。」
「・・・! そうだ、お前らもこっちにこい。
そうすれば」
「いや、そっちには行けねえべ。こっちにも
守らねばなんねえもんがあるすけな。」
「お前・・・。」
「・・・・・・あんたに会えて、
よかった。」
満足そうに微笑んだ。
「・・・じゃ、な。」
「おい」
その瞬間、ロウは霧の嵐に飲み込まれた。
霧の嵐
「・・・う!」
頭が痛くなり、押さえる。
「な、なにかが・・・流れ込む・・・・。」
ロウの頭の中に映像と
声が流れ込む。
花梨が誰かの前で絶望の顔で
膝をついている。
沙那が初音を逃がそうとしている。
メアリーが魔物と交戦し、
魔物に攻撃される瞬間。
イヴとノエルは魔物の攻撃から
それぞれをかばう。
「これは・・・・そん・・・な・・・・。」
ロウの意識はそこで途切れた。
「おい! 起きろ!
仕方ねえ・・・アサヒナ、電気ショックだ!」
「う・・・ん・・・。」
「やんねーよ。ほら、もう起きたぜ。」
ここは・・・。
ロウはゆっくりと起き上がる。
ロウの周りにはメアリーと龍季がいた。
「・・・ちっ、なんでこんなとこで
寝てんだ。」
戻ったのか・・・。
「うるせえよ。ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃん・・・。」
「つーか、半日も行方不明ってどういう
ことだよ、オラ!」
ロウの胸ぐらをつかむ。
「うるせえっつってんだろ。」
メアリーの手を払う。
「テメーが途中で消えたからな、
アタイが何かやったんじゃないかって
疑われてんだよ!」
「時間の問題なんじゃねえのか?」
「・・・オーケー、次一歩でも
道をそれたら蜂の巣にしてやる。」
「・・・・・。」
急にロウが黙る。
「テメx、なんて顔してんだ・・・
いやな夢でも見たのかよ。」
「朝比奈・・・。・・・別に。
霧の嵐に巻き込まれただけだ。」
「ほぉう? テメー、裏でなんか見てきたってのか?」
「まあな。」
「・・・ちょうどいい。来い、
ドクター宍戸の研究室だ。今度こそ行くぜ。」
「なら、こっちもちょうどいい。
俺も裏のお前から言伝があるからな。」
「・・・なに?」
そして、2人は
結希の研究室に向かった。